推しを応援してただけですが!?
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推しの元気がない気がする
最近、どこか、そう思い始めていた。
学校での雰囲気は変わってないから
全然気が付かなかったけど、何だか、違う気がする
仕事が上手くいっていないのかド素人には分からない
けど、テレビで見る表情はどこか、曇って見えた
録画したものをうーむと唸りながら眺めて
ハッ…!と目を見開いた。
―――コレ、スランプなるものじゃないのか…!?!?
一つの仮説に辿り着いた瞬間
あばばばと勝手に動揺して、テレビの画面に手を伸ばし
どうしたらいいのかなぁと推しを見つめる。
実家への定期的な連絡でおばあちゃんに
面と向かって話せない人を励ますには
どうしたらいいのかなぁと質問すると
「それならお手紙はどぉかね~?」と言われ
ピシャーン!!!!!と衝撃が走って
それだーーーーーー!!!!!
とすぐさまお手紙セットをお店に買いに行くために走る
動物シリーズが可愛かったのでたくさん買っちゃった!
最初のお手紙、ということで
私は推しの世界である芸能の世界を知らない
だから励ましの言葉よりもどこを好きになったのかとか
推しの素晴らしさを自分なりに伝えようと
色々考えた結果、その結論に至った。
今思えば結構変な事してると思う
けど、もう出してしまったのは仕方ない
匿名だし、ウン!
今でこそこんな風に割り切ってお手紙書いてますけど
最初はかなり勇気が必要で学校まで持って行って
うーんうーんと唸りながら内容を考えていた。
何とか書き終えて、誤字がないか確認して
よしっ!と気合を入れたけど、でも見落としがあるかも
って、どうしようもなく不安になって出す気が無くなって
する意味も無いのに内容を確認する
ということを来る日も来る日も繰り返していたら
痺れを切らした友達が「ええい! 煩わしい!」と
わたしが持っていた手紙を奪い取った。
「あぁ!」と叫んだわたしを無視して
じーっと手紙を睨むように眺める友達
最後まで読み終えると「大丈夫じゃない、全く」
と、呆れながら手紙を返してくれた。
「今日こそ絶対ポストに入れるわよ」
「……うん」
放課後、心優しい友人に見守られながら
郵便ポストに手紙を入れた。
これで少しでも元気が出してもらえますように
そんな私の想いとは裏腹に推しは
少し可哀想なことになってしまった。
芸能界には宿儺様というカリスマな存在が君臨している
その宿儺様との推しはドラマで共演を果たした。
大ベテランと若手、その二人の容姿が似ていると
世間では話題になったのだが宿儺様を崇拝している
一部のファンが唯一無二の宿儺様に似ているなんて!
虎杖悠仁は不敬だ!と愛故の行動に
事態がだんだんと大事になってしまい
その流れに乗ってきたアンチも増えて
心無い言葉が目に入るようになってしまった。
色んなことを言われており、気にはしないように
してはいるだろうが悩まない人間は少ないだろう。
「うう、ううううッ……元気、出してぇえええ…!!」
「涙と鼻水で手紙汚れるわよ、ヘラってるファンか」
口ではそう言ってくるけど
ティッシュはくれるあたり本当に優しいね…
遠慮なくそのティッシュを使わせてもらい
フーン!と、思いっきり鼻をかんだ。
「てか、アンタそんなに好きなら直接会うなり
握手会だのイベントだのいけばいいじゃない」
「え、いや無理無理無理無理
だって、先輩と後輩だよ………!?」
首を激しく横に振って〝NO!〟と返事をする
「やっぱり根元はそうなのね」
と、意味深な発言に首を傾げると
「ま、まだかしらね」と笑われた
同い年なのか疑問に思うほど大人っぽい表情…
いや、大人びすぎでは……????
と、見惚れながらポストの前で鞄を漁っていると
目的のお手紙が入っていないことに気付く
手紙が!!!! ない!?!?!?
パニック状態のわたしに落ち着かせるように
友達は頭を撫でながら大丈夫だと教えてくれる。
「教室に忘れてきたのよ、大丈夫」
「そ、そうだよねっ……! 探してくるっ!」
「気をつけなさいよー!」
背後から聞こえる声に「はーい!」と
少し振り返って手を振った。
もし手紙を落としていたらまずいっ!!!
いや、別に見られて恥ずかしいものは書いていない
って信じてるけど、それを先輩に見られちゃうのは
ダメだ! 話しが違う!! 学校にいるのバレるの恥ずい!
も、もし…先輩に読まれちゃったら……?
ひゃあああ!!!
心の中で発狂しながら教室へと走る
すると自分の机に普通に置いてあった
アレ、私…アホすぎ…!?
と自身の阿保さ加減に驚愕しつつも
手紙確保のメッセージを送ると
ヤレヤレという風なスタンプが帰って来た。
一応中身も見てみて確認するけど
ちゃんとわたしの手紙だった。良かった~と一安心。
わたしはすっかり安心して気付かなかった。
わたしは忘れていたとしても机にだしっぱの状態で
しっかりものの賢い友人がそれに気付かないだろうか
誰かが手紙を拾い、わたしだと気付き机に置いた
そんな人がいるかもしれない
ということを考えることは無かった、
* * * * * *
「え? 虎杖先輩はかっこいいよ?」
「虎杖悠仁の可愛さが好きなの?」
と質問されて反射的にありのままに応えた。
今はメディアがナチュラルな爽やか俳優を求めてるけど
元々がかっこいいんだもん。クールな役、絶対似合う!
推しのかっこよさに皆、好きになっちゃうよ!!!!
あ、うるさい?? ごめんなさい…。
「じゃ、私帰るから」
「あ、うんっ! また今度撮らせて!!」
「はいはい、分かったわよ」
念願の友達をモデルにした写真を撮ることが出来て
大満足な私はうへへ~と自分で撮った写真を眺める
やっぱ思ってた通り、綺麗だなー絵になるな~!!
今度はどういうのがいいのかなぁ…と思いながら
今まで撮ってきた写真を眺める
放課後、誰もいない教室に聞こえるのは
わたしがカメラをカチカチと操作する音だけ
でも、それが心地よい。青春って感じだぁ~…。
あ、この写真――――
「あ、それいいじゃん!」
お気に入りの写真まで遡っていると不意に声が聞こえた
ガチッと身体が固まり、ギギギッ…と首を横に動かす
そこには虎杖先輩の顔が…ん? 幻覚?
アッ、こっち見て笑わないで…死ぬ…。
混乱している間に先輩はわたしの手の上から重ねて
ポチポチっとカメラを操作して色んな写真を眺める
触れられた右手に、すぐ近くにある身体に緊張して
身体が縮こまる。な、なんななな、なんで先輩が…?
「写真撮るの好きなん?」
「え、あ、はいッ…すき、です」
「そっか!」
ふえ……会話しとる、先輩と…。
久しぶりの生の先輩は威力が凄んい……!
「なーな! 俺のこと撮ってくれん?」
唐突な先輩からのお願いに「うわぇ!?」
と、言葉にならないリアクションをすると
「何語~?」と笑いながら問われた。
うっ、笑顔、眩しい…!!!
曰く、何やら雑誌の撮影なるものがあるらしく
映像ではない撮影を練習したい、とのこと
「ダメ?」
「やらせてください」
首をこてんと傾げられながらのお願いを
断ることが出来るだろうか。いや、出来ない(反語)
「やった」とクシャッと笑う先輩。
う、やったってなんだ、可愛すぎるっ…!
「俺、どーしたらいい?」
先輩に問われ、とりあえずは何も意識しないで
教室をぶらぶらしてもらうことにした。
レンズ越しに虎杖悠仁を観察する
この自分を映す媒体に向かって演じないナチュラルさ
確かに惹かれるものがあるんだろうなと改めて感じる
けど、もう虎杖悠仁はこのままナチュラルさだけで
芸能界は生きていくことは出来ない
もう芸能を仕事として求められるものに応えよう
という癖がつき始めて、決して悪い変化ではないはず
それが、味となっていく…のかも…?
知らんけど。
だけど、これだけは言える
虎杖悠仁は、このままで終わるような器じゃない。
あの五条悟にスカウトされて
芸能界デビューを果たした元一般人が
ここまで芸能活動していること自体凄いことだ
呑み込みの早さ、その才能が虎杖悠仁にはある。
だからこそ雑誌の為にこうやって練習をしてるんだ
推しの成長を喜ばないファンは絶対にいないはず。
何枚かの写真を撮り、一旦カメラから顔を離して
撮った写真を見たあとに本物の虎杖悠仁を見つめる
「虎杖先輩」
「ん、何?」
「めちゃくちゃにかっこつけてください」
「え、マジ?」
「本気です」
誰かの真似でもいい
そのイメージをしてカメラなんか意識しないでいい
わたしは、その瞬間を〝待って〟いればいいだけだから
無言でカメラを構えると先輩は少し恥ずかしそうに
指先で頬をかいたあと「うっし!」と気合を入れた。
集中した先輩の表情は一瞬にして真顔に変わる
皆が知っている根明で爽やかな先輩はそこにはいない
空気の鋭さが増していくのが分かる。
そう、目線を外して、何も考えず
瞳が無意識にこちらを見る瞬間
その刹那、呼吸を止めてシャッターを切った。
ヒエッ~~~~~~~!?!?!?!?!?!?
推しの顔面良きぃいいいいううわああ泣きそうだが?!
推しの可能性は無限大だぁああああ!!!!!!!!
先輩は「何々!?」とパッと切り替えて
わたしが持っているカメラを覗き込んだ。
「え、コレ俺?!」
って自覚無しかよこの才能マンんんん!!!!!!
え、もう一回?
どうぞ、どうぞいくらでも!!!!
さァ、推しの最高の瞬間を撮ってやろうじゃねーかァ!
と、わたしも気合を入れてカメラを構えると――――
「―――――名前」
パシャ
??????????????????????????
??????????????????????????
ん、今…何…????????????????????
カメラから顔を離して横を見ると推しの逞しい腕がある
背後の壁を、そう、ドンとしておるわけですが…
そして、またまた近い推しの顔面宝具
えー、わたしの聞き間違いでなければ
え??? 名前???? 呼ばれました?????
「彼女目線的なヤツ! ど?」
「ハイ、トッテモ………スバラシカッタデス………」
――――虎杖先輩、それはやばいってええええええ!?
それからデータが欲しいとのことで
あれよあれよと先輩との連絡先を交換してしまった
虎杖悠仁という名前の表示に信じられなさ過ぎて
ガン見をするが、ポンッと先輩からスタンプに
あ、まじか…????と、現実を理解(?)した。
写真のデータを送って先輩とのやりとりに
一人家で興奮しているとSNSの通知が来て
反射的にタップするとその場でボンッと身体が跳ねた。
「俺、けっこーかっこいいのイケんじゃね!?!?」
という一言と共におこがましくも
わたしが撮影した写真がアップロードされており
そりゃまあそうなりますよねぇ
という風なバズり方をしました。
おめでとう、推し。
ありがとう、推し。
〝――――名前〟
先輩の声が幻聴のように蘇ってくる。
皆が喜んでいるアップロードされた写真のなかに
例の壁ドン写真はアップされていなかった。
事務所の許可が下りなかったのかな…と思いつつ
オリジナルの写真をカメラを弄って眺める
彼女目線的なヤツ、って先輩は言っていたけど
わたしの名前を呼んでこの表情なんだよな…と
想像でも彼女と認識されたのかと
馬鹿な勘違いをしそうになってしまう。
しかしこの写真を持っているのはわたしと先輩だけ
真意は先輩のみぞ知る、ということなのだ。
「ちゃんと管理してれば、保存してもいいよね、ウン」
最近、どこか、そう思い始めていた。
学校での雰囲気は変わってないから
全然気が付かなかったけど、何だか、違う気がする
仕事が上手くいっていないのかド素人には分からない
けど、テレビで見る表情はどこか、曇って見えた
録画したものをうーむと唸りながら眺めて
ハッ…!と目を見開いた。
―――コレ、スランプなるものじゃないのか…!?!?
一つの仮説に辿り着いた瞬間
あばばばと勝手に動揺して、テレビの画面に手を伸ばし
どうしたらいいのかなぁと推しを見つめる。
実家への定期的な連絡でおばあちゃんに
面と向かって話せない人を励ますには
どうしたらいいのかなぁと質問すると
「それならお手紙はどぉかね~?」と言われ
ピシャーン!!!!!と衝撃が走って
それだーーーーーー!!!!!
とすぐさまお手紙セットをお店に買いに行くために走る
動物シリーズが可愛かったのでたくさん買っちゃった!
最初のお手紙、ということで
私は推しの世界である芸能の世界を知らない
だから励ましの言葉よりもどこを好きになったのかとか
推しの素晴らしさを自分なりに伝えようと
色々考えた結果、その結論に至った。
今思えば結構変な事してると思う
けど、もう出してしまったのは仕方ない
匿名だし、ウン!
今でこそこんな風に割り切ってお手紙書いてますけど
最初はかなり勇気が必要で学校まで持って行って
うーんうーんと唸りながら内容を考えていた。
何とか書き終えて、誤字がないか確認して
よしっ!と気合を入れたけど、でも見落としがあるかも
って、どうしようもなく不安になって出す気が無くなって
する意味も無いのに内容を確認する
ということを来る日も来る日も繰り返していたら
痺れを切らした友達が「ええい! 煩わしい!」と
わたしが持っていた手紙を奪い取った。
「あぁ!」と叫んだわたしを無視して
じーっと手紙を睨むように眺める友達
最後まで読み終えると「大丈夫じゃない、全く」
と、呆れながら手紙を返してくれた。
「今日こそ絶対ポストに入れるわよ」
「……うん」
放課後、心優しい友人に見守られながら
郵便ポストに手紙を入れた。
これで少しでも元気が出してもらえますように
そんな私の想いとは裏腹に推しは
少し可哀想なことになってしまった。
芸能界には宿儺様というカリスマな存在が君臨している
その宿儺様との推しはドラマで共演を果たした。
大ベテランと若手、その二人の容姿が似ていると
世間では話題になったのだが宿儺様を崇拝している
一部のファンが唯一無二の宿儺様に似ているなんて!
虎杖悠仁は不敬だ!と愛故の行動に
事態がだんだんと大事になってしまい
その流れに乗ってきたアンチも増えて
心無い言葉が目に入るようになってしまった。
色んなことを言われており、気にはしないように
してはいるだろうが悩まない人間は少ないだろう。
「うう、ううううッ……元気、出してぇえええ…!!」
「涙と鼻水で手紙汚れるわよ、ヘラってるファンか」
口ではそう言ってくるけど
ティッシュはくれるあたり本当に優しいね…
遠慮なくそのティッシュを使わせてもらい
フーン!と、思いっきり鼻をかんだ。
「てか、アンタそんなに好きなら直接会うなり
握手会だのイベントだのいけばいいじゃない」
「え、いや無理無理無理無理
だって、先輩と後輩だよ………!?」
首を激しく横に振って〝NO!〟と返事をする
「やっぱり根元はそうなのね」
と、意味深な発言に首を傾げると
「ま、まだかしらね」と笑われた
同い年なのか疑問に思うほど大人っぽい表情…
いや、大人びすぎでは……????
と、見惚れながらポストの前で鞄を漁っていると
目的のお手紙が入っていないことに気付く
手紙が!!!! ない!?!?!?
パニック状態のわたしに落ち着かせるように
友達は頭を撫でながら大丈夫だと教えてくれる。
「教室に忘れてきたのよ、大丈夫」
「そ、そうだよねっ……! 探してくるっ!」
「気をつけなさいよー!」
背後から聞こえる声に「はーい!」と
少し振り返って手を振った。
もし手紙を落としていたらまずいっ!!!
いや、別に見られて恥ずかしいものは書いていない
って信じてるけど、それを先輩に見られちゃうのは
ダメだ! 話しが違う!! 学校にいるのバレるの恥ずい!
も、もし…先輩に読まれちゃったら……?
ひゃあああ!!!
心の中で発狂しながら教室へと走る
すると自分の机に普通に置いてあった
アレ、私…アホすぎ…!?
と自身の阿保さ加減に驚愕しつつも
手紙確保のメッセージを送ると
ヤレヤレという風なスタンプが帰って来た。
一応中身も見てみて確認するけど
ちゃんとわたしの手紙だった。良かった~と一安心。
わたしはすっかり安心して気付かなかった。
わたしは忘れていたとしても机にだしっぱの状態で
しっかりものの賢い友人がそれに気付かないだろうか
誰かが手紙を拾い、わたしだと気付き机に置いた
そんな人がいるかもしれない
ということを考えることは無かった、
* * * * * *
「え? 虎杖先輩はかっこいいよ?」
「虎杖悠仁の可愛さが好きなの?」
と質問されて反射的にありのままに応えた。
今はメディアがナチュラルな爽やか俳優を求めてるけど
元々がかっこいいんだもん。クールな役、絶対似合う!
推しのかっこよさに皆、好きになっちゃうよ!!!!
あ、うるさい?? ごめんなさい…。
「じゃ、私帰るから」
「あ、うんっ! また今度撮らせて!!」
「はいはい、分かったわよ」
念願の友達をモデルにした写真を撮ることが出来て
大満足な私はうへへ~と自分で撮った写真を眺める
やっぱ思ってた通り、綺麗だなー絵になるな~!!
今度はどういうのがいいのかなぁ…と思いながら
今まで撮ってきた写真を眺める
放課後、誰もいない教室に聞こえるのは
わたしがカメラをカチカチと操作する音だけ
でも、それが心地よい。青春って感じだぁ~…。
あ、この写真――――
「あ、それいいじゃん!」
お気に入りの写真まで遡っていると不意に声が聞こえた
ガチッと身体が固まり、ギギギッ…と首を横に動かす
そこには虎杖先輩の顔が…ん? 幻覚?
アッ、こっち見て笑わないで…死ぬ…。
混乱している間に先輩はわたしの手の上から重ねて
ポチポチっとカメラを操作して色んな写真を眺める
触れられた右手に、すぐ近くにある身体に緊張して
身体が縮こまる。な、なんななな、なんで先輩が…?
「写真撮るの好きなん?」
「え、あ、はいッ…すき、です」
「そっか!」
ふえ……会話しとる、先輩と…。
久しぶりの生の先輩は威力が凄んい……!
「なーな! 俺のこと撮ってくれん?」
唐突な先輩からのお願いに「うわぇ!?」
と、言葉にならないリアクションをすると
「何語~?」と笑いながら問われた。
うっ、笑顔、眩しい…!!!
曰く、何やら雑誌の撮影なるものがあるらしく
映像ではない撮影を練習したい、とのこと
「ダメ?」
「やらせてください」
首をこてんと傾げられながらのお願いを
断ることが出来るだろうか。いや、出来ない(反語)
「やった」とクシャッと笑う先輩。
う、やったってなんだ、可愛すぎるっ…!
「俺、どーしたらいい?」
先輩に問われ、とりあえずは何も意識しないで
教室をぶらぶらしてもらうことにした。
レンズ越しに虎杖悠仁を観察する
この自分を映す媒体に向かって演じないナチュラルさ
確かに惹かれるものがあるんだろうなと改めて感じる
けど、もう虎杖悠仁はこのままナチュラルさだけで
芸能界は生きていくことは出来ない
もう芸能を仕事として求められるものに応えよう
という癖がつき始めて、決して悪い変化ではないはず
それが、味となっていく…のかも…?
知らんけど。
だけど、これだけは言える
虎杖悠仁は、このままで終わるような器じゃない。
あの五条悟にスカウトされて
芸能界デビューを果たした元一般人が
ここまで芸能活動していること自体凄いことだ
呑み込みの早さ、その才能が虎杖悠仁にはある。
だからこそ雑誌の為にこうやって練習をしてるんだ
推しの成長を喜ばないファンは絶対にいないはず。
何枚かの写真を撮り、一旦カメラから顔を離して
撮った写真を見たあとに本物の虎杖悠仁を見つめる
「虎杖先輩」
「ん、何?」
「めちゃくちゃにかっこつけてください」
「え、マジ?」
「本気です」
誰かの真似でもいい
そのイメージをしてカメラなんか意識しないでいい
わたしは、その瞬間を〝待って〟いればいいだけだから
無言でカメラを構えると先輩は少し恥ずかしそうに
指先で頬をかいたあと「うっし!」と気合を入れた。
集中した先輩の表情は一瞬にして真顔に変わる
皆が知っている根明で爽やかな先輩はそこにはいない
空気の鋭さが増していくのが分かる。
そう、目線を外して、何も考えず
瞳が無意識にこちらを見る瞬間
その刹那、呼吸を止めてシャッターを切った。
ヒエッ~~~~~~~!?!?!?!?!?!?
推しの顔面良きぃいいいいううわああ泣きそうだが?!
推しの可能性は無限大だぁああああ!!!!!!!!
先輩は「何々!?」とパッと切り替えて
わたしが持っているカメラを覗き込んだ。
「え、コレ俺?!」
って自覚無しかよこの才能マンんんん!!!!!!
え、もう一回?
どうぞ、どうぞいくらでも!!!!
さァ、推しの最高の瞬間を撮ってやろうじゃねーかァ!
と、わたしも気合を入れてカメラを構えると――――
「―――――名前」
パシャ
??????????????????????????
??????????????????????????
ん、今…何…????????????????????
カメラから顔を離して横を見ると推しの逞しい腕がある
背後の壁を、そう、ドンとしておるわけですが…
そして、またまた近い推しの顔面宝具
えー、わたしの聞き間違いでなければ
え??? 名前???? 呼ばれました?????
「彼女目線的なヤツ! ど?」
「ハイ、トッテモ………スバラシカッタデス………」
――――虎杖先輩、それはやばいってええええええ!?
それからデータが欲しいとのことで
あれよあれよと先輩との連絡先を交換してしまった
虎杖悠仁という名前の表示に信じられなさ過ぎて
ガン見をするが、ポンッと先輩からスタンプに
あ、まじか…????と、現実を理解(?)した。
写真のデータを送って先輩とのやりとりに
一人家で興奮しているとSNSの通知が来て
反射的にタップするとその場でボンッと身体が跳ねた。
「俺、けっこーかっこいいのイケんじゃね!?!?」
という一言と共におこがましくも
わたしが撮影した写真がアップロードされており
そりゃまあそうなりますよねぇ
という風なバズり方をしました。
おめでとう、推し。
ありがとう、推し。
〝――――名前〟
先輩の声が幻聴のように蘇ってくる。
皆が喜んでいるアップロードされた写真のなかに
例の壁ドン写真はアップされていなかった。
事務所の許可が下りなかったのかな…と思いつつ
オリジナルの写真をカメラを弄って眺める
彼女目線的なヤツ、って先輩は言っていたけど
わたしの名前を呼んでこの表情なんだよな…と
想像でも彼女と認識されたのかと
馬鹿な勘違いをしそうになってしまう。
しかしこの写真を持っているのはわたしと先輩だけ
真意は先輩のみぞ知る、ということなのだ。
「ちゃんと管理してれば、保存してもいいよね、ウン」