その他

 ドロロが街のパトロールをしていると学校の屋上に人影を見つけた。ごろんと寝そべって空を見上げているのはニット帽を被った男子生徒。ドロロはすぐにそれが誰か気が付いた。
「睦実殿、またサボりでござるか」
 電柱から屋上へ飛び移ると睦実が体を起こした。
「あーあ、見つかっちゃった」
 そしてズボンのポケットに忍ばせていた紙飛行機を空に向かって飛ばした。
「感心しないでござるよ。授業にはちゃんと出たほうが……」
 ドロロの説教も睦実は聞く耳を持たない。それどころか何かを閃いたように目を輝かせた。そしてドロロに向かって言う。
「そうだ、今から俺とデートしようぜ♪」
 思いもよらぬ言葉にドロロは目をパチクリさせた。そして実体化ペンで大きな紙飛行機を描くとドロロの手を引く。二人が紙飛行機に乗れば風を切って地上へと降りていった。
 真昼間に制服姿で街をふらつくのはいかがなものか……そんなドロロの言葉を無視して睦実は堂々と街を歩いた。もっとも、ドロロの和服姿も周囲の地球人からは浮いていたのだが。睦実は歩きながらごく自然にドロロの手を握った。ドロロは余計な反応を見せては睦実を喜ばせるだけだと顔色を変えないよう努めた。年下の男の子にもてあそばれるなど言語道断。そう思いながらも内心はドギマギしている自分がいて情けなくなった。
「お、新作うまそ〜」
 睦実はカフェの横を通りながらメニューボードに目が止まった。新作のフラッペはドロロが見ても確かに美味しそうだった。ドロロはカフェを指差して言う。
「中入る?」
 睦実は頷いて二人は店内へ入った。新作のフラッペを二つ注文すると空いている席に着く。睦実はストローをすすると「うまい!」と笑った。無邪気な姿を見ていると睦実も高校生なのだなとドロロは思う。ドロロも口布の内側へストローを差し込んでフラッペを飲んだ。飲み慣れない味だが新鮮で美味しかった。たまにはこういうのも悪くないなと味わっているとドロロは睦実の視線に気がつく。そして思った、睦実には一度も素顔を見せたことがなかった。睦実はじっとドロロを見ながら言う。
「ドロロの顔見てみたいな」
「こんなに人が多いところで無理でござる」
「じゃあ二人きりならいいんだ?」
 そうだけど、そうじゃなくて。そんな曖昧な返答をしていると睦実は思いついたように席を立った。空になったフラッペの容器をゴミ箱に捨てるとドロロの手を引いて店の奥にあるトイレへ入った。個室にドロロを押し込んで鍵を閉める。
「ちょっと、睦実君……」
 睦実の手が口布を撫でる。そして口角をキュッと上げるとドロロの口布を引き下げた。ドロロは反射的に両手で顔を隠す。
「見せて」
 睦実の手がそっとドロロの手に触れる。そして手を顔から優しく引き剥がす。ドロロは諦めたように睦実に従った。恥ずかしそうに目を逸らすと睦実はその顔にじっと見入った。初めて見る素顔。予想通りの綺麗な顔だった。
「キスしていい?」
 ドロロは何も言わなかった。睦実が顔を近づけるとドロロはぎゅっと目を閉じた。だが唇が触れる手前で睦実は顔を止める。
「でもさぁ」
 ドロロは目を開いた。至近距離にある睦実の顔を見た。
「初めてのキスがトイレってどうなのさ」
 思いもしない睦実の言葉にドロロは睦実の体を抱き寄せる。そしてその唇を塞いだ。ドロロは睦実より少し背が高い。少しだけ下を向いてぴったりと唇を合わせた。ドロロが唇を離すと睦実は驚いたようにドロロを見た。ドロロは口布を元に戻すと頭の後ろで結んだ。睦実は何も言えず個室の鍵を開けた。ドロロが個室から出ながら言った。
「あそこまでしておいて急にやめるなんて、ずるい」
 伏し目は照れ臭そうに睦実を捉え、よく見ると耳は真っ赤に染まっていた。睦実はドロロの後を追う。ドロロは用を足していないが丁寧に手を洗う。睦実は鏡に映された自分の顔が変じゃないか気になった。
「睦実君も手洗って」
 ドロロがハンカチを睦実に向ける。睦実は手を洗うとハンカチを受け取って手を拭いた。トイレから出ると店内は先程と変わらない盛況だった。だが二人はどこか落ち着かなくてたまらない。どこか別の場所に来てしまったかのように感じた。カフェを出て並んで歩いていると睦実の手がドロロの手を握った。
「授業サボってよかったな〜」
 呑気にそう言う睦実にドロロは罪悪感を覚える。本来ならば睦実は今は授業を受けているのだと、そう考えると大人の自分がなんてことをしてしまったのだと罪悪感で胸が痛めつけられた。ドロロは大人として睦実に言った。
「これから学校に戻ってちゃんと授業を受けるのでござるよ」
「はいはい」
「拙者は遠くから睦実殿が授業に出席しているか確認するでござるからな」
 睦実は笑った。そして学校の近くへ行くとドロロから手を離した。
「ね、もう一回」
 睦実は自分の唇を指差した。ドロロは流石にここでは無理だと睦実を止めた。誰が見ているか分からない。
「じゃあ放課後会いに来て。待ってるから」
 睦実はそう言ってドロロの手を取る。そして手の甲にキスをすると学校へ歩いて行った。なんて高校生だろう、ドロロは恥ずかしさと悔しさで顔を真っ赤にした。そして放課後に再び学校を訪れることを思う。未だにトイレでのキスの感触が忘れられない。ドロロは指先で唇に触れる。睦実のキスを求めている自分がいて、放課後が待ち遠しくなった。だがそんなことを悟られてはいけない。あくまで平静を装って、何でもないような顔をして睦実に会うのだ。ドロロは電柱へ飛び乗ると学校の窓から睦実の姿を探した。
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