#05.よかった…守れた…!
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「みんなをすぐに集めてくれ!!」
「…!…何があった」
「暗殺者が城に!!」
ロンクーは素早く立ち上がり、腰元の刀をぐっと握りながらルフレを押し退けて出て行った。騎士二人も同じく判断速く身支度と呼び掛けに走った。
残された名前があわあわと首を振り、困惑のままルフレを見た。
「あ…あんさつしゃ…?」
「苗字、君も早く城へ!エメリナ様が危ないんだ!!」
「え、エメリナ様が!?はっ…は、はい!」
足を絡ませながら、弓を持ち矢筒を背負った。
皆を呼びに行ったルフレと別れ、慌ただしくアジトを出た名前は暗闇の道に目をいからせる。
暗殺だなんて、本当にあるのか。
息を切らせて巡る思考はまだ現実味を帯びていなかった。確かに現世でもあった。それは遠い過去の単語だったし、身近には使われないものだ。
だけど、名前にだってその意味くらいはある。
名前は思い出していた。熱に浮かれていた眼でも、神々しく微笑む彼女の笑みを。こんな自分にも優しく、抱きしめてくれた暖かさを。
物騒な単語を聞いたせいか、沸き上がる不安が名前の心と身体をただ掻き立てていた。
この闇がいけない。灯り少なくぼんやりとした景色はその先が見えない。だが、そのために泣き出しそうな顔色は闇に紛れて誰にも気取られる心配はいらなかった。
怪しい人影を避けるようにしたものだから、息咳ききって名前は城内に入った。
そこには既に剣を取り戦うクロムと、彼と背を向け合いながら戦う剣士が一人。
声を上げず口を結んで名前は驚いた。
見覚えがあった。あの、忘れられないこの世界に落とされた日に出会った青年だ。
「ぼーっとするな!!」
「っ!」
「死にたいのか!」
「ご…ごめんなさい!」
クロム達に気を取られていたが、傍らにはロンクーが愛剣を手に控えてくれていた。さらにロンクーの足下には男の伏した姿もある。戦いは始まっているのだ。名前は頭を振り、矢筒から矢を引き当てて弓にあてがった。さらに続々と仲間達が合流してきた。
それでも周りを気にせずにはいられない。一番の懸念を消しておきたかった。
「…っ!エメリナ様…!」
名前は部屋の影になるように隠れつつも、心配そうに戦場を伺う彼女を見つけて駆け寄った。エメリナは名前の姿を見て、強ばった表情をしながら声を張った。
「苗字…!貴方も戦いを…お逃げなさい、巻き込まれてはいけません!」
「……!」
「苗字…」
「ま…守ります!この弓で…もらった弓で、絶対守ります!」
名前は賢明に首を振って見せた。
怪我のない様子からほっと安心したものの、エメリナの胸中と自分の本心を思うと、先程の言葉は自分を言い聞かせているようなものだった。
でもその言葉だって嘘ではない。
エメリナはきっと、戦わせる為に弓を与えたわけではないだろうし、そう言いたかったのだとわかる。しかし戦う意志を持ったのは自分で、そして守りたいと願ったのも事実だ。
名前はエメリナに背を向けて、来た道を引き返す。彼女の顔を見ていると甘えてしまいそうになる。間違いではないと言うかもしれないが、それだけは名前自身が許さなかったのだ。
しなる弓から放たれる矢は、無惨にも壁に突き刺さる。これは何度目かしれたものではない。
屋内の戦闘を初めて体験する名前は、死角の多さと狭い通路に苦戦していた。何より敵は暗殺者。すばしこい対応はお手の物で、名前の矢をかわしたかと思えば、狙われないように角をゆく。名前の舌打ちも重なった。
そのとき、そうして確実に距離を詰めてきた一人の凶刃に気づいたのは、すぐ目の前で剣の帯びた光に目が眩まされた瞬間だった。避けようにも反応が遅かった名前は反射的に弓を構えて防御に出た。大事な弓に違いないが、咄嗟の判断では構っていられなかった。
「危ない!!」
「…っ」
「はぁっ!」
翻るマントに見覚えがあった。あの、仮面を付けていた青年のものだ。
しかし、目の前の人物は暗闇にも負けない鮮やかな長い青髪をした少女である。
遠目ではわからなかったが、名前を助けた剣士は同じ年頃の女だったのだ。
驚きを隠せない名前を置いて、女剣士はそのまま襲った暗殺者を切り捨てる。最後の唸り声をあげて、男は崩れ落ちた。名前はその瞬間目を反らす。
「………っ」
「大丈夫ですか!」
「あ…は…はい…」
聡明そうな美しい顔にのぞき込まれ、名前はパチパチと瞬いた。あのときの仮面がないためか、もしかすると夢の中で会ったような、という感覚だった。
「よかった…守れた…!」
「あ……す、すみません…」
「いいえ!ご無事でよかった。何処かに怪我は?本当に大丈夫ですか?」
「……」
まくし立てる少女に手を握られ、しかも段々と触れる力が強くなっていく。名前は真っ赤になりながら首を振った。
剣士はほっと溜息を吐いて、にこりと微笑んだ。
「あっ…」
「え?」
「ごめんなさい、行かなくちゃ…!」
「あっ…あ、あの…!」
「ごめんなさい!」
突如、名前の視界にルフレの姿が見えた。側のリズと怪我をしたリヒトを庇いつつ、どうやら一人、賢明に戦っているようだった。
すぐに行かなくては、という使命感にかられる。剣士の手を優しく振り払い、名前はまた駆けだしていた。
残された青髪の女は剣士の顔から、不安そうな面もちをした年相応の少女となって、名前を見送ったのだった。
「苗字さん!」
「大丈夫っ?」
「私は平気!でもリヒトが…」
「へ…平気だよ…これくらい…」
「駄目!動いちゃ!」
いてて、と膝を付いてなだれるリヒトのローブに血を見て、名前は青くなる。リズは何度も杖を振り、治療を続けた。
そんな名前に気づいたルフレが助かったと言いたげに声をあげた。
「良いところに!一緒に戦ってくれ!」
「…はい!」
名前はすかさず矢を取り、ルフレの横で放った。しかしさっきまでと全く変わらずに壁に一直線。これが牽制になればまだいいが、と出来ない自分に名前は歯噛みした。
「落ち着くんだ。苗字は屋内戦闘は初めてだったね?」
「は、…はい…すみません、役立たずで…」
「そんなことはないよ。…いいかい?相手にとって隠れる場が多いということは、相手にとっても死角が多いということだ」
「!」
「相手にとっての死角を探すんだ。出来るかい?」
名前は頷いた。それこそ初めての試みではあったが、出来ないと言っていい場面ではない。それに相手から見えない位置を探すくらいなら出来そうだと踏んだのだ。
名前は呼吸音を静め、足を擦るようにして駆けた。壁に寄り添うと、音もなく弦を引く。
騒がしい戦闘音から微量の足音を聞き耳、引き絞る弓もギリギリと鳴るが、それを聞いたのは名前だけだ。
ひゅん、と飛んでいったかと思えば、次には男の溜息に似た叫声が響いてそれは倒れた。
息を飲み、歯を噛みしめて敵の死を受け入れる。名前は溜息さえ殺してみせた。
「…っ!」
「力まないで。…大丈夫、僕が傍にいるから」
「…うん…」
いつの間にか揺れていた肩をルフレに掴まれて支えを受ける。名前は泣きそうな眼を瞼で一度覆いきると、水分の多い視界のまま、矢をつがえ、次の獲物を狙ったのだった。
「…!…何があった」
「暗殺者が城に!!」
ロンクーは素早く立ち上がり、腰元の刀をぐっと握りながらルフレを押し退けて出て行った。騎士二人も同じく判断速く身支度と呼び掛けに走った。
残された名前があわあわと首を振り、困惑のままルフレを見た。
「あ…あんさつしゃ…?」
「苗字、君も早く城へ!エメリナ様が危ないんだ!!」
「え、エメリナ様が!?はっ…は、はい!」
足を絡ませながら、弓を持ち矢筒を背負った。
皆を呼びに行ったルフレと別れ、慌ただしくアジトを出た名前は暗闇の道に目をいからせる。
暗殺だなんて、本当にあるのか。
息を切らせて巡る思考はまだ現実味を帯びていなかった。確かに現世でもあった。それは遠い過去の単語だったし、身近には使われないものだ。
だけど、名前にだってその意味くらいはある。
名前は思い出していた。熱に浮かれていた眼でも、神々しく微笑む彼女の笑みを。こんな自分にも優しく、抱きしめてくれた暖かさを。
物騒な単語を聞いたせいか、沸き上がる不安が名前の心と身体をただ掻き立てていた。
この闇がいけない。灯り少なくぼんやりとした景色はその先が見えない。だが、そのために泣き出しそうな顔色は闇に紛れて誰にも気取られる心配はいらなかった。
怪しい人影を避けるようにしたものだから、息咳ききって名前は城内に入った。
そこには既に剣を取り戦うクロムと、彼と背を向け合いながら戦う剣士が一人。
声を上げず口を結んで名前は驚いた。
見覚えがあった。あの、忘れられないこの世界に落とされた日に出会った青年だ。
「ぼーっとするな!!」
「っ!」
「死にたいのか!」
「ご…ごめんなさい!」
クロム達に気を取られていたが、傍らにはロンクーが愛剣を手に控えてくれていた。さらにロンクーの足下には男の伏した姿もある。戦いは始まっているのだ。名前は頭を振り、矢筒から矢を引き当てて弓にあてがった。さらに続々と仲間達が合流してきた。
それでも周りを気にせずにはいられない。一番の懸念を消しておきたかった。
「…っ!エメリナ様…!」
名前は部屋の影になるように隠れつつも、心配そうに戦場を伺う彼女を見つけて駆け寄った。エメリナは名前の姿を見て、強ばった表情をしながら声を張った。
「苗字…!貴方も戦いを…お逃げなさい、巻き込まれてはいけません!」
「……!」
「苗字…」
「ま…守ります!この弓で…もらった弓で、絶対守ります!」
名前は賢明に首を振って見せた。
怪我のない様子からほっと安心したものの、エメリナの胸中と自分の本心を思うと、先程の言葉は自分を言い聞かせているようなものだった。
でもその言葉だって嘘ではない。
エメリナはきっと、戦わせる為に弓を与えたわけではないだろうし、そう言いたかったのだとわかる。しかし戦う意志を持ったのは自分で、そして守りたいと願ったのも事実だ。
名前はエメリナに背を向けて、来た道を引き返す。彼女の顔を見ていると甘えてしまいそうになる。間違いではないと言うかもしれないが、それだけは名前自身が許さなかったのだ。
しなる弓から放たれる矢は、無惨にも壁に突き刺さる。これは何度目かしれたものではない。
屋内の戦闘を初めて体験する名前は、死角の多さと狭い通路に苦戦していた。何より敵は暗殺者。すばしこい対応はお手の物で、名前の矢をかわしたかと思えば、狙われないように角をゆく。名前の舌打ちも重なった。
そのとき、そうして確実に距離を詰めてきた一人の凶刃に気づいたのは、すぐ目の前で剣の帯びた光に目が眩まされた瞬間だった。避けようにも反応が遅かった名前は反射的に弓を構えて防御に出た。大事な弓に違いないが、咄嗟の判断では構っていられなかった。
「危ない!!」
「…っ」
「はぁっ!」
翻るマントに見覚えがあった。あの、仮面を付けていた青年のものだ。
しかし、目の前の人物は暗闇にも負けない鮮やかな長い青髪をした少女である。
遠目ではわからなかったが、名前を助けた剣士は同じ年頃の女だったのだ。
驚きを隠せない名前を置いて、女剣士はそのまま襲った暗殺者を切り捨てる。最後の唸り声をあげて、男は崩れ落ちた。名前はその瞬間目を反らす。
「………っ」
「大丈夫ですか!」
「あ…は…はい…」
聡明そうな美しい顔にのぞき込まれ、名前はパチパチと瞬いた。あのときの仮面がないためか、もしかすると夢の中で会ったような、という感覚だった。
「よかった…守れた…!」
「あ……す、すみません…」
「いいえ!ご無事でよかった。何処かに怪我は?本当に大丈夫ですか?」
「……」
まくし立てる少女に手を握られ、しかも段々と触れる力が強くなっていく。名前は真っ赤になりながら首を振った。
剣士はほっと溜息を吐いて、にこりと微笑んだ。
「あっ…」
「え?」
「ごめんなさい、行かなくちゃ…!」
「あっ…あ、あの…!」
「ごめんなさい!」
突如、名前の視界にルフレの姿が見えた。側のリズと怪我をしたリヒトを庇いつつ、どうやら一人、賢明に戦っているようだった。
すぐに行かなくては、という使命感にかられる。剣士の手を優しく振り払い、名前はまた駆けだしていた。
残された青髪の女は剣士の顔から、不安そうな面もちをした年相応の少女となって、名前を見送ったのだった。
「苗字さん!」
「大丈夫っ?」
「私は平気!でもリヒトが…」
「へ…平気だよ…これくらい…」
「駄目!動いちゃ!」
いてて、と膝を付いてなだれるリヒトのローブに血を見て、名前は青くなる。リズは何度も杖を振り、治療を続けた。
そんな名前に気づいたルフレが助かったと言いたげに声をあげた。
「良いところに!一緒に戦ってくれ!」
「…はい!」
名前はすかさず矢を取り、ルフレの横で放った。しかしさっきまでと全く変わらずに壁に一直線。これが牽制になればまだいいが、と出来ない自分に名前は歯噛みした。
「落ち着くんだ。苗字は屋内戦闘は初めてだったね?」
「は、…はい…すみません、役立たずで…」
「そんなことはないよ。…いいかい?相手にとって隠れる場が多いということは、相手にとっても死角が多いということだ」
「!」
「相手にとっての死角を探すんだ。出来るかい?」
名前は頷いた。それこそ初めての試みではあったが、出来ないと言っていい場面ではない。それに相手から見えない位置を探すくらいなら出来そうだと踏んだのだ。
名前は呼吸音を静め、足を擦るようにして駆けた。壁に寄り添うと、音もなく弦を引く。
騒がしい戦闘音から微量の足音を聞き耳、引き絞る弓もギリギリと鳴るが、それを聞いたのは名前だけだ。
ひゅん、と飛んでいったかと思えば、次には男の溜息に似た叫声が響いてそれは倒れた。
息を飲み、歯を噛みしめて敵の死を受け入れる。名前は溜息さえ殺してみせた。
「…っ!」
「力まないで。…大丈夫、僕が傍にいるから」
「…うん…」
いつの間にか揺れていた肩をルフレに掴まれて支えを受ける。名前は泣きそうな眼を瞼で一度覆いきると、水分の多い視界のまま、矢をつがえ、次の獲物を狙ったのだった。