small talk

乱れたシーツの海の中ティファは逞しい腕に頭を乗せ、優しく髪を梳いてくれる其の人の面差しを眺めていた。

身体を繋げた後の彼は満ち足りた表情をしている。
其れが何だか嬉しくてでもまだ少しの羞恥は拭えないけれど、自分を必要とし、求められる事は何よりもの喜びだった。

ティファの額に降りる髪を掻き分ける指先が、頬の輪郭に沿う。
間近に迫ったクラウドの整った顔立ちに思わず感嘆の声を上げていた。

「…綺麗…」

言って、あ、しまった。と思う。
男の人にとって、いやクラウドにはきっと余り良い褒め言葉ではないのかもしれない。

「…複雑な気分だ…」

案の定クラウドは少しだけ、むっとしたような表情をしている。
怪訝な顔で暫く沈黙していたクラウドだけれど、宥めるように金の髪を撫でれば機嫌が戻ったのか目蓋にキスを落とされてティファは擽ったさから片目を閉じた。

「ふふ、」

ティファはクラウドの首に腕を回す。
クラウドもしっかりと抱き締め返す。

肌が触れる温もりを感じて大きな安堵に包まれた。

そして暫くしてクラウドが口を開く。

「綺麗なのはティファの方だ」

夜空に星屑が煌々と散ったような、美しいクラウドの瞳と視線が絡む。
ティファは歯痒く微笑むと、ありがとう。と呟いた。

ふ、と微笑ったクラウドの唇が降ってくる。
何度も、何度も自分の唇に。
それはまるで流れ星のよう。
幼い頃の思い出が蘇る。
満点の星空の下交わした給水塔の約束。
〝ヒーローに助けてもらう〟
唯の思い付きではあったけれど、女の子なら誰でも憧れるだろう。
クラウドは、不満気に声を漏らしたが、それでも優しい彼は『分かった』と口にしてくれた。
二人だけの秘密の約束。
交わした言葉は少なかったけれど、浮き足立った心が自然と足元をゆらゆら揺らしていた。

胸を焦がすような、初めての〝好き〟という感情にあの夜は中々寝付けずにいたという事まで良く覚えている。

「ティファ」

一つ、一つの宝物を数えるように懐かしい思い出に浸っていたら、思考を遮る程鮮明に突然クラウドに名を呼ばれた。

「ん?」
「…上の空だな…」
「ふふ、ごめんなさい、昔のクラウドを思い出してたら何だか懐かしくて」

思い出ばかりに集中して、クラウドとのキスをほんの少し疎かにしてしまっていたらしく、クラウドが〝面白くない〟といった表情で見詰めてくる。

「…昔の俺?」
「うん、給水塔の…」
「ああ、あの時のティファのワンピース、ティファに良く似合ってた」
「本当?」
「うん、凄く可愛かった」

言ってティファの頭を撫でる。
ベッドの上でのクラウドは饒舌だ。

「嬉しい…」

ティファは頬を紅潮させ、ふわりと笑んだが実は周りの男の子達に評判だったワンピースだという事は内緒にしておかなければならない。

何故なら…

「…でもティファ、昔の俺より今の俺を見てくれ」
「…えっ?」

と、ティファが眼を丸くすると、クラウドは先程よりも強く、深く唇を重ねてきた。
その口付けは先程までの流れ星みたいな口付けでは無く、これから再び始まる長い夜を思わせる濃密なキスだった。

思い出しているのは少年のクラウドだというのに、其れすらも許さないと嫉妬を露わにする彼だから。
あの日、着て行く服を若葉色のワンピースに決めた経緯は絶対に言っては駄目な気がする。…ー

ティファの決意の後僅かに開いた唇に舌が差し込まれる。
水音が響き始めると軈て思考は奪われていく。
そして今度こそクラウドのキスに没頭して、彼の唇を濡らした。
互いに熱が上がる口付けを交わす。
蕩ける程繋がってキツく閉じた目蓋の奥、星空の下の少年のクラウドに『またね、』と声を掛ける。
特別で大切な思い出は心の中に仕舞って、〝今〟のクラウドを全身で感じ切った。



small talk
  想い出と溶け合って
     運命を重ねて…







**補足

クラウドにとっても給水塔の約束は大切な想い出ですが、私が書く独占欲の強いクラウドだったら多分ティファが昔の自分を思い出してるだけでも、クラウドは昔の自分にも嫉妬するんだろうなと思いながら書いたらこういったお話に仕上がりました笑

ここまでお読み頂きありがとうございます!
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