即興SS

 水車は止まることなく回り続けている。それに比べて自分は。そうジララは水車を見ながら思った。あの日地球に来てからすっかり平和ボケの日々を過ごしていた。修行に興じることもなく、ただドロロの家を訪れては温かいお茶を飲む。それだけの決して変化も前進することなどない日々。今までの人生のほとんどをアサシンとして生きてきたジララにとっては妙に落ち着かず、だが優しい心地よさを感じる、二つの面を持ち合わせていた。そして何より幸せだった。完全には取り戻せていなくとも、この感情が「幸せ」というものであることは明白だった。
 ジララは茶を啜る。緑茶の美味しさもドロロに教えてもらった。目の前にはいつもドロロが居て、穏やかな日常が愛おしくてたまらない。まさかジララは自分がこんな考えを持つなど思いもしなかった。ジララは床に湯呑を置く。ドロロは優しいまなざしでジララを見た。慈しみに満ちたそのまなざしは、昔のアサシンゼロロがジララに対して向けることはないだろう。地球に来て二人は変わった。欠落していた感情のピースを取り戻し、そして共に温かさを知った。
 ジララは時折考える。自分の残り少ない人生をどう過ごすべきなのか。ドロロをちらりと見ると青い目もジララを見た。ジララはその時瞬間的に思った。ドロロと居たい、と。死の間際に後悔しないくらい、ドロロと居たい。そしてその望みは手の届くところにある。ドロロはいつもジララの隣で微笑んでいるのだった。こんなに幸せがすぐそばにあってもいいのだろうか。ジララは改めて自分の置かれている状況を思う。
「……俺は幸せ者だ」
 ジララがそう言うとドロロは少し驚いたような顔をして、それから柔らかく微笑んだ。多くを言わずとも伝えたいことを汲み取れるのは、それほど信頼があるからなのだろう。生まれ変わっても一緒にいたい。そう思える最期を目指したい。ジララはもう一度湯呑を手にする。温かいお茶が喉から体に染み渡った。
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