モブ、プロヒーローを拾う。~大・爆・殺・神ダイナマイト編~
「オー…身体は問題ねェ」
寒さに震えて意識が浮上する。
目を閉じながら温もりを求めて
寝ぼけた状態で手探りで温かさを探す。
すると何かに当たった。あたたかい。
身体を丸めてピタッとくっつくと
ソレはすりっと目元を撫でる。
心地よくてすり寄った。
「…ッチ、わーったよ…クソが」
低い掠れた声が鼓膜を揺らす。
・・・
(アレ、アイツ来てたの…そんなはずは…)
自分の状況が可笑しいことに気付き始めて
ゆっくりと目を開ける。
太陽の光がカーテンの隙間から入りこみ
虹彩を刺激され、眩しさに目が眩む。
顔をしかめながら掌で遮って光を遮って
上体を起こすと布団が肩からすり落ちていく
目がショボショボしており細かく瞬きを繰り返す
光が消えて、部屋の中が暗くなって
逆光で見えなかったシルエットの全貌が明らかになる
あぁ、そうだ、そうだった。と、今になって思い出し
石のように動かない私を鮮やかな赤がこちらを見るが
すぐに視線を逸らし「…切る」と
左耳の無線機であろうそれのボタンを押した。
ピッと電子音がする。誰かと通話していたんだ…
こちらを見ていなかった瞳が私を捉えた。
「よォ寝坊助」
「………ばくごう、さん」
カッと目頭が歩くなってぽろっと涙が溢れた
「ハァ…?!」起きて早々に泣き出した私に
爆豪さんはギョッとした表情でこちらを見た。
「てめー、それ以上腫らしてどーすンだ」
呆れたようにため息をつかれてしまったが
人差し指で涙を拭ってくれる手付きは優しかった
その手には私が必死になって巻いた包帯
不器用が巻いてしまったがばっかりに
表面の凹凸が激しいのがよく分かった。
そんな手を握って、温もりに心から安堵して
「ふ、ふふっ…」と訳も分からずに笑いが漏れる。
また涙を流す私に彼は何も言わずにジッと見ていた。
* * * * * *
「朝から取り乱してスミマセン、デシタ…」
「朝どころか昼過ぎだけどなァ」
ベットに座っている大・爆・殺・神ダイナマイト
そして、床に正座して顔を俯き謝罪する自分。
どうゆう状況だ、コレと思いつつも
理性を取り戻した私は恥ずかしさに
顔を赤く染めていると彼にそうツッコまれ
「えっ…!?」と驚き部屋の時計を見る
時刻は現在14時27分。
「本当だ…」そう呟いて、視線を感じ
ゆっくりとそちらへと顔を向ける。
ウッ…本当に顔面国宝ッ……!
冷静に考えてあの大・爆・殺・神ダイナマイトを
自宅で保護しているって結構ヤバい状況だよね…!?
この人も何も言わないし…え、黙ってると
美人さんだから、なんかこう、圧が……!!
ジッと見つめられて居心地の悪さに
何か二人だけの空間をぶち壊してくれと腰を上げ
テレビの電源を入れた。昨日今日の事件のせいか
どの番組も臨時ニュースばっかり
曰く、敵のせいで回線がおかしくなったみたい
現在は復旧してるけど情報が混乱してるみたい。
昨日、電話が繋がらなかったのもコレが理由か…
デク、ショート、大・爆・殺・神ダイナマイト
三人も無事。現在、安静中…って、私の部屋で…??
「オイ」「ひゃ、ひゃいッ?!」
声をかけられビクッと肩を飛び跳ねさせた。
彼がいるのを一瞬でも忘れるって私はアホだ…
「音、聞こえねェ」唐突にそう言われて
一瞬、思考が止まる「テレビ」「…テレビ?」
あ、
爆豪さんのご要望にお応えするため
急いでピピピッと音量を上げる。
確かにリビングからだと寝室に聞こえないよね…
流石プロヒーロー…。と、見惚れていると
ふとした瞬間に自身の部屋の有様が視界に映り
サッと顔を青くして今度は恥ずかしさに赤に変化する
「…部屋が汚いっ………!!」
ヒエー!と心の中で叫びながらゴミ袋を広げた
見られて恥ずかしいモノないよねっ!?
と、ドキドキしながらも最速で片付けを行う
寝室には救急セットと血で濡れたタオルが散らばり
悲惨な状態だった。腰を低くして「…すみませ~ん」
と小声で声をかけながら寝室の方付けを行う。
多分ベットも汚れてるけど爆豪さん寝てるし仕方ない
「…ふぅ」と何とか片付けを終えて一息をつくと
「なァ」と声をかけられる。力みながらも返事をして
爆豪さんを見つめた。彼は右手を上げて
「コレ、お前がやったンか」と聞いてきた
コクコクと頷くと彼はまた無言になった。
「応急処置はクソだな」
「ウッ…」正直な感想に落ち込む。
「けど、身体が妙に軽い」と手のひらを見つめると
彼はジロッ………と私に視線を移す。ウッ、圧が凄い……
「説明しろ」と言外に主張されているため素直に口を開く
私の〝個性〟は疲労回復。その名の通りだ。
自身のエネルギーを使って〝個性〟を発動
自分に使っても疲労回復のために体力を使うので
自分自身には意味がない〝個性〟なのだ…とほほ。
「〝個性〟を使うと回復のために
眠くなったり、お腹が空い―――」
ぎゅるるると大きな腹の虫が鳴いた。
ぼぼぼっと顔が火照り、両手で顔を覆う
指の隙間からチラッと覗く
「……ごはん、たべますか」「…おー」
バッと立ち上がり、私は無心でご飯を作った。
パパッと使ったご飯をテーブルに運ぼうとすると
既にその場所に爆豪さんが座っており
少し吃驚したけど動けるくらいには回復している
という事実の方が嬉しかった。
「いただきまーす」「…まァす」
特に何も会話せずに私たちはご飯を食べた
けれど、何でかとっても美味しく感じてしまったのは
きっと疲れて空腹が限界になっていたからなのかも。
その後、爆豪さんと共にする…なんてことはなく
家に烈怒頼雄斗とチャージズマが訪問してきて
私が人気ヒーローの訪問に興奮している間に
大・爆・殺・神ダイナマイトは回収された。
特に何かがあったわけではないけれど
二人の元へ向かう背中に少し寂しさを
感じてしまっている贅沢な自分がいた。
「……オイ」
彼の声に俯いていた顔を上げる
数秒、見つめ合う。
すると急に頭を押さえつけられ
私の視界には自分の足と爆豪さんの足だけ
「……助かった、あンがとよォ」
ぼさぼさにされた髪の毛のまま
ぽかーんと口を開けて顔を上げる。
大・爆・殺・神ダイナマイトからのお礼の言葉
頭ポンポン(?)のファンサ付きに
心臓がきゅうううんとときめくのが分かった。
「こちらこそ、ありがとう、ございましたっ」
「……オー」
烈怒頼雄斗とチャージズマに手を振られるのを最後に
扉はパタンッと音を立てて閉まった。
――――これからも、推すぞッ………!!!!!!!!