#12.今は二人を信じてあげて
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「で、あんたが来たのかい」
ルフレを出迎えたのはフラヴィアだった。その後ろには視線をそらせて苦笑いを浮かべている名前がいる。何故ルフレが来たのかを察したのだろう。
どうしてこうなったのかを問えば、名前はフラヴィアの顔色を伺ってから言い辛そうに話し出す。
「剣を…教えてもらおうと…」
「うん、それはわかる。でも何もクロムと寝床を別にしなくてもいいんじゃないか?」
「アタシがそうしろって言ったのさ」
「フラヴィア様が?」
「名前には心身共に鍛えてやる必要があると思ってね。ちょっと間を置いて、お互いのことを考え直すことも大事じゃないかってね」
「………」
名前は気恥ずかしそうに下を向いた。気弱な性格が今回の原因だと責任を感じているようだった。それでもフラヴィアの提案に乗ったのは、このままではいけないという自覚もあったのだろう。
「私も…前から少し、距離を取ろうと…思っていたんです」
「それが今?」
「…此処までついてきた以上、戦いに参加するのは覚悟していたのですが…クロム様には却って迷惑をかけてしまって…」
「言葉を濁すんじゃないよ。それにルフレに隠し事が通じると思うのかい?」
「……」
フラヴィアの静かな渇にびくりとしながらも、名前は目を伏せてもう一度言葉を選び直す。
「わからなくなったのです…」
「…わからない?」
「私が一緒にいて…本当にいいのか…。中途半端な力しかない私では、戦場はなおのこと、常日頃もクロム様に迷惑をかけてしまって……でも、迷ってばかりいても仕方ないし、迷うよりも努力しなくちゃと思っていたのに…その方法も、クロム様にはよく思ってもらえなくて…」
「あーもう!うだうだ言うのはやめろって言っただろうに。ようするに!心身共に鍛え直して、クロムに一泡吹かせてやりたいってことさ!」
「は…はい。吹かせて、やりたいんです」
「あはは…一泡、ね」
ルフレにも名前の不安視する事情に思い当たる節はあった。身分差の違いがあって、元々二人の婚約に身内以外は良い顔をする者が少なかった。日頃肩身の狭い思いをしている名前だが、クロムの妻として切磋琢磨は欠かさなかった。またルキナを産んだことで正室としての務めを果たしたとし、彼女に向かう風当たりも多少マシになった。
元来イーリス王家は聖痕の存在と共に血筋に対してとても過敏である。クロム自身もそのことをよく理解していた。だからこそ過剰なほどに名前を庇護してきた。対して名前はそれを申し訳なく感じているのだろう。名前が后の器では無いというコンプレックスを抱えていることはルフレでなくても感じ取れた。
「…名前、君にとって大事な役目は、クロムを支えることじゃないのかい?」
「……うん。でも今の私では役に立たない…気持ちだけじゃ、駄目なの…クロム様に守ってもらって、背中に隠れるだけでも駄目…。クロム様の隣で、同じ速度で一緒に歩きたいの」
「そうか。…君の気持ちはわかった。でも、肝心のクロムの気持ちをもう少し考えてあげてほしい。クロムも、君が考えている以上に君を思っている。だからまずは、二人できちんと話をすること。いいね?」
「……」
「納得が出来ない?」
「…きっとまた…クロム様は私のためだと言って、賛成してくれないでしょうから…」
「……わかった。なら僕からクロムに話をしよう。だけど必ず君からも話をするんだよ」
「は、はい」
緩んだ表情を引き締め、名前は背筋を整えてからルフレに深く頭を下げた。
ルフレにはその所作によってまた心に錘を乗せられた気になる。フラヴィアを見れば、彼女は苦笑いを浮かべている。だからといって助け船を出すつもりも無いらしい。彼女はとことんイーリスの若后を自分好みに育て上げるつもりである。
結局ルフレは引き下がるしか手は打てず終いなのだった。
フラヴィアの乗る船から母船へ帰る間際、ルフレはルキナと出会った。少女剣士はルフレの存在に気づくと複雑そうな顔色で駆け寄ってきた。親の痴話を耳に挟んだのだろう。
「ルフレさん、お母様は?」
「帰るつもりはないみたいだよ。相変わらず頑固な性格をしているよ」
「……」
ルキナは眉を寄せて険しい表情となった。ルフレの冗談に気づくことが出来なかったのだろう、ルフレは苦笑しつつ謝罪する。ルキナは目を伏せ、ルフレに挨拶を交わすと母の元へと駆け込んでいった。
数刻後、肩を落として帰ってきたルキナとルフレを乗せて、今度こそ母船へ向けて移動用の小舟は出発する。
「名前、なんだって?」
「お父様のことをお願い…と…。お母様、お父様と何故喧嘩なんて…」
「うん…まぁ色々二人は考えているんだよ。君が気にすることはないさ」
「……」
気休めが通じることは無い。ルキナは虚ろな表情で海の波紋を眺めていた。ルフレは少し思案してから会話を続ける。
「君の知る未来のクロムと名前は喧嘩なんかしなかった?」
「え?…そうですね。二人とも仲がよかったです。お母様はいつも微笑まれていましたし、お父様もお母様をよく労れていました。……ただ」
「ただ?」
「…お父様が亡くなってからのお母様は…時々険しいお顔をなさるようになって」
「…それは…」
「ふと気が付くと…怖い表情をして何も言わなくなるときがあって…私が怖くなってお声をかけると、いつもと同じように微笑ってくれるのですが、誤魔化されてしまったような気がして…」
「…そうか」
「……いつも…心配でした…」
「……」
「未来でのお母様は民達の前で力強くお声をかけていました。お父様の代わりに、…私の、代わりに」
「ルキナの?」
「お父様が亡くなった後、王位継承権は私に移りました。ですが…あまりにも私は幼すぎたこと、そして、絶望に向かう時勢を私に押しつけてしまうと考えていたのでしょう。私を立てながらも、実質お母様が先導者として戦われました。……病に倒れ、帰らぬ人になるまでは」
「…名前が…」
ルフレには俄かに信じがたい真実だ。だが切羽詰まったときの名前の我の譲らぬ芯の強さを知らないはずはない。恐らくルキナの知る母もまた弱音を吐くことはなかったのだろう。愛する娘にも弱った姿を晒すことを許さなかったはずだ。それが名前の言う強さの形であり、理想なのだから。
「ルキナは心配なんだね。名前が未来のお母さんのように一人で無理をするんじゃないかって」
「……」
「大丈夫。すぐに仲直りするさ。今は二人を信じてあげて」
「…だと…いいのですが…」
ルキナはまだ何か言いたそうに口元を動かしていたが、不意に唇を結ぶと俯いてしまった。ルフレには、彼女がまだ不安を抱えていることを見抜いていたのだが、話す気もない印象から聞き出すことをやめた。代わりに肩を優しく叩いてやって覇気を送り込む。彼女は驚いて丸まった背を正してから恥ずかしそうにはにかむのだった。
ルフレを出迎えたのはフラヴィアだった。その後ろには視線をそらせて苦笑いを浮かべている名前がいる。何故ルフレが来たのかを察したのだろう。
どうしてこうなったのかを問えば、名前はフラヴィアの顔色を伺ってから言い辛そうに話し出す。
「剣を…教えてもらおうと…」
「うん、それはわかる。でも何もクロムと寝床を別にしなくてもいいんじゃないか?」
「アタシがそうしろって言ったのさ」
「フラヴィア様が?」
「名前には心身共に鍛えてやる必要があると思ってね。ちょっと間を置いて、お互いのことを考え直すことも大事じゃないかってね」
「………」
名前は気恥ずかしそうに下を向いた。気弱な性格が今回の原因だと責任を感じているようだった。それでもフラヴィアの提案に乗ったのは、このままではいけないという自覚もあったのだろう。
「私も…前から少し、距離を取ろうと…思っていたんです」
「それが今?」
「…此処までついてきた以上、戦いに参加するのは覚悟していたのですが…クロム様には却って迷惑をかけてしまって…」
「言葉を濁すんじゃないよ。それにルフレに隠し事が通じると思うのかい?」
「……」
フラヴィアの静かな渇にびくりとしながらも、名前は目を伏せてもう一度言葉を選び直す。
「わからなくなったのです…」
「…わからない?」
「私が一緒にいて…本当にいいのか…。中途半端な力しかない私では、戦場はなおのこと、常日頃もクロム様に迷惑をかけてしまって……でも、迷ってばかりいても仕方ないし、迷うよりも努力しなくちゃと思っていたのに…その方法も、クロム様にはよく思ってもらえなくて…」
「あーもう!うだうだ言うのはやめろって言っただろうに。ようするに!心身共に鍛え直して、クロムに一泡吹かせてやりたいってことさ!」
「は…はい。吹かせて、やりたいんです」
「あはは…一泡、ね」
ルフレにも名前の不安視する事情に思い当たる節はあった。身分差の違いがあって、元々二人の婚約に身内以外は良い顔をする者が少なかった。日頃肩身の狭い思いをしている名前だが、クロムの妻として切磋琢磨は欠かさなかった。またルキナを産んだことで正室としての務めを果たしたとし、彼女に向かう風当たりも多少マシになった。
元来イーリス王家は聖痕の存在と共に血筋に対してとても過敏である。クロム自身もそのことをよく理解していた。だからこそ過剰なほどに名前を庇護してきた。対して名前はそれを申し訳なく感じているのだろう。名前が后の器では無いというコンプレックスを抱えていることはルフレでなくても感じ取れた。
「…名前、君にとって大事な役目は、クロムを支えることじゃないのかい?」
「……うん。でも今の私では役に立たない…気持ちだけじゃ、駄目なの…クロム様に守ってもらって、背中に隠れるだけでも駄目…。クロム様の隣で、同じ速度で一緒に歩きたいの」
「そうか。…君の気持ちはわかった。でも、肝心のクロムの気持ちをもう少し考えてあげてほしい。クロムも、君が考えている以上に君を思っている。だからまずは、二人できちんと話をすること。いいね?」
「……」
「納得が出来ない?」
「…きっとまた…クロム様は私のためだと言って、賛成してくれないでしょうから…」
「……わかった。なら僕からクロムに話をしよう。だけど必ず君からも話をするんだよ」
「は、はい」
緩んだ表情を引き締め、名前は背筋を整えてからルフレに深く頭を下げた。
ルフレにはその所作によってまた心に錘を乗せられた気になる。フラヴィアを見れば、彼女は苦笑いを浮かべている。だからといって助け船を出すつもりも無いらしい。彼女はとことんイーリスの若后を自分好みに育て上げるつもりである。
結局ルフレは引き下がるしか手は打てず終いなのだった。
フラヴィアの乗る船から母船へ帰る間際、ルフレはルキナと出会った。少女剣士はルフレの存在に気づくと複雑そうな顔色で駆け寄ってきた。親の痴話を耳に挟んだのだろう。
「ルフレさん、お母様は?」
「帰るつもりはないみたいだよ。相変わらず頑固な性格をしているよ」
「……」
ルキナは眉を寄せて険しい表情となった。ルフレの冗談に気づくことが出来なかったのだろう、ルフレは苦笑しつつ謝罪する。ルキナは目を伏せ、ルフレに挨拶を交わすと母の元へと駆け込んでいった。
数刻後、肩を落として帰ってきたルキナとルフレを乗せて、今度こそ母船へ向けて移動用の小舟は出発する。
「名前、なんだって?」
「お父様のことをお願い…と…。お母様、お父様と何故喧嘩なんて…」
「うん…まぁ色々二人は考えているんだよ。君が気にすることはないさ」
「……」
気休めが通じることは無い。ルキナは虚ろな表情で海の波紋を眺めていた。ルフレは少し思案してから会話を続ける。
「君の知る未来のクロムと名前は喧嘩なんかしなかった?」
「え?…そうですね。二人とも仲がよかったです。お母様はいつも微笑まれていましたし、お父様もお母様をよく労れていました。……ただ」
「ただ?」
「…お父様が亡くなってからのお母様は…時々険しいお顔をなさるようになって」
「…それは…」
「ふと気が付くと…怖い表情をして何も言わなくなるときがあって…私が怖くなってお声をかけると、いつもと同じように微笑ってくれるのですが、誤魔化されてしまったような気がして…」
「…そうか」
「……いつも…心配でした…」
「……」
「未来でのお母様は民達の前で力強くお声をかけていました。お父様の代わりに、…私の、代わりに」
「ルキナの?」
「お父様が亡くなった後、王位継承権は私に移りました。ですが…あまりにも私は幼すぎたこと、そして、絶望に向かう時勢を私に押しつけてしまうと考えていたのでしょう。私を立てながらも、実質お母様が先導者として戦われました。……病に倒れ、帰らぬ人になるまでは」
「…名前が…」
ルフレには俄かに信じがたい真実だ。だが切羽詰まったときの名前の我の譲らぬ芯の強さを知らないはずはない。恐らくルキナの知る母もまた弱音を吐くことはなかったのだろう。愛する娘にも弱った姿を晒すことを許さなかったはずだ。それが名前の言う強さの形であり、理想なのだから。
「ルキナは心配なんだね。名前が未来のお母さんのように一人で無理をするんじゃないかって」
「……」
「大丈夫。すぐに仲直りするさ。今は二人を信じてあげて」
「…だと…いいのですが…」
ルキナはまだ何か言いたそうに口元を動かしていたが、不意に唇を結ぶと俯いてしまった。ルフレには、彼女がまだ不安を抱えていることを見抜いていたのだが、話す気もない印象から聞き出すことをやめた。代わりに肩を優しく叩いてやって覇気を送り込む。彼女は驚いて丸まった背を正してから恥ずかしそうにはにかむのだった。