推しに貢いでただけですが!?
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うちの高校は決して芸能高校というわけではない
何故か顔面偏差値は高いが芸能人が生徒というのは稀だ
ほぼほぼが一般人の生徒である。
まぁだからこそ〝芸能人〟というものが希少価値と化す
その希少価値が必ずしも良い印象を抱かれるわけではなく
血気盛んな思春期の若人たちには
〝アイツ芸能人だからって調子に乗ってね?〟
という特有の嫉妬心が芽生えるものも存在して
その結果――――――
現役高校生の全力パンチで
顔面をぶん殴られるという状況になるのであった。
え? 急展開すぎるって?
うるせぇこちとら顔面真っ赤に染まってんだ
ちょっと待ってろせっかちさんめ。
「は!? やべっ!?」
「誰だよコイツ!?」
「ちょ、三年じゃね!?」
モブ女乱入!! アピールチャンス!
突然飛び出してきたモブに男子生徒諸君は一気に混乱した
よしよしヘイトは集まってるな!!!
ここは大人の力()で買収だ!!
といきたいのはやまやまなんだけれども
思ってたよりクリティカルヒットで鼻血が止まんない
ハンカチ真っ赤よコレ。
痛みで蹲ったまま動けん、モブの鼻終わったかも。
「せんぱ……い………?」
伏黒の声が聞こえて痛みよりも優先事項で顔が上がる
あ、やべっ、と滲んでいく視界。じわっと涙が溢れてく
その瞬間空気が凍った。え、寒い。
不穏な気配に推しの顔を見て痛みも涙が引っ込んだ。
「………————殺す…!!」
伏黒の形相に男子生徒たちは「ヒッ!?」と叫び後退る
治安悪い推しもかっこいい…!
って見惚れてる場合じゃねェ!!!!
暴力沙汰は絶対に、駄目だあああああ!!!
という思いのまま伏黒の背中に抱き着いた
うおおおお男子諸君ここはオレに任せて先に行けー!!
「オイッ離せよッ……!」
伏黒の言葉に首を横に振って拒否をする
本来伏黒の力であればあたしなんぞは振り切れるだろうが
負傷しているあたしを気遣っているんだろう
伏黒は無理やり剥がそうとはしなかった。
その優しさに付け込み
絶対に離さんという決意の元更に強く抱き着く。
その間に「オイ、逃げるぞ!!」という声と共に
男子諸君は無事に逃げていった。任務達成である。
「クソがッ!!!」
盛大に舌打ちをした伏黒。うーん、とてもヤンキー…!
推しの新たな解釈に感動していると
走り出さないように抱き着いていた腕をガシッと掴まれる
「……―――オイ」
という地を這うような低い声が聞こえて
様子を伺うようにゆーっくり視線を上げると
逆光で顔全体は見えないのに物凄く鋭い瞳だけが
嫌に目立って心臓がきゅっとなったのが分かった。
「…ご、ごめん……」
まさかそこまで怒られるとは思っておらず素直に謝罪する
すると伏黒はクソでかため息を吐いて片手で顔を覆った
再度ごめん、と謝罪をするとぽんぽんと頭を撫でられる
「……俺の方こそ、すみませんでした」
静かにそう言ってゆっくりとあたしの腕を外させる伏黒
向かい合う体制になると両頬が優しく包まれる
すりすりと目元を擦る指がくすぐったい。
「…怖かったですよね」
「え、いや…そん、なこと…は…っ」
翡翠の瞳に見つめられてそんなことを言われると
全然怖くなんてなかったはずなのに
怖かったんだと自覚してしまって
カッと目頭が熱くなって言葉が急に詰まった
そうしたら最後で、今度は涙が溢れ出す
それは痛みのせいなんかじゃなくて
事が大事にならなかったことに酷く安心したからだった。
泣き出してしまったあたしを伏黒は
優しく後頭部に腕を回すと自身の胸へと顔を埋めさせた
額をくっつけて、伏黒の制服を両手で掴む
伏黒は何も言わずにあたしが落ち着くまで傍にいてくれた
* * * * * *
その後落ち着いたあたしは伏黒に手を引かれ
保健室へと足を運び、驚いた先生に
派手に転んだのだと嘘をついた。
高校生にもなって女の子が…という風に
言葉にはしなかったけど先生は少し呆れてた
その時、推しは何か言いたげだったけど
それをガン無視しながらヘラヘラと笑い
きちんと治療してもらった。いてて…。
「送ります」
「え…いやそこまでは…」
「じゃあ、あいつ等シメてきます」
「一緒に帰りましょう」
保健室を出て教室に置いていた荷物を取りに戻っていると
推しの物騒な提案をされて即座にお見送りをお願いする。
何故かちょっとムッとされた。解せぬ。
しかし、こちらに何か遠慮しているのか
表情は思いっきり不満そうだけれど
特に文句を言われることもなかった。
その時の推しの態勢が机に腰掛け
外の様子を見ておりそのラフな姿がかっこよく
呑気に写真撮りたいな~とか思いつつ見ていると
推しとぱちっと目が合う。少しの見つめ合いのあと
手のひらでひらひらと手招きされて素直に近寄ったら
頬に手を添えられ怪我している箇所に視線が集中する
「……何で、来ちゃったんですか」
「…え」
「アンタ、知ってただろ」
「………」
視線を逸らしてだらだらと冷や汗を流すあたしに
伏黒はため息を吐いた。やべぇバレてる。
どうしようと考えていると
「オイ」と強制的に視線が合うように顔を掴まれる。
あ、顔が良い…。近い…。やば、やっぱかっこいいな。
「……ほんっと、その顔すればいいと思ってんだろ…っ」
「え…?」
ぼそっと呟くように言われた言葉の意味が分からず
呆然としているとグイッと身体が引っ張られる
回った視界に何が起きた…?と困惑していると
背中に感じる体温と腹に回された男の腕の意味を理解して
「!?」と驚くもガシッと掴まれており身動きが取れない
逃げるなとでも言うように
背中にグリグリと刺激するのは多分、推しの額で
擦り付けられている感触に顔から火が出るくらい
頬が火照っていくのが分かった。
後輩は呼びかけても返事はしてくれない。
誰もいない放課後とはいえ誰かに見られたらまずいでしょ
あたしの焦りとは対照的に伏黒は離してくれない。
「アンタが話したら、離す」
「お、恐ろしい子…!」
まさかの交渉に選択肢なんてないじゃないか…!と
ため息を吐き、もうこれまでかと観念して口を開いた。
* * * * * *
昼休み。
自販機で何を飲もうか悩んでいると
不意に男子グループの会話が聞こえてきた。
それは伏黒恵がウザいだの、調子に乗ってるだの
という内容で、グループ内で冗談交じりに
伏黒の懲らしめるかが盛り上がっていた。
やべぇ、気まずいと足早に去るつもりだったが
モデルでニュース沙汰にはなりたくないだろうからと
自分たちを殴らせるなりなんなりして
動画で証拠を取って金要求すれば
いい小遣い稼ぎになんじゃね?
と本格的に計画が立てられており
もし、少しでも〝伏黒恵〟が関わることになったらまずい
そう理解したあたしは…
だから―――――
「俺との問題じゃなくアンタとのトラブルに上書きした」
コクンと頷くと
「……馬鹿だろ、アンタ」
と呟かれ、背後からぎゅっと抱きしめられる。
優しく、労わるような温もりに胸がドキドキした
「アンタが怪我するくらいなら
俺が殴られた方がマシですよ……」
左耳にダイレクトに伝わる伏黒の息が鼓膜を刺激する
「そ、れは…駄目、でしょ」
恥ずかしさを感じつつ顔を少し逸らす
「…なんで」
離れた距離よりも更に詰めるように
口元を近づけて囁く伏黒。
コイツ…!! ワザとだろっ…!!
「商売道具、だし…!!」
自由である両手で伏黒の腕を掴み離そうと試みるも
逆に両手を片手でまとめられてしまった。
いやっ少女漫画かッ…!
無言でじわりと距離を詰めてくる伏黒に
頭の中で警報が鳴り響き、走馬灯のように
先ほどの伏黒の発言を思い出し思いっきり息を吸う
「はいはい! 話した!! 話しました!!」
あたしの発言にピタッと伏黒の動きが止まる
ムスッとした表情で見られても約束したのは
そちらですしおすしとこちらも無言で見つめると
ふっと力を抜かれ拘束から解放された。
バッと離れてぜぇはぁと肩で息をする。つ、疲れた。
推しの距離感どーなっとるんや……
これで家に推しが来るとか…え、無理なんだが?
現実を受け止めきれずやっぱりお見送りキャンセル
してくれないかなぁー…、と背後を振り返る
「……本気で、ボコる」
「さー早く帰りましょうか!」
* * * * * *
「は、ここですか?」
うん、と頷き玄関で立ち止まる
伏黒はまじかよという風に上を見上げていた
我が家は一軒家。かなり大きい方だと思う
ぶっちゃけお金持ちという肩書きは自負している。
「上がってく? 誰もいないし」「ハ…?」
ガチャと鍵を開けつつ、背後にいる伏黒に向けて
親が海外をふらついていることを説明する。
色々迷惑かけたしご飯くらいなら出せるんだけど
やっぱり逆に迷惑だったか…?
「ごめん、伏黒も忙しいか…じゃ―――」
ドアノブを掴み、背後に振り返った直後に
ダンッと激しい音がして陰に覆われる。
ビクゥ!?と反応してしまい肩が派手に跳ねた
「っあ、わ、悪いッ…!」
トラウマを刺激してしまったと思ったのか
伏黒は慌ててあたしに謝った。
いや確かに壁ドンはオタクには刺激的すぎて
心の臓がドッキドキですけれども…。
いつも不愛想で無表情な伏黒の表情が
こんなにも崩れてしまっているのが面白く
少し呆けて伏黒の顔を見つめたあと
「ぷっ」と少し吹き出してしまった。
呆気に取られている伏黒を置いて
あたしは声を出してケラケラと笑った。
確かに反射的に驚いてしまったけど
伏黒を怖いと思う事は絶対にない。
「あたし、伏黒を怖いって思ったことないよ」
目に溜まった笑い涙を拭いながらそう説明すると
伏黒は少し体を固めた後長い溜息を吐いて
片手で顔を覆ってそっぽを向いた。何だその反応。
「で、どーする?」
改めて上がっていくのかいないのかを問うと
伏黒は顔は覆ったままゆっくりとこちらを向き
「……あがります」とくぐもった声で頷いた。
* * * * * *
冷蔵庫の残り物や作り置きを振る舞い
後輩と一緒にご飯を食べるという謎の状況
けどまぁ、誰かと食べるのって久しぶりだし
目の前には推しがいるしこれ以上の贅沢は無いな…。
いつもより味が美味しく感じるのは
多分、気のせいじゃないだろう。
推しは小食かと思ってたけどちゃんと男の子で
ぺろりとご飯を平らげていく、うん、いいなぁ。
大した事ないお礼だというのに伏黒は
自分も迷惑をかけたからと洗い物をしてくれた。
カチャカチャという皿の音をBGMに
推しの洗い物シーンと伏せられた瞳の睫毛を
綺麗だなぁ…と、眺めていると
不意に彼が顔を上げて目が合った
どうやら洗い物は終わったらしい。
「…全部手作りだったんですね」
「へ?」
「お店で売ってるものかと思ってました
名字さんがくれたヤツ」
「あーサンドウィッチとかね、そうそう手作りだよ
さっきも言ったけどずっと前から家で一人暮らし」
「……あの、金銭的に余裕…ありますよね」
椅子に座りながらそう尋ねてきた伏黒に頬をかきながら
「所謂、お金持ちの類です、ね」と控えめに同意する。
「じゃあなんでバイトしてるんですか」
推しからの質問にぎょっとして目を見開く
何で知っているのかという疑問が顔に出ていたのか
「バイトしてるとこ見たんで」と先読みで答える推し
おおう、そうか、バ先に推し来とったんか…なんという
え、しかし、まぁ、どうしようか。
推しの前で、推しですって、貢いでます♡って言うの?
え???? 無理なんだが………。
そんな先輩いたら怖いだろ普通に考えて……と
あたしが変に無言で理由を教えるのを渋っていると
伏黒の目がスッと細まった。
「…名字さん、身内に金取られてたりしてるんですか」
推しの声のトーンが下がった。
斜め上の回答に推し活を決意した瞬間を思い出す
あ、コレはクズ親だと勘違いしているな……!!!!
君のように苦労してないよ…!
ちゃんと誤解は解かなくては…!!
「お、推し活!!
雑誌とか買ったりプレゼントとかするためにね!!!」
嘘は言ってないもんね、ね???
いや流石に後輩に改まって好きですって言うのは…
恥ずかしすぎるよな~ガハハッ!
何とか誤魔化せるようにへらへらと笑い、頭をかく
「………かよ」
伏黒が、何か呟いたが聞こえなかった
顔も伏せられていて表情が見えない
何か、怒ってる…?
「伏黒…? 今、何て…?」
「―――五条さんとか、かよ」
「え?? 五条? 五条悟…?」
急に推しから出た顔面最強の名前に首を傾げる
アレ、何故か五条推しって勘違いされてーら!?
「ち、違うから、あたしの推し伏黒恵だからっ」
ガタッと立ち上がって前のめりになる。
「生活に苦労してモデルやってる伏黒が
もっと活躍出来るようにって力になりたかっただけ!」
ノー五条悟! イエス伏黒恵!だからね? ココ重要!!
「…アンタ、何でそのこと知って…」
「―――アッ…!!」
伏黒が、伏黒がとんでもない勘違いするから
勢いのまま喋ってしまった…!
うわ、恥ずかしい…!
穴があったら入りたい、という気分になったあたしは
一刻も早く一人になるためにバッと走り出す。
が、推しの反応速度はあたしの何倍もあって
腕を掴まれて壁に押さえつけられ動きを止められる
全力で抵抗するも力では敵わないため
せめて顔は見られてなるものかと全力で顔を隠す
「名字さん…名字さん…!」
「くっ殺せ…!」
「顔覆っても、ふざけても、耳、真っ赤ですね」
「くっ殺せ!!!!!!!!!」
「いやですよ」
言葉責めかな????
と思わせるようなえっちな推しの実況に
反射で全力で叫ぶもさらっと流される。
どうして推しになったのか
何で推しの事情を知っているのか
今までしてきた推し活について洗いざらい
吐かせられてしまい死にたくなった。
「……アンタには世話になってばっかですね」
「え、いや別にあたしは何も…」
「なぁ、どうしたらアンタに返せる?」
「え!? いやだから別に」
「じゃあボコる」「駄目です」
この子は本当にもーすぐ手が出ちゃうんだから…
ムッとする顔にだからなんで不服そうなんだと笑い
んー…と考えながら拗ねてしまった伏黒の頭を撫でる。
大人しく目を閉じる伏黒。睫毛の長さが良く分かった。
この綺麗な顔に傷が無くて、本当に、よかった。
頬に手を沿わせ指の腹で目元を撫でると
ゆっくりと瞼が上がり翡翠の瞳と目が合った。
「なんでも、してくれる?」
上を見上げて問う
少しの間、じっと見つめられる
「……はい」
と、伏黒はあたしの手を掴んで頷いた。
緊張を誤魔化すように息を吐いて目を閉じる
スッ…と推しの気配が近づくような感覚
カッと目を見開いて大きく息を吸った。
「――――伏黒恵の写真集を!!!!」
お願いしまああああああああすぅうううう!!!!!!!