モブ、プロヒーローを拾う。~大・爆・殺・神ダイナマイト編~
飛び出した彼を追うために私は身なりを整え
ぼろぼろになってしまった家を飛び出した。
夜空を照らす光りを見失わないように
必死になって上を見上げながら走った。
騒ぎは大きくなり反対方向に逃げ惑う人たちで溢れ
私と彼の距離はどんどん離れていく
大・爆・殺・神ダイナマイトは
汗が〝個性〟に大きく関わってくるため
冬という環境自体が彼との相性が悪い
身体が温まりにくいため汗が出にくいのだ
それに加えアインツの〝個性〟は寒さに特化している
彼の近くにいればいる程に汗が出にくくなる。
コスチュームで発汗作用があるって言ってたけど
それでも限界があるはずだ。
だからといって、私には、何か出来るわけないけど
バキバキのスマホで中継画面を眺める
やっぱり、昨日より苦戦しているみたいだ
既に傷が開いて彼の顔からは血が滴っている
「流石のタフネスだ! 怪我は予想通りですが
腕の疲労が思ったより軽そうだっ!!」
「俺ァいつでも絶ッ好ォ調だァ!!!」
「それは失礼、しましたねッ!!!!」
遠くからでも分かる戦いの激しさ
スマホを見るのを止めて、上を見上げる。
その瞬間、黒い影が地面へと落下していく
何故かすぐにそれが敵ではなく彼だと分かった
理由は全くもって分からない
だけど、彼なんだと自分の心が叫ぶ
息を切らして走っていると
どこからか派手な音が聞こえた
きっとどこかに落下しちゃったんだ…!
「爆豪さん!!」
「だァかァらァ!!!
ンでテメェは本名で呼ぶんだこのクソモブがァ!!!」
「ひぃ~!?!? ごめんなさいぃ~~~!?!?!?」
煙を振り払ったのはゴミ袋に尻餅をついている
血を垂れ流しながら人間の限界以上に
目を吊り上げた赤鬼がそこにはいらっしゃった。
私は爆…大・爆・殺・神ダイナマイトの怪我と
顔の気迫に押されながら反射的に全力で謝った。
「ハハッ! 随分と余裕があるようで!!!」
上空からアインツの笑い声が聞こえ
大・爆・殺・神ダイナマイトと一緒になって
首を上に上げて「うえぇええ!?!?」と叫んだ。
「な、何よその氷の塊はぁあああ!?」
心の底からアインツに向かってツッコんだ。
あ、あんなの私どころかここらへんの建物
一瞬でぺっしゃんこなんですけどぉ~!?!?
「
なんて腹立つ顔でウィンクしながら
アインツは容赦なく氷塊を振り落とした。
冷えていく身体にあ、ここで死ぬんだと察する
諦めて動かなかった身体が
何かに引っ張られて地面へと倒れた
私の前方に立つのはただ一人。
「なめてんじゃねェええええええええええええ!!!」
激しい爆発音に、眩い閃光、冷えた空気を熱する炎
特大火力に氷塊は砕け散っていき
どんどんと削られて小さくなっていく
今、私は命をかけて彼に守られているんだ
ボロボロで傷だらけで血で染まっている
それなのに、その大きな背中は誰よりもかっこよすぎて
こんな状況の中だというのに
私の胸はどくどくと激しく脈を打つ。
それは、恐怖か、興奮か…それとも――――
(…―――私、好きなんだ、この人が)
なんとも奇妙な状況で気付いてしまった、恋心。
あの氷塊から、街を守り抜いた英雄が息を切らし
その場に膝をついた。出張った肩甲骨が大きく動いている
「く、そがァ……」
大・爆・殺・神ダイナマイトは辛そうに両腕を抑えた
慌てて駆け寄り背中に手を沿えるが
彼は私をキッと睨むと「はよ逃げろやァ…!」と
吐き出した血を手で拭いながらそう言った。
「次が来る前に逃げろ」静かに告げる赤い瞳に映ったのは
先程よりも大きくなった氷塊。それを作り上げた奴は
パチパチとゆっくりと拍手をしてこちらを煽る
「素晴らしい、流石は大・爆・殺・神ダイナマイト!」
歌い上げるように上空から声高々と話す敵
「まー、次がねェとは言ってなかったけどなァ!」
愉快でたまらないという風にアインツは笑った。
「…わーったらさっさと行きやがれ」
突き放すように彼はそれだけ言って立ち上がった
「でも!」「でもじゃねェ!!! 死にてェンか!!!!」
彼の怒鳴り声に遮られ方がビクゥ!と反応した。
塊の方へと歩いて行く彼の背中
―――その瞬間、何だか無性に怒りが湧いてきた。
ほんと、この時の私はどうかしてた、しすぎてた……。
「ってェ?!?!」私が背後から思いっきり抱き着いたせいで
傷が痛むんだろう。彼は大きく叫びながらこちらを睨む。
「何しとンだテメェ……!!!」ゴゴゴッと音が聞こえそうな
ほどの形相でこちらを突き刺す視線で見てくる
が、私はそれに怯まずに睨み返して
「ぜぇーったい! やだ!!」と子どものように反抗した
「はぁあああ!?」
意味不明な私の言動に大・爆・殺・神ダイナマイトは叫ぶ
ぎゅっと彼に抱き着き、思いっきり〝個性〟を使った
余すことなく疲労回復させてやる!と謎に気合を入れる
「あの規模の氷塊はテメェ巻き込むっつってんだろーが!」
容赦なく鷲掴みで私を引き剥がそうとするので
その腕に必死になってしがみ付いた。絶対離さない。
「…だって」
「ア゛ァ!?」
「だって、好きなんだもん!!」
「ア゛ァ?!?!?!」
「好きって気付いちゃったんだもおおおん!!!」
「ハァア゛アアア!?!?!?」
逆ギレをした私の言葉に
爆豪さんは最大の音圧で叫ぶ
それを愉悦()していたアインツが
ちょっかいをかけるため何か声をかけた瞬間だった。
「だーってろ!!!」
と、爆豪さんが物理的に黙らせようと
右手を向けて奴を爆破をした。
しかしその爆破は今日の戦闘において
過去最大出力を醸し出し
あれほど苦労していたアインツをワンパンで倒した。
耳元で大砲でも撃たれたのかと思うほどの
爆破音と衝撃にビビった私は
爆豪さんに抱き着いていたため
当初何が起きたのかよく分かってなかった。
「…………ア゛?」
ポカンと口を開けた爆豪さんは
敵がいた場所からから私へと視線を向ける。
「テメェ、使ったンか」
「……はい」
「眠気は、腹は」
「めちゃくちゃ眠いし、お腹すきました………」
「オイ、寝るんじゃねェーぞ、オイコラ…!!」
爆豪さんのお叱りを子守唄にして
私はあろうことかその場で眠ってしまったのだった。