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モブ、プロヒーローを拾う。~大・爆・殺・神ダイナマイト編~


榴弾砲着弾ハウザーインパクトォ!!!!!!!!!」

雪が降る季節になった寒い冬の夜。
それを照らす眩い光の中心には
今、ヒーロービルボードチャートに
名を馳せているプロヒーローの一人である
大・爆・殺・神ダイナマイトが
勝利のバットサインを敵に向けていた。
その姿をカメラで捉えたマスコミの女性アナウンサーは
興奮したように目に涙を溜めて彼を称えた。
コスチュームは至る所が破損し、血も多く流している
体力は底をついているだろうに最後の最後まで
彼は敵に対して自分の勝利を主張していた。
私は先ほどまでの戦いを液晶越しに固唾を飲んで
見守るくらいしかしていなかったのに
安心が一気に押し寄せてきて
部屋の中で一人、身体中の水分を出し切る勢いで
大声を上げ激しく涙していた。

いや、だって本当に推し死ぬかと思ったんだもん…!

今日はデクもショートも凶悪な敵と戦って
街にはかなりの被害が既に出ていた。
それでも三人の戦いのお陰で今私はこうして
一人安全な場所で涙することが出来ている。

「ウッ…推しがあんなに頑張ってくれたんだ…
 私もいつまでもくよくよしてられるかッ……!!」

誰に言う訳でもなく私は自身に喝を入れて
ティッシュを手に取り思いっきり鼻をかんだ。
テレビを見る前に集めていた沢山のゴミ袋を
気合を入れて持ち運び、アパートのゴミ捨て場へと
大股でドスドスと歩いて投げ捨てる気持ちで
乱雑にゴミを置いた。そのゴミ袋たちを見つめ
フゥー!!と鼻から荒い息を吐いた。
外は寒くて吐き出した息は白い
けど、何というか
憂鬱としていた気持ちもかなり晴れ晴れとしていた。
明日の大学は休みだろうし、のんびりしてやる!
と意気込みクルッと踵を返すとその時
背後で物凄い音が聞こえて悲鳴を上げて飛び上がり
物陰に隠れた。しかし、何も聞こえてこない
不安に思いつつもチラッと様子を伺う。
音の位置的には多分、あのゴミ捨て場。
ゆっくりと、慎重に、私は顔を出した
やっぱり、何も無い。誰も居ない。
じゃあさっきのは何なんだよ、と一歩前に出て
私はゴミ捨て場へと歩く。するとそこには
自分が捨てたゴミの上に黒い物体が増えていた。
え、誰かが放り投げた? どこから? 何を?
と、混乱しながら近づいてその正体を知り
大きく目を見開いて息もつけないほどに驚いた。

「―――えっ、爆豪さん……!?!?!?」

何で何で何で????!
突然のことでとうとうパニックになった私は
その場で頭を抱えてしゃがみ込んだ。
え、確かに私の住んでいる所は彼がメインの管轄だ
けど先ほど戦闘していたのは決して近くでは無い。
そして、思い出した。先ほどの戦いを。
大・爆・殺・神ダイナマイトは空中戦にて
敵との戦いに終止符を打った。
つまりは、自身の技によって吹き飛ばされ
宙で気絶。そのままこのゴミ捨て場へと落下……。

(親方ァ! 空から大・爆・殺・神ダイナマイトォ!!)

脳みそがバクって考えることを放棄した。
唐突すぎて事態が飲み込めない中でも
「ウッ……グッ…」と彼の苦しそうな声が聞こえ
その瞬間、私の意識はすぐに現実へと戻る。
そう、今は混乱している場合じゃない
この人を助けないと…!!
すぐに立ち上がって自身のポケットを漁るが
肝心な時に限ってスマホを持っていなかった。
「あぁもうっ!!」
苛立つ気持ちを抑えずに私は叫ぶ。
すると、それに反応したかのように
彼が月夜に照らされた青白い顔で呻き声を出す
雪が舞い、彼の身体へと落ちていく
それが彼から命を奪おうとしているようにしか見えなくて
急いで彼へと駆け寄った。指先を伝う冷たい体温に
顔が緊張で強張り青ざめる。急がないと…。

(一階に住んでてよかったァ!!
ボロアパートって文句言ってごめーんッ!!!)

「ぬおおッ…!」女らしからぬ声を出しながら
鍛えられた筋肉とコスチュームの装備により
全身に重く圧し掛かってくる体重を
何とか女の身体ながらも部屋へと運び込む
今思えば、この時は危機的状況に追い込まれて
火事場の馬鹿力って奴だったのかもしれない。
扉を乱雑に開けてベットが汚れるのも気にせず
彼を寝かせてドタバタと足音を立ててスマホを探す
せっかく片付けた部屋を散らかしながら
目的の物を見つけて思わず涙が滲む。
震える指先で番号を押して救急に電話をかけた
呼び出し音がなり「早く! 早く!」と焦燥に駆られる
―――しかし、次の瞬間にはツゥーと電話が切れた。

「……え、アレ、嘘、私焦って切っちゃったの!?」

だんだんと涙声になりながら自分自身の行動に混乱する
緊急事態でのミスに心拍数がどんどん上がっていく
震えを体全体へと広げながら
また救急車を呼ぶため電話をかける。
だけど、やっぱり電話はすぐに切れてしまった
なんで、なんでなの…!?
混乱しながら画面を見るとそこには圏外の文字
ぼろぼろと涙を溢し発狂しながら繋がらない電話を
思いっきり投げ捨てると画面にひびが入った
それを呆然と見つめ、瞬きをすると
床にぽたっと自分の涙が頬を伝い床へと落ちた。

(ば、ばくごうさんが…しんじゃう……)

最悪を想像してしまった自分の頬を思いっきり叩き
己の愚かさを叱った。痛みで涙を滲ませながら
必死に家にある救急セットをかき集める。
その後は、文字通り死に物狂いで
自分に出来る事をやり続けた。
応急処置なんて知識、私は持っていない
薬局に走ったり捨てたゴミから服を取り出したりして
何とか、爆豪さんを救おうと必死になった。
かなり不安定な状態だったから酷い時は
吐き出す物は無いのにえずきながら処置をしていた
自身に出来る事を終えてすすり泣きながら
爆豪さんの手を掴むとゆっくりとした動きながらも
安心させるかのように握り返されて
その感触に歯を食いしばった。

「……せめて、せめて腕の疲労が取れますように」

そう願って、私は目を閉じて〝個性〟を使った。
大・爆・殺・神ダイナマイトの〝個性〟は爆破
その原理は汗腺に含まれているニトロのようなもの
つまり爆豪さんのヒーロー活動の心臓と言っても
過言ではない箇所。そこにもし後遺症が
残ったりなんかしたら…また最悪を考えてしまい
私は頭を振り嫌な考えをかき消した。

(……あぁ…駄目だ、眠い)

〝個性〟をずっと使っていたせいで
抗えない睡魔が急激に襲ってくる。
まだ、連絡…出来て、ない……のに…
定期的に動く爆豪さんの胸の動きと
幾分かよくなったように見える顔色を見つめながら
強制的に閉じていく瞼に抗えずに意識は途絶えた。

* * * * * *

「…ちら……ト…」

ノイズのような音と低く掠れた声が聞こえてきて
少しだけ、瞼が開いた。けど、意識は夢の中だ。

「ッチ、無線イかれてやがるクソが…!」

先ほどよりハッキリと声が聞こえ
ほぼほぼ開かない目を声のした方へと向ける

「…ア? ンだその阿保面」

月の光が逆光となり顔を見えない
けれど目元を触る掌が優しくて安らぎに顔が緩む
かくんっと船を漕いだ頭が落ちてベットに沈む
身体の浮遊感と優しい温もりを最後に
私の落ちかけていた意識はまた完全に途絶えた。


「…クソモブが全身痛ェンだぞ」


その声が、言葉とは裏腹に優しかったのは
私は、知らなかった。

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