即興SS
進路希望にアサシンと書くようになって大分月日が経った。ゼロロがアサシンを目指していることを教官から知り、俺も進路希望に同じくアサシンと記入するようになった。何故か。ゼロロを追いかけるため。理由はただ一つだった。
幼年訓練所は今日で終わりだった。授業はなく簡単な集会だけが行われ、休みを挟んだら俺達は成年訓練所へ進級する。俺は誰ともつるむことなく一人家に向かった。もっとも、一緒に帰ってくれる友達などいやしないのだが。こんなとき、いつも思う。ゼロロが、ゼロロが隣にいてくれたら。だがそれは叶わないまま大人になっていく。俺は足元の小石を思い切り蹴飛ばした。
曇った空。誰もいない公園。最後の日までぱっとしない日だった。俺はブランコに腰掛けた。やけに窮屈に感じるのは俺が成長したからだろう。そして空を見上げた。雨が振ってもおかしくないような灰色の空だった。その時、遠くから人の声が聞こえた。俺は耳を澄ましてその声を聞いた。嫌というほど聞いた呑気な声……緑色。いつもゼロロの隣にいるあいつだった。その声に混ざって聞こえるのは怒ったように目を吊り上げている赤色。そして。
「ゼロロ……」
気づけばそう口から出ていた。ゼロロは俺の声に気がついたように俺を見た。
「君は……」
ゼロロは俺を見て黙りこくった。俺は自分の名前を教えた。
「……ゾルル」
「ゾルル君、ゾルル君。よし、覚えた!」
何度か俺の名前を復唱してゼロロは頷いた。そしてゼロロはいつも行くはずの秘密基地には向かわずに俺の隣の開いているブランコに腰掛けた。そして楽しそうに口を開いた。
「僕、このブランコから飛んだんだ」
「飛んだ……?」
俺の頭の中は疑問で埋め尽くされた。
「うん、ぴょーんって。まあ、ケロロ君に飛べって言われたんだけどね」
ゼロロは苦笑いした。
「それで奇跡的に綺麗に着地ができて、ケロロ君に言われたんだ。アサシンになれるよって」
俺は絶句した。まさか、そんな動機だったとは。しかもブランコから飛ぶだなど一歩間違えたら大怪我しかねない危険すぎる命令。俺はブランコの鎖を強く握りしめた。
「アサシンになったら、ケロロ君に認めてもらえるかなって……」
だがゼロロは照れくさそうに笑った。何故呑気に笑っているのだろう。握り込んだ鎖が痛い。いっそこのまま引きちぎってしまいたくなる。しかし、ゼロロのことだ。口を開けばケロロ君、ケロロ君……そんなにあいつが大事なのか。俺は溢れ出そうになる言葉を必死に堪え、そしてブランコから降りるとゼロロの手を掴んだ。
「え、何して」
俺はしっかり手を握って思い切り走った。ゼロロの止めようとする声など耳に入らなかった。公園を出て、人気のない場所に向かう。どこでもいいからゼロロと二人きりになりたかった。俺は適当な小屋を見つけるとゼロロを連れて入った。中には誰もいなかった。とっくに使われなくなったであろう古い家財道具が少しだけ置いてあった。ゼロロははぁはぁと息を切らしながら俺を見た。
「何するの……」
その綺麗な青い目がこれから汚れていくのだと思うとやるせない気持ちになった。そして、虫も殺せないような純粋な目が、血に濡れていくのを俺は隣で見ていたいと思った。
「……ゼロロがアサシンになるって聞いて、俺も進路をアサシンにした」
「え!」
ゼロロは丸い目を更に丸くした。どうして、そう言って俺の顔をじっと見た。どうして。俺は上手く答えられなかった。ただゼロロを追いかけ続けて、気づけばそうなっていた、それしか理由がなかった。好きだとか嫌いだとかそういうものをすっ飛ばして俺はただ、ゼロロの隣にいたいと思った。
「ゾルル君」
ゼロロが俺の顔を覗き込む。心の奥まで見透かされそうな透き通った瞳。
「俺は、ずっとゼロロを見てきた……転校してきた日……覚えてるか?」
「覚えてるよ。だってあの日ケロロ君が話しかけてくれて」
俺の前を横切った緑色。その瞬間、運命は変わった。本当なら俺があの場にいて、俺がゼロロの一番の友達になれて。何度夢に見たか分からない。そして今でも求めている。俺がゼロロの友達だったなら。それなら、せめて今日くらいは。
「……違う、俺が、俺が先に話しかけた」
ゼロロはぱちぱちと瞬きをして首を振った。
「違うよ」
「違わない……!」
声が大きくなりゼロロは驚いたように肩をすくめた。
「だから、俺がゼロロの最初の友達……」
俺がそういうとゼロロはくすくすと笑った。
「そっか。話しかけてくれてありがとう」
その柔らかな笑みが俺を傷つける。違う。俺は首を振る。どうしてこんなにも言いたいことを伝えられないのだろう。もどかしさに目の前にあったソファを蹴り上げる。するとゼロロは俺を見ていった。
「いいよ。今日だけ、一番最初の友達になってあげる」
俺はどんな反応をしたらいいか分からず、ただ黙って頷いた。ゼロロは穏やかな微笑みを浮かべた。今日だけ、夢が見られるらしい。俺がずっと求めていた甘い甘い夢が。
「それでいい? ゾルル君」
目が覚めればそこはいつもと変わらない日常で、ゼロロは俺の手の届かないところにいる。それでもゼロロが俺の名前を読んでくれる、ただそれだけで心が満たされた。知らない感情を知ったかのように俺は優しいものに包まれていた。俺は頷く。ゼロロはふふ、と笑うとソファに背中を預けた。今ここには二人しかいない。ケロロたちが邪魔をしてくることはない。俺は何か言おうと言葉を絞り出す。
「……俺は、ずっと、ゼロロを見てきた」
「そうなんだ」
「やっと、友達ができるって思って……」
そう言いかけてあの緑色が頭に浮かぶ。
「何言ってるのさ。僕たちは友達じゃない」
目覚めたら、おしまいだというのに。
「あ、これは今日だけじゃないよ。だってこんなに話してる。僕はゾルル君のこと友達だと思ってるよ」
「これからも……?」
「もちろん!」
青い目が弧を描く。その言葉に嘘はない、嘘はないのなら。どうして俺を忘れてしまったのだろう。
「ええと、君、誰だっけ」
ガスマスク越しに発せられたその声はすっかり声変わりを済ませていた。あの頃と変わらない青い瞳がじっと俺を捉えていた。
幼年訓練所は今日で終わりだった。授業はなく簡単な集会だけが行われ、休みを挟んだら俺達は成年訓練所へ進級する。俺は誰ともつるむことなく一人家に向かった。もっとも、一緒に帰ってくれる友達などいやしないのだが。こんなとき、いつも思う。ゼロロが、ゼロロが隣にいてくれたら。だがそれは叶わないまま大人になっていく。俺は足元の小石を思い切り蹴飛ばした。
曇った空。誰もいない公園。最後の日までぱっとしない日だった。俺はブランコに腰掛けた。やけに窮屈に感じるのは俺が成長したからだろう。そして空を見上げた。雨が振ってもおかしくないような灰色の空だった。その時、遠くから人の声が聞こえた。俺は耳を澄ましてその声を聞いた。嫌というほど聞いた呑気な声……緑色。いつもゼロロの隣にいるあいつだった。その声に混ざって聞こえるのは怒ったように目を吊り上げている赤色。そして。
「ゼロロ……」
気づけばそう口から出ていた。ゼロロは俺の声に気がついたように俺を見た。
「君は……」
ゼロロは俺を見て黙りこくった。俺は自分の名前を教えた。
「……ゾルル」
「ゾルル君、ゾルル君。よし、覚えた!」
何度か俺の名前を復唱してゼロロは頷いた。そしてゼロロはいつも行くはずの秘密基地には向かわずに俺の隣の開いているブランコに腰掛けた。そして楽しそうに口を開いた。
「僕、このブランコから飛んだんだ」
「飛んだ……?」
俺の頭の中は疑問で埋め尽くされた。
「うん、ぴょーんって。まあ、ケロロ君に飛べって言われたんだけどね」
ゼロロは苦笑いした。
「それで奇跡的に綺麗に着地ができて、ケロロ君に言われたんだ。アサシンになれるよって」
俺は絶句した。まさか、そんな動機だったとは。しかもブランコから飛ぶだなど一歩間違えたら大怪我しかねない危険すぎる命令。俺はブランコの鎖を強く握りしめた。
「アサシンになったら、ケロロ君に認めてもらえるかなって……」
だがゼロロは照れくさそうに笑った。何故呑気に笑っているのだろう。握り込んだ鎖が痛い。いっそこのまま引きちぎってしまいたくなる。しかし、ゼロロのことだ。口を開けばケロロ君、ケロロ君……そんなにあいつが大事なのか。俺は溢れ出そうになる言葉を必死に堪え、そしてブランコから降りるとゼロロの手を掴んだ。
「え、何して」
俺はしっかり手を握って思い切り走った。ゼロロの止めようとする声など耳に入らなかった。公園を出て、人気のない場所に向かう。どこでもいいからゼロロと二人きりになりたかった。俺は適当な小屋を見つけるとゼロロを連れて入った。中には誰もいなかった。とっくに使われなくなったであろう古い家財道具が少しだけ置いてあった。ゼロロははぁはぁと息を切らしながら俺を見た。
「何するの……」
その綺麗な青い目がこれから汚れていくのだと思うとやるせない気持ちになった。そして、虫も殺せないような純粋な目が、血に濡れていくのを俺は隣で見ていたいと思った。
「……ゼロロがアサシンになるって聞いて、俺も進路をアサシンにした」
「え!」
ゼロロは丸い目を更に丸くした。どうして、そう言って俺の顔をじっと見た。どうして。俺は上手く答えられなかった。ただゼロロを追いかけ続けて、気づけばそうなっていた、それしか理由がなかった。好きだとか嫌いだとかそういうものをすっ飛ばして俺はただ、ゼロロの隣にいたいと思った。
「ゾルル君」
ゼロロが俺の顔を覗き込む。心の奥まで見透かされそうな透き通った瞳。
「俺は、ずっとゼロロを見てきた……転校してきた日……覚えてるか?」
「覚えてるよ。だってあの日ケロロ君が話しかけてくれて」
俺の前を横切った緑色。その瞬間、運命は変わった。本当なら俺があの場にいて、俺がゼロロの一番の友達になれて。何度夢に見たか分からない。そして今でも求めている。俺がゼロロの友達だったなら。それなら、せめて今日くらいは。
「……違う、俺が、俺が先に話しかけた」
ゼロロはぱちぱちと瞬きをして首を振った。
「違うよ」
「違わない……!」
声が大きくなりゼロロは驚いたように肩をすくめた。
「だから、俺がゼロロの最初の友達……」
俺がそういうとゼロロはくすくすと笑った。
「そっか。話しかけてくれてありがとう」
その柔らかな笑みが俺を傷つける。違う。俺は首を振る。どうしてこんなにも言いたいことを伝えられないのだろう。もどかしさに目の前にあったソファを蹴り上げる。するとゼロロは俺を見ていった。
「いいよ。今日だけ、一番最初の友達になってあげる」
俺はどんな反応をしたらいいか分からず、ただ黙って頷いた。ゼロロは穏やかな微笑みを浮かべた。今日だけ、夢が見られるらしい。俺がずっと求めていた甘い甘い夢が。
「それでいい? ゾルル君」
目が覚めればそこはいつもと変わらない日常で、ゼロロは俺の手の届かないところにいる。それでもゼロロが俺の名前を読んでくれる、ただそれだけで心が満たされた。知らない感情を知ったかのように俺は優しいものに包まれていた。俺は頷く。ゼロロはふふ、と笑うとソファに背中を預けた。今ここには二人しかいない。ケロロたちが邪魔をしてくることはない。俺は何か言おうと言葉を絞り出す。
「……俺は、ずっと、ゼロロを見てきた」
「そうなんだ」
「やっと、友達ができるって思って……」
そう言いかけてあの緑色が頭に浮かぶ。
「何言ってるのさ。僕たちは友達じゃない」
目覚めたら、おしまいだというのに。
「あ、これは今日だけじゃないよ。だってこんなに話してる。僕はゾルル君のこと友達だと思ってるよ」
「これからも……?」
「もちろん!」
青い目が弧を描く。その言葉に嘘はない、嘘はないのなら。どうして俺を忘れてしまったのだろう。
「ええと、君、誰だっけ」
ガスマスク越しに発せられたその声はすっかり声変わりを済ませていた。あの頃と変わらない青い瞳がじっと俺を捉えていた。
