+5.5℃

営業を終えた店内でティファは一人カウンターに座り酒を嗜んでいた。
酒の味を覚えてからは時々こうして静かな一時を過ごす事が増えた。
クラウドが居れば彼と並んで二人、酒を傾けるが、生憎今夜は一人だ。

「クラウド…今日も遅いんだよね」
ぽつりと独言ちた言葉には寂寥感が滲む。

寂しさを紛らわせるように、アルコールがティファの喉に吸い込まれていった。

クラウドは最近忙しく、帰宅するのは深夜を周る。
時々、ティファが夜中に眼を醒ますと、隣にはクラウドが眠っていて、ティファの身体はクラウドの腕によってしっかりと抱き締められている。

少しだけ身動ぎすると、クラウドは離すものかと無意識に自分を引き寄せるものだから
それが嬉しくて彼の匂いに、温かな体温に、規則正しくリズムを刻む鼓動に安堵して、また目蓋を閉じる。

そして明け方、窓から射し込む淡い光にティファが睫毛を上げるとクラウドの姿は既に其処にない。
自分は夢を見ていたのだろうか?
一瞬、そんな言葉が頭を過ぎるがベッドに残るクラウドの微かな温もりを確かめるように隣に腕を伸ばせば、其処には確かにクラウドの余韻が残されていた。

そんな状況が続いてもう3日目。
たった3日。されど3日。

逢いたいと、欲しがりな自分は思ってしまう。

ティファははぁ、と溜息を溢した。

「仕方ないよね、お仕事なんだもん」

そうしてまたアルコールがティファの喉に消えていった。

三杯程飲んだ所でそろそろ片付けを始めようと席を立つと、ガレージから物音が聞こえてきた。

間違える筈なんてない。

クラウドだ。
クラウドが帰ってきた。

ティファはトクトクと胸を弾ませガレージの方へ向かおうと足を速めると、それよりも早くクラウドが店に顔を出した。

「ティファ?」

「クラウド…」

「まだ寝てなかったのか?」

「うん、…」

何故だか言葉に詰まってしまったティファに
くすり、と彼は微笑うと一言呟いた。

「ティファ、俺にもキツイのくれないか?」



酒を作りクラウドに差し出して、ティファは本日四杯目となる酒を自分のグラスにも注いだ。

クラウドとグラスを傾け静かに乾杯すると、彼は度数の高いそれを一気に煽った。

「クラウド、大丈夫?」

「何が?」

「キツイの、一気飲みしちゃって」

「これ位何ともない」

「ふふ、そっかクラウド、お酒強いもんね」

と穏やかに微笑めばクラウドも優しく微笑んでくれる。

クラウドはあまり口数は多くないけれど、
それでもこうしてクラウドと会話を出来るのが堪らなく嬉しいとティファは思う。

そして、ティファも4杯目の酒を飲み干し、互いのグラスが空になった所でそろそろ本当に寝なければと、自分のグラスを手に持ち水場へと持っていく。
するとクラウドも席を立ち、空になったグラスを片し出した。

カウンターの中で隣に並んだ彼に、洗うから置いといていいよ。と声を掛けると、
クラウドはグラスをシンクに置いてから布巾を手に取った。

「二人でやれば早く終わるだろ?」

と呟くクラウドの優しさにティファは胸が温かくなる。
二つのグラスを片すだけならば何分も掛からないのに、それでも俺が拭く。と申し出てくれたクラウドに、ティファは嬉しく思った。

そして同時に胸を焦がしてティファは水で濡れている手をタオルで拭うと、キュッキュッとグラスを拭くクラウドの背中にとん、と抱き付いた。

精悍な男らしい身体にしがみ付く。

しんと静まりかえった店内に、はっとクラウドの息を飲む音が響く。
ティファはクラウドの肩に額を乗せて両腕を前にまわすと指先できゅっと彼のニットを握った。

全身で感じるクラウドの温もり。
このまま離れたくないなぁ…なんて思いながら3日ぶりのクラウドを、躯に染み渡らせるかのように、ティファは大きく息を吸って目蓋を閉じた。


「…珍しいな、ティファが甘えるなんて」

彼の背中を通してクラウドの声音が伝わる。

「…甘えちゃ…だめ?」

「駄目じゃない」

そして突如振り返ったクラウドに腕を引かれ唇を塞がれた。

「…ッふ、ぅンンッ」

久しぶりの唇の逢瀬にティファの体温が上がる。
重なる吐息も抱き締めるクラウドの腕もずっと待ち焦がれていた。
時間を忘れてただ、ただ互いの唇を重ね合わせる。
触れるだけのキスはティファの胸をトクトクと高鳴らせた。
僅かに唇が離れると、ティファは眼差しに甘さを含ませ熱を帯びた視線でクラウドにこの先の行為を強請った。

彼は全て分かっているかのようにくすりと微笑む。

「ティファ、シャワーまだなんだろ?」

こくん、と頷く。

「一緒に入るか?」

クラウドと一緒に入ったら〝一緒に入る〟だけでは済まない事なんて分かってる。
けれどもそれでもいいとティファはもう一度首を縦に振ると両腕をクラウドの首に巻き付けて彼の耳元で囁いた。

「朝まで、愛して?…」

と。

+5.5℃
甘い胸に抱いて 私を溶かして
1/1ページ
    スキ