即興SS

 ゼロロは休暇届を出して街へ出掛けた。どこで何をしているのか、そんなことは知らない。わざわざ聞くのも詮索しているようで俺が行き先を尋ねることはなかった。だが帰ってきたゼロロはお土産ですと俺に小さな木箱を差し出してきた。
「苺です。今が旬ですから、どうぞ召し上がってください」
 ゼロロは微笑みながらそう言った。俺は小箱を受け取るとゼロロを部屋の中へと招いた。
 ゼロロは落ち着かない様子でソファに腰掛けた。俺はゼロロの前に置かれたテーブルに木箱を置くと蓋を開ける。そこには真っ赤な苺が丁寧に並べられていた。瑞々しく甘い香りがして、食べずとも甘いのだろうと分かるほどだった。俺はゼロロの隣に腰掛けて苺に手を伸ばした。苺は文句なしに美味かった。どんなに感情を捨てようと味覚はある。恐らくこの苺は相当上等なものだろうと思った。だとしたら、何故俺にわざわざ苺を買ってきたのか。普通ならばここで不審がるのだろうが、相手はゼロロだ。ただゼロロの持つ優しく健気な心がそう行動したのだとしか思いようがなかった。そんなことを考えているとゼロロが口を開いた。
「僕は、ショートケーキの苺は一番最後に食べるんです」
 ゼロロは眉根を寄せて悲しそうに笑った。
「それで、子供の頃友人に苺を食べられました」
 俺はもう一粒苺を口に運んだ。そしてゼロロにも苺を勧めた。ゼロロは一度断ったが押しに負けて苺を手に取った。丁寧にヘタを取り、一口かじる。その瞬間青い目を丸くして俺を見た。
「とっても甘いですね!」
 その驚き、目の輝き。全てがアサシンにはあってはならないものだった。それと同時にゼロロの持つ人間らしさに惹かれていくのを俺は自覚していた。いつか俺が失ったものをゼロロは持っていて、恐らく失くすこともない。失くしたくとも、失くせない。ゼロロは俺とは違う次元に生きている。
「……美味いな」
 ゼロロは大きく頷いて再び手にしていた苺を食べた。嬉しそうなゼロロを見ていると嫌でも胸が痛んだ。どうして、ゼロロはここに居るのだろうか。どう考えても居場所を間違えたとしか思えなかった。この眩しいほどの純粋さを、俺は汚さなければならないというのに。それが惜しくてたまらないと思うのは今までにない初めてのことだった。
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