京都校の一年だったけど東京校の一年になりました
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名字家当主は補助監督として働いており
色んな情報を聞くことが多かった。
その中には放し飼いをしている少女も
話題に上がることが増えてきて
人との接触していることに静かに舌打ちを溢した。
必ず帰ってくることを縛りにして
どこかへと逃げることは防いでいたが
流石に引き時かと
いつも通りどこかへ呪霊狩りに出かけて帰ってきた少女に
自分の家から出ることを禁じて監禁した。
呪霊探し中、大自然の景色を見ることが好きだった彼女は
心の奥底でピシャーンと雷に撃たれたような衝撃を受ける
が、当主の命令は絶対だと教え込まれているため
はい、と彼女は頷くしかなかった。
その後の生活はひたすらに奴隷の如く
家の掃除などの家事全般を仕事として押し付けられ
外に出れずに監禁生活を約十年もの間過ごし
名字家は少女の存在をこの世から消した
ある日、少女が外に出れない代わりに空を眺めていると
当主がやって来て外出の準備をしろと命令をする。
はい、と頷きつつ今までになかったことで内心首を傾げる
慣れたように包帯を巻き、当主の後姿についていく
* * * * * *
初めて車に乗って移動しながら久しぶりの外の景色を
長い前髪の隙間から包帯を緩め、観察する。
どんどんと山奥へと入っていき、いつの間にか
車は結界が張られた京都校の高専の中へと入った。
その瞬間、名字は禍々しい気配にある一点の方向を
じっと見つめているが当主は気付くことが無く
普通に車を走らせていた。
実は当主は名字を急遽保護した術者だとして
高専に入学させようと計画し
高専に車を走らせたのだが
実はこの日、ある行事が高専内で行われており
京都校と東京校の生徒が集結していた。
そしてその生徒の中には特級呪術師である
乙骨憂太が姉妹校交流会に参加していた。
その乙骨と共にいるのが先ほどの禍々しい気配の主
特級仮想怨霊――里香と呼ばれる少女が
姿を露わにしていたのだ。
乙骨本人は呼んだつもりはなかったのだが
里香は彼を傷付ける存在を許しはしない。
あっという間に京都校の生徒を圧倒していく
当主はいきなり現れた生徒たちに驚きつつ
急ブレーキで車を止める。しかし運が悪いことに
一番警戒すべき乙骨を轢きそうになってしまったため
呪の女王がこちらを敵だと認識して腕が伸びてくる
当主の叫び声を聞いて名字は車から飛び出し
相手の背後へと回り込み、身体に触れた。
「危ないよ!」
乙骨が少女に気付き声をかけるが
里香は一向に暴れる気配が無く
急に止まってしまった彼女にえ、と戸惑う
『ゅ…う、た…うご…けぇないぃ……!』
「里香ちゃん…?!」
大丈夫かと乙骨は駆け寄り里香の心配をした
名字の術式によって動きを止められてしまった里香は
少し泣きそうだったため、乙骨はよしよしと宥める
その様子をジッと見つめている名字に気付いた乙骨は
「あの………」と様子を伺いながら声をかける。
「祓除をしますか」
機械の音声のような問いかけに乙骨は少し反応が遅れる
しかし里香が涙を流しながら嫌だと駄々をこね始めた
再び里香を宥めながら乙骨は名字を真っすぐに見た
「僕も里香ちゃんの呪いを解いてあげたい……
けど、危ないんだ…君も怪我しちゃう…」
「解呪をしたいですか」
「え…あ、うん…そう…なるのかな」
乙骨が頷くと名字はジッと乙骨を見る
といっても彼女の顔は隠れているため
視線はどこを視ているかが乙骨は分からないのだが
彼女が何かしらの呪力を使っているのは分かった
何だか女の子にすべてを視られてしまっている感覚に
少し恥ずかしくなった乙骨はほんのり顔を赤くさせ
名字から視線を外すと名字が再び口を開いた
「縛りです」
「え?」
「貴方が――――」
彼女が何かを言う前に当主が早く戻って来いと
名字に声をかけた。
まだ何か言いかけていた所でささっと移動されてしまい
乙骨はえ、あ、え?という風に戸惑っていると
声をかける暇なく、車はあっという間に動き出してしまう
いつの間にか動けるようになっていた里香も
乙骨の背後に出来るだけ隠れるように肩を掴み
二人で走り去ってしまった車を見つめていた。
その後、東京の高専にて乙骨の家系を調べた五条に
乙骨が名字の伝えようとしていたことを共有すると
解呪の糸口が見つかり、乙骨は里香との間で発生した
バグのような縛りを開放させることが出来たのだった。
* * * * * *
名字の周りの環境はあっという間に変化した
名字家に保護された
出自不明の術式を持った少女として
京都の高専に二級呪術師の一年生として
入学することになり
生まれて初めての学校に通うこととなった
しかし、学校に通ったことが無いこと
十年ほど外の世界を知らなかったこと
天与呪縛が〝究極のコミュ障〟であること
様々な要因が重なり
名字は入学して早々に孤立していた
特に禪院真依とは相性が最悪で
全くと言っていいほど
コミュニケーションをとることは不可能に近かった。
元々が身元がよく分かっていない人物でありながら
実力は真依よりも高く、次期当主という話もある
真依は呼吸をするように煽るも名字はコミュ障であり
彼女はあぁ、若様みたいな人だな…と実家を思い出し
十年間経っても対して生活は変わらないんだな…と
初めての一人暮らしの寮部屋で全てを察していた。
名字は呪術の歴史に関しては知識を得ていないため
御三家など初歩的なものもあまり理解しておらず
真依の禪院家での立場は把握していない
名字からすると
家族がいること、姉がいること
友達がいること、会話が出来ること
それらは全て魅力的なことであり、幸せなことだった。
「禪院様は幸せですよ」
ある日、真依が名字をいつものように煽っている時に
ふと名字は真依を見ながらそう告げた。
別に当主になれるわけでもない、当主は望まれていない
若様には殺意を抱かれ、奥様には冷たい眼差しで見られ
日々、任務をこなし稼いだお金は当主へと流れる
人形の自分とは違うという思いから出た感想だった。
「羨ましいわね」
嫌味で言われていた言葉だが
名字はその意味を理解しておらず
ずっと何を言っているんだろうと
思いながら律儀に話を聞いていた。
家ではそうしないといけなかったからだ。
わたしとは違う。あなたは大丈夫。
そんな彼女の思いは届くことは無く
真依は全く別物としてその言葉を受け止めた
いつも特に返事をするわけでもなく
こちらの言葉を聞いているだけだった奴が
珍しく口を開いたと思ったら
自分が幸せものだと告げた
淡々と機械のように言われたその言葉に
今までの積み重なってきた苦悩を馬鹿にされた
「幸せ…ですって…?」
拳を握り、静かに言われた言葉を繰り返す
「はい」
その言葉にカッとなった真依が手をあげた
しかし、その瞬間にはパンッと乾いた音が響く
真依の目の前には綺麗な海色の髪がなびいた
「――――真依に、謝ってっ!」
普段、温厚の三輪が顔を険しくさせてそう叫ぶ
名字の頬をビンタしたのは
真依ではなく、三輪だった。
状況を見ていた西宮も真依の後ろへと近づき
名字を睨むように見つめた。
三つの視線を受けながら
少しの無言のあと「申し訳ございません」と
名字は謝罪するもその淡白さに三人の顔が歪む
名字の天与呪縛は誰一人として知らない
彼女が今までどんな生活を送ってきたか誰も知らない
―――彼女の味方は、ここにはいない。
「本気で、思ってるんですか…?」
「はい」
あっさりと返ってきた返事に
真依は衝動のままに銃を取り出し
一気に六発の弾を名字へと撃ち込んだ。
ゴム弾であるため死にはしない
それでもこの近距離での衝撃は計り知れないだろう
小柄でガリガリの身体は弾が当たるたびに
弾け、すぐ後ろにあった壁へと衝突した。
ガンッと名字がぶつかり、ずるずると地面へ落ちる
すぐ近くにいた三輪、西宮が驚きで身体が固まった
大きな銃声が響いたからか音など存在しなかったように
その場の空間が静まり返っていた。
「真依っ…」
「別に気絶したくらいよ、はームカつく…」
駆け寄った三輪に気怠そうに説明して銃をしまい
その場を離れようとすると同時に
さも当たり前かのように
誰しもが意識を失っていたと思っていた
名字がスッと立ち上がった。
予想外の出来事に三輪が悲鳴を上げ
化物でも見るかのように名字を見た。
ゆっくりと頭を触るとその掌には血がべったり
かなり出血しているが隠された顔は何を思っているか
誰にも分らなかった。ゆっくりと顔が真依たちの方を向く
その瞬間、三人にとって名字が不気味な何かに思えた
まるで痛みも何も感じていないような人形
―――きもちわるい
そう呟いたのは、誰だったか。
* * * * * *
「何故、人形のオマエが自由自在に動けるのだろうナ」
与幸吉はある日、名字を見てそう呟いた
名字は彼の前にいることをやめた
「次期当主として、もっと自覚した方が良い」
「もういい、つまらん奴だ」
加茂、東堂とはうまく会話出来なかった
名字は二人との対話を諦めた
「あんた、怖いんだよ…」
同じ一年の新田には距離を置かれた
名字は、離れていく背中に謝った
すっかり独りでいることが増えた名字
任務をしては、寮に帰り、また任務へと
窓から眺めるのは体術の訓練をしている自分以外の生徒
大きな溝があるように何もかも違ってしまった
静かな風が吹き、無造作に伸びた髪がなびく
「いい加減、貴方も加わったら?」
庵が声をかけると顔がこちらへと向く
包帯で隠されている瞳にどこか大嫌いな後輩を思い出す
「任務に向かいます」
ぴしゃっと窓を閉めると名字はそれだけ告げ
庵へ会釈をして、歩き出してしまう
「ちょっ…」
声をかける暇もなく、背中は見えなくなってしまう
一人になってしまった庵は長いため息を思いっきり吐いた