短編集まとめ
今日はバレンタインだ。
大学の講義が終わると、私は急いで帰宅した。理由はひとつしかない。――チョコを渡しに行くためだ。
冷蔵庫の中には昨日から用意していたガトーショコラがある。私の好みの味ではなく、ちょっとビターな大人の味。はじめちゃんが甘いものを食べているのはそんなに見たことがないし、これくらいでちょうどいいハズ。
「…多分、美味しい……?」
私は甘いのが好きだから、味見をしてもイマイチ美味しいかどうか分からない。美味しくなくても美味しいよって言ってくれそうだけどそんなことさせたい訳じゃないし、ちゃんとしたのを渡したい……大丈夫だよね?味見をしたら逆に不安になってきた。…………レシピ通り作ったし変なアレンジもオリチャ発動もしてないし、大丈夫なはず。そう言い聞かせて丁寧にチョコを包んだ。変に凝り性だから、気がつくととても可愛い凝ったラッピングになってしまっていた。
「……これ渡すのめちゃくちゃ本命みたいでは?」
いや本命だが。…てか一応彼女だし…?そう思ってちょっと恥ずかしくなる。
いやでも……?彼女だし、チョコ渡すのは日本人であればまあそういうイベントだし?普通、っていうか。変な意味とかないし?…うん、ないない。そういうイベントってだけ。
「………………よし!」
意を決して家を出た。
*****
はじめちゃんの家のチャイムを鳴らすと、いつも通り迎えてくれた。……最近は週末泊まりに行くことが多いから、確かにいつも通りといえばいつも通り。
「今日も泊まっていくんだよね?」
「…………うん」
変に緊張する。…バレてないといいけど。
「そ、そういえば今日ってバレンタインじゃん?チョコとか貰った?」
とりあえず話題を振らないとと思って、いちばんマズイこと聞いたかも。
「いや?別に職場で配る文化なかったし、最近はそういうの辞めましょ〜って風潮じゃん?だから貰ってないよ」
「……ふーん。」
貰ってたら渡すのヤダなとは思ったけど、貰ってないならまあ……うん…
「それで、なのはちゃんは?」
「え?」
「チョコ、友達とかと交換したんじゃないの?」
「あ、ああ……それならした、でもいちいち作ってらんないから既製品配った…けど」
「そうなんだ」
はじめちゃんは落ち着いた顔で笑っている。余裕そうでなんかムカつく、別に私がチョコ持ってきてなくても気にしてないみたいな、そんな、さあ。
「…………」
「なのはちゃん、なんかそわそわしてる?」
「べ、べつに!?そんなことないけど!?」
バレている。一気に顔が熱くなって心臓が早鐘を打つ。
「そんなことあるよ、で、どうしたの?」
「…………………………」
勝てない。そう悟ったわたしは大人しくカバンの中から可愛くラッピングしたチョコを取り出した。
「…………は、はいこれ!」
「ん?」
「別に深い意味とかないから、私が食べたくて作っただけだけど、作りすぎただけだから」
そう言いながら顔を逸らす。はじめちゃんはそれを受け取ると
「そっか、ありがとう」
はじめちゃんは包みを開け、中のガトーショコラをみてちょっと微笑む。
「随分と丁寧に作ったんだね」
「ま、まあね」
「ちょっと食べてもいい?」
「あげたんだから好きにすれば」
そう答えるとガトーショコラを少しだけ取って一口食べた。
「……ん、ちょうどいい甘さで美味しいよ」
「そっか、良かった」
「…やっぱり僕のために作ってくれたんだね」
「ファッ!?」
「だってなのはちゃん、もっと甘いのが好きでしょ?」
そう言って笑うと、ありがとねと言って私の頭を撫でた。
「ま、まあ……まあそうだよ…渡すために作ったんだよ!!もう!!!!!」
半ば諦めてそう叫ぶ。
「知ってたよ」
と言いながら、でも嬉しい、と言って隣に座る私をきゅっと抱きしめた。
