君を守る正しい方法
六月某日。
その日も空は曇っていた。雨が降るほどではないが、晴れる気もなさそうな、どっちつかずの色をしている。講義が終わって校舎を出た七宮なのはは、スマートフォンを見下ろしたまま数秒立ち止まってから、短くメッセージを打った。
『今日、ちゃんと話したい』
送ってすぐに、既読がつく。少し間を置いて返ってきたのは、“わかった”だけだった。
場所はこちらの方から指定した。駅前ではない。喫茶店でもない。大学から少し離れた、川沿いの遊歩道の端。ベンチがひとつあるだけの、夜になると人通りがかなり減る場所だった。わざわざそこを選んだのは、たぶん静かなところで話したかったからだ。少なくとも、そういうことにしておきたかった。
先に着いて、ベンチには座らず、欄干の前に立つ。川の水面は鈍く曇っていて、流れているのかどうかもぱっと見ではよくわからない。遠くの車の音だけが、薄く聞こえていた。
少しして、背後から足音がした。振り返ると、斎藤一がいた。いつも通りの顔をしている。いつも通りに見えるのに、ここまで来るともう、その“いつも通り”自体が少し怪しい。
「待たせちゃった?」
「いや、私が早かっただけ」
それだけ言って、会話が止まる。七宮なのはは一度だけ息を吸って、それから相手を見た。
「ちゃんと話そうと思って」
斎藤一は少しだけ目を伏せてから、頷いた。
「うん」
「この前の続き」
「分かってる」
そればかりだな、と少しだけ思う。相槌だけで済ませられる話ではないのに、この人はこういう時ほど余計なことを言わない。七宮なのはは欄干にもたれかけるみたいにして、少し視線をずらした。
「最近のこれ、やっぱり偶然じゃないんでしょ」
返事はすぐにはなかった。川の上を風がひとつ通り抜ける。そのタイミングだけ、妙に長く感じる。
「……そうだと思う」
やがて返ってきた声は、低く静かだった。
「怪異とか、そういう話も見たんだよね」
「見たよ」
「私も見た。胡散臭いのばっかだったけど」
少しだけ笑うみたいに言う。でも、あまりうまく笑えていない。
「願いを歪んで代行するもの、とか。守るために自由を削るもの、とか。願い主と一緒にいる時だけ静かになる、とか」
そこまで言ってから、七宮なのはは相手を見る。
「……あれ、やっぱりかなり今の状況に近いよね」
斎藤一は何も言わなかった。否定しない。それだけでもう十分だった。
「はじめちゃん、自分が関係あるかもしれないって思ってるんでしょ」
「思ってる」
今回は、返事が早かった。迷わなかったことが、逆に少し痛い。
「どこまで」
「全部はわからない」
「それはもう聞いたけど」
少しだけ語気が強くなる。七宮なのはは自分でもそれに気づいたけれど、今さら引っ込める気にはなれなかった。
「私が聞きたいの、そういうことじゃないんだよね」
斎藤一が静かにこちらを見る。七宮なのはは、握っていたスマートフォンをポケットに押し込んだ。
「ルールの話じゃなくて、はじめちゃんがどう思ってたのかの話」
その言い方に、斎藤一の目がほんの少しだけ揺れる。七宮なのははそれを見逃さなかった。
「私を帰したかったの?」
訊いた、というより、置いたに近い。
まっすぐすぎる言い方だった。でも、それくらいでいい気がした。
斎藤一はすぐには答えなかった。視線を逸らして、それからまた戻す。小さく息を吐く。
「……帰したかった日もある」
「日もある、じゃなくて」
「ある」
短く言い直される。七宮なのはは唇を引き結んだ。
「なんで」
「危ないと思ったから」
「何が?」
「君が一人でいることが」
その返答に、七宮なのはは一瞬だけ言葉を失った。言われた意味がわからないわけではない。でも、わかった途端に腹が立つ。
「それ、普通に意味わかんないんだけど」
「うん」
「うん、じゃなくて」
「意味わからないって言われるのはそうだと思う」
あまりに落ち着いた言い方に、逆に苛つく。七宮なのはは一歩だけ詰めた。
「意味わからないよ。だって私、別に子供じゃないし、帰るか寄り道するかくらい自分で決めるし、危ないかどうかだって自分で考えられるんだけど」
「知ってる」
「知ってるなら、勝手に帰らせるのは違うんじゃないの」
その言葉は、自分でも思っていた以上に強く出た。
斎藤一は黙って聞いている。反論しない。だから余計に熱が逃げない。
「守りたいのか何なのか知らないけど、行こうとした場所に行けなくなるの、普通に嫌なんだよね。予定流れるのも、寄り道失敗するのも、全部気持ち悪いし」
一度言葉が出ると、止めるのが難しい。
「この間も言ったけどさ、守るのと、勝手に決めるのは違うじゃん」
斎藤一はしばらく黙ったままだった。
風が少しだけ強くなって、七宮なのはの髪を揺らす。遠くで、何かが落ちるような音がした。その時、ポケットの中のスマートフォンが震えた。
二人とも、同時にそちらを見た。七宮なのはは眉を寄せて画面を出した。通知だけが並んでいる。大学からの一斉連絡、ニュースアプリ、どうでもいいものばかりだった。急ぎで見る必要のあるものは何もない。
「……は?」
小さく呟く。こんなタイミングで、と思う。さっきから妙にそういうことばかりだ。
斎藤一は画面を見てから、何も言わなかった。七宮なのはは通知を消して、少し苛立ったようにスマホを伏せる。
「ほんと、そういうとこ」
「そういうとこ?」
「話そうとすると、変なのが入るの」
口に出した途端、自分で少しぞっとした。でも、言ってしまった以上は引っ込められない。
「毎回、帰る方向にしようとすると静かになるのに、こういう話しようとすると、妙に邪魔が入る」
斎藤一がわずかに目を細める。
「……僕も、そう思ってた」
その返事は小さかった。けれど、はっきり聞こえた。
「思ってたんだ」
「……そうだよ」
「じゃあ、やっぱりあるんじゃん。そういうの」
斎藤一はすぐに肯定しなかった。ただ、否定もしない。
「あるのかもしれない」
「曖昧」
「はっきり言えるだけの証拠はないから」
「でも、はじめちゃんのせいかもしれないとは思ってる」
「思ってる」
七宮なのはは、一度ぎゅっと目を閉じた。苛立ちと、納得と、わけのわからない疲れが一緒に来る。
「……最悪」
「ごめん」
「そこで否定しないんだ」
「できないから」
あまりにまっすぐで、逆に詰まる。七宮なのはは目を開けて、相手を見た。
「じゃあ、何を思ってたの」
今度こそ、逃がさないつもりで訊く。
斎藤一はしばらく答えなかった。言葉を探しているのが見えるくらい、珍しく迷っていた。
「……危ない目に遭わせたくなかった」
最初に出てきたのは、それだった。
「それはもう聞いた」
「……そうだね」
「その先」
沈黙。
短くない沈黙。川の流れる音より、その黙りの方がよほど耳についた。
「……君が一人でいることを、あんまり良く思ってなかった」
やがて、低い声が落ちる。
七宮なのはは息を止めた。思っていたより、ずっと生っぽい言い方だった。
「僕の、見えるところにいてほしかった」
斎藤一は目を逸らさなかった。それが余計に逃げ場をなくす。
「帰ってほしかった日もある。危ないと思ったから、っていうのも本当。でも、それだけじゃない」
言葉が、少しずつ出てくる。出てきてしまっている。今まで言わなかったものが、ようやく形になり始めているのがわかる。
「僕の目の届くところにいてくれた方が、安心だった」
七宮なのはは、その場で、指先をぎゅっと握った。それはほとんど告白みたいなのに、きれいではなかった。でも、誤魔化しもしなかった。
「……なにそれ。意味わかんない」
思わず出た言葉は、少し掠れていた。
「……ごめん」
「私の行動を、勝手にそういうので決められるのは嫌」
「うん」
「守りたいならそう言ってよ」
そこで初めて、斎藤一の表情がわずかに揺れた。七宮なのははそれを見て、少しだけ唇を噛む。
「言葉にしないで、勝手に別の何かにやらせるの、いちばん最悪なんだけど」
「……やらせようと思ってたわけじゃない」
「でも結果的にそうなってるでしょ」
「そうだね」
その認め方が、ひどく静かだった。七宮なのはは腹が立つのに、同時に少しだけ苦しくなる。この人も、たぶんずっとわからないまま抱えていたのだろうと思ってしまうから。
空の端で、小さく雷みたいな音が鳴った。雨はまだ降っていない。けれど、空気が少しだけ湿る。
「ねえ」
七宮なのはは、今度は少しだけ声を落として言った。
「それが、はじめちゃんの願いで、もしこれがその歪んだ代行の結果なんだとしたら」
斎藤一は何も言わない。
でも、聞いている。
「私は、それをそのまま受け入れる気はないよ」
ここだけは濁したくなかった。
「守りたいと思うのは君の勝手だけど、私の自由まで勝手に奪うなら、それは違う」
「うん」
「だから」
そこまで言って、七宮なのはは止まった。
だから、何だ。
――どうするのか。
そこまで来たところで、ポケットの中のスマートフォンがもう一度震えた。
今度は二人とも見ない。通知を無視して、七宮なのはは斎藤一を見た。
「……ねえ、はじめちゃん」
「……何」
「これ、このままにするつもり?」
その問いの先で、空気が少しだけ軋んだ気がした。
気のせいかもしれない。そうじゃないかもしれない。
斎藤一は、今まででいちばん長く黙った。
七宮なのはは待った。
帰る方向へ流される前に。何かに勝手に決められる前に。今度こそ、本人の口から答えを聞くために。
斎藤一が、ゆっくりと息を吸う。
――――その先を、まだ言わなかった。
その日も空は曇っていた。雨が降るほどではないが、晴れる気もなさそうな、どっちつかずの色をしている。講義が終わって校舎を出た七宮なのはは、スマートフォンを見下ろしたまま数秒立ち止まってから、短くメッセージを打った。
『今日、ちゃんと話したい』
送ってすぐに、既読がつく。少し間を置いて返ってきたのは、“わかった”だけだった。
場所はこちらの方から指定した。駅前ではない。喫茶店でもない。大学から少し離れた、川沿いの遊歩道の端。ベンチがひとつあるだけの、夜になると人通りがかなり減る場所だった。わざわざそこを選んだのは、たぶん静かなところで話したかったからだ。少なくとも、そういうことにしておきたかった。
先に着いて、ベンチには座らず、欄干の前に立つ。川の水面は鈍く曇っていて、流れているのかどうかもぱっと見ではよくわからない。遠くの車の音だけが、薄く聞こえていた。
少しして、背後から足音がした。振り返ると、斎藤一がいた。いつも通りの顔をしている。いつも通りに見えるのに、ここまで来るともう、その“いつも通り”自体が少し怪しい。
「待たせちゃった?」
「いや、私が早かっただけ」
それだけ言って、会話が止まる。七宮なのはは一度だけ息を吸って、それから相手を見た。
「ちゃんと話そうと思って」
斎藤一は少しだけ目を伏せてから、頷いた。
「うん」
「この前の続き」
「分かってる」
そればかりだな、と少しだけ思う。相槌だけで済ませられる話ではないのに、この人はこういう時ほど余計なことを言わない。七宮なのはは欄干にもたれかけるみたいにして、少し視線をずらした。
「最近のこれ、やっぱり偶然じゃないんでしょ」
返事はすぐにはなかった。川の上を風がひとつ通り抜ける。そのタイミングだけ、妙に長く感じる。
「……そうだと思う」
やがて返ってきた声は、低く静かだった。
「怪異とか、そういう話も見たんだよね」
「見たよ」
「私も見た。胡散臭いのばっかだったけど」
少しだけ笑うみたいに言う。でも、あまりうまく笑えていない。
「願いを歪んで代行するもの、とか。守るために自由を削るもの、とか。願い主と一緒にいる時だけ静かになる、とか」
そこまで言ってから、七宮なのはは相手を見る。
「……あれ、やっぱりかなり今の状況に近いよね」
斎藤一は何も言わなかった。否定しない。それだけでもう十分だった。
「はじめちゃん、自分が関係あるかもしれないって思ってるんでしょ」
「思ってる」
今回は、返事が早かった。迷わなかったことが、逆に少し痛い。
「どこまで」
「全部はわからない」
「それはもう聞いたけど」
少しだけ語気が強くなる。七宮なのはは自分でもそれに気づいたけれど、今さら引っ込める気にはなれなかった。
「私が聞きたいの、そういうことじゃないんだよね」
斎藤一が静かにこちらを見る。七宮なのはは、握っていたスマートフォンをポケットに押し込んだ。
「ルールの話じゃなくて、はじめちゃんがどう思ってたのかの話」
その言い方に、斎藤一の目がほんの少しだけ揺れる。七宮なのははそれを見逃さなかった。
「私を帰したかったの?」
訊いた、というより、置いたに近い。
まっすぐすぎる言い方だった。でも、それくらいでいい気がした。
斎藤一はすぐには答えなかった。視線を逸らして、それからまた戻す。小さく息を吐く。
「……帰したかった日もある」
「日もある、じゃなくて」
「ある」
短く言い直される。七宮なのはは唇を引き結んだ。
「なんで」
「危ないと思ったから」
「何が?」
「君が一人でいることが」
その返答に、七宮なのはは一瞬だけ言葉を失った。言われた意味がわからないわけではない。でも、わかった途端に腹が立つ。
「それ、普通に意味わかんないんだけど」
「うん」
「うん、じゃなくて」
「意味わからないって言われるのはそうだと思う」
あまりに落ち着いた言い方に、逆に苛つく。七宮なのはは一歩だけ詰めた。
「意味わからないよ。だって私、別に子供じゃないし、帰るか寄り道するかくらい自分で決めるし、危ないかどうかだって自分で考えられるんだけど」
「知ってる」
「知ってるなら、勝手に帰らせるのは違うんじゃないの」
その言葉は、自分でも思っていた以上に強く出た。
斎藤一は黙って聞いている。反論しない。だから余計に熱が逃げない。
「守りたいのか何なのか知らないけど、行こうとした場所に行けなくなるの、普通に嫌なんだよね。予定流れるのも、寄り道失敗するのも、全部気持ち悪いし」
一度言葉が出ると、止めるのが難しい。
「この間も言ったけどさ、守るのと、勝手に決めるのは違うじゃん」
斎藤一はしばらく黙ったままだった。
風が少しだけ強くなって、七宮なのはの髪を揺らす。遠くで、何かが落ちるような音がした。その時、ポケットの中のスマートフォンが震えた。
二人とも、同時にそちらを見た。七宮なのはは眉を寄せて画面を出した。通知だけが並んでいる。大学からの一斉連絡、ニュースアプリ、どうでもいいものばかりだった。急ぎで見る必要のあるものは何もない。
「……は?」
小さく呟く。こんなタイミングで、と思う。さっきから妙にそういうことばかりだ。
斎藤一は画面を見てから、何も言わなかった。七宮なのはは通知を消して、少し苛立ったようにスマホを伏せる。
「ほんと、そういうとこ」
「そういうとこ?」
「話そうとすると、変なのが入るの」
口に出した途端、自分で少しぞっとした。でも、言ってしまった以上は引っ込められない。
「毎回、帰る方向にしようとすると静かになるのに、こういう話しようとすると、妙に邪魔が入る」
斎藤一がわずかに目を細める。
「……僕も、そう思ってた」
その返事は小さかった。けれど、はっきり聞こえた。
「思ってたんだ」
「……そうだよ」
「じゃあ、やっぱりあるんじゃん。そういうの」
斎藤一はすぐに肯定しなかった。ただ、否定もしない。
「あるのかもしれない」
「曖昧」
「はっきり言えるだけの証拠はないから」
「でも、はじめちゃんのせいかもしれないとは思ってる」
「思ってる」
七宮なのはは、一度ぎゅっと目を閉じた。苛立ちと、納得と、わけのわからない疲れが一緒に来る。
「……最悪」
「ごめん」
「そこで否定しないんだ」
「できないから」
あまりにまっすぐで、逆に詰まる。七宮なのはは目を開けて、相手を見た。
「じゃあ、何を思ってたの」
今度こそ、逃がさないつもりで訊く。
斎藤一はしばらく答えなかった。言葉を探しているのが見えるくらい、珍しく迷っていた。
「……危ない目に遭わせたくなかった」
最初に出てきたのは、それだった。
「それはもう聞いた」
「……そうだね」
「その先」
沈黙。
短くない沈黙。川の流れる音より、その黙りの方がよほど耳についた。
「……君が一人でいることを、あんまり良く思ってなかった」
やがて、低い声が落ちる。
七宮なのはは息を止めた。思っていたより、ずっと生っぽい言い方だった。
「僕の、見えるところにいてほしかった」
斎藤一は目を逸らさなかった。それが余計に逃げ場をなくす。
「帰ってほしかった日もある。危ないと思ったから、っていうのも本当。でも、それだけじゃない」
言葉が、少しずつ出てくる。出てきてしまっている。今まで言わなかったものが、ようやく形になり始めているのがわかる。
「僕の目の届くところにいてくれた方が、安心だった」
七宮なのはは、その場で、指先をぎゅっと握った。それはほとんど告白みたいなのに、きれいではなかった。でも、誤魔化しもしなかった。
「……なにそれ。意味わかんない」
思わず出た言葉は、少し掠れていた。
「……ごめん」
「私の行動を、勝手にそういうので決められるのは嫌」
「うん」
「守りたいならそう言ってよ」
そこで初めて、斎藤一の表情がわずかに揺れた。七宮なのははそれを見て、少しだけ唇を噛む。
「言葉にしないで、勝手に別の何かにやらせるの、いちばん最悪なんだけど」
「……やらせようと思ってたわけじゃない」
「でも結果的にそうなってるでしょ」
「そうだね」
その認め方が、ひどく静かだった。七宮なのはは腹が立つのに、同時に少しだけ苦しくなる。この人も、たぶんずっとわからないまま抱えていたのだろうと思ってしまうから。
空の端で、小さく雷みたいな音が鳴った。雨はまだ降っていない。けれど、空気が少しだけ湿る。
「ねえ」
七宮なのはは、今度は少しだけ声を落として言った。
「それが、はじめちゃんの願いで、もしこれがその歪んだ代行の結果なんだとしたら」
斎藤一は何も言わない。
でも、聞いている。
「私は、それをそのまま受け入れる気はないよ」
ここだけは濁したくなかった。
「守りたいと思うのは君の勝手だけど、私の自由まで勝手に奪うなら、それは違う」
「うん」
「だから」
そこまで言って、七宮なのはは止まった。
だから、何だ。
――どうするのか。
そこまで来たところで、ポケットの中のスマートフォンがもう一度震えた。
今度は二人とも見ない。通知を無視して、七宮なのはは斎藤一を見た。
「……ねえ、はじめちゃん」
「……何」
「これ、このままにするつもり?」
その問いの先で、空気が少しだけ軋んだ気がした。
気のせいかもしれない。そうじゃないかもしれない。
斎藤一は、今まででいちばん長く黙った。
七宮なのはは待った。
帰る方向へ流される前に。何かに勝手に決められる前に。今度こそ、本人の口から答えを聞くために。
斎藤一が、ゆっくりと息を吸う。
――――その先を、まだ言わなかった。
