ゾルゼロ

 ゼロロが風邪を引いて訓練を休んだ。医務室で安静にしているよう指示が出てベッドで寝ていたらしい。そう聞きつけたゾルルは様子を見に医務室へ赴いた。ゼロロは眠たげな目をしてゾルルを見た。
「何か用?」
 見舞いに来たと告げるとゼロロはゾルルに背を向ける。そうはっきり言われても返しようがなかった。そもそもゾルルが見舞いに来ようなどと思いもしなかったのだ。
「昔を……思い出すな……」
 ゾルルがゆっくりと口を開く。昔。訓練所に通っていた頃ゼロロは体が弱くよく風邪を引いていた。
「そうだね」
 覚えてる?とゼロロが続ける。
「僕が休んだ日、君が宿題のプリントを届けに来てくれたことがあったよね。ママから赤い目をした子だって聞いて、すぐに君だって分かったよ」
「そんなことが、あったか……」
「うん。僕嬉しかったよ。よく覚えてる」
 ゼロロは布団で顔を覆う。ゾルルはぼんやりと記憶を辿った。大きな綺麗な家。玄関は広くピカピカに磨かれていてゼロロと同じくマスクをした母親が深々を頭を下げる。今まで人から感謝される経験などほとんどなかった。腰の低さに驚きプリントを渡して逃げるように帰った。
 ゾルルは思い出したようにゼロロを見た。いつまで経っても手は届かない。布団に包まれた背中を見るとそっとドアへ歩いていこうとした。
「待って」
 ゼロロの手が布団から伸び、ゾルルの腕を掴む。ゾルルは驚いてゼロロを見るとその顔はいつもと違う。まるであの頃のように弱々しい。
「もう少し、居てくれない?」
 ゾルルは少し躊躇ってからわずかに頷いた。ベッドの隅に腰掛け、ゼロロに背を向けた。風邪を引くとこうも人は弱くなるのだろうか。ゾルルはゼロロを見下ろし、あの頃のゼロロを重ねてみた。今ならあのゼロロに手が届くような気がした
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