その他

 実体化ペンは本当に便利だ。欲しいものが簡単に手に入れられる。こんなにありがたい発明は早々ないだろう。それでも、あくまでも何かを実体化するためのペン。俺が何を描こうがドロロのことは振り向かせられない。ドロロが欲しいものを考えて色々なものを描いていた。だがどれもドロロは受け取ってはくれなかった。いっそハートでも描いて渡そうか、そんなことをぼんやり考える。
 年上で上手で、必死に気を引こうとしてみても簡単にかわされてしまう。それもわざとやっているのか分からないからたちが悪い。もし百本の真っ赤なバラを出してドロロにプロポーズでもしたら一体どんな顔をするのだろう。ドロロは冷静に、でも笑いながらただありがとう、と言うだろう。その言葉の続きはない。君はまだ未成年だろう。その一点張り。たったの数年で何が変わるというのだ。
 俺は足元にあった石ころを思い切り蹴飛ばした。後ろから前へ大きく足を振り上げた。だがその時俺の喉から声が出た。
「あ……!」
 石ころが飛んで行った先にはドロロが立っていたのだ。俺は咄嗟にポケットから実体化ペンとメモ帳を取り出す。そして素早く盾を描くとメモ帳を破きドロロへ投げた。その直後カン、と金属の音がした。俺は慌ててドロロへ駆け寄った。
「ごめんごめん、まさかドロロがいるとは思わなくてさ」
 ドロロの手には俺が出した盾が握られていた。その表情は硬い。相当怒っているようだった。
「拙者だったからよかったものの、これが幼子だったら大変なことになっていたでござるな」
「ごめんって……」
 謝りながらふと思った。俺は実体化ペンを指先でくるりと回した。
「お詫びと言っちゃなんだけどさ、ドロロ、欲しいものない?」
「特に思い浮かばないでござるが……」
 だったら、と俺はメモ帳を取り出してペンを滑らせる。メモ帳いっぱいに大きなハートを描いた。紙を切り離すとドロロへ向かって飛ばす。ハートは紙から浮き出て赤い風船になった。ドロロは風船が飛んでいく前にその紐を握った。
「これが俺の気持ち」
 俺はペンをポケットにしまうと指を鳴らした。その瞬間風船が割れ中から一輪のバラが出てきた。ドロロは驚いたように目を丸くしてバラを握っていた。
「受け取ってくれるかい?」
 ドロロは黙ってバラを見つめていた。
「俺じゃ駄目なの」
 ドロロの青い瞳が震える。何か言いだけで、それを必死に堪えているように見えた。
「受け取るくらいいいと思うけどなぁ」
 俺はにっこりと笑ってドロロを見た。ドロロは目を合わせてくれなかった。ただきまりが悪そうに目を逸らし続けていた。
「君が大人になるまでは駄目だよ」
 ドロロはバラを俺に押し付けた。その言い方は大人になればいいというふうに取れる。
「じゃあ大人になったら渡しに行くよ。そしたら受け取ってくれるね?」
 ドロロは困ったように眉根を寄せた。そして疑うように言う。
「クルル殿の銃で大人になっても受け取らないでござるよ」
「あはは、そんなこと考えてないって。……あと二年、だろ?」
 二年という時間が長いのか短いのか俺には分からない。だが恐らく相当長い二年になるのだろうと予想できた。
「二年も待てるかなぁ」
 口から出た呟きにドロロが反応した。
「それは拙者の台詞でござるよ、睦実殿」
 先程とは打って変わってドロロはにこりと笑った。行き場のない気恥ずかしさを抱えながらポケットに手を突っ込む。夢を叶えてくれる魔法の道具は今はただのペンになっていた。
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