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yes,my master


酷く目を腫らした彼女に僕は何があったんだと
膝をつき彼女に声をかけた。
彼女は僕の名を弱弱しく呼んだ。
その瞬間、ぽろぽろと瞳から涙が溢れ出す。
彼女の悲しそうな顔に僕は急いで
縛り付けているネクタイを解く
赤い痣になりかけている細い彼女の手首。
身も心もすり減らしている彼女の姿に
僕の心はかき乱される。

君の、笑った顔が見たいから。

彼女の膝に手を回して
何時かのように彼女を抱き上げる。
僕は普段オールマイトとお話をする時に使う
あの仮眠室へと駆けこんだ。

* * * * * *

ゆっくりと彼女をソファーに降ろす。
彼女の表情は虚無だった。
明らかに乱暴にされた形跡
彼女はまたsubドロップ状態に陥っていた
それもこの前とは違いなりかけではない
完全に彼女の心が死んでしまっている。

僕とぶつかった直前まできっと彼女の意識はあったんだ
あと数秒だけでも早く彼女を見つけてさえいれば
こんな風に心を失くすこともなかったはずなのに
と、悔いても悔やみきれない思いに
自分の眉間が力むのが分かった。
グッと拳を握って、彼女の前に膝をつく

「大丈夫、僕が絶対救けるから…」

彼女の手に自分の腕をそっと被せて
手の甲を親指の腹で優しくなぞる。

『お願い、僕を見て…』

両手で彼女の指先の部分を握って
先ほどのように親指の腹で撫でながら声をかける
domの命令というより僕個人の懇願だった
しかし、僕の声に微かに指先が反応したのが分かって
彼女が虚ろの瞳でありながらも僕がその瞳に映り
僕は嬉しさで頬が緩む。そんな自分に今が違うだろと
自分自身に喝を入れて頭を振って切り替える。
『そう、いい子だね』僕が褒めると彼女の手が
ぎゅっと僕の手を握る。それに「うん」と
返事をして僕自身も優しく握り返した。
良かった、想定より彼女の反応が良くて安心する
「痛い…?」と僕が尋ねる。控えめにコクンと頷く。
「…ごめんね」反射的に謝罪の言葉を口にすると
彼女はぎゅっと手を握り大きく首を横に振った。
「…嬉し、かった」小さな声だった。
けれど、二人だけの空間にはハッキリと聞こえた
「逃げてたの、怖かったから」彼女は呟く
「うん」僕は深く聞かずにただ頷く
「また、我慢した、我慢して走って走って…」
どこか他人事のように彼女は読み聞かせるように話す
「君と、あって……安心、したの」彼女の声が震える
「うん」僕は立ち上がり彼女の隣に座った。
「もう、我慢……しなくていいやって…」
瞼に涙を溜めて俯く彼女に僕はそっと腕を伸ばす
「うん」僕は彼女の肩を抱き寄せる。

『よく、頑張ったね…もう、いいんだよ』

彼女の頭を自身の胸へと導いて抱きしめた
僕にすがって堰を切ったように泣き出す彼女。
何も言わずに更に抱き寄せて隙間なく密着した
彼女の頭部に口元を寄せゆっくり目を閉じる
背中を落ち着かせるように擦ると
僕の背後に回る腕がぎゅっと制服を掴む。
目を開けて少しだけ距離を離して顔を伺う
赤く腫れてしまった目元、それを労わるために
両手で頬を包み涙を拭う。だいぶ落ち着いてるけど
まだ鼻をすすり彼女はじわっと涙を溜めている。
自然と、それに引き寄せられた僕は
瞼を閉じ、目元に口付けをした。
そっと押し付けただけのつもりだったが
静かな空間にリップ音と彼女の戸惑った声が響く
湿った唇を反射的に舌が舐める
彼女の涙は悲しみを表すようにしょっぱい味がした。

「目元も、手首も真っ赤だ…冷やさないと」

保健室に行って氷とか貰わないと
どこか怪我をしているかもしれないし
と、一人でいつものようにぶつぶつと呟いていると
ドンッと軽い衝撃にハッと意識が浮上する。
視線を下げると彼女の後頭部
「どうしたの…?」僕にしがみつく彼女に声をかけるが
彼女は抱きしめる力を強めるだけで何も答えない。
少しだけお互いに無言になって。僕は頭に手を添え
『教えて、くれないかな…?』と首を傾げると
ピクッと身体が反応したのが分かった。
頭を撫でながら様子を見守っていると
もぞもぞと動く物体はこちらを見上げ目が合うと
視線を逸らし、僕の胸に顔を埋める
その耳は真っ赤で、可愛くて、微笑んだ。
これは、難しいかなと思っていると
彼女が何か呟いた。聞き取れず「?」と聞き返す

「……は、なれ…たくない」

その瞬間、僕のdomとして本能が歓喜するのが分かった
庇護欲が掻き立てられ、目の前のsubを守ってあげたい
この想いはきっと初めて会った時からだ。

* * * * * *

「同意の上だな?」

相澤先生に問われしっかりと頷き返事をした。
「行こう」と声をかけて彼女の手を引き
自分の寮の部屋へと彼女を案内する。
寮に向かう際に浴びた沢山の視線に
苦笑いで返事をしながらも進む足は止まらない。
落ち着かないと、そう思うのに
何も言わずに僕についてきてくれる彼女にむず痒くなる。
遂に辿り着いた扉の前に立って彼女と向き合った
深呼吸をして、口を開く。

「…じゃあ、本当にプレイして大丈夫、かな?」

「……うん」

僕は、部屋の扉を開けた。
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