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松野カラ松、空白の3時間

「え?聖書を売った?」
あの6つ子緊急会議からわずか1週間後のことであった。
トド松の言葉に、思わずおそ松は布団から跳ね起きた。日曜、昼の12時を回った頃であった。
「カラ松兄さんが言ってたよ、さっき。今下の階にいるけど。昨日、古本屋に売りに行ったんだってさ」
トド松はソファにストンと腰掛けやれやれと首を振った。
「なんでも、オレは神自体を愛していたかと言えばそうではないとか、己の人生観と合ってないだとか、いろいろ言ってたよ」
「ほえ~、俺より気まぐれな奴だねぇ~」
あんなに熱弁していたカラ松がそんなに早くやめてしまうとは思ってもいなかったので、おそ松は心底驚いていた。
「ほんっと気まぐれ。心配して損した気分~」
「最初はノリノリだったくせに、トッティ」
「それは、おそ松兄さんもでしょ?」
トド松は意地悪くニヤリとした。
「さてと、ボクはこれから友達とショッピングの予定があるから。おそ松兄さんも早くご飯食べないと、主食がポテチになるよ~」
「それは……やっぱダメ。白米に尽きる」
おそ松は布団を手際よく丸め、押し入れに押し込むと、白い長袖Tシャツと、赤いツナギを取り出した。スマートフォンが鳴り、トド松はこれから会うであろう相手と電話をし始めた。おそ松は階段を下ると、居間に1人ちゃぶ台の前に座っているカラ松を見つける。手鏡を見ながら前髪を整えている。黒いレザージャケットに白いシャツ、スキニーという姿だ。
「……おはようカラ松」
おそ松は、カラ松のすぐ隣に座り、冷たくなった白米と味噌汁を喉に流し込んだ。
「おそ松か」
カラ松は手鏡から目を離して、飯をかき込むおそ松を見た。
「お前、教会行くのやめたんだって?」
「あぁ。やめた。トド松から聞いたなら、聞いたとおりさ」
カラ松は手鏡に視線を戻し、今度は己の顔の美しさに惚れ込んでいるようだった。
「ずいぶんと決断が早いじゃん。まっ、終わったことだし、別にこっちはなんも迷惑こうむってないし、いいけどね~」
おそ松は最後の一口を咀嚼し終えると、ふぅと息をはいて両腕を後ろについた。
「それならよかった」
カラ松は手鏡を置いてすっくと立ち上がると、スタスタと玄関の方へ歩いていく。
「ん?出かけるのか?」
「フッ……カラ松ガールズに会ってくるぜ」
「へいへい、がんばってね~」
おそ松はふと、立ち上がって玄関の方へ走り寄った。
「なんだ、見送りとはご丁寧だな」
髪の毛の先から爪先まで、己のファッションセンスでキメたカラ松は、すでにサングラスを着用していた。
「まぁ、たまにはいいじゃん?」
おそ松は鼻の下をこする。
「……知ってるか、おそ松」
カラ松はくるりと背を向けた。
「あの宗教では、人は死んだ時、霊は神の元に行くから、墓という概念はさほど重要じゃないみたいだ」
「……はい?」
「つまり、骨なんていらないってことだ」
カラ松は、玄関の引き戸をガラガラと音を立てて開けた。
「行ってくるぜ」
「……行ってらっしゃーい」
ガラガラと音を立てて、玄関の扉は閉まった。カラ松が大通りの方へと歩いていくのが聞こえた。
おそ松は階段をかけ上る。トド松はまだ電話をしていた。ソファ裏の窓を勢いよく開け、ベランダに出た。見下ろすと、カラ松が革靴の音を響かせてスタスタと歩いていくのが見えた。
「……お前のその背中にも骨がついてるけどな」
レザージャケットの背中にプリントされたドクロマークを見ながら、おそ松は苦笑いした。
「俺たち6つ子、骨まで一緒がいいってこと?それはさすがにヤバいんじゃない、カラ松」


松野カラ松、空白の3時間/終
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