推しを応援してただけですが!?
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放課後、わたしは日直の仕事である日誌を書き終えて
二つのミッションを同時にこなそうと計画を立てた。
一つは日誌を担任に渡すこと
もう一つは部室の鍵を借りること
この任務達成条件は担任がいる職員室である。
高校では興味があった写真部へ入部した
したのはよかったんだけど部活動はかなり消極的で
発光に在籍している虎杖先輩をはじめとして
伏黒先輩に釘崎先輩などなど、芸能人の写真を撮る以外
その…あまり、活動が、ね…? ウン…。
だから、カメラの管理とかの貸し出しがかなり適当で
宝の持ち腐れ状態ならば、好き勝手にやらせてもらうか
ということで、由緒正しい写真部の部員だし正当な権利!
どんな形であれ写真が取れれば十分! 無問題!!
カメラ何があるかな~、とわくわくしていると
丁度良いタイミングで担任の背中が見えた
「ヤマちゃん!」
と、声をかけるとすぐ気付いて振り向いてくれる
山田先生こと通称ヤマちゃん!
ぱたぱたと駆け寄り日誌を左右に動かしてアピール
先生は「山田先生、な」と注意してチョップされた
手加減されていたけどおでこを抑えながら
「いたーい! 体罰だ~!」
えーんえーんと大袈裟な泣き真似をすると
ヤマちゃんはハイハイと適当に返事をしながら
日誌の内容を確認するとOKを出してくれた
そのままついでに鍵を、と許可を貰って
一緒に職員室へ入ろうとすると許しを出してはくれず
「ちゃんと要件伝えて入ってこい」
と言って職員室の中へ入ってしまった。ひえー!!
職員室って無駄に緊張するんだよなぁ…と嘆きつつ
ノックを三回
「失礼しますっ…!」
頑張って先生に聞こえるような声量で声を出す
中の入口で立ち止まってこちらを見るヤマちゃんに
学年やクラス、自分の名前を言って、職員室への用事を
伝えるとヤマちゃんは「はいどうぞ」とニッコリ笑う
ヤマちゃん絶対人気な先生だろうな…
わたしは良い担任を持ったぜ…!!!
任務達成まであと少し!
で、目的である写真部の部室へ行くには旧棟一階の鍵が
必要なのだがその鍵がしまわれている場所へ
案内してくれるヤマちゃんはわたしを見ると
「そーか、名字は写真部か…」と意味ありげに呟く
先生が言いたいことは大体察しがついているため
ジトーッとヤマちゃんを見つめ、文句あんのか~?と
何も言わず視線でアピールをすると
「すまんすまん」と笑われながら謝られた。仕方ないな~
「けど、今の写真部はなぁ…」と苦笑している先生
その笑顔の意味はまぁ分からんでもないですけど。
何せ部活動紹介では「推しを撮れます」の一点張りで
たくさんのミーハー生徒が食い付いた。わたしもねっ☆
けど、選んだ理由はそれだけじゃない、写真は好き!
いや、推し活認可済みか!って正直興奮したけど
レンズ越しの先輩の青春を想像しただけで鼻血出るけど
先輩がいてもいなくとも入部はしたかった!
「じゃあ名字は」「虎杖先輩が推しです」
ヤマちゃんが何かを言いきる前に食い気味に答える真顔で
「あ、そっか………」と若干引きながら頷いた。
そうです。わたしもいち、写真部です。どうも。
それはそうと鍵がありすぎて全然見つからない…!
確かキータグは赤色って聞いてたんだけどなぁ
うえー…どれー…?
と探す私は後ろにいたヤマちゃんが「おっ」と
声を出したことに気付かなかった。
「旧棟一階………きゅーとー…あれ~…?」
繰り返し呟きながらわたしの背後から大きな手が現れ
一個の鍵を手に取った。頭上から「探してんのコレ?」
と、声が聞こえて目の前に鍵がぷらぷらと揺れる
〝旧棟一階〟赤色のキータグ…これだ!!
「コレです! ありがッ…………」
鍵を両手で掴み、勢いよくそのまま振り返り
脳の思考回路が停止した。
―――――目の前に、あの「虎杖悠仁先輩」がいた
な、なななななななななな…………なんで、先輩が…?
じょ、情報が完結しない……………!?!?!?
え??? は??? まじ??? 生きとる????
あの、え、は………いつの間に? え、本物か?
てか、距離近ッ、眼力が凄い…何て立派な三白眼…!!
髪の毛、ふわふわしてそう。背が高い、体格ごつい…
虎杖先輩は目の前で口をぱかーと開けて固まったわたしに
「ん? どした?」と首を傾げた。
きゅうしょにあたった! こうかはばつぐんだ!▼
「ン゛ン゛ンゥ………!!!!!」
ピロンピロンと脳内にHPが残りわずかの警報が
鳴り響いているのを感じながら、どこぞの電気鼠のように
顔面をくしゃくしゃにさせて衝撃を耐える。
過去最低にヤバい顔を先輩の視界に入れさせているけど
無理…推しが尊すぎて…無理だ…
「ハハッやべー顔! 元に戻んのコレ?」
先輩はニコッと笑うとそのまま大きな両手でわたしの頬を
………え? わたしの頬を包み込んで……???
大きな手がわたしの頬を包み込んで指の腹で優しく撫でる
グッと近くなった距離に息が詰まる。
驚きで少しよろけるけど先輩が顔支えたからか
変に態勢が崩れて咄嗟に目の前にある胸に手を置いて
身体を支えてしまった。先輩の匂いが香ってくる。
体温。硬い身体。大丈夫ってゼロ距離で聞こえてくる声。
支えてくれた先輩の手が触れた場所から火が出そうなほど
ぶわっと昂る体温に、どうしたらいいのか分からない状況
わたしはその場で恥ずかしさで真っ赤になった顔を上げる
ことしか出来ず。見たことのない距離で先輩と目が合った
うわあぁ……先輩、かっこいい。
あたたかい。生きてる。
こんな近くで目が合ったら、心の声聞こえちゃいそう。
「お~……かお、まっか…………」
せんぱいせんぱいせんぱい、と頭の中がいっぱいで
先輩に見られているということも分からないまま
思考が停止していると先輩は頭をぽんぽんとすると
「大丈夫?」と聞きながらくしゃっと笑う
推しからの供給過多に心の臓を抑えながら
大丈夫ですと返事を絞り出した。
「そっか!」
と、先輩は言うと「あ、ゴリセン!」と先生を見つけると
何処かへと言ってしまった。わたしは銅像のように
その場でずっと固まっているとヤマちゃんが
手をひらひらとさせて心配している。
わたしはゆっくりとヤマちゃんと視線を合わせた
「や、やっ…お……せ…か…!????」
「うん落ち着こうな~、ゆっくりな~」
推しの威力に言語能力が破壊されたわたしを先生は
遠い目をしながら肩をぽんぽんとしている。
最近、やっと推しが生きていることを認識し始めたのに
ゼロ距離での生虎杖先輩との一対一トークイベントが
ゲリラで発生するなんてこと予測出来るわけなかろうがっ
いや、まっじで、生虎杖先輩は凄かった…!
手も大きかったし、骨ばってゴツゴツしてたし
声も低くて、身体は硬くて、男の人で
身長も見上げないといけないくらい高くて
覆い隠されちゃうくらい……え、ほぼほぼハグされてた?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
えっ?(思考停止)
わたしの身体は熱が冷めることを知らない
「いや~それにしても名字は虎杖ガチ勢だったか」
興奮状態のわたしを見ながらケラケラと先生は笑う
そうです、ガチ勢です。追っかけて来ました()
「ヤマちゃんんんんん! 推しがががが…!!!!」
「山田先生なー」
壊れたロボットのようになりながら先生に詰め寄り
腕をガッと掴んで勢いよく揺さぶって
先生の三半規管に集中攻撃を行う。
やめろという声が聞こえるが知ったこっちゃないぜ
この興奮は止められねェンだぜっ!!!!!!!!
「だぁ~!! 離せって……っ虎杖~!」
先生が口にした単語にギョッとして腕を止めた
何を召喚しようとしてんの!?と目を見開き
ヤマちゃんに眼力で問いただすと
「うお…怖っ…」とヤマちゃんはガチでドン引きして
わたしから離れようとするもそうはさせないと
掴む力を強くして高速で首を左右に振った。
「ヤマせんせ~何~?」
その声が聞こえた瞬間、猫にも負けない反射神経で
思いっきりヤマちゃんに抱き着いた。
「ぐえっ!?」と声がするが知らん知らんぞ。自業自得。
推しを召喚してしまった先生が全部悪いっ。
先生の身体に顔を埋めて目をぎゅっと閉じる
気分は殺人鬼に追われてロッカーに隠れるモブの気持ち
敏感になった聴覚と触覚が足音と気配を感じ取る
「ははっ何、どーゆー状況なん?」
「く、苦しい…出る………」
あーあーあーあー、先輩の声が近いっ来ちゃったじゃん!
ヤマちゃんの馬鹿ーーーーーーッ…!!!!!!!!!!
勢いで先生に抱き着いて何とかやり過ごそうとしたけど
この状況で何をどう回避すればいいんだろう
自分でやっといて何だけどねっ! ゴメン、先生!!!
「なっ」
近くで聞こえてきた先輩の声に肩がピクッと跳ねた
声が近い右耳がっ…先輩、もしかして屈んでる?
どうしよう、顔上げたら絶対距離近い気がする。無理。
顔を上げたらわたしは死ぬ。死ぬんだ。
真っ暗な視界の中でぐるぐると考える
「なーあ! 顔上げてよ?」
!?!?!?!?
ぽんっって頭にぽんっって感触がッッッ!?
うー、先輩のこと無視はしたくない………
のそのそと顔を上げ、覚悟を決めて先輩と目を合わせた
すると、先輩はパッと顔を明るくさせる。かわいい…。
「名前、教えて!」
「……え、あ………う……名字…です…名字名前」
「名字な! 名字は可愛いな~!!」
ぼそぼそと喋るわたしの名前を聞き取った先輩は
わたしの名前を呼び、爆弾発言をした
名前…? え、いま、なんて――――?
と、混乱する私を置いて、先輩は屈んでいた腰を上げると
わしゃわしゃとわたしの頭を撫でた。
色々なことがありすぎて、ぼっさぼさの髪の毛のままで
ポカンと放心状態のわたしを先輩はケラケラと笑った
その笑顔にぐわわっ…!?と気持ちが昂る
何という女子力のない反応だと思いつつも
「もう、かんべんしてください…」
と、乱れた前髪を整え、赤く染まってであろう顔を隠す
視線を逸らしながら呟いたわたしに
先輩は下から覗き込んできた。
お願いだからもう見ないでッッッ!
「また、かおまっかだね」
目を細めて先輩は笑った。
もう無理~!と限界を迎えると同時に
先輩は「じゃね~!」と言って
颯爽と職員室を去っていった。
宇宙を背負うわたしの隙をついて
先生が腕を解こうとするため
すかさずに先生の胸にガッと顔を埋めた。
「何でだよっ!?」
ヤマちゃんのツッコミは聞こえてなかった。
* * * * * *
人気のない旧棟一階へと入り、写真部の部室へと入る
棚にしまわれているカメラを取り出し動作を確認した
充電とかちゃんとすればすぐに使えそう
メモリーも問題は無さそうだし…。
楽しい写真撮れるといいなぁ…!!
「……………————————————うッ……!!!!」
うわあああああああああああああああああああああああ
推しがああああああああああああああああああああああ
今日、死ぬ定めなんだあああああああああああああああ
ぬわあああああああああああああああああああああああ
誰もいないことをいいことにその場に蹲り
火照った顔を両手で包み込む
忘れられない感触に、一人の部室で悶えていた。
「先輩、かっこよすぎるよぉっ………!」