このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

yes,my master


爆豪勝己は今までの自身の経験上、まずいと悟った。

(———コイツ、気配が変わった…!?)

その瞬間から今自分が抑えている一般生徒への認識が
ヴィランになり得ると判断して
力加減をやめて全力で抑えつけて彼女を拘束させる
domの本能でglareを放出させて動くなと再度命令を下す
が、やはり彼女にはそれが効いている様子はない
力加減をした上で爆豪は腕力の時点で圧勝していた
本来であれば自分には何も問題は無かった
そのはずだったのに、

「なッ……————!?」

何故、自身が宙を舞っているのか
爆豪は一瞬理解をすることが出来なかった
が、すぐに状況を判断して宙で体勢を立て直し
ズザーッ!!と音を立てて地面を滑った。
前方でのそのそと立ち上がった彼女を睨みながら
爆豪は自身の手のひらを彼女へと向けて
パチパチと拳から火花を散らした。

「俺ァ、手ェ抜かねェぞ!!!」

そう叫ぶと両手を後ろへと伸ばし
爆破で一気に彼女との距離を詰めた
爆豪の速さに反応すら見せない彼女に
容赦なく顔面を鷲掴み「遅ェ!!!」と叫びながら
思いっきり地面へと張り倒す。
「ガハッ…!!」と苦しそうな声が聞こえた。
あっという間の出来事に爆豪は「ハッ!」と笑い
大人しくしろと声をかけようとした時だった
顔を掴む爆豪の腕を彼女の小さな手が掴んだ。
直後、爆豪は自身の腕が軋んでいく感覚に目を見開く
(コイツ、俺の腕を…————!?)
防衛本能が働き、爆豪は掴まれていない左手で
彼女に向けて爆破をしようと腕を振り上げると
「爆豪!?」と誰かが叫び、彼の首根っこを掴み
彼女から引き剥がした。やってきた少年
———轟焦凍は何事だと驚きながら問い詰める。

「オマエ、やりすぎだろ!
 コイツは普通科———」

轟が話している途中に二人は殺気を感じ取り
その場から飛び退いた。次の瞬間、地面が抉れて
ドゴッ!!と重々しい音が響いた。
ひび割れた地面には少女の姿。
振りかざされたその右手は真っ赤に染まっている
驚きで固まっている轟に彼女はゆっくりと首を動かし
視線が交わった。その瞬間、轟の全身が冷える。

『ッ座れ!!!』

まさか防衛本能でglareを使うなんて、と
自分自身の行動に驚く轟。
しかし、彼女には何も効果を発揮しない。
「凍らせろ!」と叫んだ爆豪の指示に
彼は一瞬躊躇したがすぐさまその迷いを消し去り
少女に向かって手加減せずに氷結をした。
下半身を氷で覆われた少女は完全に動きを止める
先程までの騒がしさが消え失せ
嫌に静かになった状況に二人は気持ち悪さを覚える
虚ろな瞳はゆらりと氷をじっと見つめていた
爆豪は両手が自由な状態の彼女の姿を確認し
ギョッとしたように轟を見る。

「何やっとンだ!?
 全身だ! 全身凍らせろ!!」

「それはやりすぎだろっ!」

「ンなこと言ってる場合じゃねェだろうが!!!」

二人が言い争いを始めると同時に少女は氷を殴った
ただがむしゃらに拘束から逃れようと両手を血で染め
赤い氷を辺りに散らす。彼女の只ならぬ様子に
咄嗟に轟が落ち着かせようと彼女に近づく
爆豪は焦りつつ轟の肩を掴む。
その瞬間、氷が大きく砕け散った。
再び、戦闘態勢に入る二人の目の前に
黒い鞭が彼女の身体に巻き付いた。

「かっちゃん! 轟くん!!」

彼女を拘束して二人の名前を呼んだのは
一緒のチームの一人である緑谷出久だった。
「遅ェ!!」とキレる爆豪
「助かった」とお礼を言う轟
対照的な二人に緑谷は苦笑いを溢す。
しかし、すぐに真剣な表情に切り替え
二人にどういった状況なのかを問う。

「急に暴れ出したンだよ」

「glareも効いてねェし、何か暴走しちまってる」

「subの子に二人のglareが効かないなんて…」

緑谷は二人の話を聞きながら自身の力で抑えた
彼女に少女を見つめた。両手は痛々しいほどに
ボロボロで血をぽたぽたと垂れ流している。
二人の切羽詰まった様子に緊急事態だと判断し
このままじゃこの子が危ないと心配して
相澤先生の元へと行こうと話を進めていると
緑谷の足が少し地面を滑った。
「ウッ……うぅ…!」と少女が唸りながら
抵抗をし始めていた。緑谷は〝個性〟を使い
力を籠めるが緑谷の身体は彼女の元へ引っ張られる。

(この子ッ……————!!)

「———緑谷のパワーに勝ってんのか…!?」

「引っ、張ら、れ……る……!!!」

黒鞭で拘束されながらも全力で暴れ回る少女
動くたびに血が辺りへと散っていく
その姿を見つめ、緑谷はヤバいと察した。
彼女の〝個性〟であるその圧倒的なあの力
それは絶対に彼女の身体には見合っていない
かつて己が〝個性〟に耐えられなかったように
彼女にも限界が来て壊れてしまう可能性がある
いや、すでに彼女はもう、ボロボロだ。
しかし、拘束を解けば暴れ出してしまうのだろう
それで更に自身を傷付ける。

「あの馬鹿力、すぐに限界が来ンぞ」

「ウン! その前に、何とかしないと……!」

「けど、何しようにもアイツ、暴れちまうぞ…」

苦しい状況の中、三人の緊張感が高まると
丁度良いタイミングで相澤と普通科の担任もやって来る
その後ろにはA組の全員が揃っていた。
グループの真上には鳥が飛んでいる
それから察するに口田が動物を通じて
状況を把握していたのだろう。
A組には索敵要員が複数いるため
それぞれの捜索から事態が重いと
判断した相澤は全員を連れて来ていたのだった。

「相澤先生!!」

「…お前ら、何があった」

三人で状況を説明しているとそれを聞いた
普通科の担任は「そんな!?」と驚きの声をあげる
その反応に相澤がどうしたのかと問う
担任は拘束され暴れている少女を見つめると
「———彼女は〝無個性〟なんですよ…」と
信じられないという表情でそう呟くように告げる
〝無個性〟という言葉に三人の目が見開かれた。

「あアぁアアあッ……!!!」

大きく叫び出した彼女に注目が集まる
ズザザッと緑谷の身体がその場から大きく動いた。
必死になって彼女を黒鞭で抑える彼の様子に
A組生徒は愕然とする。緑谷はクラスの中でも
高火力のパワーを持っている〝個性〟の持ち主だ。
そんな彼が普通科の女子生徒に対して
食い止めるので精一杯な様子に
相澤も内心驚きつつもあくまで冷静に
「絶対離すな」と指示を出した。
「ハイッ…!」と力みながら返事をする緑谷。
その場の全員が、気を引き締めた。
傍から見れば少女は敵に見えるだろう。

「———ヒュッ…カ、ヒュッ……」

微かに聞こえてきた音に緑谷が反応する
彼女の足元には真っ赤な血だまりが出来始めており
出血から時間が経っているのが伺える。
顔が俯いているため表情はよく見えないが
その肩が激しく上下しているのがわかり
意識を集中して耳を澄ませると
彼女の呼吸が酷く乱れていることに
緑谷は気付いた。

(過呼吸……まさか、彼女は———!?)

ある仮設に行き着いた緑谷は大きく目を見開いた
慎重にゆっくりと彼女の元へと近づいていく
いきなり歩み始めた緑谷に「デクくん!?」と
麗日が驚きの声を上げたが彼の足は止まらない。
「緑谷、何を…」と轟も近づこうとするが
相澤は何も言わずに腕で彼を制した。
納得がいかない様子の轟だったが渋々、足を止めた
隣にいる爆豪は何も言わずにジッと背中を見つめる。

『ごめんね』

『怖かったよね』

『大丈夫だよ』

『落ち着いて』

緑谷はそう、優しく声をかけながら一歩、一歩。
彼女との距離を詰めていき、黒鞭から解放させる
呼吸を乱したまま少女の顔が上がった
暴れたせいで髪の毛がぼさぼさで顔を覆っている
だが、その髪の間から微かに少女の瞳が見える
その目には涙が溜まっており
ゆらゆらと揺れると一筋の涙が彼女の頬を伝う。


そんな彼女に向かって緑谷は両の手を広げ微笑んだ。


『———おいで?』


緑谷がそう言うと彼女は大きく目を見開いた。
暴れなくなった少女を全員が見つめる
それは、緑谷に怪我がないように
彼女が警戒されている証拠だった。

少しの静寂、彼女が一歩前へ踏み出した。

た、たた、たたたと速度を上げる少女
緑谷に向かって一直線に走る
「デクくん!!」
危ない、という風に麗日が叫ぶ
皆の表情に不安が浮き出る。
しかし、緑谷だけは優しく彼女に微笑んだままだった



—————ドスッ



と、勢いよく彼女は緑谷に抱き着いた。

そう、思いっきり、抱き着いた。

彼女は生まれてきて
初めてdomのcommandoに反応した
緑谷のglareは最低限であり
commandoは命令とは程遠い
お願い程度のものだった。

しかし、domの指示にsubである彼女は従った。

一体どうしてだと轟と爆豪は
珍しく二人で顔を見合わせた。
しかしそれは、彼女自身にも分からない。
緑谷の胸の中に納まっている状況に
彼女は混乱していたのだ。
しかし、いつの間にか乱れた呼吸は元に戻っている
「…あ、え…な……?」と言葉が出ない彼女に
『大丈夫だよ』と緑谷が声をかけて抱きしめた。
その瞬間、彼女はポカポカと温かい感覚に包まれ
背中に腕を回して彼のコスチュームを控えめに掴む。
『いい子、いい子』と頭を撫でる優しさに
強張った身体の力が抜ける。
ずるずると下がる少女を支えながら
緑谷も一緒に地面に座った。

自身の心を満たしていく温かさに目を細める彼女は
無意識なのかもっとというように緑谷にすり寄り
身体の密着度を上げた。優しい温もりに浸っていると
急激に彼女を眠気が包み込み始める。
その様子を察した緑谷が『…おやすみ』と声をかける
その声を最後に、グッと抱きしめている重さが増した。
2/10ページ
スキ