#05.よかった…守れた…!
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人の姿をした異形を射止めるのも躊躇いがなくなった。
隣国ペレジアとの戦争が囁かれ、不穏な空気を纏うイーリス行脚が為されて時間が経ったことを意味していた。世情が荒れるほど至るところで屍兵が湧き出て被害が起こる。クロム自警団はその全てに対応していた。戦いの準備に明け暮れるイーリス兵達が動けない以上、遊軍であるクロム達が動くほかなかったのだ。それはある意味、団の動きが活発なので、名前の人探しには好都合であった。
しかし未だに自警団員として身を置く現状を打破するには至らない。名前の拙い説明に親身になってくれる者もいれば、面倒になったのかあしらわれもした。
戦いも、人探しも、名前の寿命を削るような労力だった。それでも名前は動くしかなかった。あの青年が、自分から出向いてくるとは思えなかったのだ。
先程矢に貫かれた屍兵が最後だったらしい。フレデリクの報告を聞き終えると、クロムはほっと安堵の笑みを漏らすドニと話しているらしい、彼女の後ろ姿に声をかけた。
「怪我はないか。ドニ、苗字」
「クロム様!はい、おらはピンピンしてるべ」
「あ…はい。…私もなんとも…」
「そうか、それはよかった」
ニコニコ笑う青年に心穏やかになるも、隣の名前はふいっと歩き出してしまった。無碍にあしらわれたわけではない。名前はクロムに視線で礼をしたし、ドニに用があったのだろうと考えたのだ。
クロムの胸の内は穏やかなれど暗い。
「あの、クロム様?顔色が悪いべ、どうかしただ?」
「いや、なんでもない。…なぁ、ドニは苗字と仲がいいのか?」
「そりゃあフレデリクさんの入団試験を一緒に受けた仲だべ。それから仲良くさせてもらってるだ」
「そうか。ドニも無理はするなよ?いつだって俺たちは共に戦っているんだからな」
「はいだべ!おら、足を引っ張らないように頑張るべ!」
人の良い青年はペコりと頭を下げると駆けていった。ドニの向かう先は妹リズと寝癖を揺らしたソールの元のようだ。
クロムは、姿も見えなくなってしまった名前を追いかける。
見失ってしまったので、指標もなく周りを見回していたが、大きな魔道士の帽子の陰に、彼女がいつも大事そうに抱える弓が覗けてクロムは笑った。
「苗字、ミリエル」
「……!」
「クロムさん。何かご用ですか?」
「あぁ。二人は何してるんだ?」
「はい。今苗字さんの射形を研究させて頂いていまして。二、三質問を」
「何かご用ですか…?」
「あぁ、いや。俺も苗字の弓に興味があって」
クロムはそこで話を区切った。名前は相変わらず訝しげな表情をしていて、対してミリエルは淡々とそこに佇んでいる。弓に興味がある、と言うクロムの目的が自分と同じであると理解したからだ。ならば共に聞くのが効率がいいと判断した。
しかし、そんな彼女の肩を優雅に叩く手袋が。
「ミリエル君。弓ならば私がご教授しようじゃないか」
「ヴィオールさん」
「苗字君の腕もなかなかだが、私の貴族的な弓捌きも負けてはいないと思うのだが?」
「…そうですね。しかし、貴方の射形はごく一般的なものかと。私が興味があるのは苗字さんの弓術であって、打ち方はもちろん、呼吸や心構えなどまだ理解の域に達しては…」
「これは心外だ。それではより貴族的な弓術を華麗に披露しようじゃないか!」
「…貴族的な弓術…それは興味があります。是非観察させてください」
一瞬にして賑やかになって、そして去っていった。ヴィオールは嵐のようにミリエルを連れ去って歩いていく。オーバーリアクションの男達を呆然と見送る残された二人。だったが、苗字もクロムが話さないのかと判断して一歩踏み出した。
「苗字!」
「あ……はい」
「何処かに出掛けるのか?」
「……どうしてですか?」
「いや、最近野営地を抜け出していると聞いたから」
「…了承を頂かないといけませんでしたか?」
「そんなことはないが…」
「そうですか…。それはよかった」
名前はほっと溜息を吐いて胸を抑えると、事務的に頭を深深と下げてから颯爽と歩き出して行った。肝心の答えをクロムに告げることもなく。クロムは手を伸ばして制止をかけようとしたが、名前のそんな仰々しい一面に面食らって、その手だけが呆然と宙を浮いたまま。
また駄目だったか、と顔は俯き、その手は剥き出した後ろ頭をかきむしるものになるのだった。
隣国ペレジアとの戦争が囁かれ、不穏な空気を纏うイーリス行脚が為されて時間が経ったことを意味していた。世情が荒れるほど至るところで屍兵が湧き出て被害が起こる。クロム自警団はその全てに対応していた。戦いの準備に明け暮れるイーリス兵達が動けない以上、遊軍であるクロム達が動くほかなかったのだ。それはある意味、団の動きが活発なので、名前の人探しには好都合であった。
しかし未だに自警団員として身を置く現状を打破するには至らない。名前の拙い説明に親身になってくれる者もいれば、面倒になったのかあしらわれもした。
戦いも、人探しも、名前の寿命を削るような労力だった。それでも名前は動くしかなかった。あの青年が、自分から出向いてくるとは思えなかったのだ。
先程矢に貫かれた屍兵が最後だったらしい。フレデリクの報告を聞き終えると、クロムはほっと安堵の笑みを漏らすドニと話しているらしい、彼女の後ろ姿に声をかけた。
「怪我はないか。ドニ、苗字」
「クロム様!はい、おらはピンピンしてるべ」
「あ…はい。…私もなんとも…」
「そうか、それはよかった」
ニコニコ笑う青年に心穏やかになるも、隣の名前はふいっと歩き出してしまった。無碍にあしらわれたわけではない。名前はクロムに視線で礼をしたし、ドニに用があったのだろうと考えたのだ。
クロムの胸の内は穏やかなれど暗い。
「あの、クロム様?顔色が悪いべ、どうかしただ?」
「いや、なんでもない。…なぁ、ドニは苗字と仲がいいのか?」
「そりゃあフレデリクさんの入団試験を一緒に受けた仲だべ。それから仲良くさせてもらってるだ」
「そうか。ドニも無理はするなよ?いつだって俺たちは共に戦っているんだからな」
「はいだべ!おら、足を引っ張らないように頑張るべ!」
人の良い青年はペコりと頭を下げると駆けていった。ドニの向かう先は妹リズと寝癖を揺らしたソールの元のようだ。
クロムは、姿も見えなくなってしまった名前を追いかける。
見失ってしまったので、指標もなく周りを見回していたが、大きな魔道士の帽子の陰に、彼女がいつも大事そうに抱える弓が覗けてクロムは笑った。
「苗字、ミリエル」
「……!」
「クロムさん。何かご用ですか?」
「あぁ。二人は何してるんだ?」
「はい。今苗字さんの射形を研究させて頂いていまして。二、三質問を」
「何かご用ですか…?」
「あぁ、いや。俺も苗字の弓に興味があって」
クロムはそこで話を区切った。名前は相変わらず訝しげな表情をしていて、対してミリエルは淡々とそこに佇んでいる。弓に興味がある、と言うクロムの目的が自分と同じであると理解したからだ。ならば共に聞くのが効率がいいと判断した。
しかし、そんな彼女の肩を優雅に叩く手袋が。
「ミリエル君。弓ならば私がご教授しようじゃないか」
「ヴィオールさん」
「苗字君の腕もなかなかだが、私の貴族的な弓捌きも負けてはいないと思うのだが?」
「…そうですね。しかし、貴方の射形はごく一般的なものかと。私が興味があるのは苗字さんの弓術であって、打ち方はもちろん、呼吸や心構えなどまだ理解の域に達しては…」
「これは心外だ。それではより貴族的な弓術を華麗に披露しようじゃないか!」
「…貴族的な弓術…それは興味があります。是非観察させてください」
一瞬にして賑やかになって、そして去っていった。ヴィオールは嵐のようにミリエルを連れ去って歩いていく。オーバーリアクションの男達を呆然と見送る残された二人。だったが、苗字もクロムが話さないのかと判断して一歩踏み出した。
「苗字!」
「あ……はい」
「何処かに出掛けるのか?」
「……どうしてですか?」
「いや、最近野営地を抜け出していると聞いたから」
「…了承を頂かないといけませんでしたか?」
「そんなことはないが…」
「そうですか…。それはよかった」
名前はほっと溜息を吐いて胸を抑えると、事務的に頭を深深と下げてから颯爽と歩き出して行った。肝心の答えをクロムに告げることもなく。クロムは手を伸ばして制止をかけようとしたが、名前のそんな仰々しい一面に面食らって、その手だけが呆然と宙を浮いたまま。
また駄目だったか、と顔は俯き、その手は剥き出した後ろ頭をかきむしるものになるのだった。