即興SS

 カーテンを開けると爽やかな日差しが差し込む。遠くまで晴れ渡る朝の気持ちの良い青空だった。だがこんなにも空が晴れていても僕の心は晴れないままでいた。雲で覆われたどんよりした空だった。
 僕はもう数ヶ月も前にX1を除隊になった。あまりにも突然のことに自分の中で整理がつかないまま荷物をまとめさせられ追われるように兵舎を後にした。あの日ジララ様に呼ばれてからの慌ただしさに詳細も覚えていない。ただ驚きとショックが募りに募って反発したい気持ちを抑えられなかったことだけを覚えている。
 僕はキッチンへ向かうとインスタントのコーヒーを淹れた。キッチンの窓からも明るい日が差して僕を照らす。白いカップのなかにお湯を注ぐと黒いコーヒーがゆらゆらと揺れた。立ち上る湯気が香ばしい香りを漂わせる。あの頃の癖ならいいものの、今になっても僕は自分の意思でジララ様の好みのコーヒーを淹れてしまう。少し濃いめかつ苦めの重たいコーヒー。スプーンでコーヒーをくるくると混ぜると僕はカップに口をつけ、コーヒーをすする。コーヒーを口に含み転がすと舌の上に苦みが広がった。もうジララ様には会うこともないのだろう。会いたくても会えることはない。僕が憧れる、憧れ以上の思いを抱くジララ様。冷たい目がじっと僕を捉えると僕の脈は速くなって、それを悟られないように平静を装うのだった。
 僕はカップを傾けてコーヒーを飲み干す。僕の好みのコーヒーはもっとあっさりしたコーヒーだというのに、ジララ様の好みである濃いめのコーヒーを飲むのがやめられない。こんな情けない理由でもいつでもジララ様を感じていたいと思ってしまう。捨てられなかった心に今も囚われ続けている。このことをジララ様が知ったらどう思うだろうか。そんなことを考え、僕は溜め息を吐いてシンクにカップを置いた。
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