ストーカーの五条に依存する。
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あれから何だか死にたいという気持ちが薄れてしまい
何となく死ぬことに対しての熱が冷めてしまった
別に生活が変わったわけじゃなく、毎日正直辛い。
どうしても死にたくなったらバイト帰り
あのバス停に行ってベンチに座って丸くなった。
温もりなんてすっかりなくなってしまったけど
あの日の出来事は何故か、頭から離れなかった
真っ白で綺麗な顔をした男の人には一度も会ってない
会って、何をするというわけでもないけど…
目を閉じて、抱きしめてくれた温もりを思い出す
吸い込まれそうな蒼い宝石を瞳に宿してた
ふと、視線を感じて、目を開ける
別に誰もいなかったけれど夜も遅くだし
少し不安になって私は無意識に早歩きで家に帰った
特に変な人に会うことも無く考えすぎだったと
思いながら鍵を取り出しつつ扉に向かうと
自分の扉の前に、何かが置かれていた。
何だろう、と手に取って驚きで「え?」と声が出た
お花だ、いい香りもする。本物、かな…?
な、なんで私の扉の前にあったんだろう
だ、誰かの落とし物?
でも、確か隣の部屋はもう空き部屋になってた
つい最近引っ越し作業があったのを見てる
誰かが入ってる可能性は低い…
一階の人がわざわざ二階に来る必要性も…
建物的には二階建ての四部屋しかないアパートだ
「…いいかおり」
どこか手放すのが惜しくて匂いを嗅いでいると
花束に何かカードのようなものが挟まっていた
〝名前ちゃんへ〟
私と同じ名前だった。
小さなカードにはそれ以外書かれていない。
裏返しても真っ白だった。つまり、そうゆうことだろうか
いやでもまって…何で私に? 誰が? アパートの人は…
本当に全然顔も知らないレベルだったし…
うーんうーんと玄関前でいるのもおかしい気がして
とりあえず家に入った。電気をつけると綺麗な薔薇と
目が合い、無意識に口角が上がっていた。きれい。
ピンク色の薔薇が数本……七、八本?
あれ…薔薇って一輪…っていうんだっけ
まぁいっかと呟いて、花瓶に使えそうなものを
急いで探した。結局コップを代用するしかなかったけれど
本物だから棘に気をつけながら綺麗に飾った
特に何も無かった私の部屋を彩るピンク色
ぼーっと見つめて、可愛い薔薇に目を細めた。
〝名前ちゃんへ〟と書かれたカードへ視線を移す
やっぱり名前以外は書かれていない。
ふと、あの人が脳裏を過ったけどそんなわけがない
と頭を振って、夢見がちな自分の妄想に自嘲した。
家にいる時はずっと花を眺めて香りを嗅いで
寂しさを紛らわせていた。
けど、本物の花は時が経つと枯れてしまう
花弁が少しずつ散り始めていく光景を見て
それが悲しくて棘で少し指を怪我しつつも
何とか押し花を作り大切な思い出として残した
〝いつも見てるよ〟
〝バイトお疲れ様〟
日に日に増えてしまったメッセージカードや押し花
何も変わらない日常に、新たな日常が増えた
この世からさよならしようとしてた頃なんて嘘みたいに
名前も知らない誰かから届くものを楽しんでしまっている
本当なら、受け入れちゃいけない
楽しむなんて普通の人ならありえない
そう分かっていながらも、私は私を求めてくれる存在に
依存している自覚がありながらも、止められなかった。
* * * * * *
あ、鍵閉めるの忘れてた
そう気づいたのは
鍵を差しても開いた感覚がしなかったから
時々忘れてしまうのは悪い癖だ。気をつけなきゃ。
鍵を置いて、電気をつけて靴を脱ぎ中に入る。
玄関と入れ替えでリビングの電気をつけて、固まった
見知らぬものが机の上にぽつんと置かれていた
朝、机の上に飾っていたのは新しく貰ったお花だけ
タイミングよく花弁が一枚、その上にひらりと落ちる
「…鍵、閉まってなかった……」
弱弱しく、独り呟く。
見渡す必要なんてないほど狭い部屋
きょろきょろと視線を忙しなく動かして
あの…とかいるんですか…?とか傍から見たら
頭の可笑しい人だと思われる行動をしてしまっていた
当然、返事なんて返ってくるわけがなくて
最終的に視線は机の上のソレに戻ることに…
スッと座って、いつものカードを手に取った。
〝鍵はちゃんと閉めること!〟
わ、わざわざ部屋に入らなくてもいいじゃないですか…
聞こえるわけでもないのに少し抗議するように呟いた
カードを置いて、箱を開けるためにカッターを手に取る
薄い小さなダンボール箱、その中にはまた小さな箱
「―――え、あ…スマホ…?」
それはいつの日か助ける為に手に取ったのと同じ機械で
私なんかじゃ到底支払えない最新の機種だった。
使い方はよく分かってないがボタンを押すと画面が光る
〝おかえり〟
メッセージが届いた。
それをタップするとアプリが開く
〝びっくりした?〟
〝ソレ、プレゼント♡〟
〝お誕生日おめでとう、名前ちゃん〟
〝おやすみ♡〟
ポンポンッと効果音が鳴ると同時に新しいメッセージが
届いた。その内容にあ、私今日誕生日だったんだと気付く
見ていた液晶の画面にぽたぽたと雫が落ちた。
その日、私はそのスマホを抱きしめながら
涙を流して、眠りについた。
* * * * * *
おはよう、おやすみ、バイトお疲れ様
毎日、途切れることなくメッセージが届いていた
私は返信することは出来なかったけれど
向こうはそれを気にすることなく
もっと自由に使っていいんだよと言われるくらい
だけれど、特にスマホを使う理由もなく
私の目的は毎日送られてくる言葉を見ることだった。
「ただいま…」
家に帰ってくるとほぼほぼ同時刻におかえりと
メッセージが送られてくる。それに言葉で返す。
何気ない日常に心が満たされている自分がいた
プレゼントも一方的に送られてくるから
捨てることもお返しすることも出来ないし…
と、思いながら今日届いていたものを見ると
マシュマロ入りのココアのインスタントだった。
〝辛いでしょ?〟
〝身体温めてね♡〟
何故か、私の生理周期まで把握されているのは
ちょっと…いやかなり恥ずかしい。ココアは美味しいけど
カーテンも戸締りもちゃんとしてるのに
と辺りをきょろきょろと見ているとスマホが震えた
〝全部見てるからね♡〟
もう…と少し恥ずかしくなって意味もなく胸を隠す
けど何だか面白くて少し口角をあげている自分がいた。