即興SS

 青々と茂る木々は初夏を彩っている。パトロール中のドロロが電柱から見下ろす木々は風で大きく揺さぶられていた。だが上手くしなり、折れることのない枝。これぞまさしく柔よく剛を制するだ、とドロロは感心する。自分もああなりたいと子供の頃よく思っていた。非力だったあの頃、決して力では勝てない相手にどう立ち向かうか。それは技を磨くほかないと薄々勘付いていた。柳のようにしなやかに、それでいて逞しく。今の自分は思い描く自分になれたのだろうか。かつてアサシントップの座に就いたことがありながらもドロロは常に不安だった。大丈夫だよと誰かに背中を押して欲しい。そんな気持ちが拭えずにいる。ドロロは電柱から降りると手裏剣の形をしたソーサーを出した。奥東京に異常なし。パトロールを終えて帰路に着こうと思ったその時だった。遠くにジララ大尉の姿があった。ドロロはソーサーにかけた足を下ろす。
「ジララ様……?」
 ジララはドロロにゆっくりと歩み寄る。強い風でマントがはためく。布の音がバタバタと辺りに響いた。
「何をしている?」
「パ、パトロール中です」
 突然の問いかけに思わず口調が崩れた。ジララは感心したように頷いたかと思うと突如ドロロへ駆け寄った。そしてドロロの体を抱いて数歩下がった。バタン。けたたましい音がしてドロロは背後を見る。そこには鉄製の看板が倒れていた。ドロロの顔から血の気が引く。ドロロはジララに気を取られて看板の気配に気付けなかった。ジララはドロロの体から手を離し倒れた看板を見つめた。
「……申し訳ございません」
 ドロロは喉の奥から絞り出すように言った。そして先程まで頭を巡らせていた自分の未熟さが重なった。
「怪我がなくてよかった」
 ドロロはジララの言葉に驚いて彼の顔を見た。
「あ……」
 ドロロは返す言葉が見付からずに地面を見つめた。てっきりアサシントップの自覚もないのか、そんな言葉を浴びせられるものだと思っていた。だが地球に来てからジララは変わったのか、当時なら信じられないような優しい言葉をかけた。それでもドロロの頭の中は自分の身も守れないようではパトロールなど不可能だなどということばかりで埋め尽くされていた。ジララはそんな様子を読み取ったように口を開いた。
「あまり思い詰めるな。貴殿は強い」
 ドロロは見つめていた地面から目を離した。ゆっくりと視界にジララの顔が入り、ぼんやりと歪む。一番言って欲しかった言葉がすうっと心の中に溶けていった。ドロロは小さくありがとうございますと呟いた。声が震えて瞬きをしたら涙が落ちそうになった。
「例など要らん。俺もソーサーに乗せてくれ」
 ドロロは頷く。本来一人乗りの狭いソーサーに二人で乗る。鼻の奥がツンと熱く視界を歪ませる。強風で事故を起こさないよう安全運転で水車小屋へと向かった。
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