短編集まとめ
いつも通りふらふらと図書館を回っていた。バサリ、と目の前で本が落ちる。
「……?私の魔力の不調?…そんなことないはずなのに。」
なんとなく気になってぱらぱらと捲ってみる。
なにやら見覚えのある、名前。見覚えのある経歴。見覚えのある____________これは、別の結末の、カルデアの私だ。そう理解した。見ない方がいい。そう分かっていてもどうしても気になって、ぱらぱらとページを捲ってしまう。
カルデア。ミーティングをサボっていたから生き残った魔術師の私が、最後のマスターとして務めていた組織だ。――そして私が、彼が、崩壊させた、あのカルデアである。別にカルデアが悪かったわけではない。私が、弱かっただけの、そう、それだけの話。読み進める。……どうやらこの本の私は、私とは違うみたいね。
本の中の私――彼女は、私とは違ってあの時折れなかった。
彼がいなかったからかもしれない。私はすぐに人を頼るから。頼れるものがいないから、彼女は強いのかもしれない。…そんな彼女も彼と出会ってしまう。やっぱり好きになってしまった。そんなの分かりきっている。
ページを捲る手が、少し震える。
嗚呼、狡いな。楽しそうだ。本当に。
羨ましい。……でも。私にはそもそも、彼女を羨ましいと思う資格すら、ない。
彼に全て押し付けて。彼に全て任せて。自分は知らないふりをして。そうしてここまで逃げてきて。彼に全部を背負わせた。見ないフリをしていたことを、彼女から突きつけられるようで。
でも、それが私の選んだ道だから。
私とあなたは、違う。私はあなたほど強くは無いの。むしろ、弱いから。こうして今もずっと_________
「なのはちゃん?」
ふと声がして見上げると、そこにはいつの間にか彼がいたようで。
「大丈夫?」
「…どうして?」
首を傾げると、そっと手で目元を拭われた。
「だって、泣いてるから。」
気が付かなかった。自分でも目元を触ると、確かに泣いていたようだった。
「嫌なものでも見たの?」
首を振る。嫌なもの、ではない。
「じゃあ、それは……」
「こうならなかったわたしたちの、話」
「………なるほどねぇ」
彼も何も言わなかった。
代わりに、私が手元で広げていた本をそっと閉じた。
「ねぇ、はじめちゃんは、どう思う?」
ぽつり、と話し始める。
「私が、もし、あの時、折れずにやれていたら」
「わたしが、もっと、つよかったら」
「わたしが、ちゃんと、みんなをしんじられていたら」
ここまで言って、少しだけ怖くなった。
「わたしたち、こんな風に、ならなかったのかな」
空気が少しだけ揺れた気がした。
彼は、すぐに答えない。いつもみたいに軽く否定も肯定もしないで、逃げ場を塞がないように、ただ静かに聞いている。その沈黙が苦しくて、でも優しすぎて、涙がまた滲んだ。
「もし、あの本の私たちみたいになれた未来があったとしたら」
ひと呼吸おいて、言葉を紡ぐ。
「……それを、見てみたかった?」
彼は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
その仕草が答えのようで、チクリと胸が痛む。
「……ううん」
小さく、息のような否定。
「なのはちゃんが、その本で何を見たのかは詳しく知らないけどさ」
「うん」
「あのとき、無理やり立ち上がって、傷を見ないフリをして、それで進んでいくなのはちゃんは……僕は、見てられないよ」
「……そっか」
その答えを聞いて、少し安心した。
「…なのはちゃん」
名前を呼ぶ声が、いつもより柔らかくて。触れられてもいないのに、そっと肩に置かれたみたいに温度が残る。
「それに……最初に逃げてもいいって言ったのは、僕だから」
ふ、と顔を上げて彼を見る。目が合うと、彼は目を細めてこう続けた。
「…話してくれて……僕を、頼ってくれて。…嬉しかった」
胸の奥で、何かが静かにほどけていく。
「別の世界のなのはちゃんがどうこうってよりさ、今僕の目の前にいるなのはちゃんが、こうして僕と一緒にいてくれることの方が、大事だよ」
彼の手が頬に触れる。
「それじゃダメかな」
何回か瞬きをして、そっと頷いた。
「………ありがとう」
頷いた私を見て、彼は小さく息をついた。
安心したような、ほどけるような声音で。
「……なら、よかった」
そのまま彼の手に自分の手を重ねる。
言葉はいらない。
たしかに触れているというだけで、胸の痛みがゆっくり溶けていく。
ページの閉じられた本は、もう気にならなかった。
――今の私には、彼がいてくれるから。
「……?私の魔力の不調?…そんなことないはずなのに。」
なんとなく気になってぱらぱらと捲ってみる。
なにやら見覚えのある、名前。見覚えのある経歴。見覚えのある____________これは、別の結末の、カルデアの私だ。そう理解した。見ない方がいい。そう分かっていてもどうしても気になって、ぱらぱらとページを捲ってしまう。
カルデア。ミーティングをサボっていたから生き残った魔術師の私が、最後のマスターとして務めていた組織だ。――そして私が、彼が、崩壊させた、あのカルデアである。別にカルデアが悪かったわけではない。私が、弱かっただけの、そう、それだけの話。読み進める。……どうやらこの本の私は、私とは違うみたいね。
本の中の私――彼女は、私とは違ってあの時折れなかった。
彼がいなかったからかもしれない。私はすぐに人を頼るから。頼れるものがいないから、彼女は強いのかもしれない。…そんな彼女も彼と出会ってしまう。やっぱり好きになってしまった。そんなの分かりきっている。
ページを捲る手が、少し震える。
嗚呼、狡いな。楽しそうだ。本当に。
羨ましい。……でも。私にはそもそも、彼女を羨ましいと思う資格すら、ない。
彼に全て押し付けて。彼に全て任せて。自分は知らないふりをして。そうしてここまで逃げてきて。彼に全部を背負わせた。見ないフリをしていたことを、彼女から突きつけられるようで。
でも、それが私の選んだ道だから。
私とあなたは、違う。私はあなたほど強くは無いの。むしろ、弱いから。こうして今もずっと_________
「なのはちゃん?」
ふと声がして見上げると、そこにはいつの間にか彼がいたようで。
「大丈夫?」
「…どうして?」
首を傾げると、そっと手で目元を拭われた。
「だって、泣いてるから。」
気が付かなかった。自分でも目元を触ると、確かに泣いていたようだった。
「嫌なものでも見たの?」
首を振る。嫌なもの、ではない。
「じゃあ、それは……」
「こうならなかったわたしたちの、話」
「………なるほどねぇ」
彼も何も言わなかった。
代わりに、私が手元で広げていた本をそっと閉じた。
「ねぇ、はじめちゃんは、どう思う?」
ぽつり、と話し始める。
「私が、もし、あの時、折れずにやれていたら」
「わたしが、もっと、つよかったら」
「わたしが、ちゃんと、みんなをしんじられていたら」
ここまで言って、少しだけ怖くなった。
「わたしたち、こんな風に、ならなかったのかな」
空気が少しだけ揺れた気がした。
彼は、すぐに答えない。いつもみたいに軽く否定も肯定もしないで、逃げ場を塞がないように、ただ静かに聞いている。その沈黙が苦しくて、でも優しすぎて、涙がまた滲んだ。
「もし、あの本の私たちみたいになれた未来があったとしたら」
ひと呼吸おいて、言葉を紡ぐ。
「……それを、見てみたかった?」
彼は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
その仕草が答えのようで、チクリと胸が痛む。
「……ううん」
小さく、息のような否定。
「なのはちゃんが、その本で何を見たのかは詳しく知らないけどさ」
「うん」
「あのとき、無理やり立ち上がって、傷を見ないフリをして、それで進んでいくなのはちゃんは……僕は、見てられないよ」
「……そっか」
その答えを聞いて、少し安心した。
「…なのはちゃん」
名前を呼ぶ声が、いつもより柔らかくて。触れられてもいないのに、そっと肩に置かれたみたいに温度が残る。
「それに……最初に逃げてもいいって言ったのは、僕だから」
ふ、と顔を上げて彼を見る。目が合うと、彼は目を細めてこう続けた。
「…話してくれて……僕を、頼ってくれて。…嬉しかった」
胸の奥で、何かが静かにほどけていく。
「別の世界のなのはちゃんがどうこうってよりさ、今僕の目の前にいるなのはちゃんが、こうして僕と一緒にいてくれることの方が、大事だよ」
彼の手が頬に触れる。
「それじゃダメかな」
何回か瞬きをして、そっと頷いた。
「………ありがとう」
頷いた私を見て、彼は小さく息をついた。
安心したような、ほどけるような声音で。
「……なら、よかった」
そのまま彼の手に自分の手を重ねる。
言葉はいらない。
たしかに触れているというだけで、胸の痛みがゆっくり溶けていく。
ページの閉じられた本は、もう気にならなかった。
――今の私には、彼がいてくれるから。
