ターコイズの爪先
「はじめちゃん、ネイル塗って」
ふと思い立って話しかけた。
「え、僕がやるの?」
予想外だったらしく、はじめちゃんが少し驚いた顔をする。
「だってはじめちゃん器用じゃん」
それを聞いた彼はすこし困ったような顔をした。
「失敗しても知らないよ?僕、やったことないし」
「大丈夫だって!はじめちゃんだし」
「どんな理由よ、それ。」
彼は苦笑しながら、ネイルポリッシュの入っている引き出しを開けた。
「どれにするの?」
私は並んだ瓶を一つずつ眺めて、少し悩んだあと
「せっかくだし選んでよ」
と答えた。
「え、僕が選ぶの?」
「うん、そっちの方が面白い」
「え〜…どうしようか……ってこれ青ばっかりじゃん」
私の持っているネイルポリッシュの色を見てそう言う彼に、
「よく見て、全部色が違うから」
「はいはいそれくらい分かりますよっと」
そして暫く瓶を眺めた後、彼はその中から1つ取り出した。ターコイズブルーの瓶。
「これでどーよ」
「なんでそれ?」
「なんとなくね。……あとなんだっけ?トップコートとベースコート?だよね?」
「そうそう、結構知ってるじゃん」
「姉貴がね」
「あーそっか、はじめちゃんってお姉さんいたね」
じゃあ知ってるか、と納得して頷いた。
「じゃ、手出して」
私は少しだけ姿勢を乗り出して、言われた通り右手を差し出した。はじめちゃんは慣れない手つきでベースコートを取った。
瓶の口で筆を軽くしごいてから、筆が私の爪にそっと触れる。冷たい液が広がっていく感触に、思わず指先をじっと見つめた。
「動かないでね」
「動いてないよ」
彼がベースコートを塗るのをなんとなく眺めている。やっぱり私がするよりはみ出さないし綺麗だ。やったことない、と言っていたくせにそういう所だよ、と1人で思う。
「次左手ね」
そう言われておとなしく左手を差し出す。
「あ、右手気をつけてね」
「分かってるって」
全く私をなんだと思っているんだはじめちゃんは。ガキじゃないんだけど。……なんて、自分が不注意なのが分かっているから思っていても言わないけど。
「はい、ベース終わり」
そう言って、はじめちゃんが瓶を戻す。
「次これね」
ターコイズブルーの瓶を持ち上げて軽く振り、彼はキャップを回した。瓶の口で筆をしごいてから、もう一度私の手を取る。
「動いちゃだめだからね」
「動かないって」
さっきより慎重な手つきで、爪の先に色が乗る。透明だった爪に、鮮やかな青が広がっていく。
ターコイズブルー、おばあちゃんちの近くの海の色に似てるな、とぼんやり思った。波打ち際の浅いところは透明で、少し沖に行くとこの色になって、もっと遠くは濃い青になる。砂浜で綺麗な貝殻を拾って集めるのが好きだった。ピンクやオレンジみたいな、鮮やかな色の貝殻。白骨化したサンゴなんかも落ちていたっけ。
「――なのはちゃん?片手終わったけど……」
「あ、ごめん」
どうやら思い出に耽っている間に片方終わっているらしかった。反対の手をはじめちゃんに預けて、終わった方の手を掲げて見る。
「おー……やっぱ私がやるより綺麗だ!」
「それなら良かった」
そう言って、はじめちゃんはもう片方の手の作業に戻った。私はもう少しだけ右手を眺めてから、また作業を見つめた。
トップコートまで塗り終えると、
「こんな感じでどう?」
「いい感じ!ありがとうはじめちゃん!」
「どういたしまして」
彼はやり切ったというふうに息を吐いて、ネイルポリッシュの瓶を引き出しに戻す。
「今度からずっとはじめちゃんにやってもらおうかな」
「毎回できる訳じゃないんだけどな」
「できる時でいいよ」
そう答えると彼はじゃあ、と頷いた。
その後しばらく間があって、
「……まだ乾いてないから、動かないでね」
背中に重みがかかる。
後ろから抱きしめられている、ということには一拍遅れて気がついた。
「そんなに信用ないかなあ私」
「うん、なのはちゃん、勝手に動いてヨレるでしょ」
「むー」
少しだけ頬をふくらませて抗議の意を表したが、相手はただはいはい、と流すだけだった。
――まあ、こういうのもたまには悪くないね。
ふと思い立って話しかけた。
「え、僕がやるの?」
予想外だったらしく、はじめちゃんが少し驚いた顔をする。
「だってはじめちゃん器用じゃん」
それを聞いた彼はすこし困ったような顔をした。
「失敗しても知らないよ?僕、やったことないし」
「大丈夫だって!はじめちゃんだし」
「どんな理由よ、それ。」
彼は苦笑しながら、ネイルポリッシュの入っている引き出しを開けた。
「どれにするの?」
私は並んだ瓶を一つずつ眺めて、少し悩んだあと
「せっかくだし選んでよ」
と答えた。
「え、僕が選ぶの?」
「うん、そっちの方が面白い」
「え〜…どうしようか……ってこれ青ばっかりじゃん」
私の持っているネイルポリッシュの色を見てそう言う彼に、
「よく見て、全部色が違うから」
「はいはいそれくらい分かりますよっと」
そして暫く瓶を眺めた後、彼はその中から1つ取り出した。ターコイズブルーの瓶。
「これでどーよ」
「なんでそれ?」
「なんとなくね。……あとなんだっけ?トップコートとベースコート?だよね?」
「そうそう、結構知ってるじゃん」
「姉貴がね」
「あーそっか、はじめちゃんってお姉さんいたね」
じゃあ知ってるか、と納得して頷いた。
「じゃ、手出して」
私は少しだけ姿勢を乗り出して、言われた通り右手を差し出した。はじめちゃんは慣れない手つきでベースコートを取った。
瓶の口で筆を軽くしごいてから、筆が私の爪にそっと触れる。冷たい液が広がっていく感触に、思わず指先をじっと見つめた。
「動かないでね」
「動いてないよ」
彼がベースコートを塗るのをなんとなく眺めている。やっぱり私がするよりはみ出さないし綺麗だ。やったことない、と言っていたくせにそういう所だよ、と1人で思う。
「次左手ね」
そう言われておとなしく左手を差し出す。
「あ、右手気をつけてね」
「分かってるって」
全く私をなんだと思っているんだはじめちゃんは。ガキじゃないんだけど。……なんて、自分が不注意なのが分かっているから思っていても言わないけど。
「はい、ベース終わり」
そう言って、はじめちゃんが瓶を戻す。
「次これね」
ターコイズブルーの瓶を持ち上げて軽く振り、彼はキャップを回した。瓶の口で筆をしごいてから、もう一度私の手を取る。
「動いちゃだめだからね」
「動かないって」
さっきより慎重な手つきで、爪の先に色が乗る。透明だった爪に、鮮やかな青が広がっていく。
ターコイズブルー、おばあちゃんちの近くの海の色に似てるな、とぼんやり思った。波打ち際の浅いところは透明で、少し沖に行くとこの色になって、もっと遠くは濃い青になる。砂浜で綺麗な貝殻を拾って集めるのが好きだった。ピンクやオレンジみたいな、鮮やかな色の貝殻。白骨化したサンゴなんかも落ちていたっけ。
「――なのはちゃん?片手終わったけど……」
「あ、ごめん」
どうやら思い出に耽っている間に片方終わっているらしかった。反対の手をはじめちゃんに預けて、終わった方の手を掲げて見る。
「おー……やっぱ私がやるより綺麗だ!」
「それなら良かった」
そう言って、はじめちゃんはもう片方の手の作業に戻った。私はもう少しだけ右手を眺めてから、また作業を見つめた。
トップコートまで塗り終えると、
「こんな感じでどう?」
「いい感じ!ありがとうはじめちゃん!」
「どういたしまして」
彼はやり切ったというふうに息を吐いて、ネイルポリッシュの瓶を引き出しに戻す。
「今度からずっとはじめちゃんにやってもらおうかな」
「毎回できる訳じゃないんだけどな」
「できる時でいいよ」
そう答えると彼はじゃあ、と頷いた。
その後しばらく間があって、
「……まだ乾いてないから、動かないでね」
背中に重みがかかる。
後ろから抱きしめられている、ということには一拍遅れて気がついた。
「そんなに信用ないかなあ私」
「うん、なのはちゃん、勝手に動いてヨレるでしょ」
「むー」
少しだけ頬をふくらませて抗議の意を表したが、相手はただはいはい、と流すだけだった。
――まあ、こういうのもたまには悪くないね。
