短編集まとめ

今となっては昔のことだが、私、七宮なのはは数学が苦手であった。…とは言っても、ほかの教科に比べればやや劣る、くらいでそこまで成績に問題はなかったのだが。
まあ私は理系に進む気もないし、そこそこでいいか、くらいに思っていた。

――――思っていたのだが。

***

ある日、どうしても数学で分からない事があって、職員室へ質問に向かった、時のことであった。
偶然その日は、自分の教科担は他の人の質問で手一杯だったようで。

「すまん七宮、そっちにいる斎藤先生に聞いてくれないか」

そう言われ、大人しくその斎藤先生、とやらに聞きに行ったのだ。

「すいません、あの…」
「ああ、あの先生忙しいからねぇ。僕でよければ、って感じなんだけど」

濁った青緑色の髪に少し暗い瞳をした、ちょっと不健康そうな若い先生がこちらを向いたのだった。

「えっと、ここがわからないんですが。」
「あぁ、そこかぁ…ちょっと厄介だからねぇ、それ。結構つまづく子多いんだよね~。こうやって聞きに来てくれると、僕らも助かったりするんだよね。」

へらへらと笑いながら、その先生は丁寧に解説をしてくれた。…ちょっと意外。見た目に依らず、真面目なんだな、と思った。失礼だけど。…だって、真面目な人には見えないじゃない。

「…で、こういう訳だけど……ここまで理解できた?」
「はい、大丈夫です。…お陰で全部わかりました。」
「1回で理解できちゃうなんて、君……七宮ちゃんって言ったっけ?頭いいんだねぇ。」
「そ、そんなことは……まあ、ありますけど。曲がりなりにも学年順位は良いですし。」
「そこで否定しないんだ、…ああそうだ、はいこれ」

先生は引き出しから個包装のチョコレートを取り出して、

「お疲れ様、ってことで。たまたま持ってただけなんだけど。」
「あ、ありがとう、ございます……?」
「……他の子にはあげてないから、ナイショだよ?」

人差し指を口に当てて、くすりと笑うその姿に、なんだか少しだけドキリとしてしまって。

「失礼しました……!」

気取られるのもちょっと嫌で、ノートを抱えて逃げるように職員室を後にした。

***

頭が良いんだね、か…ふぅん、悪い気はしない。
貰ったチョコレートを口に含みながら、数学、ちょっと頑張ってみるか……と決意をした。

―――チョコレートは、私にはすこしだけ、苦かった。
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