ゾルゼロ

 ゼロロはいつもマスクをしている。初めてみた時から常にマスクをしていたから、素顔を見たことはない。だからおれはいつも気になっている。ゼロロがどんな顔をしているのか……。
「おねがいってなに?」
 ゼロロはキョトンとした顔をして言う。おれは直接ゼロロに顔を見せてほしいと伝えようと思った。それしか方法が思い浮かばなかった。
「その……マスクを」
「マスク?」
 ゼロロは自分のマスクを指さす。
「……外して、ほしい」
「え……どうして?」
 どうして、と言われたら答えは一つしかない。
「ゼロロの、顔が見てみたい……」
 思い切ってそう言うとゼロロは驚いたように目を丸くした。そして顔を赤くして恥ずかしそうに瞬きをする。
「え、えええ!」
「ダメ……?」
「ダメじゃない、けど」
 ちょっと恥ずかしいな、とゼロロは赤くなった顔を下に向けた。地面をじっと見つめて考え込んでいるようだった。
「う、うん。いいよ」
「ほんとに!」
 ゼロロはマスクの紐に手をかける。おれはその様子を目に焼き付ける。決定的瞬間を見逃すわけにはいかない。恥ずかしそうにゆっくりとマスクを外すと白い肌に小ぶりな口が顔を出す。これが、ゼロロの顔。おれはその顔に見入っていた。ゼロロは女の子みたいに可愛らしかった。
「もういいよね?」
 ゼロロはしばらくすると再びマスクを着けようとした。おれはその手を掴んで止めた。まだゼロロの顔を見ていたかった。だって素顔を見たことがあるのはきっとほとんどいないはずだ。だったらおれはゼロロにとってトクベツになれたのかもしれない。
 プニプニとした唇が目に入って、ふと思った。美味しそう。どんな味がするんだろう。甘いだろうか。おれはゼロロに顔を近づける。
「なに、ゾルルくん?」
「……じっとしてて」
 おれは小さな唇に自分の唇をくっつけた。つまりキスっていうやつをした。ゼロロはおれの言う通りじっとしていた。唇を離すとより赤くなった顔があった。
「ぷはっ、いきなりなにするのさ」
 ゼロロは息を止めていたようで顔が赤くなっていたらしい。
「美味しそうだったから」
「……はぁ?」
 実際は別に美味しくなかった。甘くもなかった。だけど柔らかくていい気持ちだった。
「キス、したことないだろ……」
「あるわけないよ!」
「じゃあ、おれがはじめて……」
 嬉しくて勝手に口角が上がった。ゼロロのはじめてを得られた喜びとゼロロの素顔を知った喜び。唇に触れた柔らかさをおれは忘れないだろう。
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