ゾルドロ

 しとしとと静かに降る雨に紛れながら、言葉はなくとも気配を感じた。アサシンならば気配を消すなど容易いこと。だが、あえてそうしない理由は一つしかない。
「わざわざこの時期に合わせて来たのでござろう?」
 ドロロは彼を見ずに言う。落ち着いた声色に彼はフンと鼻を鳴らした。返信はなくともドロロが先月送った便りが無事に彼の元に届いたことを知らせていた。
「桜の時期は短いでござるからなぁ」
 ドロロは傘を片手に振り向いた。そこには雨に濡れた彼、ゾルルが立っていた。
 春、満開の桜。だというのにここ数日は雨が続いていた。花散らしの雨という言葉があるようにどうしてもこの時期は雨が多い。ドロロは桜の大木を見上げた。花びらから雫が滴り落ちる。
「ゾルル殿が桜を見に来てくれて拙者は嬉しいでござるよ」
 ドロロはゾルルへ歩み寄ると傘を差し出す。ぱたぱたと傘に落ちる雨の音が響いた。
「笑わせる……天気すら制御できないなど、遅れた星」
 ゾルルは金属の左手をカチャカチャと動かした。その体はまさにケロンの科学の塊のようなものだった。
 せっかく咲いた花を一瞬にして散らしてしまう雨。だが、だからこそ桜は儚くも尊い。迫り来る制限時間のなかで二人は花見を楽しんだ。
 ふいにドロロはゾルルに顔を近づける。そして雨音のなかでそっと呟く。
「君と会う口実になるから、僕はこの雨も好きだよ」
 ゾルルはドロロの言葉を無視するとゆっくりと息を吐いた。
「貴様は……」
 ゾルルは呆れたように桜を見上げた。彼には空を彩る淡いピンクがやけに甘ったるく見えた。
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