君を守る正しい方法


六月某日/晴れ

今日は偶然、なのはちゃんと会った。
駅前にいた。予定があったのかどうかはわからないが、少なくとも時間を持て余しているようには見えた。
そのまま送って帰った。帰り道では特に何も起きなかった。

妙に静かだった。
気のせいで済むなら、その方がいい。



六月某日/晴れ

今日は特に何もなかった。
なのはちゃんから連絡があった。最近よく予定が流れるらしい。今日は危ない目にも遭ったと言っていた。怪我はしていないとのことだった。

寄り道はしないで、まっすぐ帰った方がいいと返した。
そう打つ前から、今日は帰ってほしいと思っていた気がする。


六月某日/晴れ

今日は、なのはちゃんが寄り道しようとしていたらしい。
結果的には帰ることになった。駅前で会った時、そういう言い方をしていた。

一緒にいる間は特に何も起きなかった。
信号も、道も、人の流れも、妙に静かだった。
ここ数日の偏りが本当にあるのだとしたら、帰る方向にだけ都合がよすぎる気がする。

考えすぎかもしれない。
そうであってほしいとも思う。

ただ、帰ることになって少し安堵した。
それがいちばん気分が悪い。


六月某日/曇り

なのはちゃんは、また寄り道ができなかったらしい。
正確には、できなかったというより、行かずに済む方へ流された、という方が近いのかもしれない。

本人は偶然の重なりとして処理しようとしていた。
その気持ちはわかる。自分でも、そうであってほしいと思っている。
ただ、ここまで条件が揃うと、見過ごしていい範囲ではない気がする。

彼女が一人で動こうとする時にだけ、妙な支障が入る。
大きな事故ではない。傷つけるようなものでもない。
その代わり、予定が流れたり、足が止まったり、結果として帰る方向にだけ整っていく。

今日の件は、その傾向がいよいよ露骨だった。
一人では店に入れなかったのに、僕と一緒だと何も起きなかった。
あまりにも都合がよすぎる。

似たような話を少し調べた。
願いを歪めて代行するもの、という記述がいちばん近いように思える。
信じたいわけではない。
ただ、これをただの偶然として片づけるには、条件が揃いすぎている。

僕が近くにいる時だけ静かになること。
そのことに、安堵してしまうこと。
どちらも、認めるには気分のいいものではない。

明日、なのはちゃんと話すことになった。うまく誤魔化せる気は、あまりしていない。


六月某日/曇り

なのはちゃんは、もう気づいていた。
偶然ではないことにも、僕が無関係ではないかもしれないことにも。

守るのと、勝手に決めるのは違う。
そう言われて、反論できなかった。
正しいと思う。実際、その通りだ。
自分でも、たぶんずっと、そこをいちばん認めたくなかったのだと思う。

危ない目に遭ってほしくない。
一人でいるのを、あまり良く思えない。
帰ってほしい時がある。
近くにいてくれた方が安心する。

そういうことを、もっと早く、別の形で言うべきだったのだと思う。
言えなかったまま抱えた結果がこれなら、なおさらだ。

ただ、どこまでが自分の想いで、どこからがそうではないのか、まだ判然としない。
勝手に何かをやってほしいと思っていたわけではない。
けれど、無関係とも言えない。
その曖昧さが、いちばん質が悪い。

彼女は、嬉しいとは思わないとはっきり言った。
それも当然だと思う。
守るつもりで自由を奪っているのだとしたら、それを守ることと呼んでいいのか、自分にはわからない。

嫌な思いをさせたくなかった。
そう書くと、少し違う。
実際には、自分が安心したかっただけの部分もあるのだと思う。

そこまで書いて、気分が悪くなったので一度やめる。


六月某日/曇り

今日で、少なくとも以前と同じではいられなくなった。

言うべきことは、たぶん前から変わらなかった。
ただ、それを言葉にするのが遅すぎた。
遅れた分だけ、別の何かに肩代わりされる余地を与えたのだとしたら、あまりにも間が悪い。

なのはちゃんは、自分の自由を勝手に奪うやり方を拒んだ。
それは当然のことで、正しい。
守りたいと思うこと自体が間違いだとは思わない。
ただ、その方法は間違っていたのだと思う。

ここから先をどうするかは、まだひとつではない。
少なくとも、もう同じやり方で済ませるわけにはいかない。
言葉にしたことで、ようやく静まったものがあるように思う。
気のせいかもしれない。
ただ、少なくとも今日は、勝手にどこかへ寄せられる感じはなかった。

足りなかったのは、たぶん最初からこれだったのだと思う。
怪異めいたものに代行されることではなく、自分で言うこと。聞くこと。相手に決めてもらうこと。

もう勝手に肩代わりされる必要はない。
これからは、自分の言葉で伝えていくしかない。




B差分

六月某日/曇り

今日で、少なくとも以前と同じではいられなくなった。
偶然ではないことも、自分が無関係ではないことも、もう前提として扱うしかないところまで来ている。

言うべきことは、たぶん前から変わらなかった。
ただ、それを言葉にするのが遅すぎた。
遅れた分だけ、別の何かに肩代わりされる余地を与えたのだとしたら、あまりにも間が悪い。

なのはちゃんは、自分の自由を勝手に奪うやり方を拒んだ。
それは当然のことで、正しい。
守りたいと思うこと自体が間違いだとは思わない。
ただ、その方法は間違っていたのだと思う。

ここから先をどうするかは、まだひとつではない。
少なくとも、もう同じやり方で済ませるわけにはいかない。

まだ静まりきってはいない気がする。
露骨ではない。けれど、完全に消えたとも言い切れない。
弱まったのか、それとも少し形を変えただけなのか、今はまだわからない。

言いきれなかったものが残っているのだと思う。
自分の中にも、たぶん向こうにも。
だから、現象だけが消えずにいるのかもしれない。

彼女は待つと言った。
あの言葉に、少し救われた。
そのこと自体が、まだ整理しきれていない。
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