推しを応援してただけですが!?
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虎杖悠仁としての活動はかなり活発になっていった
積極的に色々なことに挑戦しているようで
雑誌のインタビューには
芸能人としての自覚を持つようになって
俳優として、役者はお芝居を勉強しないといけない
と強く感じたらしい。
デビュー当時、真っ白な純粋さが世間に受けて
虎杖悠仁は売れた。
しかし業界を知っていくうえで
知識は必要だし、経験としてそれは備わっていく
本人も真っ白な状態ではなくなった
自身の芝居に違和感を感じていたのだという
そして、丁度そんな時期に舞い込んできたのが
〝呪術廻戦〟という舞台だった
初の舞台ということで発表された時は死ぬかと思った
芝居の勉強に舞台はとても良いと聞いていた推しは
主演という大事な役を真っ先に引き受けたとのこと
本人曰く
「何か変われると思ったし、期待に応えたかった」
と語っていた。
舞台ということでかなりの稽古時間を設けており
その合間に推しが色んな人との自撮り写真を撮り
SNSでアップしていた。
その中には作中でも現実でも
同級生である伏黒恵くんと釘崎野薔薇様との写真や
祓ったれ本舗の五条悟と夏油傑との写真もあり
その中でも、あの宿儺様との写真は心に来るものがあった
しかも宿儺様も同じ時に撮ったであろう写真を上げ
「なかなかやるな、小僧」という一言にギャン泣きした。
かなりのえぐい倍率だろうけど
なんとかしてチケット戦争勝ってみせよう!!
と、心に誓っていたらまさかの先輩から
関係者席へのお誘いを受けてしまった。
色々と混乱し戸惑ったが先輩からお礼だと言われる
何もお礼を言われるようなことはしていないのに
と思っていたがうるうるなお目目の虎のスタンプと
ダメ?というメッセージが送られ
反射的に「是非、お願いします」と返信してしまった。
初めての観劇した舞台は本当に凄くて
最初に見た舞台が推しで良かったと心から感じた。
わたしでは安っぽい言葉でしか表すことが出来ないけど
全てが、本当に良かった。
キャラクター名は全部指名されたキャストの為
芸名や本名がそのまま使われてたのが珍しかった。
しかし、それぞれの役作りが極められており
登場人物全員が全く知らない人物に見えた。
元々の身体能力と舞台との相性が抜群に良かったのか
アクロバットな戦闘シーンの見ごたえを推しが
より際立たせていたといっても過言ではなかった。
そして、実際に見て鳥肌が立ったのが
虎杖悠仁には両面宿儺という
とっても悪い呪いが彼を器に現世に蘇る
宿儺が喋るときはもちろん宿儺様が動くのだが
ちょっとした時の虎杖悠仁から両面宿儺への切り替えは
推しの役者として覚醒したとしか言えないほど
見事に一人二役を推しはこなしていた。
その姿は他の芸能人に負けず劣らずの存在感を放ち
立派に主演を演じきっていた。
推し、かっこよすぎでは…?
と宇宙を背負いそうになるけれど
一瞬でも見逃したくないという気持ちで
瞬きすら惜しいくらいに何とか持ちこたえた。
三時間という大ボリュームながらも
脚本がとても面白くて時間はあっという間だった。
これからもお話は続いていくという形で終わり
幕が閉じた瞬間、スタンディングオベーションが起きて
大喝采はしばらくの間止むことはなかった
それほどまでに観客は舞台に引き込まれ興奮していた
初日の初演、わたしもギャン泣きしながら
自身の手が痛痒くなるまで全力で叩き続けた。
先輩が卒業する前に
こんな素敵な舞台を見れるなんて幸せすぎる…。
笑顔でカーテンコールを終える推しに涙を流す
本当に閉じてしまった幕を見ながら舞台の余韻に浸る
「…うっ…推しが…」
近くに座っていた女性が顔を手で覆っていた
その気持ち、わかりますっ……!
その日にちゃんとお礼と感想を、って思ったけど
いつもの手紙のような熱い長文になりそうだったため
これは先輩にわんちゃんばれる!?
と危惧したため出来る限り端折って感謝の言葉を伝えた
その代わりに友人には荒れ狂った
感想を永遠と送り続けた。何かを察していたのか
全部未読無視だった。ごめんね、マイフレンド。
* * * * * *
「何時になく真剣ね」
声をかけられて顔を上げた。
へへへ…と笑うとわたしの書いた手紙を眺めて
「推しだからってよくここまで言葉尽きないわね」
と、そう言った。友人の言葉に対して
「これは違うんだー」と少し否定をする。
友達は珍しく驚いた表情で
「違うの?」と聞いてくるので
わたしは「うん!」と頷いた。
これは、違うの。
推しへの一方通行じゃなくて
先輩から貰ったものに対して後輩からのお礼なのだ
そんな気持ちで手紙を見つめるわたしに「あっそ」と
だけ言って友人はもう深くは聞いてこなかった。
「ま、誤字の確認したくなったらしてあげてもいいわよ」
と、言われて笑いながら「ありがと!」とお礼を言う。
* * * * * *
卒業式にて写真部はこの学校に在籍してる芸能人を
撮りたいという人ばかりだったため
まともに活動してたわたしを先生たちは
正式に卒業式の撮影係として任命した。
ちょっと周りの目が恐くて先生たちを呪ったのは内緒。
推したちの人気、恐るべし
ま、先生たちの期待を裏切るわけにもいきませんので
平等に楽しい思い出を写真で作れるように、と
一瞬一瞬にシャッターを切っていく
こういう時、人の感性の差は出てくる。
泣いてる人、笑ってる人、無表情の人
それぞれの感情も表情も様々だ。
それを伝わるように、伝えるようになれたら、いいな
わわわっ!?!? 推しの顔面が良いぃ~~~!!!!!
真剣な思いもどこへやら、すんませんオタクなもんで…
!?!?
うえっ、こっち見た!?!?
お、おおおおおお!?!?
推しからのウィンク頂きましたァアアアア!!!!
卒業式だから泣くかと思ったけど
推しへの興奮で涙引っ込んだよね。
「卒業、おめでとうございます…先輩」
……———————引っ込んだ、よね。
* * * * * *
卒業式も終わって賑わっている場所から逃げるように
わたしはカメラの整理のために部室で一人過ごしていた
カチカチッとカメラを触る音が聞こえる
自分の撮った写真を眺め、釘崎先輩も伏黒先輩も
やっぱオーラが違うなと思いつつ
虎杖先輩の写真は妙に気合が入っているように
感じてしまうのは私の匙加減かフィルターか
それとも推しの溢れ出る魅力か、はたまた両方か。
そんな風に考えて一人でクスッと笑い
カメラを置いて、ポケットから手紙を取り出す。
いざ直接、と考えるとやっぱりわたしには駄目だった
今頃先輩のボタンはありとあらゆる箇所が
むしり取られているんだろうなーと考え
自分を嘲笑してポケットに手紙をしまう。
先輩のボタンか…全然考えてなかったけど普通に欲しい
はぁ…渡せなかったし、貰えなかった…
うぅ、先輩とさよならなんだ…
と、ため息をつき落胆していると
背後から急に誰かに抱き着かれた。
人のいない旧棟で明らかに男の人であろう腹に回った
腕に驚き、少しの恐怖から「いやっ!」と抵抗する。
「……駄目、離さねー」と聞き覚えのありすぎる声。
低い声と吐息でわたしの鼓膜を刺激した。
声の主を理解したわたしは混乱状態になり
何で、と身体の動きが止まる。
「…な、えっ……せ、せんぱ、い…??」
言葉が上手く出て来ず、とりあえずの確認で
首を少し動かすとそこには見慣れたの髪色
やっぱり、虎杖先輩なんだと安心した。
しかし、そのお顔は私の右肩から背中にかけて
顔を埋められており先輩がどんな表情をしているのか
分からずに先輩が今何を思っているのかが不明だった。
「虎杖、先輩……?」
確認するようにもう一度声をかけた
ゆっくりと顔が上がるとそこには拗ねた顔。
「スッゲー、探した」とだけ言われて
「は、はい………???」と馬鹿なわたしは先輩が
何を言わんとしているのかが理解出来ず首を傾げた
「……手紙」と呟かれた先輩のワードに
ヒエッとなり反射的にポケットを抑えてしまった
先輩は無言でこちらを数秒見つめると
すぐさまポケットに手を突っ込んできた
迷いのない素早い行動と振れた掌の感触と体温に
動揺して固まってしまいあっさりと手紙を取られてしまう
というか、先輩なんで手紙のこと知ってるの…!?!?
「コレさ、俺だけのものじゃなかったの?」
やややや、やっぱりバレてるよねコレ!?!?
「……しかもよりによって虎じゃん」
不満そうな声
いつも動物シリーズで揃えているの知られてた!
今日は特別な日だからと今まで使わなかった
虎にしちゃったという安直さもバレとる………!?
先輩との密着した距離や諸々がバレてしまっていたのが
めちゃくちゃ恥ずかしくて何も言わずに黙っていると
先輩からムッとした空気を感じはわわと焦ると
先輩は手紙をこの場で読もうとするではないか!
何という公開処刑、切実にやめてほしい…!!
必死に止めようとするも先輩の力に
わたしなんかが叶うわけがなくて抵抗は無意味だった。
というかなんだよ「やーだ!!!」って
推しの反応可愛すぎか????????
と、呑気なことを考えていると唐突に先輩が固まった
ア、流石に今回の手紙の内容は引かれちゃった…?
と、つられて固まると先輩は手紙を見つめ
「虎杖先輩へ………?」
とあたかも自分に手紙が書かれているとは
微塵も思ってませんでしたーと言わんばかりに
そう呟いた。その様子を見て
え、手紙気付いていたんじゃないの?????
とクエスチョンマークを浮かばせる
カオスな空間が生まれていた。
「コレ、俺に書いたやつじゃないって言ってた…よな?」
「へ????」
「えっ」
「………えっ???」
しばしの沈黙の後、虎杖先輩はわたしから離れて
ため息を吐きながらその場にしゃがみ込んでしまった
後ろを振り返り慌ててわたしもしゃがみ込み
蹲る先輩の顔を伺うとその耳は真っ赤に染まっていた
先輩は埋めていた顔を上げ、目が合うと逸らされる
え???? 何???? どゆこと???????
混乱に混乱を重ねていると
「あーもう…俺、かっこわる…」
と、一人で何かに納得したような表情で
恥ずかしそうに頭をかく虎杖先輩
「コレ、ちゃんと俺に書いてくれたやつ?」
先輩に聞かれて首を上下に振る
「他に手紙書いたやつは」
先輩に聞かれて顔を左右に振った
「俺、だけ?」
ウンウンと頷くと先輩は「………そっ、か」と呟き
「そっか!」と顔をクシャっとさせて笑った。
いつもの先輩の楽しそうな笑みに安心する
「あとで大事に読むわ」と言い先輩は手紙をしまった
その動作の時に見えてしまった第二ボタン
無意識にじっと見ているとそれが先輩の手によって
ブチッと制服から外される「…あ」と反射的に声が出て
口を覆うと先輩はゆっくりとそのボタンを差し出す
ボタンを数秒眺めて視線をあげると
いつも見ているドラマ以上に先輩の瞳は熱を持っていた
その瞬間、身体が熱くなるのが分かって
これは駄目だと立ち上がり距離を取ろうとするが
部室に置いてある机にガシャンとぶつかり
大袈裟なくらいに肩が跳ねた。
「俺さ、もう卒業しちゃうじゃん?」
後ろを見ていた顔を前に戻す
何でもない風に話しながらゆっくりと立ち上がる先輩
どくん、と本能が何かを期待している
じわじわと迫ってくる何かから逃げなきゃ
そう思っているのに身体は少しも動かない
その間に先輩は私との距離を詰めて
わたしの腕を掴むと手のひらに第二ボタンを乗せて
ゆっくりと手のひらを閉じさせた。
握りこぶしの中にあるボタンの存在が
敏感に感じられて、手汗が出る。
「名前にはさ、もっと〝俺〟を見てほしいんだ」
そういって、先輩はもう片方の手首を掴んで
するすると長い指を滑らせて指の間を沿わせると
ゆっくりと絡めるように恋人繋ぎをした。
「あ、あ…」
うわ言のようにしか母音を出せないわたしを無視して
手を頬に添えた先輩がぐっと顔を近づけてくる
ひやぁっ
情けない声を出して目をきつくギュッと閉じる
すると前髪越しに柔らかい何かが額に触れる
小さなリップ音に今度は逆に目をギョッと見開いて
口をぱかぱかさせて顔をあげると
「顔、あっか」と甘い声で笑われる。
「やっぱり名前は可愛いなー」
と言いながら先輩にぎゅっと抱きしめられた
宇宙すら背負えないほど限界を越えたわたしは
どうしてこうなった?と、問い。心の中で全力で叫ぶ。
わたしは、わたしはただ……———————————
――――――推しを応援してただけですが!?