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yes,my master


ロッカーを閉める音がバタンッと
自分が想像していた以上に更衣室内で大きく響いた。
無意識のうちに力加減を間違えてしまった…
それほどまでに私は次の授業が憂鬱らしい。
そのことを考えるだけで
私の口からは無限にため息が吐き出され続ける。
うだうだ考えながら着替えていたせいか
クラスの皆は既に着替えを終えて外にいる
周りを見渡しても誰もいない。
独りぼっちの状態だ

———この世界にはダイナミクスという
   もう一つの性が存在している。

dom・sub・swith・normalという四種類が存在し
世界の誰もがそのどれかを生まれつき持っている。

domとsubはパートナーのような関係性があり
よく言われているのは支配したい・されたいなど
互いに惹かれ合うように本能を刺激される。
swithはその両方の性質を持っている
normalはどれも持ち合わせていない

と、簡単に説明すればこんなものだろうか…。

この四種類の中、私の持つダイナミクスは
domに従うしかないsub。そのせいで、私は———

暗くなる思考回路を遮断するように苛立ちのまま
私は右手の拳でロッカーをぶん殴った。
拳から伝わるヒリヒリとした熱が痛みとなって伝わり
さー…と身体の熱が冷めていくような感覚を感じながら
腕をロッカーに沿わせてずるずると降ろしていく
ぶらーんと赤くなった手を揺らし重い足取りで
私は更衣室から出て行くのだった。

* * * * * *

今回の授業は自身のダイナミクスを知る
ということが主なテーマとなってはいるが
実際にはヒーロー科のお手伝いの方が
多分、正しいと私は勝手に思っている。

ヒーロー科のdomはglareグレアcommandoコマンドの調整
その反対にsubはdomへの対処法を身につける

私たち普通科は襲われる、襲うことの危険性を学び
subは逃げること、抵抗することを推奨された。
担任の口から説明される授業内容に
本格的に気分が悪くなってきて
吐き気を我慢しながら
ここから抜け出したいという思いに駆られる
ぎゅっと肌が白くなるまで握り拳を作って
膝に顔を埋めてひっそりと縮こまる。

(domなんて嫌い、subの私なんて大嫌い……!!)

指定された場所に移動して自身の順番が来るまで待つ
早く終わらせたいと心底思っていると
遂に自身の番がやってきた。
指示を出しているのはヒーロー科の担任、相澤先生
相澤先生は全身黒くて、少し…小汚いのが特徴。
雄英に来て初めて見た時はこんな人もいるんだって
驚いたのは鮮明に覚えてる。その先生が
「じゃあ次、轟、爆豪、緑谷」と名前を呼んだ。
僅かに覚えのある名前に「…え」と呟く
周りのクラスメイトもざわざわと騒がしくなる
そんなものをあっさりと無視して
「俺からやる」と一歩前に出てきたのは
赤と白の髪色が特徴の轟焦凍くんだった。
彼はこちらを見るとキッと目付きを鋭くさせる
その瞬間にゾワリとした感覚に背筋が凍った
近くでドサッという音が聞こえてそちらを見ると
地面に座り込んでしまっている子が沢山いた。
皆の表情は唖然としており
glareだけでdomの指示に従ってしまった
自分に驚いているようだ。
立っている子たちもglareに圧倒されており
轟くんに釘付けになってしまっている。

轟くんが現在行っているのはdom特有のもので
glareというフェロモンのような眼力であり
subを命令する時やdom同士の威嚇に使用するなど
domの特権である。

流石はヒーロー科のトップクラスの実力者
domとしての力が半端じゃなく、glareが強い。

それが、私には、とても気持ち悪い。

glareから距離を離したくて口を押えながら
一歩後退ると「お」と言いながら彼はこちらを見る
「オマエ、glareが———」と何か言いかけた時
影が差し、身体を覆った。反射的に上を見上げると
そこにはあの爆豪勝己くんが空を飛び
こちらを見下ろして、ニヤリと笑っていた。
「オイ、テメェらァ!!!!」と叫ぶと
一気にglareが放出し、bom!という爆破音が響いた

『座れやァ!!!』

爆豪くんがcommandoを使った。
その証拠に周りの生徒は一気に地べたへと座り込んだ
subの初歩的なお座り状態。
その光景にウッ…と吐き気を催して
棒立ちのまま立ち竦んだ私に
「オマエ、やっぱり効いてねェんだな」と
轟くんがこちらへと近づいてきた。
彼が一歩進むたびに私は三歩の小幅で
目の前のdomから距離を取った。
『座れ』
淡々と下された命令に喉がヒュッと鳴る。

(『出来損ない、お座りしろよ』)

ついに幻聴が聞こえ始めてきた
無意識に自身で耳を塞いで
轟くんに背を向けて走り出す。
どんどん酷くなっていく気持ち悪さに
何が何でも授業を欠席するべきだったと
目に涙を溜めて唇を血が滲むほどの力で噛む
「ツートップの命令が効いてねェ!?」と
ヒーロー科がそう騒いでいるとは知らずに
少しパニック状態になりかけながら
私は必死にdomから逃げようと走るが
爆発音が聞こえたと思ったら背中に衝撃を受け
私の身体は地面へと転がり、倒れ込んだ。
背中に重く圧し掛かる力に上手く呼吸が出来ない。

『動くんじゃねェ』

(『ヒヒッ、動くなよ出来損ない』)

私を拘束する爆豪くんの声に
被さるように嫌な声が脳内に響いてくる。
もぞもぞと動き抵抗するが体は全く動くことはない
「…離して」顔だけを動かし爆豪くんを睨む。
彼はこちらをジッと見ると
「ンとに効いてねェーな…」と呟いた。
グッと頭を押さえながらこちらを見る爆豪くん
痛みと苦しさに嫌な思い出が蘇ってくる。

(『暴れるなよ、subはsubらしく
 ———俺サマdomに支配されるんだよ』)

我慢して、我慢して、我慢して、我慢して
subだからって嫌われて、怒られて、貶されて
だから頑張って頑張って頑張って雄英に合格した。
そうしたら沢山の事件が起きたけど
寮制度になって家に帰る必要がなくなって
あの人たちと顔を合わせずに済んで、幸せだった。

だから、もう、私、我慢なんて、したくない……!!
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