短編集まとめ

部屋の明かりがぽつんとついていた。机には広げたままの資料と、ノートパソコンの画面。もう飲み物の無くなったコップに、糖分補給用のチョコレート。私は画面を見つめながら、カタカタとキーボードを叩いていた。
「……昨日は、楽しかったな」
ぽつりとそう呟いて、なんとなく夢のようだった昨日を思い出す。……いけない。集中しなくては。昨日楽しんだ分、やらなくてはいけない作業を今日に回した。だから今日は、頑張らなくてはいけないのだ。そう強く思うほど、余計なことがどんどん頭を占めていく。ああ、本当に飽きてきた……。なんだか頭もクラクラする。酸欠だろうか。…いや寝不足もあると思うけど。とりあえず、空気を入れ替えよう。そう思って窓を開ける。ひんやりとした夜の空気でなんとなく冴えてきた気がする。
「……よし」
飲み物を入れて、もう一度頑張ろう。コップを持ってキッチンへと足を運ぶ。飲み物は……別に水でいいか。
冷蔵庫を開けて無印の浄水ポットを取り出す。水を注ぎながら、ふぁ、とあくびが出る。
「……ちょっと、眠いな」
そう呟いて手元を見ると、ぼーっとしていたのか、注いでいた水がこぼれていた。
「……本当にダメかも。コーヒーとかの方が良かったかな」
でももったいないから、コーヒーは次でいいや、と思い直した。零れてしまった水を布巾で拭く。コップを持って、部屋に戻る。コップを机に置く。
「んー……まだ、やらなきゃ」
伸びをして、またパソコンと向き合う。
カタカタとしばらくまたキーボードを叩いていると、ふと、後ろから声がした。
「……まだ起きてたの?」
「うん…あと少しで終わるから」
画面から目を離さないままそう答えると、後ろで小さく息を吐く音がした。
「…今日、あんまり寝てないでしょ」
「ま、そうだけど……それが何か?」
今はこちらを片付ける方が優先だ。明日は休日なんだし、寝るのは後でいい。そう思って手を動かす。……動かすが、気づけば打ち込んだ文字には誤字が多く、既にもう集中どころの話ではなくなってきているようだった。
「いい子だから、今日はもう寝よう?…続きは明日やればいいじゃない」
返事はしなかった。画面を見つめたまま、指だけを動かす。けれども、先程より確実に速度は落ちている。こうなったら意地だ。終わるまで寝ないんだから。絶対に。
椅子の横に影が落ちる。気が付けば、彼がすぐ横に立っていた。次の瞬間。
―――ふわり、と手を取られる。
引っ張られる、と言うほど強くはない。しかし、そのまま座っていられるほど弱くもなかった。
部屋から、キーボードの音が消える。そのまま数歩、導かれるように歩く。足音は小さく、部屋の明かりも落とされたままだ。ベッドの端に腰を下ろされる。背中に触れた手が、支えるように留まる。私を起こす気はないのだ、とそこでやっと分かった。
「……ほら」
短く一言。それ以上は、何も言わない。布団を掛けられて、ようやく身体の重さに気づく。肩の力が抜けて、視界がゆっくり滲んでいく。天井を見つめたまま、瞬きをする。なにか言いたかった気もするが、言葉になる前に、瞼の方が先に閉じた。……限界だったようだ。
部屋の明かりが消える。足音が遠ざかっていく。

その夜は―――眠った記憶さえ、曖昧だった。
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