サボ/また逢う日まで
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「……まさか、カタルか?」
「…まさかじゃなくてもサボ?」
たまたま立ち寄った街、それも決して栄えているとはいえないBARで、まさかこんな数年ぶりの再会をすることになるとは思わず、私はグラスを持ったまま固まった。
同じく驚いて口を開けたままの表情で入口で経っている男は、数年前に同じ船に乗っていて、なんなら恋人同士の様な関係だった相手、だった気がする。気のせいじゃなければ。
「…いや、驚きすぎて、…言葉が出ないな。…本当にカタルかよ」
「そっちこそ。なんでこんなところに?何年ぶりだろね」
瞬きを繰り返して現実を確認するかのようにゆっくり歩み、私の横に自然と腰をおろすサボ。どうやら一人で来たようだ。
それにしても私自身も当時よりは大人になったし化粧も服装も変えた。割とあの頃に比べて別人になった気がするんだけど、よく一目で私だとわかったな。
「まぁ、たまたま寄っただけなんだけど。まさかこんなところで会うとはな」
「ふふ…たまたま、ね。まぁ言えないよね。そっちも結構派手にやってるみたいだし。新聞で見てるよ」
「あぁ。あの頃よりは仲間も増えたしな。……カタルは?今は何やってるんだ」
新聞で何度か見た、サボの写真。久しぶりに会ったのにそんなに久しぶりな感じはしないのはそのせいなんだろうか。
私がいなくなった後もしっかり自分の役目を果たして進んでいるサボ。 少し、寂しくて、いじけたくなる。
「……何やってる、かぁ。女一人で食ってかなきゃいけないからね。サボには言えないようなこともしてるかなぁ」
少し意味深なことを言ってからかってみたり。 かつてサボとはそういうこともしてた仲だから、少し気にしてくれたらいいな、なんて思ったり。
サボは少しぴくっと反応して眉を寄せて、「……、金に困ってんのか」なんて生真面目な返事。
「ふふ、今のところは困ってないよ。大丈夫。ただ、若いうちに使える武器は限られてるから、惜しみなく使ってかないとね」
「……確かに、数年前とは結構雰囲気変わってるな。ちょっと化粧濃いんじゃねぇか?」
「ぶぶー。はい、久しぶりのレディに言うセリフじゃないでーす。有罪ー」
「レディ…?おっかしいな、どこにレディが…」
お決まりのあからさまに周囲を見渡す素振りをされたところで、サボの腹に遠慮ない拳を突き出して「ごふっ」と嬉しそうな悲鳴を上げるまでが一連の流れ。
その後サボのジョッキを無理やり持たせて一気させてやった。ざまぁみれ。
「ぷはっ、…まぁあれだ、久しぶりに会ったんだから、お互い面倒な詮索はやめて飲もうぜ」
「賛成!いいこと言うじゃんサボ!ちょっとは気使えるようになったんだね!」
「あ~…数年前カタルにはさんざん、気使えない野郎だって毎日怒られてたからなあ」
ジョッキをがん!と合わせたら、もうそこは女も男も関係ないーー飲みの空気の始まりだ。
――――――…
「いやだ!!!」
「やだって言われてもなぁ…」
ふわふわと気持ちいい火照りに包まれ、体も心もふわふわしている。
気が大きくなって、なんでも許せる気持ちになって。笑うとまた余計ふわふわになって。
楽しくていつもより笑いやすくて、同時に簡単なことで涙も出そうになる。
感情もいつもよりだいぶストレートだ。そう、そうです。
「サボはずっと私と一緒にいるの!!」
「ってなこと言ってある日急に船を出てったのはお前だろ」
「それはそれ。あの時はそう、そうしたかったの」
言われてあぁそういえば、そうだったっけ、なんてぼやーっと思い起こす。
あんまり考えないようにしてた。そうしてたら本当に考えなくなってた。
「…まったく、勝手な奴だよな。残された俺がどんな気持ちだったか…」
「ふふ、寂しかった?悲しかった?私がいないと辛かったの~?」
「うるせーぞ酔っ払い。飲むとすぐ酒まわるのは昔から変わんねぇな」
「そういうサボはシラフすぎ!!いいんですかそんなんで!女ばっかり酔わせて!それでも男か!!」
「いや勝手に飲んで酔ってるだけだろ」
ふふ、って笑いながらビールを飲むサボ。
あんだその、顔少し赤くして笑った感じ、いいな今の表情。顔がいい。
「サボやっぱりかっこいいね」
「お前もいつもそれくらい素直だといいな」
「えっ、私だいぶ素直だと思うけど!」
「まぁ素直か。さっきまでさんざん俺のこと煽ってたけど」
「あおっ…!てはいたけどぉ~……、ちょっとからかってみたくなるじゃん!」
ぐでーっとテーブルに突っ伏す。
おお、目を瞑ると世界が真っ暗なのにぐわんぐわんしている。だいぶきてます。
「おーい、寝んなよー」という適当なサボの声が上から振ってくる。
雑だなおい。過去に恋人だった女だよ、そんな面倒さも隠さない言い方して!
「寝ないし…サボが冷たいから」
「じゃあ優しくしてやるからちゃんと起きろ」
くっ、くっと髪の毛が引かれてる。絶対指に巻いて遊んでる。
「私がいなくなって寂しかった?…寂しかったって言って」
「……寂しいなんてもんじゃなかったさ」
「……私も寂しかったぁ」
自分で選んだ道だとはいえ、サボと離れて失ったものは大きかった。
毎日一緒にいた、笑いあう相手も、喧嘩する相手も突然いなくなった。
寂しい時に甘える相手も、抱きしめてくれる相手も、満足させてくれる相手もいなくなった。
「…戻って来いって言わないの?」
「……戻ってこないだろ、カタルのことだから」
「……うん」
失ったものは大きかったけど、得たものも大きかった。
ルールに縛られず自由な生き方。行先も指定されず自分で決めてどこにだって行ける。
行動の責任を負う必要もない。自分のことだけを考えていればいい、自由で気楽な生き方。
何よりそれが私にとって大きな魅力だった。
「……サボもおいでよぉ」
「…俺が行かないのもわかってて言ってんだろ」
「わかってるけどぉ~……ちょっとはチャンスくれてもよくない?」
「そうだなぁ、」なんてため息交じりに考える素振り。顔がいい。
「じゃあ、寝ずに俺の相手してくれんなら考えようか」
「うわぁ、急にえっち。サボのえっち。そればっかり」
「いやいや、酒で付き合えって話だろ」
「え?ヤんないの?」
「…ヤるけど」
ぷはっと吹き出して心の底からけたけたと笑う。
こういうの久しぶり。
お互いに曲げられないものがある。
チャンスなんて言ってるけど、絶対サボは船を降りないし、私のようなだらだらとした生活には向いていない。
わかってるけど私に付き合ってくれてる。
…私も、今だけだってわかってるけど、この"今だけ"を大事にしたい。
それからサボも少しだけ酒を煽って、明るくなる前には二人でBARを抜け出した。
飲んですぐ寝れるようにすぐ隣にホテルがあるBARを選んだから、まともにまっすぐ歩けない私を支えるようにサボが連れてってくれて。
部屋に入った後はもう、お互いが酔いに任せてなし崩しだ。
正直あまり覚えていない。ただすごく満足した時間だった気はする。
「……」
明るくなる頃に、まだ眠っているサボの横から静かに抜け出して先に部屋を出た。
また勝手な奴だって怒られそう。でも、私にはやっぱりこういうのが向いてる。
サボが起きるのを待ってたら本当に離れたくなくなっちゃうし、ピロートークなんてガラでもない。
首筋にいくつか残る痕の上に、物静かな光を放つアクセサリーをつけて、その上に服を着こんでいく。
――名残惜しいけど、限られた時間だからこそ、充実していた。
……―――――――
「あれ、サボ。お前いつもつけてたネックレスはやめたのか」
「ん?…あぁ、猫に盗まれたんだ」
END.
「…まさかじゃなくてもサボ?」
たまたま立ち寄った街、それも決して栄えているとはいえないBARで、まさかこんな数年ぶりの再会をすることになるとは思わず、私はグラスを持ったまま固まった。
同じく驚いて口を開けたままの表情で入口で経っている男は、数年前に同じ船に乗っていて、なんなら恋人同士の様な関係だった相手、だった気がする。気のせいじゃなければ。
「…いや、驚きすぎて、…言葉が出ないな。…本当にカタルかよ」
「そっちこそ。なんでこんなところに?何年ぶりだろね」
瞬きを繰り返して現実を確認するかのようにゆっくり歩み、私の横に自然と腰をおろすサボ。どうやら一人で来たようだ。
それにしても私自身も当時よりは大人になったし化粧も服装も変えた。割とあの頃に比べて別人になった気がするんだけど、よく一目で私だとわかったな。
「まぁ、たまたま寄っただけなんだけど。まさかこんなところで会うとはな」
「ふふ…たまたま、ね。まぁ言えないよね。そっちも結構派手にやってるみたいだし。新聞で見てるよ」
「あぁ。あの頃よりは仲間も増えたしな。……カタルは?今は何やってるんだ」
新聞で何度か見た、サボの写真。久しぶりに会ったのにそんなに久しぶりな感じはしないのはそのせいなんだろうか。
私がいなくなった後もしっかり自分の役目を果たして進んでいるサボ。 少し、寂しくて、いじけたくなる。
「……何やってる、かぁ。女一人で食ってかなきゃいけないからね。サボには言えないようなこともしてるかなぁ」
少し意味深なことを言ってからかってみたり。 かつてサボとはそういうこともしてた仲だから、少し気にしてくれたらいいな、なんて思ったり。
サボは少しぴくっと反応して眉を寄せて、「……、金に困ってんのか」なんて生真面目な返事。
「ふふ、今のところは困ってないよ。大丈夫。ただ、若いうちに使える武器は限られてるから、惜しみなく使ってかないとね」
「……確かに、数年前とは結構雰囲気変わってるな。ちょっと化粧濃いんじゃねぇか?」
「ぶぶー。はい、久しぶりのレディに言うセリフじゃないでーす。有罪ー」
「レディ…?おっかしいな、どこにレディが…」
お決まりのあからさまに周囲を見渡す素振りをされたところで、サボの腹に遠慮ない拳を突き出して「ごふっ」と嬉しそうな悲鳴を上げるまでが一連の流れ。
その後サボのジョッキを無理やり持たせて一気させてやった。ざまぁみれ。
「ぷはっ、…まぁあれだ、久しぶりに会ったんだから、お互い面倒な詮索はやめて飲もうぜ」
「賛成!いいこと言うじゃんサボ!ちょっとは気使えるようになったんだね!」
「あ~…数年前カタルにはさんざん、気使えない野郎だって毎日怒られてたからなあ」
ジョッキをがん!と合わせたら、もうそこは女も男も関係ないーー飲みの空気の始まりだ。
――――――…
「いやだ!!!」
「やだって言われてもなぁ…」
ふわふわと気持ちいい火照りに包まれ、体も心もふわふわしている。
気が大きくなって、なんでも許せる気持ちになって。笑うとまた余計ふわふわになって。
楽しくていつもより笑いやすくて、同時に簡単なことで涙も出そうになる。
感情もいつもよりだいぶストレートだ。そう、そうです。
「サボはずっと私と一緒にいるの!!」
「ってなこと言ってある日急に船を出てったのはお前だろ」
「それはそれ。あの時はそう、そうしたかったの」
言われてあぁそういえば、そうだったっけ、なんてぼやーっと思い起こす。
あんまり考えないようにしてた。そうしてたら本当に考えなくなってた。
「…まったく、勝手な奴だよな。残された俺がどんな気持ちだったか…」
「ふふ、寂しかった?悲しかった?私がいないと辛かったの~?」
「うるせーぞ酔っ払い。飲むとすぐ酒まわるのは昔から変わんねぇな」
「そういうサボはシラフすぎ!!いいんですかそんなんで!女ばっかり酔わせて!それでも男か!!」
「いや勝手に飲んで酔ってるだけだろ」
ふふ、って笑いながらビールを飲むサボ。
あんだその、顔少し赤くして笑った感じ、いいな今の表情。顔がいい。
「サボやっぱりかっこいいね」
「お前もいつもそれくらい素直だといいな」
「えっ、私だいぶ素直だと思うけど!」
「まぁ素直か。さっきまでさんざん俺のこと煽ってたけど」
「あおっ…!てはいたけどぉ~……、ちょっとからかってみたくなるじゃん!」
ぐでーっとテーブルに突っ伏す。
おお、目を瞑ると世界が真っ暗なのにぐわんぐわんしている。だいぶきてます。
「おーい、寝んなよー」という適当なサボの声が上から振ってくる。
雑だなおい。過去に恋人だった女だよ、そんな面倒さも隠さない言い方して!
「寝ないし…サボが冷たいから」
「じゃあ優しくしてやるからちゃんと起きろ」
くっ、くっと髪の毛が引かれてる。絶対指に巻いて遊んでる。
「私がいなくなって寂しかった?…寂しかったって言って」
「……寂しいなんてもんじゃなかったさ」
「……私も寂しかったぁ」
自分で選んだ道だとはいえ、サボと離れて失ったものは大きかった。
毎日一緒にいた、笑いあう相手も、喧嘩する相手も突然いなくなった。
寂しい時に甘える相手も、抱きしめてくれる相手も、満足させてくれる相手もいなくなった。
「…戻って来いって言わないの?」
「……戻ってこないだろ、カタルのことだから」
「……うん」
失ったものは大きかったけど、得たものも大きかった。
ルールに縛られず自由な生き方。行先も指定されず自分で決めてどこにだって行ける。
行動の責任を負う必要もない。自分のことだけを考えていればいい、自由で気楽な生き方。
何よりそれが私にとって大きな魅力だった。
「……サボもおいでよぉ」
「…俺が行かないのもわかってて言ってんだろ」
「わかってるけどぉ~……ちょっとはチャンスくれてもよくない?」
「そうだなぁ、」なんてため息交じりに考える素振り。顔がいい。
「じゃあ、寝ずに俺の相手してくれんなら考えようか」
「うわぁ、急にえっち。サボのえっち。そればっかり」
「いやいや、酒で付き合えって話だろ」
「え?ヤんないの?」
「…ヤるけど」
ぷはっと吹き出して心の底からけたけたと笑う。
こういうの久しぶり。
お互いに曲げられないものがある。
チャンスなんて言ってるけど、絶対サボは船を降りないし、私のようなだらだらとした生活には向いていない。
わかってるけど私に付き合ってくれてる。
…私も、今だけだってわかってるけど、この"今だけ"を大事にしたい。
それからサボも少しだけ酒を煽って、明るくなる前には二人でBARを抜け出した。
飲んですぐ寝れるようにすぐ隣にホテルがあるBARを選んだから、まともにまっすぐ歩けない私を支えるようにサボが連れてってくれて。
部屋に入った後はもう、お互いが酔いに任せてなし崩しだ。
正直あまり覚えていない。ただすごく満足した時間だった気はする。
「……」
明るくなる頃に、まだ眠っているサボの横から静かに抜け出して先に部屋を出た。
また勝手な奴だって怒られそう。でも、私にはやっぱりこういうのが向いてる。
サボが起きるのを待ってたら本当に離れたくなくなっちゃうし、ピロートークなんてガラでもない。
首筋にいくつか残る痕の上に、物静かな光を放つアクセサリーをつけて、その上に服を着こんでいく。
――名残惜しいけど、限られた時間だからこそ、充実していた。
……―――――――
「あれ、サボ。お前いつもつけてたネックレスはやめたのか」
「ん?…あぁ、猫に盗まれたんだ」
END.
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