#11.だが今は違う
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食事を用意するのはいつもフレデリクだ。陣営が整った場所以外では皆と雑多になって食事を取るのだが、それ以外はクロムと、また、リズの都合によっては彼女とその夫と共に過ごす。そして今ではルキナも一緒になって時には大所帯になる。この日は皆が揃った。従者の騎士は張り切って夕餉を用意し、テーブルに並べている。名前もリズも手伝おうとするものの、フレデリクは断固として手をつけさせないので、大人しくテーブルに着いておくのみだ。
ドニはいつにも増して緊迫した雰囲気を敏感に感じ取っていた。それは愛する人も同じらしく、リズはそわそわと隣で兄と義姉を見比べている。ドニも同じように二人を見てみるが、何がなんだかさっぱりで、とりわけ名前の眉間は皺が寄っているのでこちらまで気が重くなるような気がした。
不意にドニにとって姪となるルキナが、心配そうに声をかけた。
「…あの、お母様」
「えっ…?」
「お食事、お召し上がりにならないのですか?冷めてしまいますよ」
「あ……うん、そうだね…考え事してて……ごめんなさい、フレデリクさん。今日はちょっと…あまりお腹が空いてなくて」
「そうでしたか。気付かずに申し訳ありません」
「あ、いや、そんな。…折角用意してもらったのに」
「気分でも悪いのか?」
名前は黙って首を振った。ちょっと笑みを取り繕ってはいたが、すぐに暗い顔になる。
「あっじゃあ、ほら!私のデザートと交換しようよ!甘いものは別腹でしょ?」
「り、リズ様二人分食べるのですか?」
「あっならオラもデザートさ名前さんにあげるべ!そんでリズ様と半分こすりゃ丁度になるべさ」
「うんっそれがいい!そうしよう!」
場の雰囲気を変えようと明るく声を上げたリズに倣い、ドニもその申し出に便乗することにした。そそくさと傍らに添えられた寒天物を差し出して、肉料理とスープ、サラダを取ってリズと自分の間に移動させた。名前は嬉しそうに笑った。リズの言うとおり、女性は甘い物が魅力的なのだなとドニは改めて思う。
しかしこれに異を唱えた人物がいる。
「名前。体調が悪くてもスープくらいは飲んでおけ。甘いものばかり食ったら太るぞ。リズ、ドニ。残りを食ってくれるのはありがたいが、デザートはお前達が食べると良い」
「あ…は、はい…」
異を唱える暇もなくクロムの指示に付き従ってしまう名前は、若い妹夫婦に小さな器を返した。心なしか悲壮な目をする名前に気付いて、リズが声をあげた。
「もう、お兄ちゃん!女の子に太るとか言わないの!傷つくでしょ?」
「ん?そうか?だが三つも食うのはどうかと思うぞ。なら身体にいいものをもっと食った方がいいだろう」
「食べたいもの食べた方が身体にいいよっ」
「り、リズ様…私は大丈夫ですし…私、お心遣いが嬉しかったんです…ありがとう、二人とも…」
名前ははにかんでからリズ夫婦の前のスープを取って、それをちょびちょびとスプーンで掬ってはゆっくり口元へ運び始めた。咀嚼の時間が長く、なかなか喉元を通らないのがドニにもわかった。またも妙な雰囲気にリズと顔を見合う。
「お母様、よかったら私のデザートをお召し上がりください」
「えっ!だ、だめ!それだけはだめっ」
「な、何故です?」
「子供の分まで食べようとは思ってないから…それに、ルキナもたくさん食べなくちゃ。甘い物は身体にいいんだよ?」
「…そうですか?それならいいのですが」
「う、うん……ごめんね、みんな。私なら大丈夫だから…ちょっとお腹が空いてないだけで…気にしないで、ね?」
「……」
名前はそれから皆に食事を促して自分も目の前のスープを遅いながらも食べ始める。若夫婦もルキナも腑に落ちないでいたが、名前の言葉に従うことにするのだった。
「名前」
「え?」
「ほら」
クロムは自分の手元のデザートを名前に差し出した。名前は不意の出来事に驚き、器を手に取る。
「食いたかったんだろ?俺のをやる」
「で、でも……私、もう…お腹いっぱいだし…あ、ルキナ。よかったら私のを食べる?」
「え?」
「私はクロム様のを頂くから、よかったら…で、いいのだけど」
「で…では、頂きます。お母様、お父様」
「…うん」
「あぁ」
結局は器を回して、クロムの分は名前が、名前の分はルキナが口にするのだった。
悶着はあったがなんだかんだと仲のいい家族である。ドニは人知れず笑った。しかし、一方でリズの方はむくれ顔で名前と兄の方を見ていた。
食事の後、フレデリクに食器を渡して名前はクロムと自分達の天幕へ帰ろうと足を向ける。クロムはこれから仕事、ルキナも足早に立ち去ってしまった為、一人の帰路になるはずがそれを止める声が。リズである。リズはおろおろとする夫を先に帰らせて名前の腕を絡めて強引に歩き出す。
「名前さん、何かあった?」
「えっ」
「なんだか元気無かったでしょ?お兄ちゃんの方まともに見てなかったし…喧嘩しちゃったとか、そんなのじゃなさそうだけど」
「そ…そんなことないですよ」
「嘘!名前さん、無理してるとき絶対食欲に響いてくるからわかるんだよ!」
「…う…うん…」
「話してみてよ!話すだけでも楽になるんだから」
「………」
名前は渋ってはみたものの、結局は義妹であるリズに打ち明けることにした。勿論話題はソワレとの修練を打ち切られたことである。
リズはふんふんと首を振って熱心に聞いてはいたが、段々と気が昂揚してきたのか、肩を上げ目を怒らせていた。
「もーっ!お兄ちゃんったら過保護すぎっ!名前さんだって強くなる為にあんなにがんばってたのに…裏から手を回すなんて!」
「心配してくれているっていうのはわかるし、嬉しいことだけど……やっぱり、ちょっとね…」
「これは断固抗議すべきだよ!うんっ」
「そ、そうかな…」
「だって、名前さんの意志を無理矢理きゅーって、ねじ曲げちゃったんだもん!名前さんががんばろうとしてきたことも否定されちゃうんだよ?そんなの許しちゃだめ!」
「う……うん…」
「それにこのことを許しちゃったら名前さん、ずーーっとお兄ちゃんに主導権握られちゃうよ?あれもダメ、これもダメ、ぜーんぶダメ!…なんて言われたらどーするの?」
「うっ…それは……さすがに…」
「名前さんが言えないならあたしが変わりに言ったげるよ!」
「あっいや!それもさすがに…!…私、直接話してみます。リズ様に話して、勇気が出ましたから」
「そう?それならいいけど……じゃあせめて、応援してるね!頑張って!」
両の手はぐっと握り拳を作り、リズの力の入った声援を受け、名前は苦笑いながらも頷くのだった。
クロムが帰ってきたのはこの日も陽がとっぷりと暮れてからだ。従事の騎士が去るのを見送り、クロムの就寝を名前は待つ。思えば二人きりの会話は久しぶりのような気がした。クロムは聖王代理として国を空けてはいるものの、ルフレの助けを借りながらイーリスの執政に関してははこまめに連絡と指示を出している。自警団の仕事に加え、ヴァルム帝国との大戦準備にこの頃は追われていた。そうでなくとも人に囲まれることの多い夫と内密に話せる時間は就寝前しかない。最初こそは甲斐甲斐しく寝ずに待ってはみたものの、思うようには待ちきれず。段々と睡魔との戦いに敗れるようになって今では不戦敗のままだ。加えて口数の少ない名前は、ただでさえ疲れているクロムを自分とのお喋りに付き合わせることも気が引いてしまう。結果、すれ違いの日々と相成った。だからこの日、静かな場所で二人きりということ事態、久々の名前には嫌にも緊張を高めてしまうのだった。
クロムは縮こまる名前の隣にどっかりと座り込み、あまり顔色が良くない名前へ目を配る。
「珍しいな。名前がこんな時間まで起きているなんて」
「すみません、お疲れのところ…ちょっと、相談したいことがあって」
「なんだ?」
「ソワレさんとの修行について、です」
「…あぁ。聞いたのか」
「どうしてあんなことを…」
クロムは渋い顔をしてはいたが、名前の肩を叩いて窘めるように言葉を紡ぐ。名前の目を見て、しっかりとした口調でだ。
「名前。これからヴァルムと大きな戦いになる。生半可な力で奴らに対抗出来るとは、俺は思えん」
「……それは、私が力不足だといいたいのでしょうか…」
「あぁ、そうだ」
「……っ」
「お前の弓の腕が確かなのはよく理解している。…だが何故、名前はこの戦いに不慣れな剣を選んだんだ?」
「…それは……私…クロム様のお側で戦えるようにと…思って」
「…俺はお前に剣を持って欲しくなかった」
「で、でも前は…!」
「あぁ。前に俺はお前に剣を教えると約束した。だが今は違う。剣を持って、前線で戦うことが体の弱い名前に務まるとは思えない。…思いたくもない」
「…でも…」
「着いてくるなとは言わん。名前は俺をよく支えてくれるし、俺が傍にいるときは名前を守れる。だが…そんなときばかりじゃないのが、この間の戦いでよくわかっただろう?」
「……」
「わかったな?名前。どうかお前は、こうして俺の傍で俺を支えてくれ」
「………うん…」
クロムは名前が腑に落ちないという表情をしながら頷いているにも関わらず、その妻の頭を自分へ引き寄せて額へ口付けた。そうなると名前はますます口を結んでしまう。クロムは優しく微笑むばかりで己の気持ちを理解してはくれない。しかし、そんな不満を口には出来なかった。過保護だ、というリズの声を思い出しながら、それでもクロムに逆らえないのは惚れた弱味というものだ。
名前は仕方なく、クロムに抱きつき目を閉じた。夫の寝間着に皺を作りながら、わだかまりのする心を忘れるように努める為だ。クロムは己の言い分に反意を表さない妻に満足したのか、それ以降もうなだれる名前をただただ慰めるのだった。
ドニはいつにも増して緊迫した雰囲気を敏感に感じ取っていた。それは愛する人も同じらしく、リズはそわそわと隣で兄と義姉を見比べている。ドニも同じように二人を見てみるが、何がなんだかさっぱりで、とりわけ名前の眉間は皺が寄っているのでこちらまで気が重くなるような気がした。
不意にドニにとって姪となるルキナが、心配そうに声をかけた。
「…あの、お母様」
「えっ…?」
「お食事、お召し上がりにならないのですか?冷めてしまいますよ」
「あ……うん、そうだね…考え事してて……ごめんなさい、フレデリクさん。今日はちょっと…あまりお腹が空いてなくて」
「そうでしたか。気付かずに申し訳ありません」
「あ、いや、そんな。…折角用意してもらったのに」
「気分でも悪いのか?」
名前は黙って首を振った。ちょっと笑みを取り繕ってはいたが、すぐに暗い顔になる。
「あっじゃあ、ほら!私のデザートと交換しようよ!甘いものは別腹でしょ?」
「り、リズ様二人分食べるのですか?」
「あっならオラもデザートさ名前さんにあげるべ!そんでリズ様と半分こすりゃ丁度になるべさ」
「うんっそれがいい!そうしよう!」
場の雰囲気を変えようと明るく声を上げたリズに倣い、ドニもその申し出に便乗することにした。そそくさと傍らに添えられた寒天物を差し出して、肉料理とスープ、サラダを取ってリズと自分の間に移動させた。名前は嬉しそうに笑った。リズの言うとおり、女性は甘い物が魅力的なのだなとドニは改めて思う。
しかしこれに異を唱えた人物がいる。
「名前。体調が悪くてもスープくらいは飲んでおけ。甘いものばかり食ったら太るぞ。リズ、ドニ。残りを食ってくれるのはありがたいが、デザートはお前達が食べると良い」
「あ…は、はい…」
異を唱える暇もなくクロムの指示に付き従ってしまう名前は、若い妹夫婦に小さな器を返した。心なしか悲壮な目をする名前に気付いて、リズが声をあげた。
「もう、お兄ちゃん!女の子に太るとか言わないの!傷つくでしょ?」
「ん?そうか?だが三つも食うのはどうかと思うぞ。なら身体にいいものをもっと食った方がいいだろう」
「食べたいもの食べた方が身体にいいよっ」
「り、リズ様…私は大丈夫ですし…私、お心遣いが嬉しかったんです…ありがとう、二人とも…」
名前ははにかんでからリズ夫婦の前のスープを取って、それをちょびちょびとスプーンで掬ってはゆっくり口元へ運び始めた。咀嚼の時間が長く、なかなか喉元を通らないのがドニにもわかった。またも妙な雰囲気にリズと顔を見合う。
「お母様、よかったら私のデザートをお召し上がりください」
「えっ!だ、だめ!それだけはだめっ」
「な、何故です?」
「子供の分まで食べようとは思ってないから…それに、ルキナもたくさん食べなくちゃ。甘い物は身体にいいんだよ?」
「…そうですか?それならいいのですが」
「う、うん……ごめんね、みんな。私なら大丈夫だから…ちょっとお腹が空いてないだけで…気にしないで、ね?」
「……」
名前はそれから皆に食事を促して自分も目の前のスープを遅いながらも食べ始める。若夫婦もルキナも腑に落ちないでいたが、名前の言葉に従うことにするのだった。
「名前」
「え?」
「ほら」
クロムは自分の手元のデザートを名前に差し出した。名前は不意の出来事に驚き、器を手に取る。
「食いたかったんだろ?俺のをやる」
「で、でも……私、もう…お腹いっぱいだし…あ、ルキナ。よかったら私のを食べる?」
「え?」
「私はクロム様のを頂くから、よかったら…で、いいのだけど」
「で…では、頂きます。お母様、お父様」
「…うん」
「あぁ」
結局は器を回して、クロムの分は名前が、名前の分はルキナが口にするのだった。
悶着はあったがなんだかんだと仲のいい家族である。ドニは人知れず笑った。しかし、一方でリズの方はむくれ顔で名前と兄の方を見ていた。
食事の後、フレデリクに食器を渡して名前はクロムと自分達の天幕へ帰ろうと足を向ける。クロムはこれから仕事、ルキナも足早に立ち去ってしまった為、一人の帰路になるはずがそれを止める声が。リズである。リズはおろおろとする夫を先に帰らせて名前の腕を絡めて強引に歩き出す。
「名前さん、何かあった?」
「えっ」
「なんだか元気無かったでしょ?お兄ちゃんの方まともに見てなかったし…喧嘩しちゃったとか、そんなのじゃなさそうだけど」
「そ…そんなことないですよ」
「嘘!名前さん、無理してるとき絶対食欲に響いてくるからわかるんだよ!」
「…う…うん…」
「話してみてよ!話すだけでも楽になるんだから」
「………」
名前は渋ってはみたものの、結局は義妹であるリズに打ち明けることにした。勿論話題はソワレとの修練を打ち切られたことである。
リズはふんふんと首を振って熱心に聞いてはいたが、段々と気が昂揚してきたのか、肩を上げ目を怒らせていた。
「もーっ!お兄ちゃんったら過保護すぎっ!名前さんだって強くなる為にあんなにがんばってたのに…裏から手を回すなんて!」
「心配してくれているっていうのはわかるし、嬉しいことだけど……やっぱり、ちょっとね…」
「これは断固抗議すべきだよ!うんっ」
「そ、そうかな…」
「だって、名前さんの意志を無理矢理きゅーって、ねじ曲げちゃったんだもん!名前さんががんばろうとしてきたことも否定されちゃうんだよ?そんなの許しちゃだめ!」
「う……うん…」
「それにこのことを許しちゃったら名前さん、ずーーっとお兄ちゃんに主導権握られちゃうよ?あれもダメ、これもダメ、ぜーんぶダメ!…なんて言われたらどーするの?」
「うっ…それは……さすがに…」
「名前さんが言えないならあたしが変わりに言ったげるよ!」
「あっいや!それもさすがに…!…私、直接話してみます。リズ様に話して、勇気が出ましたから」
「そう?それならいいけど……じゃあせめて、応援してるね!頑張って!」
両の手はぐっと握り拳を作り、リズの力の入った声援を受け、名前は苦笑いながらも頷くのだった。
クロムが帰ってきたのはこの日も陽がとっぷりと暮れてからだ。従事の騎士が去るのを見送り、クロムの就寝を名前は待つ。思えば二人きりの会話は久しぶりのような気がした。クロムは聖王代理として国を空けてはいるものの、ルフレの助けを借りながらイーリスの執政に関してははこまめに連絡と指示を出している。自警団の仕事に加え、ヴァルム帝国との大戦準備にこの頃は追われていた。そうでなくとも人に囲まれることの多い夫と内密に話せる時間は就寝前しかない。最初こそは甲斐甲斐しく寝ずに待ってはみたものの、思うようには待ちきれず。段々と睡魔との戦いに敗れるようになって今では不戦敗のままだ。加えて口数の少ない名前は、ただでさえ疲れているクロムを自分とのお喋りに付き合わせることも気が引いてしまう。結果、すれ違いの日々と相成った。だからこの日、静かな場所で二人きりということ事態、久々の名前には嫌にも緊張を高めてしまうのだった。
クロムは縮こまる名前の隣にどっかりと座り込み、あまり顔色が良くない名前へ目を配る。
「珍しいな。名前がこんな時間まで起きているなんて」
「すみません、お疲れのところ…ちょっと、相談したいことがあって」
「なんだ?」
「ソワレさんとの修行について、です」
「…あぁ。聞いたのか」
「どうしてあんなことを…」
クロムは渋い顔をしてはいたが、名前の肩を叩いて窘めるように言葉を紡ぐ。名前の目を見て、しっかりとした口調でだ。
「名前。これからヴァルムと大きな戦いになる。生半可な力で奴らに対抗出来るとは、俺は思えん」
「……それは、私が力不足だといいたいのでしょうか…」
「あぁ、そうだ」
「……っ」
「お前の弓の腕が確かなのはよく理解している。…だが何故、名前はこの戦いに不慣れな剣を選んだんだ?」
「…それは……私…クロム様のお側で戦えるようにと…思って」
「…俺はお前に剣を持って欲しくなかった」
「で、でも前は…!」
「あぁ。前に俺はお前に剣を教えると約束した。だが今は違う。剣を持って、前線で戦うことが体の弱い名前に務まるとは思えない。…思いたくもない」
「…でも…」
「着いてくるなとは言わん。名前は俺をよく支えてくれるし、俺が傍にいるときは名前を守れる。だが…そんなときばかりじゃないのが、この間の戦いでよくわかっただろう?」
「……」
「わかったな?名前。どうかお前は、こうして俺の傍で俺を支えてくれ」
「………うん…」
クロムは名前が腑に落ちないという表情をしながら頷いているにも関わらず、その妻の頭を自分へ引き寄せて額へ口付けた。そうなると名前はますます口を結んでしまう。クロムは優しく微笑むばかりで己の気持ちを理解してはくれない。しかし、そんな不満を口には出来なかった。過保護だ、というリズの声を思い出しながら、それでもクロムに逆らえないのは惚れた弱味というものだ。
名前は仕方なく、クロムに抱きつき目を閉じた。夫の寝間着に皺を作りながら、わだかまりのする心を忘れるように努める為だ。クロムは己の言い分に反意を表さない妻に満足したのか、それ以降もうなだれる名前をただただ慰めるのだった。