即興SS

 目を覚ますたびに我に返った。ここは兵舎ではない。そう気付くたびに溜め息が漏れる。最後に見た兵舎が目に焼き付いて、まるで昨日のことのように感じられた。ジララ様はもう居ない。僕は兵舎から遠い遠い町に居る。楽になれた、そう考えればいいものを、僕はどうしてもそうは思えなかった。幼い頃から憧れ続けたアサシン。その超精鋭部隊でトップになれたことは僕にとって誇りだった。だがあまりに突然の命令に目の前がくらんだ。今まで積み上げてきた全てを足元から崩されたのだ。あまりのショックにその後のことはよく覚えていない。そして何より僕はジララ様と離れることが嫌だった。どうして、僕の質問に答えたジララ様は今まで僕をどんな気持ちで指導してきたのだろうか。赤く冷たい目が僕を捉えて、その蜘蛛の巣で体を縛る。僕はジララ様に絶対的に仕えてきた。唯一の抵抗が最後の命令だった。だが彼は聞いてはくれなかった。僕の心の弱さを彼はずっと知っていたのだろう。除隊されてもなお彼のことを悶々と考え続けているような者にアサシンは務まらない。そう言われてしまえば反論などできない。
 いい加減頭からジララ様を離そうと何度も試みた。だができなかった。あれだけ僕の心を捉え続けたジララ様が簡単に消えるわけがなかった。僕はベッドを降り、キッチンへ向かう。蛇口を捻ると冷たい水を一杯飲んだ。
 家を出ると風が心地良かった。快晴とまでは行かずともそれなりに晴れた空。僕の目の前を楽しそうな親子が横切った。僕は頭の中のもやを晴らそうとただひたすらに歩いた。だがその間ずっとジララ様のことを考えていた。
 ふと目に入った赤い花。道端の花壇に植えられて揺れている。確か、ポピーという遠い星の花だ。見頃を迎えて咲き誇ったポピーは綺麗だったが、僕の心を慰めるには物足りなかった。どんなに綺麗なものを見たところで心が満たされることはない。それどころかジララ様とこのポピーを見たいと思ってしまった。ポピーを摘んで彼の元に送り届けたい。ジララ様の部屋に鮮やかな赤を差して、そして僕のことを思い出して欲しい。くだらない思いを抱いて僕は溜め息を吐いた。
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