即興SS

 流れ星にお願いすると願いが叶うんだって。ぼくは部屋のカーテンを開けて窓から空を見た。きらきら光る星の中に一際輝く星がぼくの目の前を横切った。ぼくはとっさに手を合わせて目をぎゅっと閉じた。
「立派なアサシンになりたい……!」
 ぼくの願いが叶うのかはわからないけど、それでも本当になったらいいなと思った。
 次の日、おかしなことが起こった。なんと家の前に星が落ちていたのだ。星というよりも星のかけら。昨日ぼくがお願いした星かもしれない。ぼくは誰よりも早く星のかけらを見つけると訓練所のリュックの中に押し込んだ。星は黄色くてうっすらと光っていた。ぼくは星のかけらに話しかけた。
「もしかして、ぼくの願いを聞いてくれたの?」
 星のかけらは何も言わなかった。
「ぼくね、アサシンになりたいんだ」
 周りからどんなに無理だと言われても、それでもぼくはアサシンになってやる、そう心に決めたのだ。だから、ぼくは……。
 僕は。
 眼前に白い天井が広がっていた。昔の夢を見ていたようだった。そんなこともあったような気がするが良く覚えていない。あれからあの星のかけらはどうしたのか、何も思い出せなかった。僕は目指していたアサシンになり、空虚な兵舎で寝起きしていた。ふと思い立ちベッドを降りると窓から空を見た。日は昇り星は見えない。だが、僕はあの星のかけらに会いたくなった。
「ゼロロ」
 訓練終わり、僕はジララ様に呼び止められた。
「B棟の見回りを頼む。担当者が怪我をした」
「了解致しました」
 僕は敬礼をしてジララ様の背中を見送った。あまり足を運ぶことのないB棟に懐中電灯片手で見回りをするのは気が進まなかった。薄暗い中を頼りない明かりで歩く。
「……あ」
「あの子供はゼロロだったのか」
 B棟にはジララ様が居た。そしてその手にはあの星のかけらがあった。その瞬間僕の中の記憶が溢れるように蘇った。
 あの日、見知らぬ男に星のかけらを探していると声を掛けられた。僕は知らぬふりをして事を済ませようと思った。星のかけらを誰かに渡したくなかった。だが男は食い下がらなかった。
「渡してくれたら一つ願いを叶えてやろう」
 僕はその言葉を信じてリュックから星のかけらを取り出した。僕は彼に何を望んだのだろうか。駄菓子屋でチョコレートでも買ってもらったのだろうか。だがあの男こそジララ様なのだと今なら分かった。
「どうしてジララ様が……?」
「あの星は俺が落とした。願いなど叶えられるものではない」
 星の塵と子供騙しの嘘。
「あの子供は目を輝かせてアサシンになりたいと俺に言った。そう星に願ったと言っていた」
 ジララ様は星を握ると粉々に砕き散った。
「もう、お前には必要ない」
 床にぱらばらと落ちる星屑を僕は見つめた。星が叶えてくれた、そう信じたい気持ちがあるのは僕がまだ大人になれていないからなのだろうか。僕は窓から外を見た。光る星はあれど流れ星はない。星などいくらでも落とせる。神秘的なものでもなんでもなくなった今、僕にとって星の価値が変わった。ジララ様はマントの中に手を入れると駄菓子のチョコレートを渡した。
「もう、好きじゃないか?」
 赤いパッケージの小さなチョコレートを見て思い出した。そうだ、やはりあの後僕はジララ様にチョコレートを貰ったのだった。
「あの子供は夢を叶えた」
 ジララ様はそう言うと窓から空を見た。
 僕たちは何も言わずB棟の見回りをした。異常なし。何事もなく施錠をすると兵舎に帰った。その間僕はずっとあの時のことを考えていた。きっとジララ様もそうだろう。だが僕たちは同じことを共有しながら決して口に出すことはしなかった。
 僕は自室に戻るとチョコレートの包みを開けた。小さなチョコレートを口へ運ぶと懐かしい甘さが広がった。
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