サボ/お酒と男にご用心/現代パロ
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朝起きて。ガンガンと響く頭痛、そしてもやもやする胃部不快。
ああまた二日酔いになるまで飲みすぎてしまった。とりあえずリバースしたい。
ベッドから降りようと手をまさぐわせたところで、違和感。
「…ん」
そういえば自分の体は今にもベッドから落ちそうなほど端に寄っている。そして明らかに隣にある、何かの感触。
まさかと思ってぎょっと隣を見た。私以外の、ベッドに寝る人物。
おっと私は彼を知っている。私の後輩。しかも最近入りたてのくせに結構仕事ができると噂の、――――確か、サボくん。
よく見るとベッド下には彼の上着が脱ぎ捨てられていて、彼は黒いネックシャツ1枚で眠っていた。私はというと、どういうことかキャミソール1枚の薄着で、下も残念ながら履いていない、下着のみ。
――――ああ。またずきずきと頭痛が始まる。
とりあえず現実逃避にベッドから降りて台所に向かう。ちょうどよく湧き上がってきた吐き気にそのまま胃液を嘔吐した。
水で流しながら、冷たい水をすくって自分の顔を洗う。とりあえず冷静になろう。状況を整理しよう。
タオルで顔を拭きながらもう一度寝室に戻ってベッドを見る。
――変わらず眠っている、サボくんの姿。ていうか私が起きたんなら気配で起きてもいいんじゃないかな。
ちょっと。いやかなり図太すぎやしないか。人の家なのに。
とりあえず彼が起きる前にと部屋着をぱっと身に着けて、近づいて軽く体を揺すってみる。予想はしていたけど起きる気配なし。
軽くぺちぺちと頬をたたいてみた。ん、と眉がぴくりと動いてゆっくりとサボくんが目を開ける。
「…あれ…起きたんですね、カタルさん」
「うん、おはよう。…あのね、状況を教えてほしいんだけど…」
「……。あぁ~、昨日すげぇ酔ってましたもんね。やっぱ覚えてないですか?」
よいしょとベッドから身を起こし、困ったように笑うサボくん。
ああ、嫌な予感しかしない。確かに何も覚えてない。そしてこの状況だから困ってる。
「えっと…うん、ごめん。…迷惑かけた?」
おそるおそるきくと、サボくんはにっこり笑う。
「迷惑どころか可愛いもの見させていただきましたよ」
「え!?」
「でもそうか…覚えてないんですよね。…昨日のこと覚えてないのは残念ですけど…カタルさんが覚えてなくても俺は覚えてますから」
にっこり、また笑う。
いやいやちょっと待って。まさかそんなことないよね。いくら私薄着だったとはいえ。
サボくんは上はシャツとはいえ下はほら、ちゃんと履いてるし。いやまさかそんな。
「…あ、あのねサボくん…もしかして私たち…」
おそるおそる、サボくんに昨日の事実をきく。
サボくんは静かに笑って、ちらりと目線をやった。その先にあるのはごみ箱で。
「…覚えてないカタルさんには悪いですけど、俺はグイグイいかせてもらいますんで」
「え」
「証拠ならそこのごみ箱にありますよ。ほら、このティッシュ「わかったから!!」
ごみ箱を手繰り寄せて中をわざわざ見せようとするサボくんを慌てて止める。
私が焦っている様子をみてサボくんはまたにっこり笑う。絶対楽しんでるこれ。
ああでも。言われてみたら確かに不自然なティッシュの山がごみ箱にある。
私別に鼻炎でもないからこんなに鼻かまないし。もう絶対、あれじゃん。あれしかないじゃん。ゴムじゃん。それ拭いたやつじゃん。
サボくんにくるりと背を向けて天を仰いだ。神よ。
「…カタルさん、やっぱりショックですか。俺とこういうことになって」
「え」
懺悔途中にいきなりなことを言われてバッと振り返る。
180cm越えの大きい図体がベッドの上でしゅんと小さくなっていた。
「俺はお酒の勢いとはいえ、カタルさんとこうして近くなれて嬉しいんだけど」
「な」
「カタルさんは…。あ、いきなり言われても追いつかないか。でも俺本気なんで、覚えててくださいね」
じゃあ、俺いきますね。なんていって床にあった上着を着て爽やかに帰っていくサボくん。
さっきまで落ち込んでなかった?立ち直り早すぎない?
というか俺本気って何?昨日話したことあったんだろうけど私忘れてること忘れてない?話がつかめない。
そんなことをサボくんが立ち去った部屋で一人もんもんと考えこむ。
また気持ち悪くなってきたのでとりあえず流しで嘔吐した。
―――――
翌日。気まずすぎて嫌だけど会社には出勤しないとならない。
会社に行けばもう先についている後輩、サボくんの姿。
「あ、カタルさん。おはようございます」とコーヒー片手に言ってくる。なんかもう既に何枚か書類片付いているのが見える。君は本当に新人か?
隣のデスクに座り、私も少しずつ仕事を始める。
この時の私は、サボくんがどんな子か全然掴めていなくて、まだ何も知らなかった…。
――
お昼休み。ランチに行こうとする私の後ろで、サボくんも席を立ったのが見えた。彼もランチかな。
食堂に向かう途中で、何個か連なっている会議室を通る。その途中で後ろから小走りで近づいてきた人物に、空いている会議室に押し込まれた。
は?と思って振り向くと、そこにはいたずらをしたような笑みをしたサボくんで。
「サボくんか…。何してんの」
「冷たいなぁ、カタルさん。俺とカタルさんの仲じゃないですか」
「いや、私覚えてないし…」
「…覚えてないから、なかったことにするんですか?」
急に真剣なトーンになったサボくんにぐっと距離を詰められる。
気に負けて後ずさると背中は逃げ場のない壁だった。
昼休みの会議室はしんと静まり帰っていて電気もついていない。
この時間帯使われることはまずないし、完全な空き部屋だった。
「サボくん、近い…」
「もっと近くで寝た仲なのに。何をいまさら」
「そういうこと、会社では言わないでよ…!だいたい私覚えてないもの、」
す、とサボくんの手が口元にあてられる。まるで言葉を遮るように。
「カタルさん。もう覚えてないっていうの禁止」
「な、」
その手でそのままするりと頬を撫でられる。ゆっくり近づいてくるサボくんの顔。
キスされる、そう思った瞬間寸止めでサボくんが距離を詰めるのをやめた。至近距離で目を薄く開けて私を見てきて。
「…避けないんだ。キスしていいんですか?」
「…っ」
バッと首を背けると、サボくんはおっと、とおどけた様に手を放した。
恥ずかしくてキッとにらみつければ、参ったと降参のポーズをする。
「怒んないで、カタルさん」
「…からかわないで」
「ごめんなさい。思い出してくれるかなと思って」
そういって困ったように笑う。
サボくんからゆっくり距離をとって、走って会議室から出た。
ほとんど何も知らなかった後輩のサボくん。
たった1日であっという間に危険人物という認識を埋め込まされた。
――――…
あれから。
昼休みや仕事帰りなど、なんやかんやサボくんに捕まっては、ただ話をするだけのこともあれば距離を詰められたり、触られたりと繰り返し。
初めはただからかっているだけだと思っていたけど、回数を重ねるたびにだんだんと彼の行動もエスカレートしていって。
前回は壁に向かい合う形で後ろからサボくんに壁に縫い付けられ、延々と髪のにおいを嗅がれたり首筋を攻められてくすぐられた。
今回はエレベーターでうっかり二人きりになってしまって、やばいと思った瞬間にはサボくんに端まで距離を詰められていて、耳に息を吹きかけられた。
――さすがに私だってこんなことをされれば察するものがある。
彼は私の身体が目当てだ。というかたぶん他の女の子にも同じようにやっていて、あの日の朝のようにお持ち帰りするのも初めてじゃないんだろう。
距離の詰め方や言葉の選び方というのが女性慣れしているし、やり慣れている感がぷんぷんした。
「はぁ~…」
ぺしゃりとカウンターに俯せになる。こんな日は飲んで忘れてしまいたい。
だって考えてみれば、私はただのチャラ男サボくんにまんまと体だけもっていかれたわけだ。記憶がないのがいいのか悪いのか。
でもいくら酔っていたとはいえ、恋人でもない、それも仕事の後輩に体を許してしまうなんて。別にサボくんが嫌いとかナシとかそういう問題でもない気がする。
だけど酔っているときの自分が素だと聞いたことはある。―つまり私は節操なしの、酔っていいよってくる男は誰でもいい女ということ。
別にそんな女がダメだというわけじゃないけど。自分がそういう価値観を持っていたというのを改めて知ると、自分も知らなかった自分を知ってしまったというかなんというか。
「あらら。カタルさんもう随分酔ってるじゃないですか」
「ん…」
サボくんのことで頭を悩ませていたら幻覚まで見えてきた。私の横に座っているサボくん。
そんなわけがない。私は今日一人でやけ酒していたはずなんだ。
「ほら、帰りますよ」なんて言って私の腕をひいて席を立たせる。ふらふらの足取りな私を気遣ってか、肩を抱いてエスコートしてくれた。優しい。できた後輩だ。
「今日はこの間ほど酷くなさそうですね。ほら、部屋入れる?」
鍵を探す私の腕を引いて支えになってくれるサボくん。その支えに甘えてがっしり体重を預けてゆっくり鍵を探す。見つけた。
ガチャリと鍵を開けて中に入る。サボくんはすぐ上がってくるかと思えば案外入ってくる気配がなく、玄関に立って私の成り行きを見守っていた。
今日は手出してこないんだな、なんて思いながらぺしゃりとフローリングに寝転がる。
「ありゃりゃ。ダメだなー」なんて声がきこえて、ふわっと体が浮いたかと思えばサボくんに体を抱きかかえられていた。お姫様抱っこってやつだ。案外力ある。
そのままゆっくりベッドに下ろされる。いったん離れたと思ったサボくんがコップに水を入れて持ってきてくれた。有難くそれをごくごくと飲む。
「心配だなぁ、カタルさん。俺じゃなくて他の男にお持ち帰りされないでくださいよ」
「……いいんじゃない。こんな女だし」
「え?」
半ば自棄になった気分だった。飲みすぎて昨日のことをまったく覚えてないなんて、もしかして今までも知らない男の人とやってたりしたんじゃないだろうか。
そう考えたら今更守らなくてもいい気もした。
ごろりとベッドで寝がえりをし、天井を向く。サボくんが見えた。今日は上着をきていない、黒シャツだけ。
サボくんのシャツの裾をくいっと引く。
「…する?」
「……、カタルさん」
サボくんが珍しく驚いた様な、少し焦ったような顔をしている。いつもすまして仕事をこなしているサボくんのこんな表情初めて見たかもしれない。
「…酔いすぎ、ですよ。俺、結構我慢してるんですから」
「…そうなの?いいよ、また忘れてるかもしれないし」
「自棄になってるんですか」
「別に今更、いいかなって…。誰と寝ても…」
ふふ、と笑って目をつむる。―と、突然ギシッとベッドが軋んだと思えばサボくんが上体を倒して私の上に覆いかぶさっていた。
さっきと違って真剣な、少し怒ってるような表情にびっくりして手で押し返そうとしたけど、その手も簡単に頭の上で束ねられてしまう。
「さ、サボく…」
「―どういうこと?誰と寝てもいいって」
「え…」
「俺のこともその辺の男と同じで寝るだけの相手ってこと?…もしかしてセフレいる?」
今まで見たことのないサボくんばかりで困惑する。こんなに冷徹で淡々としたサボくんも初めて見た。
怖くてなんとか逃げ出したくても、私の両手首はサボくんの片手で軽々とベッドに縫いとめられてしまってびくともしない。
とりあえず怖くて、ぶるぶると首を振ってセフレなんていないと伝える。
「…いないんだ。信じるよ。…別にカタルさんが今までそうしてても、そんなカタルさんも素敵だから幻滅するわけじゃないけど」
「サボくん…怒ってるの?」
「…あぁ、怒ってる。俺もその辺の男と同じだと思われてたんだって思ってね」
さっきの冷徹な表情から、少しだけ緩んだ雰囲気になる。それでもサボくんが怒ってるっていうのは確かみたいで、いつもみたいに優しい表情ではない。
確かにサボくんのことをそういう男の人だろうって思ってたのは事実だけど、なんでこんなに機嫌を損ねるかわからない。
ぱちぱちと瞬きをすると、サボくんはふっと笑って私の手をそっと口元までもっていくと、ちゅっと指先に触れるだけのキスをした。
「ごめん、怯えさせた。でもカタルさんは少し男に用心したほうがいい」
「…う、ん。…そう、だよね。お酒に酔って簡単に身体許しちゃうなんて…危ないよね」
「……あぁ、もしかしてそれで自棄になってたんですか?…ごめん、嘘。何もなかったよ」
え?
ぱちぱちと瞬きを繰り返してただサボくんを見つめる。
「あの日は何もなかった。ただカタルさん、すげぇ酔ってて吐いちゃって服ぐちゃぐちゃだったから、脱がしちゃったけど」
「え…」
「俺も眠かったし、カタルさん可愛かったし。あと朝になった反応見てみたかったからそのまま横で寝ただけですよ」
「は…」
絶対最後の理由がほとんどを占めてる気がしてならない。
けろっと嘘ですと言って笑うサボくん。いつものサボくんだ。
私の…さんざんの苦悩の意味。じゃああのティッシュは普通に吐物処理に使っただけってこと? 私普通にサボくんに騙されてた?
「……酷い。私、すっごい悩んでたのに」
「ごめん、ごめん。…俺のこと、少しは意識してくれるかなって。それに」
指先に触れるだけだったサボくんの唇。ぱかっと口があいて、かぷりと指先をのみこまれて。
「っ!?」
ねっとりと指の間を舐められてぞくぞくとするなんともいえない感覚。
慌てて指を引っ込めようとしたけど、サボくんにがっちり腕を掴まれててかなわなくて。
「そのうち、嘘じゃなくさせようと思ってたから」
「っ、さ、さぼく」
「カタルさんからせっかくお許し出たし、有難くいただいちゃおうか」
にっこり、私を組み敷きながら笑うサボくん。
…もうこの笑顔は信じない。サボくんにだけは用心できる、絶対!
END.
ああまた二日酔いになるまで飲みすぎてしまった。とりあえずリバースしたい。
ベッドから降りようと手をまさぐわせたところで、違和感。
「…ん」
そういえば自分の体は今にもベッドから落ちそうなほど端に寄っている。そして明らかに隣にある、何かの感触。
まさかと思ってぎょっと隣を見た。私以外の、ベッドに寝る人物。
おっと私は彼を知っている。私の後輩。しかも最近入りたてのくせに結構仕事ができると噂の、――――確か、サボくん。
よく見るとベッド下には彼の上着が脱ぎ捨てられていて、彼は黒いネックシャツ1枚で眠っていた。私はというと、どういうことかキャミソール1枚の薄着で、下も残念ながら履いていない、下着のみ。
――――ああ。またずきずきと頭痛が始まる。
とりあえず現実逃避にベッドから降りて台所に向かう。ちょうどよく湧き上がってきた吐き気にそのまま胃液を嘔吐した。
水で流しながら、冷たい水をすくって自分の顔を洗う。とりあえず冷静になろう。状況を整理しよう。
タオルで顔を拭きながらもう一度寝室に戻ってベッドを見る。
――変わらず眠っている、サボくんの姿。ていうか私が起きたんなら気配で起きてもいいんじゃないかな。
ちょっと。いやかなり図太すぎやしないか。人の家なのに。
とりあえず彼が起きる前にと部屋着をぱっと身に着けて、近づいて軽く体を揺すってみる。予想はしていたけど起きる気配なし。
軽くぺちぺちと頬をたたいてみた。ん、と眉がぴくりと動いてゆっくりとサボくんが目を開ける。
「…あれ…起きたんですね、カタルさん」
「うん、おはよう。…あのね、状況を教えてほしいんだけど…」
「……。あぁ~、昨日すげぇ酔ってましたもんね。やっぱ覚えてないですか?」
よいしょとベッドから身を起こし、困ったように笑うサボくん。
ああ、嫌な予感しかしない。確かに何も覚えてない。そしてこの状況だから困ってる。
「えっと…うん、ごめん。…迷惑かけた?」
おそるおそるきくと、サボくんはにっこり笑う。
「迷惑どころか可愛いもの見させていただきましたよ」
「え!?」
「でもそうか…覚えてないんですよね。…昨日のこと覚えてないのは残念ですけど…カタルさんが覚えてなくても俺は覚えてますから」
にっこり、また笑う。
いやいやちょっと待って。まさかそんなことないよね。いくら私薄着だったとはいえ。
サボくんは上はシャツとはいえ下はほら、ちゃんと履いてるし。いやまさかそんな。
「…あ、あのねサボくん…もしかして私たち…」
おそるおそる、サボくんに昨日の事実をきく。
サボくんは静かに笑って、ちらりと目線をやった。その先にあるのはごみ箱で。
「…覚えてないカタルさんには悪いですけど、俺はグイグイいかせてもらいますんで」
「え」
「証拠ならそこのごみ箱にありますよ。ほら、このティッシュ「わかったから!!」
ごみ箱を手繰り寄せて中をわざわざ見せようとするサボくんを慌てて止める。
私が焦っている様子をみてサボくんはまたにっこり笑う。絶対楽しんでるこれ。
ああでも。言われてみたら確かに不自然なティッシュの山がごみ箱にある。
私別に鼻炎でもないからこんなに鼻かまないし。もう絶対、あれじゃん。あれしかないじゃん。ゴムじゃん。それ拭いたやつじゃん。
サボくんにくるりと背を向けて天を仰いだ。神よ。
「…カタルさん、やっぱりショックですか。俺とこういうことになって」
「え」
懺悔途中にいきなりなことを言われてバッと振り返る。
180cm越えの大きい図体がベッドの上でしゅんと小さくなっていた。
「俺はお酒の勢いとはいえ、カタルさんとこうして近くなれて嬉しいんだけど」
「な」
「カタルさんは…。あ、いきなり言われても追いつかないか。でも俺本気なんで、覚えててくださいね」
じゃあ、俺いきますね。なんていって床にあった上着を着て爽やかに帰っていくサボくん。
さっきまで落ち込んでなかった?立ち直り早すぎない?
というか俺本気って何?昨日話したことあったんだろうけど私忘れてること忘れてない?話がつかめない。
そんなことをサボくんが立ち去った部屋で一人もんもんと考えこむ。
また気持ち悪くなってきたのでとりあえず流しで嘔吐した。
―――――
翌日。気まずすぎて嫌だけど会社には出勤しないとならない。
会社に行けばもう先についている後輩、サボくんの姿。
「あ、カタルさん。おはようございます」とコーヒー片手に言ってくる。なんかもう既に何枚か書類片付いているのが見える。君は本当に新人か?
隣のデスクに座り、私も少しずつ仕事を始める。
この時の私は、サボくんがどんな子か全然掴めていなくて、まだ何も知らなかった…。
――
お昼休み。ランチに行こうとする私の後ろで、サボくんも席を立ったのが見えた。彼もランチかな。
食堂に向かう途中で、何個か連なっている会議室を通る。その途中で後ろから小走りで近づいてきた人物に、空いている会議室に押し込まれた。
は?と思って振り向くと、そこにはいたずらをしたような笑みをしたサボくんで。
「サボくんか…。何してんの」
「冷たいなぁ、カタルさん。俺とカタルさんの仲じゃないですか」
「いや、私覚えてないし…」
「…覚えてないから、なかったことにするんですか?」
急に真剣なトーンになったサボくんにぐっと距離を詰められる。
気に負けて後ずさると背中は逃げ場のない壁だった。
昼休みの会議室はしんと静まり帰っていて電気もついていない。
この時間帯使われることはまずないし、完全な空き部屋だった。
「サボくん、近い…」
「もっと近くで寝た仲なのに。何をいまさら」
「そういうこと、会社では言わないでよ…!だいたい私覚えてないもの、」
す、とサボくんの手が口元にあてられる。まるで言葉を遮るように。
「カタルさん。もう覚えてないっていうの禁止」
「な、」
その手でそのままするりと頬を撫でられる。ゆっくり近づいてくるサボくんの顔。
キスされる、そう思った瞬間寸止めでサボくんが距離を詰めるのをやめた。至近距離で目を薄く開けて私を見てきて。
「…避けないんだ。キスしていいんですか?」
「…っ」
バッと首を背けると、サボくんはおっと、とおどけた様に手を放した。
恥ずかしくてキッとにらみつければ、参ったと降参のポーズをする。
「怒んないで、カタルさん」
「…からかわないで」
「ごめんなさい。思い出してくれるかなと思って」
そういって困ったように笑う。
サボくんからゆっくり距離をとって、走って会議室から出た。
ほとんど何も知らなかった後輩のサボくん。
たった1日であっという間に危険人物という認識を埋め込まされた。
――――…
あれから。
昼休みや仕事帰りなど、なんやかんやサボくんに捕まっては、ただ話をするだけのこともあれば距離を詰められたり、触られたりと繰り返し。
初めはただからかっているだけだと思っていたけど、回数を重ねるたびにだんだんと彼の行動もエスカレートしていって。
前回は壁に向かい合う形で後ろからサボくんに壁に縫い付けられ、延々と髪のにおいを嗅がれたり首筋を攻められてくすぐられた。
今回はエレベーターでうっかり二人きりになってしまって、やばいと思った瞬間にはサボくんに端まで距離を詰められていて、耳に息を吹きかけられた。
――さすがに私だってこんなことをされれば察するものがある。
彼は私の身体が目当てだ。というかたぶん他の女の子にも同じようにやっていて、あの日の朝のようにお持ち帰りするのも初めてじゃないんだろう。
距離の詰め方や言葉の選び方というのが女性慣れしているし、やり慣れている感がぷんぷんした。
「はぁ~…」
ぺしゃりとカウンターに俯せになる。こんな日は飲んで忘れてしまいたい。
だって考えてみれば、私はただのチャラ男サボくんにまんまと体だけもっていかれたわけだ。記憶がないのがいいのか悪いのか。
でもいくら酔っていたとはいえ、恋人でもない、それも仕事の後輩に体を許してしまうなんて。別にサボくんが嫌いとかナシとかそういう問題でもない気がする。
だけど酔っているときの自分が素だと聞いたことはある。―つまり私は節操なしの、酔っていいよってくる男は誰でもいい女ということ。
別にそんな女がダメだというわけじゃないけど。自分がそういう価値観を持っていたというのを改めて知ると、自分も知らなかった自分を知ってしまったというかなんというか。
「あらら。カタルさんもう随分酔ってるじゃないですか」
「ん…」
サボくんのことで頭を悩ませていたら幻覚まで見えてきた。私の横に座っているサボくん。
そんなわけがない。私は今日一人でやけ酒していたはずなんだ。
「ほら、帰りますよ」なんて言って私の腕をひいて席を立たせる。ふらふらの足取りな私を気遣ってか、肩を抱いてエスコートしてくれた。優しい。できた後輩だ。
「今日はこの間ほど酷くなさそうですね。ほら、部屋入れる?」
鍵を探す私の腕を引いて支えになってくれるサボくん。その支えに甘えてがっしり体重を預けてゆっくり鍵を探す。見つけた。
ガチャリと鍵を開けて中に入る。サボくんはすぐ上がってくるかと思えば案外入ってくる気配がなく、玄関に立って私の成り行きを見守っていた。
今日は手出してこないんだな、なんて思いながらぺしゃりとフローリングに寝転がる。
「ありゃりゃ。ダメだなー」なんて声がきこえて、ふわっと体が浮いたかと思えばサボくんに体を抱きかかえられていた。お姫様抱っこってやつだ。案外力ある。
そのままゆっくりベッドに下ろされる。いったん離れたと思ったサボくんがコップに水を入れて持ってきてくれた。有難くそれをごくごくと飲む。
「心配だなぁ、カタルさん。俺じゃなくて他の男にお持ち帰りされないでくださいよ」
「……いいんじゃない。こんな女だし」
「え?」
半ば自棄になった気分だった。飲みすぎて昨日のことをまったく覚えてないなんて、もしかして今までも知らない男の人とやってたりしたんじゃないだろうか。
そう考えたら今更守らなくてもいい気もした。
ごろりとベッドで寝がえりをし、天井を向く。サボくんが見えた。今日は上着をきていない、黒シャツだけ。
サボくんのシャツの裾をくいっと引く。
「…する?」
「……、カタルさん」
サボくんが珍しく驚いた様な、少し焦ったような顔をしている。いつもすまして仕事をこなしているサボくんのこんな表情初めて見たかもしれない。
「…酔いすぎ、ですよ。俺、結構我慢してるんですから」
「…そうなの?いいよ、また忘れてるかもしれないし」
「自棄になってるんですか」
「別に今更、いいかなって…。誰と寝ても…」
ふふ、と笑って目をつむる。―と、突然ギシッとベッドが軋んだと思えばサボくんが上体を倒して私の上に覆いかぶさっていた。
さっきと違って真剣な、少し怒ってるような表情にびっくりして手で押し返そうとしたけど、その手も簡単に頭の上で束ねられてしまう。
「さ、サボく…」
「―どういうこと?誰と寝てもいいって」
「え…」
「俺のこともその辺の男と同じで寝るだけの相手ってこと?…もしかしてセフレいる?」
今まで見たことのないサボくんばかりで困惑する。こんなに冷徹で淡々としたサボくんも初めて見た。
怖くてなんとか逃げ出したくても、私の両手首はサボくんの片手で軽々とベッドに縫いとめられてしまってびくともしない。
とりあえず怖くて、ぶるぶると首を振ってセフレなんていないと伝える。
「…いないんだ。信じるよ。…別にカタルさんが今までそうしてても、そんなカタルさんも素敵だから幻滅するわけじゃないけど」
「サボくん…怒ってるの?」
「…あぁ、怒ってる。俺もその辺の男と同じだと思われてたんだって思ってね」
さっきの冷徹な表情から、少しだけ緩んだ雰囲気になる。それでもサボくんが怒ってるっていうのは確かみたいで、いつもみたいに優しい表情ではない。
確かにサボくんのことをそういう男の人だろうって思ってたのは事実だけど、なんでこんなに機嫌を損ねるかわからない。
ぱちぱちと瞬きをすると、サボくんはふっと笑って私の手をそっと口元までもっていくと、ちゅっと指先に触れるだけのキスをした。
「ごめん、怯えさせた。でもカタルさんは少し男に用心したほうがいい」
「…う、ん。…そう、だよね。お酒に酔って簡単に身体許しちゃうなんて…危ないよね」
「……あぁ、もしかしてそれで自棄になってたんですか?…ごめん、嘘。何もなかったよ」
え?
ぱちぱちと瞬きを繰り返してただサボくんを見つめる。
「あの日は何もなかった。ただカタルさん、すげぇ酔ってて吐いちゃって服ぐちゃぐちゃだったから、脱がしちゃったけど」
「え…」
「俺も眠かったし、カタルさん可愛かったし。あと朝になった反応見てみたかったからそのまま横で寝ただけですよ」
「は…」
絶対最後の理由がほとんどを占めてる気がしてならない。
けろっと嘘ですと言って笑うサボくん。いつものサボくんだ。
私の…さんざんの苦悩の意味。じゃああのティッシュは普通に吐物処理に使っただけってこと? 私普通にサボくんに騙されてた?
「……酷い。私、すっごい悩んでたのに」
「ごめん、ごめん。…俺のこと、少しは意識してくれるかなって。それに」
指先に触れるだけだったサボくんの唇。ぱかっと口があいて、かぷりと指先をのみこまれて。
「っ!?」
ねっとりと指の間を舐められてぞくぞくとするなんともいえない感覚。
慌てて指を引っ込めようとしたけど、サボくんにがっちり腕を掴まれててかなわなくて。
「そのうち、嘘じゃなくさせようと思ってたから」
「っ、さ、さぼく」
「カタルさんからせっかくお許し出たし、有難くいただいちゃおうか」
にっこり、私を組み敷きながら笑うサボくん。
…もうこの笑顔は信じない。サボくんにだけは用心できる、絶対!
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