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yes,my master


ダイナミクスは、体調にも影響が出る
それはここ最近では一般的な特徴の一つと化していた。
聞いた時はプレイをしてダイナミクスが満たされないと
いけないだなんて、信じられなかった。
けど、今なら分かる。
心が、寂しいと嘆くのだから…
掌に乗せた錠剤を眺め
求めてしまう心を押さえつけるように
グッとそれを口に入れて水で流し込む。
今まで飲むことすらなかった抑制剤を
私は日常的に服用するようになった。

最初は〝個性〟で我慢しようと思ってた。
だけど、私の〝個性〟は我慢であって無効化の力は無い
リカバリーガール先生に
頼りすぎるなって元々注意されてた
基本的に薬を飲むと知って、じゃあと飲み始めた。
特に副作用もないし体調も崩さない
けれど、やっぱりどこか寂しい。
でも、その原因は解ってる。
この気持ちは、ダイナミクスだけの想いじゃないから。

彼がヒーロー科で良かったと思う。
私はヒーロー科も目指してないから
心操くんみたいに忙しくもない。
だから、彼との接点を断ち切るのは十分だった
避けて、避けて、避けて。
好きだと知ってしまったから、だからこそ怖かった
もし、失ってしまうのなら知らない方がいいんだって
自分勝手な我儘だ。臆病者は逃げを選んだ。

だからなのかな、罰が当たったんだ。

* * * * * *

背後から口を押さえつけられて見覚えのある部屋に
連れ込まれる。声が出ない。いや、出せない。
その感覚に覚えがある。ゆっくり後ろを振り向いた。
「よォ、会いたかったぜ出来損ない」
耳に囁く声にゾワッと鳥肌が立ち背筋が凍った。
〝個性〟を使って兄の拘束から逃れて
ポケットを漁り薬を一目散に取り出す。
しかし手元が狂い薬が零れ落ち床を滑る
その音を追うようにしゃがみ込み手を伸ばす
あと少しという所で伸ばした手が踏みつぶされる
まだ兄の〝個性〟がかかっているせいで
喉がカッと熱くなるだけだった。痛みで視界が滲む。
兄はじりじりと私の足を踏みつけながら
ゆっくりと薬に手を伸ばす。「何だコレ?」
裏表を見ながら兄は首を傾げた。
「返してっ!」私は声を荒げた。
「ヒヒッ、何だオマエ薬決めてんのかよ?」
兄は愉快そうに薬をこちらへと放り投げた。
必死になって錠剤を取り出し噛み砕いた
苦みに顔を歪めつつ兄を見上げて睨みつける

「……はっ、お前ほんとーに馬鹿だよな?」

「俺の〝個性〟知ってんだろ?」兄は見下げながら問う
もちろん知っている、嫌というほどに
〝個性〟反転
触れたものを一つだけ五分間だけ反転させる
声が出るの反転させ声が出ないなど
単純ながら厄介な〝個性〟を兄は持っているのだ

「お前に〝個性〟使って五分も経ってねーの」

「知ってた?」と兄は口角を上げて首を傾げた
今、この状況で何故、兄がそんなことを聞くのか
意図が分からなくて困惑した。
「俺が嘘つきなのオマエが一番知ってんのになー」
兄は不思議でしょうがないという表情に
自身が何か間違いを犯したことに気が付き始める。
 ・・・
「抑制剤、よく効いたかよ」

「……え…あ…うそ…」

「抑制の反対は促進、だよなァ?」

兄の〝個性〟は反転。
声が出せなかったのに出せた。
その時に兄が触れていたのは抑制剤
抑制剤が反転されて促進剤になって…
その薬を飲んだのは、私だ…。

兄はゆっくりとしゃがみ込み、私の顎を掴む
もうこれで〝個性〟も使えない

「満たしてくれよ、俺の支配欲ダイナミクス

* * * * * *

『ここに跪け』

兄はソファーの背もたれに両腕を伸ばし脚を組んだ
自分の意志とは関係なく足が兄の元へと歩むと
その場に座り込んだ。気持ち悪い拒絶したいのに。
泣けてくる。
彼が好きなんだってなおさら苦しくなるから
抑制も我慢も今の私には出来ない。
感情のままに涙を流すだけだ。

『脱げ』

「さい、てー…」弱弱しく呟くが
身体は制服に手をかけ上着を脱いでネクタイを解いた。
震える指先が一つ、ボタンを外す。
兄は何も言わず捕らえた獲物をじーっと眺める
一つ、またボタンを外し首元が露わになる
一つ、一つボタンが外れていきキャミソールが顔を見せる
「成長したなぁ、いいもん持ってんじゃねーか」
この男は最低だ。最低のクソ男だ。
そんな男に従っている私は、何なんだろう。
『次は下だ、たくし上げろ』
こんなところにもし彼が来ちゃったら
嫌われちゃうんだろうな
そんな諦めと一緒に手がスカートへと伸びる

「————…けて……」

「あ?」

「————救けてよぉっ! 緑谷くん!!」

顎を上に上げ力の限り叫ぶ
その瞬間、扉が大きく音を立てて開いた

「何を、してんだよッ………!」

緑谷くんは怒りのままに兄の胸ぐらを掴み
ソファーから立ち上がらせた。
優しい彼からは考えられない低い声と乱暴な手付き
兄はそんな彼に動揺することもなく
愛想笑いを浮かべる。
「ごめん、驚かせてしまったかな?」
ニッコリと笑い両手を広げ、降参のポーズをする
「体調を崩していてね、その為のプレイだよ」
安心してくれ、と声をかけながら兄は
胸ぐらを掴む緑谷くんの腕に触れた。
兄の答えに彼はクッと眉間にしわを寄せ
口を開こうとする、が翡翠の瞳を大きく見開かせた
兄が彼に〝個性〟を使ったんだ。
きっと、身体が動かなくなってるんだ…。

「…ハッ、クソガキ」

そう言うと兄は彼を思いきり突き飛ばした
彼はまともに受け身も取れずに床に転がる
「みどりやくんっ」彼の元へ駆け寄ろうとするも
『動くな』兄によってそれは阻止される。
身体が動かなくなった私に緑谷くんは目を見開いた
あ、やだ…いやだ、見ないで。

『———脱げ、全部俺に見せろ』

「っやだ、やだぁ……」

『ヒヒッ、コイツの前でェ! 俺にィ支配されろよォ!?』

「やめ、て、やめてよぉ、おにいちゃん……!!」

〝個性〟が復活して命令が効かないと分かっていながらも
兄はglareを放出させながらcommandoを使うが
従わないと理解しているのだろう兄は無理やり
私の制服を脱がせようとする。
何とか抗うがシャツを奪われてしまい
その反動で私は緑谷くんの近くに身体を倒す
必死な表情な彼と目が合い、涙が溢れた。

「……嫌いに、ならないで、おねがい」

君以外の命令に従いたくなんて無かった
見られたくなかった。絶対嫌われる。
仕方のないことなのに私はまだ彼を求めてしまう
兄に髪を引っ張られながらもまた私は彼に懇願する
君にだけは、嫌われたくないの。
冷たい床に押し倒され、兄が馬乗りになり
身体を押さえつける。両手を頭上で一つにすると
そこに落ちているネクタイでまた私を縛った。
縛られながらも胸を押すが兄は全く動かない
足に手を沿わせてスカートの中に手を突っ込む
気持ち悪い感触に悲鳴を上げて叫ぶが
口を押さえつけられ誰にも届かない。
カチャカチャと鳴るベルトの金属音に
「ヒッ」と悲鳴を上げる。兄はニヤッと笑い
膝を持ち上げその気持ち悪い熱を
下着越しに擦り付けてくる。
息を荒げ上体を降ろしこちらへと顔を近づけてくる
私は必死で顔を逸らすも荒い手つきで顎を掴まれ
強制的に兄の方へ顔を寄せられる。
現実逃避をしたくて目をぎゅっと閉じると
瞼に溜まった涙が頬を伝い、床に垂れた。

————物凄い物音と共に身体が軽くなった。
視界には天井のみが広がっている
「…え」と困惑した自分の声が漏れる
一体、何が起きたの。
状況が理解出来ていない間に
視界に黒いものが揺れ動く

「が、ア゛ァ……いってェ……!!!」

急いで上体を起こし声のした方を見ると
そこには辺りの小さい家具をぐちゃぐちゃにして
床に倒れ込んでいる兄の姿があった。
「ッチ、クソガキ…テメェ!!!」兄が声を荒げる
視線の先には禍々しい無数の鞭のようなものを
身体から放出させている緑谷くんの姿だった
床に蹲り腕を抑え、脂汗を流している
その表情は苦しそうだ。
「みどりやくん…」私が名前を呼ぶと
彼はこちらを見て「だい、じょうぶ」と微笑んだ。
そうすると黒い鞭が少し落ち着いてきた

「一般人に〝個性〟使ってんじゃねェぞガキ…!」

「あぁ痛ェ…!」そう言いながら兄は彼に触れる
その瞬間あんなに部屋を荒らしていた鞭が掻き消えた
「正当防衛だからなァ!」兄はそう言って胸倉を掴み
兄は緑谷くんを無理やり立たせた。
glareを放出させて彼を威嚇する。
が、しかし、次の瞬間、兄は床に膝をついて
崩れ落ちていた。「ハ?」兄は間抜けな声を出す。

———domのdefense行為…。

初めて見る目の前の光景に呆然として座り込む
緑谷くん、とっても怒ってる。
あんなglare感じたことない。
domを制圧するほどのglareなんて知らなかった。

「もう二度と僕たちの前に現れるな……!!!」

一掃強くなったglareに兄は「ヒッ」と悲鳴を上げて
部屋を飛び出した。「ッ待て!!」叫んだ彼の背中に
私は何も考えずに腕を伸ばしてしがみ付いた。
「行かないでっ、一人にしないで…!!」
彼に泣きつき、こちらを見た彼に
すがるような目で見つめる。
彼を扉を閉めるとネクタイを少し荒く解き
上着を脱ぎ私に被せて
それごと正面から抱きしめられる。
「ごめんっ、ごめんね…!」彼は震えた声でそう言って
苦しいほどに私を力一杯抱きしめた。
私は彼の胸に顔を埋めて左右に顔を振る
「身体冷たくなってる…」彼はそう呟くと
私の手を引いてソファーに座らせると
シャツとブレザーを拾って私に着せてくれた。
少し恥ずかしかったけど大人しくしていた私に
彼は『いい子』と褒めてくれた
その瞬間、ぽかぽかと心が満たされていく
彼に頬を撫でられるともっと、とすり寄ってしまう
冷えた指先が温もりを求め、彼の手に添える
緑谷くんはこちらを見つめ額をコツンとくっつけてきた
近い距離にドキドキするけど、安心感も抱く
綺麗な翡翠の瞳をじっ見つめる。

「……君が、もしよければでいいんだけど」

「うん…」

「僕と、ペアになってみませんか…?」

彼から視線を逸らし、再度見上げ
私は静かに首を縦に振った。
「本当に?」彼が囁く
コクコクと顔を赤くさせ頷いた
無言で、見つめ合ってどちらともなく目を閉じる。

唇に柔らかい感触、二人の距離はゼロになった。
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