#02.もう…我慢しないで
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皆に背を向けた後の名前は一変して表情を強ばらせた。駆け足で刺さる矢が痛々しい木の前に来て、そっと表面を撫でて目を伏せた。
(木には当たった。でも的には当たってない)
見立てた的は丸い。放った矢は二本とも名前の予期せぬ場所へ向かって突き刺さった。たまたまそれが的がかかった木に刺さっただけなのだ。
道具が、弓の具合が、体調が、環境が。
様々な言い訳が頭に浮かんでは無理に打ち消しておく。所詮ただの言い訳だ、結果全ての世界。精神を安定させれば、どのような状態だって、真ん中を射ることはなくとも的に当てるくらいは出来るようになる。
凄くなどない。まだまだ修行不足。
名前は霞む目を擦り、眩む頭を振った。そうして刺さる矢の一本を力一杯引き抜いてみせる。
「凄かったな、さっきの矢は」
「…!」
「思わず魅入ってしまった」
「……ありがとうございます」
いつの間にか後ろには三人の男達が。声をかけたのは蒼髪の、と確認はしたものの名前が思い出せない。その隣にはニコニコ顔のルフレが。そして二人の後ろに今日もかっちりと装甲を着込んだ男だ。今日はにこやかに声をかける。
「不思議な引き方ですね。何か清廉な儀式の雰囲気を感じましたが」
「まぁ…そんなものですので…」
「だけど、どことなく不満そうな顔をしているね。一矢射った後は特に…」
「…わかるんですか?」
「うん?うーん、なんとなくだけど」
名前はきょとんと頬を掻いて小首を捻るルフレを見た。確かに一本目の後、あまりにも検討違いのところに軌道が流れたために名前は舌を打ちそうになった。
よく見ているな、と名前は恥ずかしくなって目を伏せる。相手が誰であれ、そんな些細な事に気付かれたくはなかった。
「そうだったか?俺は見事なもんだと思ったが」
「…ありがとうございます」
「あぁ。苗字さえ良ければ俺達の自警団に入団してほしいくらいだ」
「クロム様」
「弓兵は何人いても困らないだろう。どうだ?一緒に来ないか?」
「………」
そうだ、クロムというのだ。
思い出して顔を覚えようとじっと見ていたが、差し出された手に戸惑い、目線を反らす。
反らした先には、青年の腰にぶら下がる剣だ。
眉を顰め、武器携帯が常識である世界にまた嫌悪感が募る。握っていた矢が折れそうなくらいに強く曲げてしまうほどに。
黙り込んでしまった名前に、クロムは仕方なく上げた手を下げた。
「勿論無理にとは言わない。よく考えてほしい」
「………」
名前はやはり答えなかった。苦虫を噛み潰したように歯噛み、食いしばる。そのつもりも無ければ、早くこの場からいなくなりたいと願うばかり。しかし心配そうに顔を覗くルフレに気を使う形で名前は首を縦に振り、残りの矢を引き抜いてそそくさとその場から立ち去った。
歩きながら、名前は改めて矢を見て思う。
(…そうだ。この世界ではまだ、弓矢は武器なんだ)
矢尻の鉄の色は決して純正のような光を持たない。大きくて鋭く尖る形は紛れもなく何かを傷つける為のもの。
そんな為に弓を習ったんじゃない。名前は心の中で叫ぶ。
決して強い動機があって弓を取ったわけでもない。それも誰かに危害を加えられるなんて考えたこともなかった。
しかし、的さえあれば自分は引けてしまわないか。
そう考えて、少しだけ弓を手にするのが怖くなった。
出発前に朝食を、と、昨日穫ったと言う肉を名前は当たり前のように断った。スーパーの切り身のような見目良いものではない。毛が、骨が、血が混じった物を見て名前は重い頭から更に鈍痛がする気がした。幸い何人かも遠慮をしたらしく、特に見咎めることもない。
食事が終わるまで、輪から外れて一人座り込む名前に、青い林檎のような形をした果物を差し出す人が。
「食べるかい?」
「で、でも…」
「いいって。何も食べてないんじゃない?まだ歩かないといけないしね」
「あ……ありがとうございます」
装甲の男ほどではないが、鎧を着込む女性は名前が果物を受け取るとその隣に腰を下ろした。果物に息を吹きかけて擦り、一口噛みつく。
名前も見習った。しゃりっと音を鳴らし、口の中で咀嚼を繰り返す。甘くはない。味のない果実だったが水分は十分に吹き出した。思わず名前は呻き、涙が出そうになった。
「美味しい?」
「………」
「そうかい?よかった。クロム団長は凄いけど、さすがにボクも熊肉なんて嫌だしね。近くにこれがあってよかったよ」
「…えっと…」
「あぁ。ボクはソワレ。よろしく、苗字」
差し出された手を握り、名前は腰を曲げて会釈を。ソワレは口角を上げて笑むと、また果実にかぶりついた。名前はまだ口の中のものを噛み潰すのに時間をかける。
少しずつ咀嚼を終えたものを飲み下していた時、森の中からとぼとぼと帰ってきた少女が声をあげる。
「あーっいいなぁ!私も食べたい!」
「なんだ、結局リズは見つけられなかったんだね。残念、食べちゃったよ」
「あうう…お腹ペコペコだよぉ…」
「あ……私の…」
「いいの!?」
「かじっちゃったけど…」
「ぜーんぜん平気!あっでも苗字さんは?」
「私、あまりお腹減ってないので…」
「本当かい?あんまり良い顔色じゃないけど」
「……」
あやふやに笑い返しておいた。入らないのは事実なのだ。それにリズのお腹の虫が鳴ってしまったからにはそうも言っていられなくて、結局ソワレの携帯ナイフで果実は半分に分けられるのだった。
名前がトイレと言って帰ってきた頃には出発の準備は整っていた。
獣道だった場所から街道へ出れば、あとは道に沿って進むだけだ。舗装もされていない砂利道で足を始め身体はクタクタになった。歩調も合わせなければならなくて歩き慣れしてない名前は更に神経を削る。
そんな名前に珍しくも装甲の人、フレデリクが皆に目立たぬところで愛馬に跨がるよう誘う。しかし名前はこれも断った。リズやルフレは歩いているのだし、自分だけ楽をするのは気が引ける。それに相手が相手だ。フレデリクの口調は至って柔らかだったが警戒心が解かれたわけではない。何か裏を感じてしまって、名前は辛くても歩くことにした。それも出来るだけ早めの歩調を心掛けて。それでも街に着くまでにそのやり取りは何度か続くのだった。
イーリス王都には、名前にもわかりやすい人々の活気が満ちていた。陽気な雰囲気は昨日に起こった怪異を忘れさせるようなそんな日常がある。人々の笑い声や明るい会話が耳の端々にまで届き、名前は多少の安心感を得るも、何もかもが違う文化がそこにはあった。まるで外国に来ているような雰囲気を拭えない。髪の色、肌の色、目の色。服のデザインから話し方まで違和感ばかりが募り、改めて自分だけがという孤独感に苛まれる。
「何か見覚えある?」
「!…いいえ…」
「そうか。…僕も此処に来るのは初めて…なのかな」
「………怖くない、ですか?」
「うん。怖くはない。ドキドキしてるけどね」
「………」
活気溢れる街並みにキョロキョロとしていたのは名前だけではなかった。ルフレも同じくイーリスの都は恐らくの域で初めてらしく、周りを見回した。ただ彼は名前とは違って見るもの全てに興味があるらしく、目をキラキラと光らせているのだが。
クロム一行はと言えば、そんな名前達とは違い、変異後の大きな混乱を予想していたが特に問題が起こった様子もなかったので胸を撫で下ろした。
そんな折り、町人の一人が慌てた声を上げた。エメリナ様だ、と騒げば、周りはあっという間に自分たちの持ち場を離れ、城へと続く道から一人の女性が先頭のパレードへ我先にと拝みに出る。
名前は驚く声を上げないように口を塞ぐ。元より声などあがらなかったが目が点になった。
現れた一群には、羽根が生えた馬に跨がる鎧の女達も含まれていた。
「どうかした?」
「あっ!あれっあれっあれ何?」
「あぁ。ペガサスだよ。天馬騎士達だね。…見たことない?」
コクコクと何度も頷いて名前はルフレから教わったペガサスを凝視した。もう何が起こっても驚かない、と思っていたのに、名前はこの時ばかりは純粋に驚き、見惚れていた。
真っ白な毛並みが太陽を浴びてキラキラと光り、さらに輝いて見えた。女性騎士達も胸を張り、優雅で威勢溢れる行進に名前は溜息を吐く。
「イーリスが誇る天馬騎士団だからな。彼女達は全員姉さんの護衛だ」
「…お姉さん…前の人…ですか?」
「あぁ」
「………」
「名前、聖王エメリナ様だよ。…その…クロム達のお姉さんで…」
「え…!!…そ…それは…その…」
「イーリス聖王国の王子クロム様と王女リズ様です」
「!!!」
名前は一瞬フリーズを起こし、後ずさった。ルフレ達が何か話していたことには気付いていたが、話を聞いていなかったことに加え、相手の立場にも驚かされる。まるで時代劇にあった御印籠を突きつけられた気分だ。顔を真っ赤にして俯いてしまった名前に、クロムもリズも苦笑いになって気にしないようにと一声かける。
「それに名前さん、ペガサスに夢中だったもんね!私も初めてペガサスに乗って空を飛んだときは楽しかったなぁ」
「と、飛ぶの!?」
「飛ぶよぉ!こう、ぱたぱたーって羽根を動かしてね」
「厳密に言えば空を駆けているのですが」
「す…すごい…」
想像しただけで心が浮き上がる。名前は今一度過ぎ去っていく天馬騎士団の後ろ姿を見、胸を押さえながらぎゅっと手を握る。
「俺達もそろそろ行こう。姉さんにお前達のことを紹介しないとな」
「えぇ!?い、いいの?僕たち身元不明者だろう、一応…」
「大丈夫だよ!お姉ちゃんとっても優しいからっ」
「いい…のかなぁ?すごい姉弟だね…」
「………」
名前も赤い頬のまま頷き同意する。優しいの一言で謁見が許されていいものか。疑問は尽きないが、此処で下手に拒否する理由もない。
こうしてパレードの後を追うように名前は前を歩くクロムやルフレ達と城へと向かうのだった。
洋風のお城の中は、予想通りお伽話の中から抜け出したような装いだった。平常通りの気分なら、きっと素敵な雰囲気に呑まれて嬉しくはあったろう。しかし周りの、鎧を着込み鋭そうな槍を持った兵士に睨まれている廊下を進めば進むほど名前は意気消沈だ。ただただ彼らは警護しているだけなのだろうがその目は決して愛想がない。ただでさえ王族二人に不敬を働いてきたのだ、即座に縛り首にでもなってしまうかもしれない。
ふらふらと頼りない足取りになった名前に、ルフレが心配そうに寄り添う。
「緊張してきたね」
「………」
「…君は大丈夫?」
もう一度頷く。ルフレはまだ眉を顰めていたが、待ち人が自らお出ましになってしまったので会話は途切れた。
(木には当たった。でも的には当たってない)
見立てた的は丸い。放った矢は二本とも名前の予期せぬ場所へ向かって突き刺さった。たまたまそれが的がかかった木に刺さっただけなのだ。
道具が、弓の具合が、体調が、環境が。
様々な言い訳が頭に浮かんでは無理に打ち消しておく。所詮ただの言い訳だ、結果全ての世界。精神を安定させれば、どのような状態だって、真ん中を射ることはなくとも的に当てるくらいは出来るようになる。
凄くなどない。まだまだ修行不足。
名前は霞む目を擦り、眩む頭を振った。そうして刺さる矢の一本を力一杯引き抜いてみせる。
「凄かったな、さっきの矢は」
「…!」
「思わず魅入ってしまった」
「……ありがとうございます」
いつの間にか後ろには三人の男達が。声をかけたのは蒼髪の、と確認はしたものの名前が思い出せない。その隣にはニコニコ顔のルフレが。そして二人の後ろに今日もかっちりと装甲を着込んだ男だ。今日はにこやかに声をかける。
「不思議な引き方ですね。何か清廉な儀式の雰囲気を感じましたが」
「まぁ…そんなものですので…」
「だけど、どことなく不満そうな顔をしているね。一矢射った後は特に…」
「…わかるんですか?」
「うん?うーん、なんとなくだけど」
名前はきょとんと頬を掻いて小首を捻るルフレを見た。確かに一本目の後、あまりにも検討違いのところに軌道が流れたために名前は舌を打ちそうになった。
よく見ているな、と名前は恥ずかしくなって目を伏せる。相手が誰であれ、そんな些細な事に気付かれたくはなかった。
「そうだったか?俺は見事なもんだと思ったが」
「…ありがとうございます」
「あぁ。苗字さえ良ければ俺達の自警団に入団してほしいくらいだ」
「クロム様」
「弓兵は何人いても困らないだろう。どうだ?一緒に来ないか?」
「………」
そうだ、クロムというのだ。
思い出して顔を覚えようとじっと見ていたが、差し出された手に戸惑い、目線を反らす。
反らした先には、青年の腰にぶら下がる剣だ。
眉を顰め、武器携帯が常識である世界にまた嫌悪感が募る。握っていた矢が折れそうなくらいに強く曲げてしまうほどに。
黙り込んでしまった名前に、クロムは仕方なく上げた手を下げた。
「勿論無理にとは言わない。よく考えてほしい」
「………」
名前はやはり答えなかった。苦虫を噛み潰したように歯噛み、食いしばる。そのつもりも無ければ、早くこの場からいなくなりたいと願うばかり。しかし心配そうに顔を覗くルフレに気を使う形で名前は首を縦に振り、残りの矢を引き抜いてそそくさとその場から立ち去った。
歩きながら、名前は改めて矢を見て思う。
(…そうだ。この世界ではまだ、弓矢は武器なんだ)
矢尻の鉄の色は決して純正のような光を持たない。大きくて鋭く尖る形は紛れもなく何かを傷つける為のもの。
そんな為に弓を習ったんじゃない。名前は心の中で叫ぶ。
決して強い動機があって弓を取ったわけでもない。それも誰かに危害を加えられるなんて考えたこともなかった。
しかし、的さえあれば自分は引けてしまわないか。
そう考えて、少しだけ弓を手にするのが怖くなった。
出発前に朝食を、と、昨日穫ったと言う肉を名前は当たり前のように断った。スーパーの切り身のような見目良いものではない。毛が、骨が、血が混じった物を見て名前は重い頭から更に鈍痛がする気がした。幸い何人かも遠慮をしたらしく、特に見咎めることもない。
食事が終わるまで、輪から外れて一人座り込む名前に、青い林檎のような形をした果物を差し出す人が。
「食べるかい?」
「で、でも…」
「いいって。何も食べてないんじゃない?まだ歩かないといけないしね」
「あ……ありがとうございます」
装甲の男ほどではないが、鎧を着込む女性は名前が果物を受け取るとその隣に腰を下ろした。果物に息を吹きかけて擦り、一口噛みつく。
名前も見習った。しゃりっと音を鳴らし、口の中で咀嚼を繰り返す。甘くはない。味のない果実だったが水分は十分に吹き出した。思わず名前は呻き、涙が出そうになった。
「美味しい?」
「………」
「そうかい?よかった。クロム団長は凄いけど、さすがにボクも熊肉なんて嫌だしね。近くにこれがあってよかったよ」
「…えっと…」
「あぁ。ボクはソワレ。よろしく、苗字」
差し出された手を握り、名前は腰を曲げて会釈を。ソワレは口角を上げて笑むと、また果実にかぶりついた。名前はまだ口の中のものを噛み潰すのに時間をかける。
少しずつ咀嚼を終えたものを飲み下していた時、森の中からとぼとぼと帰ってきた少女が声をあげる。
「あーっいいなぁ!私も食べたい!」
「なんだ、結局リズは見つけられなかったんだね。残念、食べちゃったよ」
「あうう…お腹ペコペコだよぉ…」
「あ……私の…」
「いいの!?」
「かじっちゃったけど…」
「ぜーんぜん平気!あっでも苗字さんは?」
「私、あまりお腹減ってないので…」
「本当かい?あんまり良い顔色じゃないけど」
「……」
あやふやに笑い返しておいた。入らないのは事実なのだ。それにリズのお腹の虫が鳴ってしまったからにはそうも言っていられなくて、結局ソワレの携帯ナイフで果実は半分に分けられるのだった。
名前がトイレと言って帰ってきた頃には出発の準備は整っていた。
獣道だった場所から街道へ出れば、あとは道に沿って進むだけだ。舗装もされていない砂利道で足を始め身体はクタクタになった。歩調も合わせなければならなくて歩き慣れしてない名前は更に神経を削る。
そんな名前に珍しくも装甲の人、フレデリクが皆に目立たぬところで愛馬に跨がるよう誘う。しかし名前はこれも断った。リズやルフレは歩いているのだし、自分だけ楽をするのは気が引ける。それに相手が相手だ。フレデリクの口調は至って柔らかだったが警戒心が解かれたわけではない。何か裏を感じてしまって、名前は辛くても歩くことにした。それも出来るだけ早めの歩調を心掛けて。それでも街に着くまでにそのやり取りは何度か続くのだった。
イーリス王都には、名前にもわかりやすい人々の活気が満ちていた。陽気な雰囲気は昨日に起こった怪異を忘れさせるようなそんな日常がある。人々の笑い声や明るい会話が耳の端々にまで届き、名前は多少の安心感を得るも、何もかもが違う文化がそこにはあった。まるで外国に来ているような雰囲気を拭えない。髪の色、肌の色、目の色。服のデザインから話し方まで違和感ばかりが募り、改めて自分だけがという孤独感に苛まれる。
「何か見覚えある?」
「!…いいえ…」
「そうか。…僕も此処に来るのは初めて…なのかな」
「………怖くない、ですか?」
「うん。怖くはない。ドキドキしてるけどね」
「………」
活気溢れる街並みにキョロキョロとしていたのは名前だけではなかった。ルフレも同じくイーリスの都は恐らくの域で初めてらしく、周りを見回した。ただ彼は名前とは違って見るもの全てに興味があるらしく、目をキラキラと光らせているのだが。
クロム一行はと言えば、そんな名前達とは違い、変異後の大きな混乱を予想していたが特に問題が起こった様子もなかったので胸を撫で下ろした。
そんな折り、町人の一人が慌てた声を上げた。エメリナ様だ、と騒げば、周りはあっという間に自分たちの持ち場を離れ、城へと続く道から一人の女性が先頭のパレードへ我先にと拝みに出る。
名前は驚く声を上げないように口を塞ぐ。元より声などあがらなかったが目が点になった。
現れた一群には、羽根が生えた馬に跨がる鎧の女達も含まれていた。
「どうかした?」
「あっ!あれっあれっあれ何?」
「あぁ。ペガサスだよ。天馬騎士達だね。…見たことない?」
コクコクと何度も頷いて名前はルフレから教わったペガサスを凝視した。もう何が起こっても驚かない、と思っていたのに、名前はこの時ばかりは純粋に驚き、見惚れていた。
真っ白な毛並みが太陽を浴びてキラキラと光り、さらに輝いて見えた。女性騎士達も胸を張り、優雅で威勢溢れる行進に名前は溜息を吐く。
「イーリスが誇る天馬騎士団だからな。彼女達は全員姉さんの護衛だ」
「…お姉さん…前の人…ですか?」
「あぁ」
「………」
「名前、聖王エメリナ様だよ。…その…クロム達のお姉さんで…」
「え…!!…そ…それは…その…」
「イーリス聖王国の王子クロム様と王女リズ様です」
「!!!」
名前は一瞬フリーズを起こし、後ずさった。ルフレ達が何か話していたことには気付いていたが、話を聞いていなかったことに加え、相手の立場にも驚かされる。まるで時代劇にあった御印籠を突きつけられた気分だ。顔を真っ赤にして俯いてしまった名前に、クロムもリズも苦笑いになって気にしないようにと一声かける。
「それに名前さん、ペガサスに夢中だったもんね!私も初めてペガサスに乗って空を飛んだときは楽しかったなぁ」
「と、飛ぶの!?」
「飛ぶよぉ!こう、ぱたぱたーって羽根を動かしてね」
「厳密に言えば空を駆けているのですが」
「す…すごい…」
想像しただけで心が浮き上がる。名前は今一度過ぎ去っていく天馬騎士団の後ろ姿を見、胸を押さえながらぎゅっと手を握る。
「俺達もそろそろ行こう。姉さんにお前達のことを紹介しないとな」
「えぇ!?い、いいの?僕たち身元不明者だろう、一応…」
「大丈夫だよ!お姉ちゃんとっても優しいからっ」
「いい…のかなぁ?すごい姉弟だね…」
「………」
名前も赤い頬のまま頷き同意する。優しいの一言で謁見が許されていいものか。疑問は尽きないが、此処で下手に拒否する理由もない。
こうしてパレードの後を追うように名前は前を歩くクロムやルフレ達と城へと向かうのだった。
洋風のお城の中は、予想通りお伽話の中から抜け出したような装いだった。平常通りの気分なら、きっと素敵な雰囲気に呑まれて嬉しくはあったろう。しかし周りの、鎧を着込み鋭そうな槍を持った兵士に睨まれている廊下を進めば進むほど名前は意気消沈だ。ただただ彼らは警護しているだけなのだろうがその目は決して愛想がない。ただでさえ王族二人に不敬を働いてきたのだ、即座に縛り首にでもなってしまうかもしれない。
ふらふらと頼りない足取りになった名前に、ルフレが心配そうに寄り添う。
「緊張してきたね」
「………」
「…君は大丈夫?」
もう一度頷く。ルフレはまだ眉を顰めていたが、待ち人が自らお出ましになってしまったので会話は途切れた。