短編集まとめ
ずる賢い
背中から
溶けるような
ベッドの上、布団の中。そろそろ体温で布団も温まってきたところだったが、七宮なのははまだスマートフォンを手放せずにいた。画面の光が部屋を照らしており、眠気は一向にやってこない。そのまままた意味もなくTwitterのタイムラインを更新して、ツイートを眺めていた。
「なーのーはーちゃん、もういい加減寝なよ」
背を向けていた方向からふいに声が聞こえ、同時に腕がすっと伸びてくる。
「まだ眠くない?」
「ちょ、眠いなら一人で勝手に寝てなよ。私はまだ眠くないの!」
少しムッとしてそう答えると、まあそんなつれないこと言わないの、と言いながら背中から私を抱きしめた。
どうやらコイツは今日、私をしっかり寝かせるつもりらしい。…確かに昨日も一昨日もちゃんと寝ていないといえばそうで、大人しく彼の言い分に従っておくべきではある。が、しかし。……素直に言うことを聞くのはなんだか癪に障る。
「やめてよ、だから眠くないって」
「だーめ、なのはちゃんはつかれてるんだからちゃんと寝るの」
彼はそう言うと私の手からするりとスマートフォンを抜き取った。
「あ、ちょっと……もー…」
彼は言い出したら案外意志を曲げない。しかたないなぁ、と少し悪態をつきながら眠る姿勢に移る。…実を言うと、抱きしめられていた時からなんとなく眠いような気がしていたのだが、そんなことを言うのは悔しいのでそっと胸の奥にしまって置こう。…まあ、バレているのは百も承知ではあるけれど。知られているから相手がそういう行動をしている事くらい分かっている。本当にずる賢いんだから、全く。
ふぁ、と欠伸をして目を閉じる。背中側から、やっぱり眠かったんじゃん、と聞こえたが返事をするのが癪だったので無視を決め込む。
けれど布団に満ちる体温と背中からの安心感で、抵抗する気力はあまり残されていなかった。
溶けるような心地良さに、ゆっくりと私の意識は眠りに落ちていく。
…ほんとうに、はじめちゃんにはかなわない。最後にそう思ったところで、完全に意識を手放した。
抱きしめて
届かない
指を舐める
「ね〜はじめちゃん、映画見ない?」
普段まったくと言っていいほどそういう話題のない彼女がそう誘ってきた。
「いいよ。…それで、なんの映画?」
「ジブリ!今日金ローで、トトロがあるの!」
私んちテレビないからさ、と笑う彼女に、見たいなら一緒に見よっか、と返す。どうやら彼女はトトロが好きなようで、久しぶりに見たかったらしい。それなりに一緒にいるけれど、まだ僕の知らないことがあったな、でもそれもそうか、彼女の全てを知ることはできないのだから、と頭の片隅で思った。
「そうと決まれば、ポテチとコーラだよはじめちゃん!…あ、でも私サイダーの方が好きだからやっぱサイダーね!」
「はいはい、わかってますよ」
まあ僕の家にそんなものは無いわけで、2人して近場のコンビニへ向かうことにした。
「ポテチ何味がいい?しお?のりしお?コンソメ?ピザポテト?」
「別になのはちゃんが好きなやつでいいよ」
「じゃあしおかピザポテトで選んで」
「じゃあしおで」
「おっけ〜」
サイダーとポテチを持ってレジへ向かう。なのはちゃんが、しれっと会計時にじゃがりこを追加していたのはまあ良しとしよう。
なのはちゃんがレジ袋を受け取ったのを確認して外に出る。ペットボトル重いし持とうか?と言うと、袋持ちたいからペットボトルだけ生身で持てと言われた。いいけど、とペットボトルを持つと彼女は、軽くなった!と腕を大きく振るので、念の為、振り回しちゃダメだよ?と言うと、何歳だと思ってるの?と少し頬をふくらませた。
「私が振りたいのははじめちゃんの開けるサイダーのペットボトルだけだよ」
「うわ最悪」
「こう、おもしろいじゃん、ね?」
「さすがにそれやったら僕怒るからね」
「やらないって、じょーだんだから」
そう言って笑うけれどこの子は実際ちょっとやりそうな節があるからそこは信用出来なかった。まあ開ける前に気づくけど。割と僕を困らせるのが好きだからなぁ、なのはちゃんは。
たわいも無い会話をして歩くと家までの道のりはすぐであった。ポテチを開けてコップにサイダーを注いで、準備はバッチリ。テレビをつけるとちょうど始まったくらいだった。
「なのはちゃんってトトロ好きなの?」
「まあね、小さい時にめっちゃ見てたから」
「そうなんだ」
「あ、ティッシュ取って」
「ん?」
確かに彼女が手を伸ばしても届かない距離に箱ティッシュが置いてあった。多分目的は、ポテチで汚れた手を拭くため、だろう。………思いついてしまったものは仕方がない。せっかくだし、ちょっとだけ意地悪でもしようか。
スっと彼女の汚れた手を取って、その指先をぺろりと舐めた。
「……っ!?な、おま、何してんの!?!??」
驚いてその場から飛び退きそうな彼女を逃がさないように、後ろから抱きしめてさらに追い詰める。
「え?だって拭くより早いから」
「〜〜〜〜、ばかじゃないの」
顔を赤くしてそっぽを向きながらそういう彼女は、本当に可愛らしい。
「ほら、映画見るんじゃなかったの?」
くす、と笑いながらそう言うと、背中を向けている彼女から、そうだけど!とすこし怒ったような声で返された。
「ごめんごめん、つい、ね?」
髪を撫でながら謝ると、
「別に怒ってないし」
と言いながらもたれかかってきたので、そのまま映画を見ることにした。金曜日だから疲れが溜まっていたのか、そのうちなのはちゃんが腕の中で寝てしまっていたけれど、それはそれで。
背中から
溶けるような
ベッドの上、布団の中。そろそろ体温で布団も温まってきたところだったが、七宮なのははまだスマートフォンを手放せずにいた。画面の光が部屋を照らしており、眠気は一向にやってこない。そのまままた意味もなくTwitterのタイムラインを更新して、ツイートを眺めていた。
「なーのーはーちゃん、もういい加減寝なよ」
背を向けていた方向からふいに声が聞こえ、同時に腕がすっと伸びてくる。
「まだ眠くない?」
「ちょ、眠いなら一人で勝手に寝てなよ。私はまだ眠くないの!」
少しムッとしてそう答えると、まあそんなつれないこと言わないの、と言いながら背中から私を抱きしめた。
どうやらコイツは今日、私をしっかり寝かせるつもりらしい。…確かに昨日も一昨日もちゃんと寝ていないといえばそうで、大人しく彼の言い分に従っておくべきではある。が、しかし。……素直に言うことを聞くのはなんだか癪に障る。
「やめてよ、だから眠くないって」
「だーめ、なのはちゃんはつかれてるんだからちゃんと寝るの」
彼はそう言うと私の手からするりとスマートフォンを抜き取った。
「あ、ちょっと……もー…」
彼は言い出したら案外意志を曲げない。しかたないなぁ、と少し悪態をつきながら眠る姿勢に移る。…実を言うと、抱きしめられていた時からなんとなく眠いような気がしていたのだが、そんなことを言うのは悔しいのでそっと胸の奥にしまって置こう。…まあ、バレているのは百も承知ではあるけれど。知られているから相手がそういう行動をしている事くらい分かっている。本当にずる賢いんだから、全く。
ふぁ、と欠伸をして目を閉じる。背中側から、やっぱり眠かったんじゃん、と聞こえたが返事をするのが癪だったので無視を決め込む。
けれど布団に満ちる体温と背中からの安心感で、抵抗する気力はあまり残されていなかった。
溶けるような心地良さに、ゆっくりと私の意識は眠りに落ちていく。
…ほんとうに、はじめちゃんにはかなわない。最後にそう思ったところで、完全に意識を手放した。
抱きしめて
届かない
指を舐める
「ね〜はじめちゃん、映画見ない?」
普段まったくと言っていいほどそういう話題のない彼女がそう誘ってきた。
「いいよ。…それで、なんの映画?」
「ジブリ!今日金ローで、トトロがあるの!」
私んちテレビないからさ、と笑う彼女に、見たいなら一緒に見よっか、と返す。どうやら彼女はトトロが好きなようで、久しぶりに見たかったらしい。それなりに一緒にいるけれど、まだ僕の知らないことがあったな、でもそれもそうか、彼女の全てを知ることはできないのだから、と頭の片隅で思った。
「そうと決まれば、ポテチとコーラだよはじめちゃん!…あ、でも私サイダーの方が好きだからやっぱサイダーね!」
「はいはい、わかってますよ」
まあ僕の家にそんなものは無いわけで、2人して近場のコンビニへ向かうことにした。
「ポテチ何味がいい?しお?のりしお?コンソメ?ピザポテト?」
「別になのはちゃんが好きなやつでいいよ」
「じゃあしおかピザポテトで選んで」
「じゃあしおで」
「おっけ〜」
サイダーとポテチを持ってレジへ向かう。なのはちゃんが、しれっと会計時にじゃがりこを追加していたのはまあ良しとしよう。
なのはちゃんがレジ袋を受け取ったのを確認して外に出る。ペットボトル重いし持とうか?と言うと、袋持ちたいからペットボトルだけ生身で持てと言われた。いいけど、とペットボトルを持つと彼女は、軽くなった!と腕を大きく振るので、念の為、振り回しちゃダメだよ?と言うと、何歳だと思ってるの?と少し頬をふくらませた。
「私が振りたいのははじめちゃんの開けるサイダーのペットボトルだけだよ」
「うわ最悪」
「こう、おもしろいじゃん、ね?」
「さすがにそれやったら僕怒るからね」
「やらないって、じょーだんだから」
そう言って笑うけれどこの子は実際ちょっとやりそうな節があるからそこは信用出来なかった。まあ開ける前に気づくけど。割と僕を困らせるのが好きだからなぁ、なのはちゃんは。
たわいも無い会話をして歩くと家までの道のりはすぐであった。ポテチを開けてコップにサイダーを注いで、準備はバッチリ。テレビをつけるとちょうど始まったくらいだった。
「なのはちゃんってトトロ好きなの?」
「まあね、小さい時にめっちゃ見てたから」
「そうなんだ」
「あ、ティッシュ取って」
「ん?」
確かに彼女が手を伸ばしても届かない距離に箱ティッシュが置いてあった。多分目的は、ポテチで汚れた手を拭くため、だろう。………思いついてしまったものは仕方がない。せっかくだし、ちょっとだけ意地悪でもしようか。
スっと彼女の汚れた手を取って、その指先をぺろりと舐めた。
「……っ!?な、おま、何してんの!?!??」
驚いてその場から飛び退きそうな彼女を逃がさないように、後ろから抱きしめてさらに追い詰める。
「え?だって拭くより早いから」
「〜〜〜〜、ばかじゃないの」
顔を赤くしてそっぽを向きながらそういう彼女は、本当に可愛らしい。
「ほら、映画見るんじゃなかったの?」
くす、と笑いながらそう言うと、背中を向けている彼女から、そうだけど!とすこし怒ったような声で返された。
「ごめんごめん、つい、ね?」
髪を撫でながら謝ると、
「別に怒ってないし」
と言いながらもたれかかってきたので、そのまま映画を見ることにした。金曜日だから疲れが溜まっていたのか、そのうちなのはちゃんが腕の中で寝てしまっていたけれど、それはそれで。
