その他
ドロロは今日も奥東京を飛び回り夜間のパトロールをしていた。幸い今日も不審者はおろか敵性種族も居らず、平和に自宅へ向かう。その途中。怪しげな人影が日向家の屋根に動いていた。ドロロは近くの木に飛び乗り遠くからその人影を観察した。鑑定眼力を使おうとしたその時、人影がドロロを見た。鋭い目。その見慣れた姿にドロロは驚いた。咄嗟に屋根へ飛び移ると彼の背中に声を掛けた。
「なぜギロロ殿がここに?」
「……別に理由はない」
ドロロの問いにギロロは低い声で答えた。ドロロに目もくれず、手に持った銃を磨き続ける。ギロロの隣には軍から支給されたソーサーがあった。ソーサーを使ってまでわざわざ屋根に登ってくるなど何か理由がありそうだが何だか聞くのも野暮な気がして、ドロロはギロロの隣に腰を下ろした。ドロロは年季の入った赤いソーサーを見る。
「昔ギロロ君のソーサーに乗せてもらって花火を見たよね」
「ああ……そんなこともあったな」
ドロロがまだゼロロだった頃、こっそり家を抜け出してケロロたちと花火を見に行った。ギロロのソーサーに乗り、しっかりとギロロの体に捕まって夏の夜空を飛んだ。ギロロがゼロロのためにいつも以上に安全運転をしていたのを、子供ながらにゼロロも感じていた。ドロロはその時見た花火を思い出しながら言った。
「また乗りたいな、君のソーサー」
その言葉にギロロの手が止まる。そして鋭い目がドロロを見た。
「……乗るか?」
ドロロが微笑みながら頷くとギロロは少し嬉しそうにソーサーに手を掛けた。
一人乗り用のソーサーに大人が二人で乗ると流石に窮屈だった。ドロロはギロロの体に腕を回す。普段ドロロが乗っているアサシン用のソーサーに持ち手はないのだから、本当はギロロに掴まらずとも立っていられるのだが。それでも少しでも昔の気分を味わいたくてドロロはギロロにぴったりとくっつくと嬉しそうに笑った。
初夏の夜風は心地良く二人の肌を撫でた。ゆったりとしたスピードでの夜のドライブは先客もなく、ただのどかだった。ギロロの安全運転にドロロは嬉しくなる。急ぐ理由もない。いい大人が二人、広い空を飛び回るだけ。それなのにこんなにも心躍るとは。ドロロは上空から奥東京を見下ろした。日向家はもう見えなくなっていた。空へ上ってしまえばビルの光もなくなり暗い空に星が輝いていた。ギロロは星を見ながら口を開く。
「お前は星が好きか?」
ドロロは頷く。
「でも、地球に来てからだよ。星を綺麗だと思ったのは」
ケロン星の空にも星は浮かんでいるがあまりにも当たり前の光景で特別でもなんでもなかった。何より、他の星を侵略することを生業としている彼らにとって星は美しいものでなんでない。美しいと思ってしまえば良心が邪魔をする。あの時、ドロロは初めてグランドスターから見た地球を美しいと思ってしまった。地球に寝返ったのも必然かもしれない。あろうことか、彼はこの美しい星を守るため侵略を妨げることを生業としていた。帽子が風に揺れて、ドロロは思う。支給された白い軍帽はもう何年も被っていない。ギロロが被っている茶色い帽子と同じ形をしていた。ドロロは右腕をギロロの体から離すと軍帽の裾に触れた。懐かしい手触り。ギロロは横目でドロロを見たが、何も言わなかった。そして代わりに自分の話をした。
「さっき俺が屋根にいたのは、星を見るためだ」
ドロロはギロロの軍帽から手を離す。
「俺は、地球を美しいなどと思えない。他の星と同じ、ただの星だ」
ドロロはギロロの体に手を回した。
「俺は地球を侵略したい。だが、そう思うたびにお前が頭をよぎる」
ギロロは少しソーサーのスピードを緩めた。
「……お前のような裏切者のために俺は侵略を諦めたくない」
夜の静寂に低い声が響いた。ドロロはぎゅっと手に力を入れてギロロの体温を感じた。
「地球を愛するな、ゼロロ」
ギロロは今まで来た方向へソーサーを傾けた。ドロロはギロロにしがみつくようにくっついた。あの日と違って花火は上がらなかった。ただ静かな空で二人は黙って日向家に帰った。ソーサーから屋根に降りるとドロロはようやく口を開いた。
「地球とギロロ君、どっちかを選べって言われたら」
ギロロはドロロを見た。
「……選べない、よね」
ふにゃりとした情けない笑顔。それは子供の頃によくしていた表情だった。ドロロはギロロの手を掴んだ。夜風で冷えた手をギロロは掴み返した。
「寒いか」
ドロロは目を丸くして首を振る。
「風邪引くぞ」
その言葉にドロロは微笑んだ。
「君の優しいところが好きだよ……」
独り言のように呟くような小さな声をギロロは聞こえないふりをした。ドロロはギロロに思い切り体を預けた。肩に顔を伏せて猫のように甘えるドロロをギロロは突き放したりはしない。今までドロロが背負ってきたものを思うとそんなことはできなかった。ギロロはゆっくりと右手を伸ばすとドロロの頭に触れた。そしてそっと頭を撫でた。不慣れな手つきにドロロが顔を上げた。
「すまん、下手か……?」
そして首を振ると嬉しそうに笑った。ギロロはドロロの笑顔を見てもう一度頭を撫でた。
「ありがとう」
ドロロの涙の混じった声が言った。ドロロは顔を上げてギロロから離れた。
「帰らなきゃ。……ゼロロに戻っちゃいそう」
「戻ってもいいんだぞ」
ドロロはギロロの言葉にくすくすと笑った。ドロロはギロロに背を向けるとちらりとギロロを見た。そして屋根を飛んでいきながら闇に消えた。ギロロは息をつくとその場に座り込んだ。そしてソーサーを撫でる。ゼロロを乗せたソーサーに、ドロロを乗せることになるとは思わなかった。不思議な時間だった。まるで夢でも見ているようだった。そしてギロロはそれを求めていたことに気付いた。ギロロはずっとゼロロに会いたかった。頭を撫でたあの瞬間、確かに目の前にはあの頃のゼロロがいた。小さく弱い、泣き虫なゼロロ。二度と戻るはずはないというのに。ギロロは自分の手のひらを見つめた。そしてゼロロ、そう口に出してみた。声は夜風に乗って遠い星へと消えていった。
「なぜギロロ殿がここに?」
「……別に理由はない」
ドロロの問いにギロロは低い声で答えた。ドロロに目もくれず、手に持った銃を磨き続ける。ギロロの隣には軍から支給されたソーサーがあった。ソーサーを使ってまでわざわざ屋根に登ってくるなど何か理由がありそうだが何だか聞くのも野暮な気がして、ドロロはギロロの隣に腰を下ろした。ドロロは年季の入った赤いソーサーを見る。
「昔ギロロ君のソーサーに乗せてもらって花火を見たよね」
「ああ……そんなこともあったな」
ドロロがまだゼロロだった頃、こっそり家を抜け出してケロロたちと花火を見に行った。ギロロのソーサーに乗り、しっかりとギロロの体に捕まって夏の夜空を飛んだ。ギロロがゼロロのためにいつも以上に安全運転をしていたのを、子供ながらにゼロロも感じていた。ドロロはその時見た花火を思い出しながら言った。
「また乗りたいな、君のソーサー」
その言葉にギロロの手が止まる。そして鋭い目がドロロを見た。
「……乗るか?」
ドロロが微笑みながら頷くとギロロは少し嬉しそうにソーサーに手を掛けた。
一人乗り用のソーサーに大人が二人で乗ると流石に窮屈だった。ドロロはギロロの体に腕を回す。普段ドロロが乗っているアサシン用のソーサーに持ち手はないのだから、本当はギロロに掴まらずとも立っていられるのだが。それでも少しでも昔の気分を味わいたくてドロロはギロロにぴったりとくっつくと嬉しそうに笑った。
初夏の夜風は心地良く二人の肌を撫でた。ゆったりとしたスピードでの夜のドライブは先客もなく、ただのどかだった。ギロロの安全運転にドロロは嬉しくなる。急ぐ理由もない。いい大人が二人、広い空を飛び回るだけ。それなのにこんなにも心躍るとは。ドロロは上空から奥東京を見下ろした。日向家はもう見えなくなっていた。空へ上ってしまえばビルの光もなくなり暗い空に星が輝いていた。ギロロは星を見ながら口を開く。
「お前は星が好きか?」
ドロロは頷く。
「でも、地球に来てからだよ。星を綺麗だと思ったのは」
ケロン星の空にも星は浮かんでいるがあまりにも当たり前の光景で特別でもなんでもなかった。何より、他の星を侵略することを生業としている彼らにとって星は美しいものでなんでない。美しいと思ってしまえば良心が邪魔をする。あの時、ドロロは初めてグランドスターから見た地球を美しいと思ってしまった。地球に寝返ったのも必然かもしれない。あろうことか、彼はこの美しい星を守るため侵略を妨げることを生業としていた。帽子が風に揺れて、ドロロは思う。支給された白い軍帽はもう何年も被っていない。ギロロが被っている茶色い帽子と同じ形をしていた。ドロロは右腕をギロロの体から離すと軍帽の裾に触れた。懐かしい手触り。ギロロは横目でドロロを見たが、何も言わなかった。そして代わりに自分の話をした。
「さっき俺が屋根にいたのは、星を見るためだ」
ドロロはギロロの軍帽から手を離す。
「俺は、地球を美しいなどと思えない。他の星と同じ、ただの星だ」
ドロロはギロロの体に手を回した。
「俺は地球を侵略したい。だが、そう思うたびにお前が頭をよぎる」
ギロロは少しソーサーのスピードを緩めた。
「……お前のような裏切者のために俺は侵略を諦めたくない」
夜の静寂に低い声が響いた。ドロロはぎゅっと手に力を入れてギロロの体温を感じた。
「地球を愛するな、ゼロロ」
ギロロは今まで来た方向へソーサーを傾けた。ドロロはギロロにしがみつくようにくっついた。あの日と違って花火は上がらなかった。ただ静かな空で二人は黙って日向家に帰った。ソーサーから屋根に降りるとドロロはようやく口を開いた。
「地球とギロロ君、どっちかを選べって言われたら」
ギロロはドロロを見た。
「……選べない、よね」
ふにゃりとした情けない笑顔。それは子供の頃によくしていた表情だった。ドロロはギロロの手を掴んだ。夜風で冷えた手をギロロは掴み返した。
「寒いか」
ドロロは目を丸くして首を振る。
「風邪引くぞ」
その言葉にドロロは微笑んだ。
「君の優しいところが好きだよ……」
独り言のように呟くような小さな声をギロロは聞こえないふりをした。ドロロはギロロに思い切り体を預けた。肩に顔を伏せて猫のように甘えるドロロをギロロは突き放したりはしない。今までドロロが背負ってきたものを思うとそんなことはできなかった。ギロロはゆっくりと右手を伸ばすとドロロの頭に触れた。そしてそっと頭を撫でた。不慣れな手つきにドロロが顔を上げた。
「すまん、下手か……?」
そして首を振ると嬉しそうに笑った。ギロロはドロロの笑顔を見てもう一度頭を撫でた。
「ありがとう」
ドロロの涙の混じった声が言った。ドロロは顔を上げてギロロから離れた。
「帰らなきゃ。……ゼロロに戻っちゃいそう」
「戻ってもいいんだぞ」
ドロロはギロロの言葉にくすくすと笑った。ドロロはギロロに背を向けるとちらりとギロロを見た。そして屋根を飛んでいきながら闇に消えた。ギロロは息をつくとその場に座り込んだ。そしてソーサーを撫でる。ゼロロを乗せたソーサーに、ドロロを乗せることになるとは思わなかった。不思議な時間だった。まるで夢でも見ているようだった。そしてギロロはそれを求めていたことに気付いた。ギロロはずっとゼロロに会いたかった。頭を撫でたあの瞬間、確かに目の前にはあの頃のゼロロがいた。小さく弱い、泣き虫なゼロロ。二度と戻るはずはないというのに。ギロロは自分の手のひらを見つめた。そしてゼロロ、そう口に出してみた。声は夜風に乗って遠い星へと消えていった。
