即興SS

 ドロロは自然と目を覚ました。起きようと思っていたわけでもないのに目が覚め、全く眠れる気配がなかった。隣で寝ている小雪を起こさないようゆっくりと体を起こす。ドロロは布団を出るとゆっくりと戸を引いて家を出た。
 太陽は顔を出しかけていた。七月上旬、すっかり日の出は早くなった。まだ薄暗い空が黄色っぽくぼんやりと広がっている。日中はあんなにも暑いというのに早朝はまだ肌寒い。ドロロは息を吸った。冷たい空気が体中を巡る。清々しい気持ちになれるのは早起きの特権だ。ドロロは両腕を思い切り伸ばして伸びをする。目をぎゅうと閉じ、それからぱっと開く。すると目の前には黒いマントがはためいていて……。
「ジ、ジララ大尉!?」
 ドロロは思わず後ずさる。ドロロの目の前にはジララが忽然と姿を現していた。気配すら感じなかった。というより、完全に油断していた。誰かが周囲にいるとなど思いもしなかったのだ。
「散歩か」
 ジララが口を開く。静けさを破るような低い声にドロロは黙って頷く。
「……大尉も朝早いでござるな」
 まさかこんなところでジララに会うとは思わなかったドロロは驚きを隠せずにジララを見つめた。ジララは空を見る。つられてドロロも空を見上げた。まだ朝焼けの黄色い空で、アサシン時代を思い出す。
 アサシンは夜に行動することが多い。必然的に朝焼けを見る機会はよくあった。だがドロロ、当時ゼロロはその空を綺麗とだなど思わなかった。死にかけていた心、感受性など薄れただそこに空が存在しているとしか思えなくなっていた。ジララが望むように己の心を捨てる。そうすれば一流のアサシンになれると信じていた。
 ドロロは黄色い空を眺めながらゆっくり口を開いた。
「身近なところにも、素晴らしいものはあるのでござるなぁ」
 空は先程より青くなっていた。ジララがどんな気持ちで空を見ているのか、ドロロには分からない。だがこうしてただ穏やかな時間を過ごすのもいいものだなと思う。二人はしばらくの間黙って空を見ていた。次第に空から黄色はなくなり青く変わって行った。風もいつからか温み、夏の様相を呈してきた。ドロロには、今日がはじまる、そう告げているように見えた。ジララが静かに口を開いた。
「今日の予定はあるか」
「特にないでござる」
「そうか」
 会話はそれだけで終わった。だがそれが心地よくてこれ以上会話を広げようとは思わなかった。こんな時間が心地よくて幸せで。ドロロは胸の中が温かく満たされているのを感じた。そしてジララにも地球に来てよかったと思って欲しい。そう思った。ジララは心を読んだようにドロロを見た。その赤い目はどこか優しく、ドロロには微笑んでいるように見えた。
18/25ページ
スキ