サボ/言葉より確実に
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「今日も可愛い俺のカタル~!あ~~~疲れたよ~!」
「…………」
「カタル、カタル。顔。レディにあるまじき形相になってる」
驚愕。混乱。苛立たしさ。怒り。
色々な感情が瞬く間に浮かぶ中とりあえず状況を整理する。
さっきまで向き合っていた書類の束は突然の背後からの衝撃で机の上に散らばっており、走らせていたはずのペンはインクを伸ばし無意味な直線を引いている。
そうして背中にくっついている人物。私の背中に顔をぐりぐりと押し付けている。
私が真顔になっている様を言い当てたコアラといい、だいたいこんなことをする人物は一人しかいないから後ろを振り向かずともわかる。
―さて。わかったところで特別私のやることは変わらないか。
背中にくっつき虫をつけたまま、とりあえず目の前の散らばった書類を黙々と片付ける。トントンと角を揃えて綺麗に戻したところで、先ほど直線を引いてしまった書類はまた後で書き直すとして、それ以外のものに手をつけていこう。
「カタル~無視することないだろ!恋人が数か月ぶりに帰ってきたんだぜ!もっとなんかないのかよ!」
「お疲れ様です。その様子から特に何事もなく任務を修了したことはお察しします。さすがですね総長。今日はお疲れでしょうからゆっくりおやすみください」
「あの…お疲れからお休みまでテンプレートだよね?前に帰ってきたときも同じこと言ってもらった気がするんだけど。…さすがに泣くよ、俺」
背中にくっついていた気配がなくなったかと思えば、気配は離れたわけではなくそのまま足元で小さくなった。
そこで膝を抱えて丸くなっているならまだ気持ちが悪いだけのものの、彼は視界が低くなったのをいいことに私の脚にがっしりとしがみつきそこに頬をこすりつけて「はぁ~…」ととても安心しているような声を出している。
その顔の、なんとだらしないことか。
「…コアラ。カメラもってきて。連射してばらまく」
「いやいや。その顔もうカタル専用すぎて見せれないやつよ。宴会でも皆ドン引きするレベル」
「だからいいんじゃん」
「いやー…そんなんでも悲しいことにうちの参謀総長だからねぇ…」
本当に悲しいどころの騒ぎじゃない。参謀がきいて呆れる。
ここまで一人の人物に肩入れして弱みにでも付け込まれたらどうする気なんだろう。
前にそうきいてみたら、本人は「そんなの仕方ねぇだろ!気持ちばかりはどうしようもねぇ!!」なんて大きい声で開き直ってたけど。
「…参謀総長殿。部下は今仕事に勤しんでいるので、お戯れはまたの機会にしてほしいんですが」
私の太腿にすりすりと遠慮なく頬をこすりつけている参謀らしい人に肘鉄をくらわして淡々と要件を告げる。
頭頂部に確かにゴスッと当たったはずなのに、参謀らしき人は頭の動きは止めたが「うーむ」とさして何も変わらなかったような反応。
「またの機会…か。じゃあ明日ならいいのか?」
「明日も明後日もダメです。仕事が終わりそうにないので」
「じゃあいつならいいんだ」
「…そうですね。来月になれば今の仕事も一区切りついてるでしょう」
「来月って俺次の任務行ってんじゃねぇか!!嫌だ離れねぇ」
はぁぁ…。大きな大きなため息を吐いてゆっくりとその場に立つ。
立つがまま捕まる場所を変えた総長らしき人はひしっと私の膝に捕まり直し、こちらを仰ぎ見ている。
「…移動したいんですが。総長」
「カタル。二人のときは名前で呼べって言ったろ」
「言われました。ですが私はまだ仕事中なので。仮に空間に二人だけとなったとしても私はまだ仕事中です」
膝の拘束が弱まったのでそれを振り切って目的地まで歩く。
案の定後ろをついてくる総長。身長があって後ろにべったりつかれると圧迫感が凄い。
「…なぁカタル、仕事はわかるけど、俺としては久しぶりに会えたからもっとこう、待ってたよ~みたいな感じで来てもらえるとすごくうれしいというか」
「…総長。私だってあなたが帰ってきたのがどうでもいいわけじゃありません。だけど仕事も同じくらい大切で放ってはおけないだけです」
「んー…。カタルはまじめだなぁ」
目的の倉庫につく。薄暗く、この時間帯は誰も寄り付かない。
「…そこまで真面目でもないです。じゃなきゃ仕事中にこんなところに来たりしない」
くるりと振り返って、「ん?」と呆けている総長の腕を引いてつま先立ち。
ちゅ、と触れるだけのキスをする。
「…おかえり、サボ」
「……っ、~~~あーの…さ、…」
かあああっとわかりやすいくらいに顔を真っ赤にするサボ。くっつきたいっていってたのはサボの方なのに、何を照れているんだか。
「ちょっとだけだよ。すぐまた仕事に戻る」
「…あぁ、わかってる。…はー…心臓に悪い」
ぎゅうっとサボに体を抱きしめられる。久しぶりにサボのにおいに包まれる。
「はぁ~…カタルだ…。安心する…」
「ふふ。…今回の任務も大変だった?」
「まぁまぁ。…でもカタルがいたら全部吹っ飛ぶ」
こんな端っこの倉庫でこっそり、まだみんなが仕事している中でこんなことをしているなんて。本当に悪いことをしているようでちょっとだけドキドキする。
私を抱きしめるサボの腕。背中からゆっくりと腰にまわって、さわさわと手が。
「こらこらこら」
現行犯で捕まえた腕を軽くつねりながらサボの目の前に持ってくる。
「んーやっぱりだめか?」
「当たり前!もう終わり。仕事に戻るよ」
「仕方ねぇ。もし夜会いたくなったら来ていいからな、カタル」
ニッといたずらっ子のように笑うサボ。
心底むかつくなぁと思いながら、内心少しサボの温もりを補充できて、仕事が頑張れそうな気がした。
――――
夜になり、向き合っていた仕事にひと段落をつけてふぅとため息。
今日はこの辺でやめようか。そんな思考の端に、今日はサボが帰ってきているんだと、どこか淡い期待をしてしまう自分がいる。
疲れてるだろうしもう寝てるかもしれない。
…けど、ちょっとだけ部屋覗いてみようかな。
部屋を出ようとドアに手をかけたところで、バタン、とドアがいきなり開いて突然のことにその場に棒立ちになる。
さっきまで思い描いていた人物―サボが、ドアの前に立っていた。
「お、どっか行くところだったのか?」
「あ…いや、ちょっと休憩しようかなって。…ってノックしてよね」
「別にいいだろ?………ごめんなさい」
真顔の私に空気を読んだサボが素直に謝る。レディの部屋にノックもなしなんていい度胸すぎる。とりあえず素直に謝ったから今回は許すけど。
そんなことを思ってたら、いつの間にか私の後ろに回っていたサボに体を後ろから抱きかかえられ、ボスン!とそのままベッドへ強制ダイブさせられた。
咄嗟のことで「ひゃぁ!」と驚いた私に、サボは楽しそうにベッドの上で私を抱きしめながらくっくっと笑っている。
「息抜きだったんだろ?ちょうどいいな」
「ちょっと!…もう…結局サボが触りたいだけでしょ」
「それは否定しねぇ。カタルもまんざらじゃなかったりして?」
前髪をくっと後ろにすくわれて頭を撫でられる。目の前に整った顔。むかつく。
確かにちょうどサボのところに行こうと思ってた。見透かされてたのかな。
「…ないよ。今日はもうさっさと寝ようと思ってたもん」
「えー?そうなのか。そんなふうに見えなかったんだが…俺の勘も鈍ったかな」
息をするように天邪鬼な言葉がついて出て、自分でもびっくりした。
それでもサボは驚きながらも表情は優しいまま、私の頭を撫でてくれる。
…正直、私だって久しぶりにサボに会えてうれしくてたまらない。
なのでこうしてサボが触ってくれるのが嬉しい。心地いい。
「じゃあ今日はおとなしく退散するか。俺は無理やりは趣味じゃねぇからな」
「無理やりベッドに倒した人がよく言う」
「うっ」
冗談だよって。本当はサボのところに行こうとしてたって。
言おうとしてるはずなのに、軽口ばかりが口をついて出てくる。自分でも不思議だ。
どうして。
「おやすみ。また明日な、カタル。あんま頑張りすぎんなよ?」
「ん」
ちゅ、と軽く触れるだけのキスをして、サボは本当に部屋を出て行ってしまった。
素直になれない、私だけを残して。
―――――
―――そう、違和感を初めて感じたのは、サボが帰ってきた日の夜。
夜、私の部屋に来てくれたサボを追い返してしまった日だ。
自分でもなぜかいつにもまして天邪鬼だとは思っていた。
「カタル~、一緒に飯食おうぜ」
「無理です。一人で食べてください」
「えっ、なんだよつれねぇな~」
確かに元から仕事中によくちょっかいをかけてくるサボには冷たくしていた。
でもそれは仕事中だからっていうのもあったし、サボ自体が絡んできすぎて正直本当に鬱陶しいときもあったし。
「カタル、今日もダメか?…ちょっとぎゅってさせてくれるだけでもいいからさ」
「…無理ですって。やめてくれませんか、そういうの」
だけどさすがに気づく。これは本心じゃない。
というか、天邪鬼の域を超えてる。私が思ってることと反対のことが口から出てるんだ。
「…なぁカタル、なんか怒ってんのか?言いたいことあるなら言ってくれよ?」
「………サボと話したくない」
口から出た言葉にハッとなって思わず口をおさえた。
目の前のサボは私以上に驚いた様な、ショックを受けたような顔をしている。
「あ……私、」
「……わかった。今は話したくないんだな?…待ってるから、話せるようになったら来てくれよ?」
しゅんと寂しそうに肩を落としたサボが帰っていく。「お前ら喧嘩でもしてんのか?」なんて、仲間に肩をたたかれている。
…私だって、自分でもどうしてこんなことを言ってしまうのかわからない。
前からサボにきつく当たりすぎてしまうこともあった。言ってしまってから後悔することもあった。
でも今回のは、感情に任せてつい言っちゃったとかそういう話でもない。
さっき私は、「ちょっとサボと話したい」、そう言うつもりだった。
自分が思ってることと逆のことが口に出てしまうことを相談しようと思っていた。
「……、」
どうしよう。
すぐにでもサボのところに行って誤解を解きたい。
だけど今は何を言っても全部反対の言葉が出てきてしまうなら、余計にサボを傷つけてしまうだけな気がした。
――――――
その日の夜。
悩んでも悩んでもどうしたらいいかわからず部屋で頭を抱えていると、コンコンとドアをノックする音。
開けるとサボがいた。
「…サボ」
「ごめんな、急に。どうしても伝えたいことあって」
珍しくノックをしているかと思えば、そういってサボは申し訳なさそうに眉を下げる。
昼間、私がサボと話したくないと言った矢先に訪ねたことを謝っているんだろう。
そんなことはそもそも本心ではなかったのだし気にしなくてもよかった。何より会えたのが嬉しくて、ふるふると首を横に振る。
「…どうしたの?」
ドアに立ったまま一向に言葉を発しようとしないサボにこちらから問うてみる。
とりあえず、質問はしたいままできるようで安心。
サボはじっと私の身体を見ていたかと思えば、目を瞑って一息ついてから「ああ、」と口を開けた。
「……急な要件が入ってな。明日発つことになった」
「え!?」
発つ…って、出発するってこと?そんな、この間帰ってきたばっかなのに…。
本来の予定ならまだもう少しいれたはず…なのに。
急なことで混乱して上手く言葉が出てこない。
扉の前に立ち尽くす私に、サボはいつもと変わらない、優しい笑顔で。
「どれくらいで戻れるかわかんねぇんだ。…だからまぁ、ちょっと行ってくるよ」
「…サボ…」
「……まだ、俺と話したくないままか?…カタルがそういうなら、次まで待つよ」
話したくないわけじゃない。だけどどういえばサボを傷つけずに済むのかわからない。
何を言ってもあべこべになってしまう今の自分じゃ、うまい言葉が見つけられなくて。
「……待つとは言ったが、…まぁその、このままってのはできればやめてくれよな」
「……?」
「俺も理由くらいは知りたいからな。…待ってるから、ちゃんと話してくれよ」
そう言って、はは、と困ったように苦笑いのサボ。
いつも勢いがあって、こっちの都合なんてお構いなしの一方的なサボ。こんな弱弱しい一面は見たことがない。
――見ていられなくて。同時にこんな顔を自分がさせてしまっているんだと思うと、胸がきゅうっと軋むように痛い。
…言葉にすれば、何を言ってしまうかわからなくて。
ただ、このままサボとまた長い間会えなくなってしまうのはつらすぎた。
気づけば私は、目の前のサボに勢いで抱き着いていて。
「…!……カタル…?」
「……っ」
震える手でサボの服を握りしめ、身体を離されないように思い切りしがみつく。
昼間の私の拒否的な態度と逆の行動にサボも動揺しているんだろう、いつもならすぐに抱きしめ返してくれるのに、今回は戸惑いながらゆっくりと、それでも背を優しく包んでくれた。
「…もう怒ってねぇのか?」
「…」
最初から怒ってるわけでもなかったけど、言葉で伝えられるものでもないのでとりあえず頷いておく。攻撃的な姿勢はないということだけは伝えたかった。
サボははぁ~~と安心したような大きなため息をついた後、ぎゅうっと私を強く抱きしめ返してくれた。
突然の強い抱擁に「んっ、」と声が出て、だけどその力強さに心が満たされていくのを感じる。
「なんだよ…、俺すっげぇ心配したんだぞ。……なんでここ数日俺のこと避けてた?」
「……避けて……うう…」
いつもの調子でつい喋りそうになってしまい、慌てて口をつぐんで首をふるふると横にふる。
サボが「?」と首を傾げているけど、もう怖くて口を開けそうになかった。
せっかくの解いた誤解をまたややこしく拗らせたくない。
とりあえず身振り手振りで上手く喋れないことを伝えようとしてみる。口と自分を交互に指さして、指でバッテンを作ってみた。
「…?喋らねぇのか?喋るのがダメってことか?」
「……(首を横に振る)」
「ん…違う?でも喋らねぇんだな。…コアラとなんか罰ゲームでもやってんのか?」
ぶるぶる。ひときわ大きく首を振って、もう諦めてもう一度サボに抱き着いた。
もう伝わらなくてもしょうがない。最低限の誤解は解けたようだし、明日出発するのはすごく寂しいからせめて思い切りくっついてサボを満喫したい。
そう思ってサボの胸板にぐりぐりと顔を押し付けてじっと見上げてみれば、サボは顔を真っ赤にして固まっていた。
「…?」
「いや、その……俺今まですげぇムチ食らった後で、この飴はちょっと…刺激が強すぎるっていうか…」
カァァ、と音が鳴っていそうなほど顔を真っ赤にし、自分の顔を手で隠している。
…よくわからないけど、私の素振りがサボの何かに刺さったらしい。
「……あー…。…怒ってねぇんなら、キスはしていい…のか?」
「…、」
こくん、と頷いた。それを見たサボが安心したようにほ、と一息ついて、私の頬をすりすりと指先で撫でる。
そうしてサボの顔がゆっくりと落ちてきて、重なる少し前に角度を変えて唇が合わさった。……唇が、あたたかい。
いつもなら深く合わさる唇が、皮膚同士が一瞬触れただけのような軽いものだけで離れていく。
それが寂しくてつい背伸びをしてその口を追ってしまい、サボが少し驚いた顔をしているのが見えて。
「、」
ぱく、ぱくと、言葉を発していないのに無意識に唇が動く。
ただサボとキスしたくて口が動いてしまっただけかもしれない。
―恥ずかしい、なんて思って顔を赤くしていたら、頬を撫でていただけのサボの手に力がこもって、ぐっと上を向かせられて再び唇を塞がれた。
「ん、っ」
上から覆いかぶさるような、突然の深いキス。
唇全体が大きく食べられたような。そうかと思えば、一瞬だけ離れた彼の唇にあむ、あむと唇を甘く挟まれる。
意識してしまうような、恥ずかしいキス。
まるで私がおねだりしたのをわかっているかのような、タイミングの良さで。
唇を離したけど尚も至近距離のまま。サボがぎゅうっと私を包むように深く抱きしめなおした。
「…ん、」
体全部がサボの中に包まれて、居心地がよくて安心する。
離れたくなくて私も彼の広い背に手をまわして、より体がくっついたような安心感が生まれた。
暖かい胸に頬をよせる。……気持ちがいい。もっと抱きしめてほしい。離さないでほしい。
「…あぁ、放さねぇ」
「ん、」
ぎゅうっと、サボがまた体を抱きしめなおしてくれる。
まるで本当に私の言いたいことが伝わっているよう。
まるで子をあやすように、私を抱きしめたままサボがゆらゆらと体を揺らしながら頭を撫でてくれる。
別に泣いているわけじゃないのに。そう思って息を吸ったらスン、と鼻がなって、気づけばサボの肩口に染みができていて、自分も知らない間に泣いていたことに気が付いた。
私も気づいていないのに、いち早く気づいてもらったことが嬉しくて。同時に気恥ずかしくて。
自分でもわからない心情のなか、後から後からぽろぽろと流れる涙をただただ、訳がわからないまま流し続けた。
サボはずっと傍にいてくれて。
――明日になれば、サボは出発していなくなってしまう。このまま夜が明けなければいいのに。
そんなことを思いながら、結局私は心地よさに抗えず、とろとろと微睡に吸いこまれていった。
最後の最後まで、何一つ体は言うことをききやしない。そんなことを思いながら意識を失った…。
翌朝。サボの腕の中で目を覚ました私は、すかーと隣で眠りこけているサボをとりあえずぺしぺしと叩いて覚醒させる。
「…んあ。カタル、おはよ」と寝ぼけた声で言うサボに、「おはよ」といつもの調子で返事をして、いつもの調子で「ほら、今日発つんでしょ」とサボに支度を促す。
「うぁぁ~~~行きたくねぇ~~」とベッドの上で駄々をこね始めたどうしようもない参謀総長(?)にもう一度ぺしりと頭をたたいて行動を急かした。
準備を終え、「じゃあ行ってくる」と背を向けたサボのコートをくいっと引く。
「気をつけて」、そして少し間をあけてから「…待ってるからね」と言った。
サボは少しきょとんとしていたけど、「おう!」とニッといつもの笑顔を見せて、爽快な様子で敵地へと発った。
――結局、何が理由だったのかわからないけれど、サボと寝て起きたその日の朝、すべてはいつも通りに治っていて。
思ったことがそのまま口を出て、気をつけて、待ってるからと、本音もちゃんと口から出て言えた。
しばらくサボにひねくれ口をたたき続けてしまったから、神様がそろそろその辺にしとけと不思議な力を使ったのか。
それとも、知らない間に私にたまっていたストレスが、サボ限定の失語という形で症状として出たのか。
いまとなっては何が理由なのかわからない。
ただ、わかったのは、サボにとっては私の言葉がなくても思ってることはほとんど伝わっているらしいということ。
「……それって」
……実は一番、恥ずかしいことじゃないだろうか。
――――――――
「あ~今日も可愛い俺のカタル~!帰ったぞ~!ただいま!」
「………。え。今日出発したばかりだよね?」
「あぁ!ちゃんと任務終えて帰ってきたぜ!」
「……(さてはコイツもともと1日で帰ってくる仕事だってわかっててわざとカマかけたな…)」
END.
「…………」
「カタル、カタル。顔。レディにあるまじき形相になってる」
驚愕。混乱。苛立たしさ。怒り。
色々な感情が瞬く間に浮かぶ中とりあえず状況を整理する。
さっきまで向き合っていた書類の束は突然の背後からの衝撃で机の上に散らばっており、走らせていたはずのペンはインクを伸ばし無意味な直線を引いている。
そうして背中にくっついている人物。私の背中に顔をぐりぐりと押し付けている。
私が真顔になっている様を言い当てたコアラといい、だいたいこんなことをする人物は一人しかいないから後ろを振り向かずともわかる。
―さて。わかったところで特別私のやることは変わらないか。
背中にくっつき虫をつけたまま、とりあえず目の前の散らばった書類を黙々と片付ける。トントンと角を揃えて綺麗に戻したところで、先ほど直線を引いてしまった書類はまた後で書き直すとして、それ以外のものに手をつけていこう。
「カタル~無視することないだろ!恋人が数か月ぶりに帰ってきたんだぜ!もっとなんかないのかよ!」
「お疲れ様です。その様子から特に何事もなく任務を修了したことはお察しします。さすがですね総長。今日はお疲れでしょうからゆっくりおやすみください」
「あの…お疲れからお休みまでテンプレートだよね?前に帰ってきたときも同じこと言ってもらった気がするんだけど。…さすがに泣くよ、俺」
背中にくっついていた気配がなくなったかと思えば、気配は離れたわけではなくそのまま足元で小さくなった。
そこで膝を抱えて丸くなっているならまだ気持ちが悪いだけのものの、彼は視界が低くなったのをいいことに私の脚にがっしりとしがみつきそこに頬をこすりつけて「はぁ~…」ととても安心しているような声を出している。
その顔の、なんとだらしないことか。
「…コアラ。カメラもってきて。連射してばらまく」
「いやいや。その顔もうカタル専用すぎて見せれないやつよ。宴会でも皆ドン引きするレベル」
「だからいいんじゃん」
「いやー…そんなんでも悲しいことにうちの参謀総長だからねぇ…」
本当に悲しいどころの騒ぎじゃない。参謀がきいて呆れる。
ここまで一人の人物に肩入れして弱みにでも付け込まれたらどうする気なんだろう。
前にそうきいてみたら、本人は「そんなの仕方ねぇだろ!気持ちばかりはどうしようもねぇ!!」なんて大きい声で開き直ってたけど。
「…参謀総長殿。部下は今仕事に勤しんでいるので、お戯れはまたの機会にしてほしいんですが」
私の太腿にすりすりと遠慮なく頬をこすりつけている参謀らしい人に肘鉄をくらわして淡々と要件を告げる。
頭頂部に確かにゴスッと当たったはずなのに、参謀らしき人は頭の動きは止めたが「うーむ」とさして何も変わらなかったような反応。
「またの機会…か。じゃあ明日ならいいのか?」
「明日も明後日もダメです。仕事が終わりそうにないので」
「じゃあいつならいいんだ」
「…そうですね。来月になれば今の仕事も一区切りついてるでしょう」
「来月って俺次の任務行ってんじゃねぇか!!嫌だ離れねぇ」
はぁぁ…。大きな大きなため息を吐いてゆっくりとその場に立つ。
立つがまま捕まる場所を変えた総長らしき人はひしっと私の膝に捕まり直し、こちらを仰ぎ見ている。
「…移動したいんですが。総長」
「カタル。二人のときは名前で呼べって言ったろ」
「言われました。ですが私はまだ仕事中なので。仮に空間に二人だけとなったとしても私はまだ仕事中です」
膝の拘束が弱まったのでそれを振り切って目的地まで歩く。
案の定後ろをついてくる総長。身長があって後ろにべったりつかれると圧迫感が凄い。
「…なぁカタル、仕事はわかるけど、俺としては久しぶりに会えたからもっとこう、待ってたよ~みたいな感じで来てもらえるとすごくうれしいというか」
「…総長。私だってあなたが帰ってきたのがどうでもいいわけじゃありません。だけど仕事も同じくらい大切で放ってはおけないだけです」
「んー…。カタルはまじめだなぁ」
目的の倉庫につく。薄暗く、この時間帯は誰も寄り付かない。
「…そこまで真面目でもないです。じゃなきゃ仕事中にこんなところに来たりしない」
くるりと振り返って、「ん?」と呆けている総長の腕を引いてつま先立ち。
ちゅ、と触れるだけのキスをする。
「…おかえり、サボ」
「……っ、~~~あーの…さ、…」
かあああっとわかりやすいくらいに顔を真っ赤にするサボ。くっつきたいっていってたのはサボの方なのに、何を照れているんだか。
「ちょっとだけだよ。すぐまた仕事に戻る」
「…あぁ、わかってる。…はー…心臓に悪い」
ぎゅうっとサボに体を抱きしめられる。久しぶりにサボのにおいに包まれる。
「はぁ~…カタルだ…。安心する…」
「ふふ。…今回の任務も大変だった?」
「まぁまぁ。…でもカタルがいたら全部吹っ飛ぶ」
こんな端っこの倉庫でこっそり、まだみんなが仕事している中でこんなことをしているなんて。本当に悪いことをしているようでちょっとだけドキドキする。
私を抱きしめるサボの腕。背中からゆっくりと腰にまわって、さわさわと手が。
「こらこらこら」
現行犯で捕まえた腕を軽くつねりながらサボの目の前に持ってくる。
「んーやっぱりだめか?」
「当たり前!もう終わり。仕事に戻るよ」
「仕方ねぇ。もし夜会いたくなったら来ていいからな、カタル」
ニッといたずらっ子のように笑うサボ。
心底むかつくなぁと思いながら、内心少しサボの温もりを補充できて、仕事が頑張れそうな気がした。
――――
夜になり、向き合っていた仕事にひと段落をつけてふぅとため息。
今日はこの辺でやめようか。そんな思考の端に、今日はサボが帰ってきているんだと、どこか淡い期待をしてしまう自分がいる。
疲れてるだろうしもう寝てるかもしれない。
…けど、ちょっとだけ部屋覗いてみようかな。
部屋を出ようとドアに手をかけたところで、バタン、とドアがいきなり開いて突然のことにその場に棒立ちになる。
さっきまで思い描いていた人物―サボが、ドアの前に立っていた。
「お、どっか行くところだったのか?」
「あ…いや、ちょっと休憩しようかなって。…ってノックしてよね」
「別にいいだろ?………ごめんなさい」
真顔の私に空気を読んだサボが素直に謝る。レディの部屋にノックもなしなんていい度胸すぎる。とりあえず素直に謝ったから今回は許すけど。
そんなことを思ってたら、いつの間にか私の後ろに回っていたサボに体を後ろから抱きかかえられ、ボスン!とそのままベッドへ強制ダイブさせられた。
咄嗟のことで「ひゃぁ!」と驚いた私に、サボは楽しそうにベッドの上で私を抱きしめながらくっくっと笑っている。
「息抜きだったんだろ?ちょうどいいな」
「ちょっと!…もう…結局サボが触りたいだけでしょ」
「それは否定しねぇ。カタルもまんざらじゃなかったりして?」
前髪をくっと後ろにすくわれて頭を撫でられる。目の前に整った顔。むかつく。
確かにちょうどサボのところに行こうと思ってた。見透かされてたのかな。
「…ないよ。今日はもうさっさと寝ようと思ってたもん」
「えー?そうなのか。そんなふうに見えなかったんだが…俺の勘も鈍ったかな」
息をするように天邪鬼な言葉がついて出て、自分でもびっくりした。
それでもサボは驚きながらも表情は優しいまま、私の頭を撫でてくれる。
…正直、私だって久しぶりにサボに会えてうれしくてたまらない。
なのでこうしてサボが触ってくれるのが嬉しい。心地いい。
「じゃあ今日はおとなしく退散するか。俺は無理やりは趣味じゃねぇからな」
「無理やりベッドに倒した人がよく言う」
「うっ」
冗談だよって。本当はサボのところに行こうとしてたって。
言おうとしてるはずなのに、軽口ばかりが口をついて出てくる。自分でも不思議だ。
どうして。
「おやすみ。また明日な、カタル。あんま頑張りすぎんなよ?」
「ん」
ちゅ、と軽く触れるだけのキスをして、サボは本当に部屋を出て行ってしまった。
素直になれない、私だけを残して。
―――――
―――そう、違和感を初めて感じたのは、サボが帰ってきた日の夜。
夜、私の部屋に来てくれたサボを追い返してしまった日だ。
自分でもなぜかいつにもまして天邪鬼だとは思っていた。
「カタル~、一緒に飯食おうぜ」
「無理です。一人で食べてください」
「えっ、なんだよつれねぇな~」
確かに元から仕事中によくちょっかいをかけてくるサボには冷たくしていた。
でもそれは仕事中だからっていうのもあったし、サボ自体が絡んできすぎて正直本当に鬱陶しいときもあったし。
「カタル、今日もダメか?…ちょっとぎゅってさせてくれるだけでもいいからさ」
「…無理ですって。やめてくれませんか、そういうの」
だけどさすがに気づく。これは本心じゃない。
というか、天邪鬼の域を超えてる。私が思ってることと反対のことが口から出てるんだ。
「…なぁカタル、なんか怒ってんのか?言いたいことあるなら言ってくれよ?」
「………サボと話したくない」
口から出た言葉にハッとなって思わず口をおさえた。
目の前のサボは私以上に驚いた様な、ショックを受けたような顔をしている。
「あ……私、」
「……わかった。今は話したくないんだな?…待ってるから、話せるようになったら来てくれよ?」
しゅんと寂しそうに肩を落としたサボが帰っていく。「お前ら喧嘩でもしてんのか?」なんて、仲間に肩をたたかれている。
…私だって、自分でもどうしてこんなことを言ってしまうのかわからない。
前からサボにきつく当たりすぎてしまうこともあった。言ってしまってから後悔することもあった。
でも今回のは、感情に任せてつい言っちゃったとかそういう話でもない。
さっき私は、「ちょっとサボと話したい」、そう言うつもりだった。
自分が思ってることと逆のことが口に出てしまうことを相談しようと思っていた。
「……、」
どうしよう。
すぐにでもサボのところに行って誤解を解きたい。
だけど今は何を言っても全部反対の言葉が出てきてしまうなら、余計にサボを傷つけてしまうだけな気がした。
――――――
その日の夜。
悩んでも悩んでもどうしたらいいかわからず部屋で頭を抱えていると、コンコンとドアをノックする音。
開けるとサボがいた。
「…サボ」
「ごめんな、急に。どうしても伝えたいことあって」
珍しくノックをしているかと思えば、そういってサボは申し訳なさそうに眉を下げる。
昼間、私がサボと話したくないと言った矢先に訪ねたことを謝っているんだろう。
そんなことはそもそも本心ではなかったのだし気にしなくてもよかった。何より会えたのが嬉しくて、ふるふると首を横に振る。
「…どうしたの?」
ドアに立ったまま一向に言葉を発しようとしないサボにこちらから問うてみる。
とりあえず、質問はしたいままできるようで安心。
サボはじっと私の身体を見ていたかと思えば、目を瞑って一息ついてから「ああ、」と口を開けた。
「……急な要件が入ってな。明日発つことになった」
「え!?」
発つ…って、出発するってこと?そんな、この間帰ってきたばっかなのに…。
本来の予定ならまだもう少しいれたはず…なのに。
急なことで混乱して上手く言葉が出てこない。
扉の前に立ち尽くす私に、サボはいつもと変わらない、優しい笑顔で。
「どれくらいで戻れるかわかんねぇんだ。…だからまぁ、ちょっと行ってくるよ」
「…サボ…」
「……まだ、俺と話したくないままか?…カタルがそういうなら、次まで待つよ」
話したくないわけじゃない。だけどどういえばサボを傷つけずに済むのかわからない。
何を言ってもあべこべになってしまう今の自分じゃ、うまい言葉が見つけられなくて。
「……待つとは言ったが、…まぁその、このままってのはできればやめてくれよな」
「……?」
「俺も理由くらいは知りたいからな。…待ってるから、ちゃんと話してくれよ」
そう言って、はは、と困ったように苦笑いのサボ。
いつも勢いがあって、こっちの都合なんてお構いなしの一方的なサボ。こんな弱弱しい一面は見たことがない。
――見ていられなくて。同時にこんな顔を自分がさせてしまっているんだと思うと、胸がきゅうっと軋むように痛い。
…言葉にすれば、何を言ってしまうかわからなくて。
ただ、このままサボとまた長い間会えなくなってしまうのはつらすぎた。
気づけば私は、目の前のサボに勢いで抱き着いていて。
「…!……カタル…?」
「……っ」
震える手でサボの服を握りしめ、身体を離されないように思い切りしがみつく。
昼間の私の拒否的な態度と逆の行動にサボも動揺しているんだろう、いつもならすぐに抱きしめ返してくれるのに、今回は戸惑いながらゆっくりと、それでも背を優しく包んでくれた。
「…もう怒ってねぇのか?」
「…」
最初から怒ってるわけでもなかったけど、言葉で伝えられるものでもないのでとりあえず頷いておく。攻撃的な姿勢はないということだけは伝えたかった。
サボははぁ~~と安心したような大きなため息をついた後、ぎゅうっと私を強く抱きしめ返してくれた。
突然の強い抱擁に「んっ、」と声が出て、だけどその力強さに心が満たされていくのを感じる。
「なんだよ…、俺すっげぇ心配したんだぞ。……なんでここ数日俺のこと避けてた?」
「……避けて……うう…」
いつもの調子でつい喋りそうになってしまい、慌てて口をつぐんで首をふるふると横にふる。
サボが「?」と首を傾げているけど、もう怖くて口を開けそうになかった。
せっかくの解いた誤解をまたややこしく拗らせたくない。
とりあえず身振り手振りで上手く喋れないことを伝えようとしてみる。口と自分を交互に指さして、指でバッテンを作ってみた。
「…?喋らねぇのか?喋るのがダメってことか?」
「……(首を横に振る)」
「ん…違う?でも喋らねぇんだな。…コアラとなんか罰ゲームでもやってんのか?」
ぶるぶる。ひときわ大きく首を振って、もう諦めてもう一度サボに抱き着いた。
もう伝わらなくてもしょうがない。最低限の誤解は解けたようだし、明日出発するのはすごく寂しいからせめて思い切りくっついてサボを満喫したい。
そう思ってサボの胸板にぐりぐりと顔を押し付けてじっと見上げてみれば、サボは顔を真っ赤にして固まっていた。
「…?」
「いや、その……俺今まですげぇムチ食らった後で、この飴はちょっと…刺激が強すぎるっていうか…」
カァァ、と音が鳴っていそうなほど顔を真っ赤にし、自分の顔を手で隠している。
…よくわからないけど、私の素振りがサボの何かに刺さったらしい。
「……あー…。…怒ってねぇんなら、キスはしていい…のか?」
「…、」
こくん、と頷いた。それを見たサボが安心したようにほ、と一息ついて、私の頬をすりすりと指先で撫でる。
そうしてサボの顔がゆっくりと落ちてきて、重なる少し前に角度を変えて唇が合わさった。……唇が、あたたかい。
いつもなら深く合わさる唇が、皮膚同士が一瞬触れただけのような軽いものだけで離れていく。
それが寂しくてつい背伸びをしてその口を追ってしまい、サボが少し驚いた顔をしているのが見えて。
「、」
ぱく、ぱくと、言葉を発していないのに無意識に唇が動く。
ただサボとキスしたくて口が動いてしまっただけかもしれない。
―恥ずかしい、なんて思って顔を赤くしていたら、頬を撫でていただけのサボの手に力がこもって、ぐっと上を向かせられて再び唇を塞がれた。
「ん、っ」
上から覆いかぶさるような、突然の深いキス。
唇全体が大きく食べられたような。そうかと思えば、一瞬だけ離れた彼の唇にあむ、あむと唇を甘く挟まれる。
意識してしまうような、恥ずかしいキス。
まるで私がおねだりしたのをわかっているかのような、タイミングの良さで。
唇を離したけど尚も至近距離のまま。サボがぎゅうっと私を包むように深く抱きしめなおした。
「…ん、」
体全部がサボの中に包まれて、居心地がよくて安心する。
離れたくなくて私も彼の広い背に手をまわして、より体がくっついたような安心感が生まれた。
暖かい胸に頬をよせる。……気持ちがいい。もっと抱きしめてほしい。離さないでほしい。
「…あぁ、放さねぇ」
「ん、」
ぎゅうっと、サボがまた体を抱きしめなおしてくれる。
まるで本当に私の言いたいことが伝わっているよう。
まるで子をあやすように、私を抱きしめたままサボがゆらゆらと体を揺らしながら頭を撫でてくれる。
別に泣いているわけじゃないのに。そう思って息を吸ったらスン、と鼻がなって、気づけばサボの肩口に染みができていて、自分も知らない間に泣いていたことに気が付いた。
私も気づいていないのに、いち早く気づいてもらったことが嬉しくて。同時に気恥ずかしくて。
自分でもわからない心情のなか、後から後からぽろぽろと流れる涙をただただ、訳がわからないまま流し続けた。
サボはずっと傍にいてくれて。
――明日になれば、サボは出発していなくなってしまう。このまま夜が明けなければいいのに。
そんなことを思いながら、結局私は心地よさに抗えず、とろとろと微睡に吸いこまれていった。
最後の最後まで、何一つ体は言うことをききやしない。そんなことを思いながら意識を失った…。
翌朝。サボの腕の中で目を覚ました私は、すかーと隣で眠りこけているサボをとりあえずぺしぺしと叩いて覚醒させる。
「…んあ。カタル、おはよ」と寝ぼけた声で言うサボに、「おはよ」といつもの調子で返事をして、いつもの調子で「ほら、今日発つんでしょ」とサボに支度を促す。
「うぁぁ~~~行きたくねぇ~~」とベッドの上で駄々をこね始めたどうしようもない参謀総長(?)にもう一度ぺしりと頭をたたいて行動を急かした。
準備を終え、「じゃあ行ってくる」と背を向けたサボのコートをくいっと引く。
「気をつけて」、そして少し間をあけてから「…待ってるからね」と言った。
サボは少しきょとんとしていたけど、「おう!」とニッといつもの笑顔を見せて、爽快な様子で敵地へと発った。
――結局、何が理由だったのかわからないけれど、サボと寝て起きたその日の朝、すべてはいつも通りに治っていて。
思ったことがそのまま口を出て、気をつけて、待ってるからと、本音もちゃんと口から出て言えた。
しばらくサボにひねくれ口をたたき続けてしまったから、神様がそろそろその辺にしとけと不思議な力を使ったのか。
それとも、知らない間に私にたまっていたストレスが、サボ限定の失語という形で症状として出たのか。
いまとなっては何が理由なのかわからない。
ただ、わかったのは、サボにとっては私の言葉がなくても思ってることはほとんど伝わっているらしいということ。
「……それって」
……実は一番、恥ずかしいことじゃないだろうか。
――――――――
「あ~今日も可愛い俺のカタル~!帰ったぞ~!ただいま!」
「………。え。今日出発したばかりだよね?」
「あぁ!ちゃんと任務終えて帰ってきたぜ!」
「……(さてはコイツもともと1日で帰ってくる仕事だってわかっててわざとカマかけたな…)」
END.
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