京都校の一年だったけど東京校の一年になりました
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
少女が呪術師を目指してから数年が経ったある日
当主の言いつけを破り一人の男と接触した。
呪霊の気配を辿って山を歩いていたが
唐突にその気配が消えて足を止める。
状況を判断するために視界を奪う包帯を解いた
小さな身体を森に隠しながら様子を伺っていると
一人の男の背中が見えて、少女は身を潜めた。
男は変わった髪型で全身黒い服を着ていた
少女がまともに初めてみる呪術師の姿
手には呪霊の気配がする黒い玉が握られており
それを飲み込もうとするように大きく口が開かれた
呪霊はとても苦いものだと知っている少女は
飛び出して毒を食べようとする男の手を掴んでいた
男―――夏油はとても驚き、瞬きを繰り返す
痩せ細った身体で
長い前髪の少女が急に現れたのだ
しかし、夏油はすぐに冷静に少女に話しかける
前髪から覗く包帯にワザと目を隠す同級生を思い出す
「君は…呪術師でいいのかな?」
夏油が首を傾げる。
少女は少し無言のあと、いいえと首を横に振った
「そうか、独りで修業中かい?」
はい、と今度は頷く。
会話の中で少女が手を離すことがなかったため
夏油は内心苦笑いをしていた。
彼は無理やり振り払うことも出来たがそれはせず
自分が持っているものは必要なものだから
手を離してほしいとお願いすると少女は指示に従うが
呪霊玉を指差し「毒」とだけ告げる。
少女は低級の呪霊を以前
無理やり食べさせられそうになったことがある。
その時の味や身体に入り込んだ
毒の苦しみは忘れられず
男にそのことを知って欲しかったのだった
夏油は呪霊玉を見つめると乾いた笑いで
「そうだね」と同意した。
「……美味しくないんだよね、コレ」
けど、これは自分の術式に使うものだと
夏油は少女に一通りの説明して実際に飲み込んだ
吐瀉物を処理した雑巾を丸呑みしているような
夏油は飲み込む前に呪霊の味をそう評した
目の前で苦しそうに呪霊玉を取り込む夏油は
苦しさからか支えを欲し、少女の身体を掴んだ
細い身体がよろけた。力加減が出来ていないようだ。
それくらい苦しいことなのだろう。
「大丈夫ですか」
少女は抑揚のない声で尋ねた
その声にハッとして夏油は嘔吐反射に苦しみつつも
赤い痕が残ってしまった少女の腕を見て謝罪をした。
少女は今まで振るわれた暴力に比べれば全く痛みはなく
反転術式を使用しながら首を横に振った。
夏油は同級生の一人が手こずっている反転術式を
少女が使えることに素直に驚き感嘆の声を上げる
「毒、大丈夫ですか」
先ほどと変わらない抑揚で少女は尋ねる
夏油は違和感を感じつつも安心させるように頷いた。
「……私はね、弱者を守りたいんだ」
だから、苦しくてもこうして呪霊を取り込んでいる
そう告げる夏油に少女は少し首を傾げた。
その姿に年相応の子供らしさを感じ夏油は笑う
「呪術師としてこの力で人の役に立ちたくてね」
そう言って、まだ残っている呪霊玉を手に取った
その様子を見ながら少女は言葉を繰り返す
〝弱者を守る〟〝人の役に立つ〟
呪術師になるために、必要なこと
わたしの力で弱者を守り、人の役に立つ
確かにその瞬間、少女にも明確な意志が生まれた
男の持っている呪霊玉に手を伸ばし
呪力を馴染ませると術式を発動させる。
目の前で夏油が手に持っていた呪霊玉は
飴玉くらいの大きさへと変貌した。
夏油は声も出ないまま目を見開いた
呪霊玉はいつも同じ大きさで
一つずつ取り込んでいたため
夏油は初めての出来事で少し笑いながら
「凄いな、君…」と呟いた
彼の嫌いな味が変わったわけではないが
苦しむ時間は確かに少女のお陰で減った
「……ありがとう」
確かに伝わった少女の優しさに夏油は
静かにそうお礼を言い、二つの呪霊玉を飲み込んだ。