ゾルゼロ

 固形ゼリーを飲みながら思った。昔は温かくて美味しいご飯を食べてたんだっけ。シルバーのミールプレートに乗ってた合成肉、付け合わせのサラダ。パン、ミルク。全てが懐かしい。それなのにどんな味だったかは思い出せない。記憶が遥か遠くに行ってしまったような感覚。そんなに昔のことではないのに、おかしいな。
 目が覚めると白い天井があった。仕切られたカーテンは恐らく医務室。そして隣には椅子に座ったゾルル君がいた。どうやら僕は夢を見ていたようだった。
「やっと、起きたか……」
 ゾルル君は僕が目覚めたことに気が付くとカーテンを開けて冷蔵庫からスポーツドリンクを持ってきた。僕は冷たく冷えたそれを受け取ると体を起こして一口飲んだ。そして口を開いた。
「何があったのか覚えてないんだけど……」
「訓練中に倒れた」
「倒れた? 僕が?」
 子供の頃の病弱な僕ならまだしも、アサシントップの僕が。そしてナンバーツーのゾルル君が僕を看病していたという不思議な状況に頭がくらくらした。
「貧血だろうとのことだ……。飯をちゃんと食え」
「あ……」
 確かに最近はまともな食事を摂っていなかった。何かと忙しく固形ゼリーやタイプGに頼りがちだった。
「でも、なんで君が」
「ジララに、医務室へ連れて行けと命令された……」
 ゾルルが顔色一つ変えずに言う。僕だって小柄ではない。筋肉だってついているのに大柄なゾルル君には僕を担いで運ぶことくらい簡単なのかもしれないと思うと少しだけ悔しかった。ゾルル君は再び椅子を離れると今度は冷蔵庫からアルミの包みを持ってきた。
「うわ、懐かしい」
 それは子供の頃よく食べた駄菓子だった。
「……好きだろう」
「うん。……でもなんで知ってるの?」
 僕の問いにゾルル君は固まった。そしてゆっくりと口を開く。
「覚えてないのか……?」
 僕は慌てて記憶を巡らせてみる。だが思い当たるものは見つからなかった。ゾルル君は寂しそうな目をして包みを僕に押しつけた。
「昔ゼロロが俺にこれをくれた。『友達だからあげる』……確かに言った」
 僕は絶句した。全く覚えていない。それも友達だなんて。
「別の人じゃない?」
「俺が忘れるわけがない……。俺はゼロロとの会話を全て覚えている……!」
 突然の大きな声に僕は驚いた。ゾルル君がこんなに感情的になるところは初めて見た。いつも何を考えているか分からず、ゆっくりと言葉を探すように喋るあのゾルル君が。
「そ、そうなんだ」
 ゾルル君に圧倒されて僕は無難な返答しかできなかった。僕は話をそらすように手の中にあった包みを開けた。中身は星形のミルクチョコレートだ。一粒つまんで口に入れると懐かしい甘さを感じた。
「あげるよ、友達なんでしょ」
 僕はチョコレートをつまんでゾルル君の手のひらに乗せた。するとゾルル君は逆の手でそのチョコレートをつまむと僕の口へ押し込んだ。
「んむっ!?」
「美味いか……?」
 僕は何度も頷く。チョコレートなんだから味は美味しい。だが今は味など感じられる状況ではない。
「また、買ってきてやる……」
 ゾルル君はそう言うと椅子から立ち上がりカーテンを閉めた。そしてカーテン越しに無理するなと言った。僕は包みを枕元に置いてベッドに寝た。この数分で沢山の謎が増えてしまった。それに僕は別に今はこのチョコレートは好きでも何でもない。それは昔の僕なのに。結局ゾルル君は僕のことを知らないのだと思うと複雑な気持ちになった。
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