ゾルゼロ

擬人化

 任務でゾルルとゼロロの二人で敵地に忍び込むことになった。新人に任せるような詰めの甘い警備とは言え気は抜けない。ゼロロの提案で安全な場所で一息つこうと適当な場所を見つけて地面に腰を下ろした。
 ゾルルはベストのポケットから小さな箱を取り出す。ゼロロには一瞬それが何か分からなかった。ゾルルが箱から白く細長い棒を取り出すのを見てやっとそれがタバコであることに気が付いた。ゼロロはゾルルがタバコを吸うことを知らなかった。というよりもそういったものを嫌う方だと思っていた。ゼロロはゾルルのことをよく知らない。ゾルルがプラスチックのライターで咥えたタバコに火を点ける。途端にタバコのにおいが空気に乗って流れていく。ガスマスクをしていても微かなにおいが入ってくる。ゼロロは思わずけほけほと咳き込んだ。ゾルルはゼロロを見かねてタバコを口から離した。
「確か喘息、だったな……」
 ゼロロは首を振る。どうしてそんなことを知っているのだろうと思いながら口を開く。
「昔の話」
「タバコは嫌いか……?」
「好きでも嫌いでもないよ」
 ゼロロがそう言うとゾルルがポケットにしまった小箱を取り出す。
「要らない」
 ゾルルが差し出すより先にそう言った。タバコなど興味はない。ただ健康を害するだけだ。ゾルルは箱をポケットに戻すと黙ってタバコを吸った。
「……いつか、こんなものにも頼りたくなる時が来る」
「僕にはないよ」
「……そうか」
 ゾルルの口から白い煙が上る。言葉の意味がゼロロには分からなかった。頭も心も滅茶苦茶にされるような思いをまだしていない、とでも言おうか。限界を迎えどんなものにでも縋りたくなる心境がゾルルをタバコへと誘った。その苦しさをゼロロは知らない。知らないということさえにもゾルルは苦しんだ。
 ゾルルは地面へタバコを落とすと靴の裏で擦り付けるように踏み潰した。火が消えて燃えかすになったタバコにゼロロが目をやる。
「においついちゃったかな」
 軍服の襟を持ち上げてにおいを嗅ぐ。
「もう少し休憩しようか」
 任務中とは思えない目つきの柔らかさがゾルルに痛々しく刺さる。もう一本、思わず伸びそうになる手を必死に止めた。
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