短編集まとめ
「はあ……」
補修対象の生徒の名簿を見て、斎藤はため息をついた。
数学に補修の生徒が多いのは今に始まったことではなく、特に実力テストとなれば問題も難しく、この人数になるのも仕方がない、のだが。
とある1人の名前を見て、頭を悩ませていたのであった。
その生徒の名は―――――七宮なのは。普段は特に問題もなく、なんなら素行は良い方であり、1年度の数学の担当から引き継ぎの際も特筆されるような事もなかった、と記憶しているが。
「明らかにわざと、なんだよなぁ……」
と零した。
彼女は定期テストの点数も良く、クラスではどの教科も基本トップ層におり、まあまずこのような問題を間違えるはずがない、と確信していた。それに加えて、基本白紙で提出されているのだが、難問だけを解いて「赤点」となっているのだから本当に……。そのため理由も分からず、対処に困っている、という訳であった。
「とりあえず、一旦別のプリントを用意するか」
そう決めて彼女用のプリントを作り始めたのであった。―――ちょっとだけ、お灸を据える意味も込めて。
***
その日、七宮なのはは上機嫌であった。理由?言うまでもなく、放課後は補修という理由で堂々と部活をサボれるから……というのもあったが。彼女は補修があるから機嫌が良かった。それにしても、実力テストは成績には響かないから、敢えて点数を下げて補修に行こうだなんて考えられる私は頭が良い。みんなと同じ補修でも、先生の授業が追加で受けられるならそれで良いのだ。あと、ちょっとだけ印象に残れば。私は生徒だから、立場だけは弁えていないといけない。卒業する時に、忘れないでいてくれればそれで。元からこの気持ちは、叶わないものなのだから。
………これから補修だってのに、気持ちの下がること考えてちゃダメだね。そう思い直して、教室へと向かった。
ガラリ、と扉を開けて適当な席に着く。近すぎもせず遠すぎもせず、前から3番目くらいに座った。流石に優等生の猫耳パーカー女は校内でそれなりに有名らしく、私が座ると少しザワ……っとしたがまあ問題は無いだろう。みんなにプリントを配っていた先生がこちらに向かってきて、「君はみんなと同じプリントじゃ、意味が無いから」と別のプリントを渡してきた。えっいいんですか!?と言う言葉が喉まで出たがなんとか封じ込め、「分かりました」と返答した。
配られたプリントに目を通す。………………それにしてもこのプリント、難しすぎないか?
ちらり、と顔を上げて先生の方を見ると、バッチリ目が合って、ニヤリと笑われた。
…………………………ああこれ、ワザとだ。
特別扱い、は嬉しいけれど。というかさっきので心臓はうるさいけれど。…ワザとされたなら、解いて返さないと気が済まない。やってやろうじゃねえの、と勝手に宣戦布告をして、紙にペンを走らせた。
〜1時間後〜
「すいませんこれやっぱここからわかんな……あれ」
いつの間にかみんな居なくなっていた。
「あ〜あ、七宮ちゃん最後になっちゃったねぇ」
へらへらとそう言いながらこちらに近づいてくる先生に、
「こんな難しいプリント寄越すからでしょ……数学の順位がいくら1桁でも分かりませんってこれは。」
降参、のポーズでそう言うと
「ワザとああいうことする子には、敢えてこうしてあげてるの。……それで、どこが分からないの?」
「ここまでは解けたんですけど、問題はここからで……」
―――2人だけの、ちょっと遅めの特別授業。
